第二十五話「入学試験」
〈魔法学校・入学試験当日〉
俺達は朝早くに起きて装備を身に着けると、宿の一階で朝食を食べてから、宿の主人に頼んでおいた馬車に乗り込んで魔法学校に向かった……。
ちなみに、装備は冒険の時の装備のままだ。
俺は全身白銀装備とブロードソード。
リーシアは魔法の杖を腰に差し、白銀の鎧の上から火耐性のマントを羽織っている。
シルヴィアは全身ミスリル装備にショートソードとラウンドシールド。
魔法学校の入学試験に向かう受験者とは思えないような装備だが、俺は自分のスタイルを変えるつもりはない。
魔法学校に入学しても俺は冒険者だ。
Bランクの冒険者、レオン・シュタインとして学生になる。
しばらく馬車に揺られていると、魔法学校が見えてきた。
「レオン、もしかして学校の前に居る人達って、みんな受験生なのかな……」
「そうだね、何人いるんだろう、多すぎて数えきれないな」
馬車から降りると、魔法学校の正門の前には、マントを羽織った若い魔術師見習いの様な連中達が二百人以上は居た。
俺達が馬車から降りた瞬間、受験生の中の一人が叫んだ。
「レオン・シュタインだ! Bランクの冒険者が居る!」
「え? Bランク!? どこどこ!?」
「ザラスのダンジョンを初攻略したパーティーのリーダー?」
既に俺の面は割れているのか、すぐに俺達は受験生達に取り囲まれてしまった。
大勢の受験生達に囲まれて、リーシアとシルヴィアは緊張した面持ちで俺を見ている。
しばらく正門の前で待機していると、クラッセンさんが現れた。
「私は魔術師ギルドのマスター、Aランク魔術師、学長のレーネ・クラッセンです! これより入学試験を行います! 最初の試験は魔法能力試験です!」
ついに始まるのか……。
最初は魔法能力試験だ。
募集要項では、この試験は魔力を測る試験だと書かれてあったが、一体どの様な方法で魔力を測るのだろうか。
俺達受験生は、クラッセンさんに案内されて校庭の中に入った。
校庭では先生と思われる人達が杖を持って待機していた。
「魔法能力試験は、魔法攻撃によって魔力を測定する試験です! この試験で使用出来る魔法は攻撃魔法のみです!」
校庭の中央まで進むと、巨大な黒い石板が地面に刺さっていた。
石板には特殊な魔法が掛かっているのか、石板の表面は美しく金色に光り輝いている。
「この石板は、当校の創設者が制作したマジックアイテムですが、石板に対して魔法を放つことによって、魔力と属性を測る事が出来ます! まずは私が手本を見せます」
クラッセンさんは木の杖を右手で持ち、石板に対して魔法を唱えた。
『ファイアストーム!』
魔法を唱えると、石板を中心にして炎の嵐が発生した。
背の高い炎は石板を包み込むように燃やし続けた。
ありえない魔法だな……。
幻獣のキメラだって一撃で倒せてしまえそうな火力だ。
クラッセンさんの魔法は、俺が人生で見た事もない程の威力で石板を燃やしている。
しばらくするとクラッセンさんは魔法を解除した。
すると、石板の表面には金色の美しい文字が浮かび上がった。
『レーネ・クラッセン』
魔力:1100
属性:『火』『雷』『聖』
魔力が1100?
属性は火、雷、聖属性か。
クラッセンさんは三種類の属性を使える魔術師だったんだ。
これは便利な石板だな。
「このように、石板に対して攻撃魔法を掛ける事によって、魔力と属性が表示されます。尚、闇属性を持つ者は入学の資格がありません」
闇属性は入学が出来ないのか?
詳しく説明を聞いてみると、闇属性を持つ者は、既に人を殺めた事がある者、悪質な犯罪を犯した事がある者の場合が多いらしい。
闇属性は犯罪者にのみ使いこなす事の出来る属性なのだとか……。
「そして、魔力の数値がそのまま点数になります! 私の場合ですと、今回の試験の成績は1100点です! 魔法能力試験と戦闘能力試験の点数を合計し、成績の上位50名が本年度の入学を許可されます! それでは早速始めましょう! 受験番号、一番。始めて下さい!」
受験番号一番の者は、背の低い獣人だった。
茶色の可愛らしい耳が頭から生えている。
猫と人間の中間種だろうか。
一番の受験生は、腰から提げているレイピアを抜いて空高く構えた。
『サンダーブロー!』
剣を振り下ろすと、剣の先からは強い雷の刃が放たれた。
雷によって作られた刃は、石板に当たると、小さな破裂音を立てて消滅した。
石板の表面には受験者の情報が浮かび上がった。
『ルル・フランツ』
魔力:400
属性:『雷』
今の攻撃で魔力は400か。
クラッセンさんの魔力1100がどれだけ異常だったか分かる。
それから受験生は次々と石板に対して魔法を放ち続けた。
そして、ついに俺の番がやってきた。
「受験番号31番! 冒険者、レオン・シュタイン!」
クラッセンさんが俺の名前を呼んだ瞬間、受験生達の視線が俺に注がれた。
最低でも魔力150以上は叩き出したい。
今のところ、受験生の中での最低の点数は110点だ。
自分の力が数字として表示されるか……。
緊張して震えが止まらない。
「レオン、この試験の成績が悪くても、戦闘能力試験で挽回出来るわ。あまり緊張せずに、いつも通りにね」
「あぁ……確かにね。俺は戦闘能力試験で稼げば良いんだ」
「そうそう。大丈夫だよ、レオン」
そうだ、俺は冒険者だ。
実戦形式の戦闘能力試験なら、きっと良い成績を取れるはず。
今回の魔法能力試験は俺向きじゃない。
俺は石板の前に立って右手を構えた。
使う魔法はアローシャワーだ。
とびっきりの魔法を見せてやる。
体中から集めた魔力を右手に溜めると、小さな炎の球が七つ、目の前に現れた。
球の形を矢に変えてから、更に魔力を注ぎ、一本ずつ太く、強力な炎の矢に変える。
準備は整った。
あとは最高の速度で矢を放つだけだ。
『アローシャワー!』
思い切り魔法を叫んだ。
七本の炎の矢は、俺の手から離れると、信じられない速度で石板に衝突した。
炎の矢は石板に当たるや否や、炎を辺りに強い撒き散らして消滅した。
『レオン・シュタイン』
魔力:550
属性:『火』
俺の魔力は550だった。
現在の最高値が650だ。
これはかなり好成績なんじゃないか?
