第七話「森の探索」
〈翌朝〉
スケルトン達は朝からスラッシュの練習をしていた様だ。
随分熱心に戦い方の訓練をしているんだな……。
魔法都市ザラスに着いたら、すぐにスケルトン達のための装備を揃えよう。
しかし、装備を買うにはお金が必要だ。
今の俺の所持金は、31ゴールド。
一日の宿代が大体1ゴールドだとして、約一か月分だ。
装備も買うとなると絶対に足りないだろう。
ザラスまでの道のりで、更に新しい魔物を仲間にしながら、魔物を狩ってドロップアイテムを集めよう。
仲間が多ければ多い程、一日に集められる素材は多くなる。
魔法都市ザラスでは、俺が住んでいたアルシュ村より魔物の素材が高く売れる。
需要があるからだ。
魔物の素材は、武器や防具、ポーションの材料にもなるし、服を作る際にも魔物の毛を使う場合も多い。
ザラスに持ち込む素材の数は多ければ多い方が良い。
魔物の素材を集める以外にも、ゴブリンの様にアイテムやお金を持ち歩く種族の魔物なら、ドロップアイテムにも期待できる。
武器を使って人間と戦闘をするゴブリン族は、人間を殺して奪った武器等を使っている場合が多いからな。
ゴブリン狩りをして、彼等が使っている装備を剥ぎ取るのも良いかもしれない。
「リーシア、フーガ、これからザラスに向かうけど、なるべく多くの魔物を倒しながら進もう!」
「うん、私はヒールとマナシールドで皆をサポートするよ」
「頼んだよ。フーガは俺と共に最前線で戦ってくれ。スケルトン達は、リーシアを守るように」
俺が仲間に指示を出すとパーティーは陣形を組んだ。
俺とフーガが最前線で敵と交戦し、スケルトン達はリーシアを守りながら俺とフーガをサポートする。
リーシアは回復魔法と防御魔法を担当する。
理想的な陣形が完成した。
あとは後方から魔法や弓を使って攻撃できる仲間が居れば尚良い。
確かこの森にはレイスというアンデッド系の魔物が生息していたな。
スケルトンよりも力は弱いが、知能が高く、上半身が骨の体で下半身はない。
フワフワと上半身だけで浮きながら、背後からこっそりと冒険者に近寄って暗殺するのが得意な種族だ。
以前、俺は一度父さんとこの森でレイスの集団と出くわした事がある。
父さんの強力な攻撃魔法のお陰で、何とかその場を乗り切る事が出来たが、今回もレイスの集団に出くわすとどうなるか分からない。
レイスはこの森の中でも、最も暗い場所に生息しており、かつて墓地だった場所を巣にしていると父さんから聞いた。
今日はレイスを倒して素材を集めるのも良いかもしれないな。
集団と戦う事は危険だが、一体ずつなら危険はない。
レイス一体の戦力よりも、俺達の方が遥かに戦力は高い。
それに、スケルトン達もフーガも居る。
俺と父さんだけで森に入った時は二人だけだったが、今回は六人のパーティーだ。
安全にレイス狩りを行えるだろう。
「リーシア、フーガ、スケルトン達。今日はこの森の墓地に潜むレイスを倒そうと思う。レイスの素材から新しく魔物を召喚して、俺達の後方から援護出来る射手になって貰おう」
「良い考えだね。レイスに弓を使わせるんだ」
リーシアとスケルトン達は感心した表情で俺を見ているが、フーガは俺の言葉がよく理解できないのか、ポカンとした表情で俺を見上げている。
俺はフーガの小さな体を抱き上げて、目線を合わせた。
「フーガ、今日は魔物と戦う事になる。頼りにしているぞ!」
「バウッ……」
俺がそう言うと、嬉しそうに返事をしてから俺の顔を舐めた。
仕草は子犬の様だが、彼は狼系の魔物だ。
今は体も小さいが、成長すれば力も魔力も強くなるはずだ。
しっかり育てて強いファイアウルフになってもらおう。
俺達は簡単に朝食を済ませると、レイスが巣食う森の墓地に入る事にした……。
〈森の墓地〉
森の中をしばらく進むと、かつては立派な墓地であったであろう、朽ち果てた巨大な墓地が現れた。
この墓地の中にはダンジョンもあり、父さんはまだ俺には攻略が出来ないから手を出すなと言っていた。
今回はダンジョンの探索はせずに、墓地の中に居るレイスを狩って素材を集めよう。
素材さえあればいくらでも召喚する事が出来る。
ただし俺の魔力の範囲内で扱える素材に限るが……。
森の墓地は、薄暗い森の中でも更に薄暗く、肌寒い。
火の魔法で辺りを照らしても、深い闇を照らし切る事は出来ない程、この墓地の闇の魔力は強い。
慎重に進んだ方が良さそうだな。
俺達は武器を手にして進み始めた……。
