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#17:ホテルにて(後編)【指輪の過去編・夏樹視点】

今回も指輪の見せる過去のお話です。

引き続き、舞子のお見合い当日。

夏樹26歳の12月の始め。

 やっぱり、あの男の人は杉本さんだった。

 だったら、あの女性は彼女?

 彼女と泊まっていたって言う事?

 それなのに、なぜ今私なんかといるの?


 目の前の彼はパーティの時のスーツ姿と違い、スリムなブラックジーンズにカジュアルなサンドベージュのジャケットを少し着崩している様が、やっぱりカッコイイと思った。そして、優し気な癒しの笑顔。


「どうかした?」と、少し心配そうな顔になって訊いて来た。


「前の服装と違うから、ちょっと驚きました」

 私は誤魔化すように曖昧な笑顔で答えた。


「ああ、今日は探偵気分だから」なんて、おどけて言う彼の表情は、何の陰りも無い。

 さっき、女性といた時の妙に色気のある彼とは、別人のようだった。お見合いを覗こうと誘われたのに、誘った人の秘密を覗いてしまったようで、バツの悪い思いをしている私。

 今彼と一緒にいる事が、なにか落ち着かない。

 彼に誘われた事は嬉しかった。子供のようにワクワクもした。だけど今は、あの時のパーティのように彼の傍にいる事がひどく場違いな気がした。だからと言って、それを言う事もできず、また、何か言い繕って帰る勇気も無かった。


 いつまでもウジウジ考えるのは嫌だ。きっと彼女は、元々今日は予定があったのだろう。きっと彼は、彼と同じように友達の事が気になっている私を、友達思い故に誘ってくれただけの事なのだろう。

 自分の中でそう自己完結すると、とにかく舞子のお見合いが上手くいく事を確認する事だけに集中しよう。

 そして、今日の杉本さんからのお誘いに、何かを機会していた自分に気付かないふりをした。


 杉本さんに連れられて、地下駐車場に止められた車の所まで来ると、白いセダンタイプの車が停められていた。車種はよく知らないが、外車のようだなと思った。ただのサラリーマンが所有できるような車だろうかと、又余計な詮索をしてしまう。セレブな友達がいるのだから、この人の実家もセレブなのかも知れない。

 私の気持ちが表情に現れたのか、私の顔を見て言い訳のように言った。


「これ、借り物なんだ。ちょっと用があって昨日から借りている」

 言い訳しなくていいのに。きっと彼女とのデートのために借りたのだろう。


「とりあえず乗って」と彼は助手席のドアを開けた。言われたとおり助手席に座る。彼はドアを閉めると、運転席へ乗り込んできた。そして、後部座席に置いた紙袋を取ると中から服を出した。


「これ、そのジャケットを脱いで、これに着替えて」

 そう言って渡されたのは、自分では買う事のないデザインのジャケット。偶然にもスーツと同じチャコールグレーのカジュアルなジャケットには首周りにファーが付いている。この細身のジャケットは、少し着崩しても、体の線を崩す事無くフィットするようだった。

 これは、さっきの彼女のものだろうか? 記憶の中の彼女に、脳内でその服を着せてみるとよく似合うと思った。


「あの、これは……」


「ああ、知り合いの女性に借りて来た。君はこんな雰囲気の服着ないだろうと思って」


「はい、こんな雰囲気の服は初めてです。でも、私なんかが着て大丈夫ですか?」

 いつの間にか、また、堅苦しい敬語で話している自分に気付かずにいた。


「気にしなくていいよ。それより、何か緊張している? そんなに硬くならなくていいから。」

 とりあえず、彼の言葉に頷いて着替える事にした。スーツの上着を脱いで渡されたジャケットを着る。

恐る恐る彼の方を見ながら「これでいいですか?」と問いかけると、「結構似合うね」と笑顔が返ってきて安堵した。そして、続けて伊達眼鏡と白いニット帽が渡された。杉本さんのだと言う伊達眼鏡とニット帽は、男性用でありながらサイズは丁度良かった。


 (杉本さんって顔小さすぎる。眼鏡のサイズに違和感がないって、どうなの?)


 彼は自らも黒のニット帽を被り、眼鏡をかけた。「よく変装するの?」と聞きたくなるぐらい様になっていた。

 それにしても、二人して眼鏡とニット帽を身につけると、なんだかお揃いに見えて恥ずかしい。いったい杉本さんは何を思ってこんな恰好をさせるのだろうか?

 困惑顔の私に気づいたのか、今日の自分の計画について彼が話し出した。


「まさか俺達が一緒にいるって気づかないだろう? だから、恋人同士のふりをして、二人に近づこうと思って」

 そう言いながら、彼は悪戯っぽくニッと笑った。


「恋人同士って」


 この人、何言っているんだろう。さっきまで恋人と一緒にいたくせに。さっきまであんなに彼女といい雰囲気だったのに、彼女がいない所でだったら平気で別の女と恋人のふりが出来るんだ。別に恋人のふりをしなくたって、お見合いの様子を見る事は出来るのに。


 (いったい、何を考えているのよ)


「だから、フリだよ」


「でも、たとえフリでも、あなたの彼女は嫌な思いをするんじゃないですか?」


「彼女? そんなのいないよ」


「え? だったら、先程一緒にいた女性は……」

 そこまで言いかけて、彼の表情が歪んだのに気づいて、自分がまずい事を言った事がわかった。


「見たんだ?」

 少し怒ったような顔をして、聞き返えして来る彼の勢いに少し怯んだ。


「え、ええ。少し早く着いちゃって……」

 彼の態度に驚いて、言い訳のように答えると、彼はチッと舌打ちをした。


「アイツは従兄妹だ。彼女でも何でも無い。もしかして、やきもち?」

 さっきまでの剣呑とした彼の表情が、今は悪戯っぽくニヤリとした。


「やっ、ち、違います」

 大急ぎで否定したけれど、頬が熱くなるのを感じた。きっと、私の顔赤くなっているはず。でも、従兄妹同士でも、結婚できるのだから恋人にだってなれるはず。一緒に泊まるとなれば、そう言う関係ではないのだろうか。

 しばらく俯いて逡巡していた私に、運転席に座る彼はニヤニヤしながら言った。


「もしかして、彼女とお泊りしていたなんて想像していたとか?」


「………」

 気まずげな私の表情に、彼は「分かりやすい奴」と言いながら笑いだした。

 

 (なんなのよ!本当に)


「そんな事より、そろそろ時間だ。お見合いは最初ロビーラウンジで両方の両親を交えて会うらしい。先にロビーラウンジに場所を取って、様子を見よう」

 そう言うと杉本さんは車から降りた。続いて車から降りると、彼の後についてエレベーターに向かって歩き出した。


 私は何となくホッとして、気分は何処となくウキウキとしてくるのを感じていた。さっきまでウジウジと考え込んでいた自分を思うと、あまりの単純さに心の中で苦笑いした。


2018.1.27推敲、改稿済み。

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