「レオン! 550ならかなり高い方じゃない!?」
「そうだね、10とか20じゃなくて良かったよ……」
「私はレオンを超えられるように頑張るわ」
「シルヴィアとリーシアは心配ないと思うよ」
続いてシルヴィアの出番が回ってきた。
「冒険者、レオン・シュタインの召喚獣、幻獣・シルヴィア!」
シルヴィアは石板の前に立つと、両手を空に掲げた。
この構えはゲイルランスだ。
石板の上空には、強い風が吹き、風はやがて巨大な槍へと変化した。
たっぷりと時間を掛けて槍に魔力を込めると、シルヴィアはついに両手を石板に向けた。
『ゲイルランス!』
魔法を唱えた瞬間、俺の体に強い風を感じた。
いつの間にこんなに強くなっていたんだ……。
風の槍は石板に落ちると、爆発的な風を辺りに放ってから消滅した。
何が起こったんだ……?
途方もない威力だな。
石板の表面には得点が表示されている。
『シルヴィア』
魔力:850
属性:『風』
魔力850!?
シルヴィアの点数が表示された瞬間、試験会場は大いに盛り上がった。
クラッセンさんは嬉しそうに微笑んでシルヴィアを称賛している。
現在、魔法能力試験のトップはシルヴィアだ。
二位とは200点も差がある。
俺の召喚獣が、他の受験生達を凌駕する力を持っている事は非常に嬉しい。
俺はシルヴィアの頭を撫でて褒めた。
「よくやった! 流石俺のシルヴィアだ!」
「当たり前でしょう? 私はレオンを守るために生まれたのよ。これくらい訳ないわ」
「俺も負けないぐらい強くなるぞ!」
シルヴィアは俺の体に抱きついて、自慢げに俺を見つめている。
さて、次はリーシアの出番だ。
きっと彼女はアイスランスを使うだろう。
今まで何度も練習してきた魔法だしな。
「受験番号33番! 精霊・リーシア!」
クラッセンさんがリーシアの名前を呼ぶと、リーシアは俺達に微笑んでから石板の前に立った。
きっと彼女もシルヴィアに負けない魔法を放ってくれるだろう。
リーシアはアッシュおじさんから頂いた愛用の杖を抜くと、空に掲げた。
あれ……?
アイスランスの構えとは違うような気が……。
一体どんな魔法を使うのだろうか。
リーシアが杖を向けている上空では、強い冷気が発生している。
こんな魔法は見た事が無いな。
まさかリーシアは俺が知らない魔法を使えるのか?
リーシアが魔力を注ぎ続けると、冷気の中からは無数の氷の剣が現れた。
これって俺のアローシャワーと同じ原理の魔法なんじゃ……?
しかも槍じゃなくて剣?
いつの間にこんな魔法を覚えたんだ。
『ソードレイン!』
リーシアが魔法を唱えた瞬間、無数の細い氷の剣は、物凄い速度で石板に襲い掛かった。
やはり精霊の魔法能力には驚かされるな。
石板の表面にはリーシアの成績が表示された。
『リーシア』
魔力:800
属性:『氷』『聖』
800……。
シルヴィアの850には届かなかったが、まさか複数の氷の剣を降らせる魔法を覚えていたとは……。
「リーシア! いつの間に新しい魔法を覚えたんだい? 一度も見た事ない魔法だったけど」
「レオンのアローシャワーを見て思いついたんだ。さっき初めて使ったんだけどね」
「初めて……凄いよ! リーシア!」
「ありがとう」
初めての魔法で魔力が800だと?
リーシアは天才だと思っていたが、これ程まで魔法の才能があるとは思わなかった。
受験生と教師陣からは拍手が沸き起こった。
それから残りの生徒達の魔法能力試験が終わった。
結果は、一位がシルヴィア、二位がリーシア。
俺はというと、二十五位だった。
まぁまぁだろう。
入学試験は、魔法能力試験の成績と戦闘能力試験の成績の合計で合否が決まる。
次の戦闘能力試験で得点を稼がなければならないな。
俺達は早速、戦闘能力試験が行われる会場に移動した……。