目標はレイスを二体仕留めて素材を持ち帰る事だ。
今の段階では二体も居れば十分だろう。
それに、俺以外の仲間はレイスと戦った事が無い。
負ける事は無いと思うが、なるべくなら戦闘の回数を減らしたい。
「皆、注意して進むように。前衛は俺とフーガに任せてくれ。スケルトン達は何があってもリーシアから離れないように」
「レオン、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
「わかったよ。だけどレイスは結構手強いから、危なくなったらすぐに逃げるんだよ」
「うん……」
リーシアは三体のスケルトンに守られて、俺とフーガの後方からゆっくりと付いて来ている。
このパーティーなら単体のレイスに負ける事は無いだろう。
余裕をもってレイスを倒す事が出来るが、レイスという魔物は群れで行動している場合が多い。
俺達はしばらく墓地の中を進むと、墓地の中で怪しく動く魔物を見つけた。
武器を手に持ち、虚ろな目で森を見上げている。
スケルトンだ。
数は七体。
一気に片付けてやる。
俺は右手に持ったブロードソードに魔力を込めた。
「リーシア、ここは俺とフーガに任せてくれ! フーガ! 行くぞ!!」
俺とフーガは墓石の影から飛び出して奇襲を掛けた。
『スラッシュ!』
魔力を込めた水平切りがスケルトンの体を捉えた。
ブロードソードがスケルトンの体に触れた瞬間、スケルトンの体は一撃でバラバラに砕け散った。
フーガは戦闘が始まると一目散にスケルトン目がけて飛び込んで行った。
前足に火の魔力を込めた鋭い一撃を放つと、スケルトンの白骨の体をいとも簡単に砕いた。
物理攻撃力は既に俺と同等だろうか。
人間の俺と同等の威力の攻撃を放てる事を考えると、フーガはかなり優秀な魔獣だという事が判る。
勿論、俺が更に強い武器を装備するか、攻撃に込める魔力を増やせば、一撃の威力ではフーガをも凌駕する事が出来るだろう。
しかし、俺は今のブロードソードと、魔力を込めたスラッシュでの攻撃が気に入っている。
俺とフーガが次々とスケルトン達をなぎ倒すと、後方で待機していた三体のスケルトンとリーシアはワクワクした表情で俺達の戦いを見ていた。
「レオンは強いんだね! スケルトンだって簡単に倒せるんだから」
「スケルトンは攻撃が単純だからね、それにフーガも居るから負ける訳ないよ」
「フーガもレオンと同じくらい強いんだね」
リーシアはスケルトンとの戦闘でテンションが上がっているフーガの頭を撫でた。
フーガは嬉しそうに目を瞑っている。
まだ生まれたばかりだというのに、物理攻撃での戦闘能力は俺とほぼ同等か……。
勿論、俺ファイアボールやファイアボルト等の魔法を使えば、フーガよりも火力は高くなるが、近距離の戦闘ではなるべく武器を使って敵と戦いたい。
無駄に魔力を消費したくないからな。
「レイスを探しに行こうか。一応スケルトンの素材も拾っておこう」
「そうだね、スケルトンはこれから更に召喚するつもり?」
「今のところは三体のままで良いんじゃないかな。足りなくなったらその時に増やせばいいよ」
必要以上に仲間を増やすより、強力な魔物を数体引き連れて敵と戦いたいものだ。
駆け出しの冒険者見習いである俺には難しいだろうが……。
そもそも強い魔物の素材が無い。
どうにかして高価な素材を入手出来れば良いが。
スケルトンとファイアウルフのフーガは魔獣クラスの魔物だ。
魔獣よりも更にランクの高い幻獣や聖獣を仲間に出来れば、冒険者としてこの世界で成り上がる事は容易いだろう。
だがその前に、まずは魔法都市ザラスで冒険者の登録をしよう。
〈スケルトンのドロップアイテム〉
・スケルトンの頭骨×4
(実際には頭骨は七つあったが、素材が持つ魔力が高い物だけを選んだ)
・鉄のロングソード×3
(錆びついた剣だ。俺が使っているブロードソードよりも長い。これはスケルトン達に使わせることにした)
それから俺達は、朽ち果てた墓が無数に並ぶ薄暗い墓地の中を進むと、ついにレイスの集団を見つける事が出来た。
敵は四体だ。
厄介だな……。
なるべくなら一体ずつ狩りたかったが。
四体のレイスは手には剣や斧を握っている。
ギラギラとした赤い目、骨の上半身だけが不気味に宙を漂っている。
俺はすぐにブロードソードを構え、先制攻撃を仕掛けられるように、左手に炎の魔力を溜めた。
すると、四体のレイスは俺の魔力を感じ取ったのか、一斉に武器を構えて襲い掛かってきた……。