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#00:プロローグ【現在編・夏樹視点】

 35歳の誕生日、道に迷った夏樹は不思議なアンティークショップで無くしたはずの母の形見の指輪を見つける……

指輪の魔法は、夏樹を幸せに導いてくれるのか……

ラブファンタジーをお楽しみください。


夏樹の誕生日は7月14日です。

 明日、三十五歳の誕生日を迎える。四捨五入したら四十歳。アラフォーに突入だ。

 ここ数年……いや、いつからだろう? たった一人で迎える誕生日は。

夫も恋人もいない。友達はみんな家庭を持った。淋しくない訳じゃないけれど、これが私の選んだ道。

 あの時、あちらの道を選べば変わっていただろうか?

 あの時、こちらの道を選んでいなかったら?

 そんな仮定をしてみたところで、時をさかのぼる事なんて出来ないのだから。

 これが私の選んだ運命。


 私佐藤夏樹(さとうなつき)は、ワンルームの部屋でぼんやりとテレビを見ながら、数日前の友との会話を思い出していた。


祐樹(ゆうき)さん、やっと本社へ戻ってきたみたいよ。」

 親友は唐突に彼の話を持ち出した。動揺を悟られないように「そうなんだ」と返す。そんな私の表情を探るように、親友は続けて爆弾を落とす。

「彼ね、とうとう結婚するらしいわよ。」

 一瞬、息がとまった。でも、すぐにいつもの自分に戻れた事、自分を褒めてやりたい。一番の親友にさえ、さらけ出す事の出来なかった想い。

「そっか、彼もとうとう、年貢の納め時か」

 そう言って、親友にニッコリと笑い返した。



 先週の土曜日のお昼、この一番の親友上条舞子(かみじょうまいこ)に、誕生日のお祝いの代わりの豪華ランチをごちそうになっていた時の会話。

 彼女が結婚してから誕生日のお祝いは、普段私がとてもいけそうにないレストランで、ランチを御馳走してくれる。私から彼女へはそんな豪華なお祝いをあげられないのだけど、彼女は気にしなくていいと上品に笑う。自分も食べに行きたいから口実なのだと言ってくれる。


 彼女は上条電機のお嬢様であり、次期社長夫人だ。そんなお嬢様がどうして私なんかの親友にと思うが、彼女はある意味お嬢様らしくない努力の人だった。

 今の会社に入社した時の同期で、同じ部署に配属された新入社員同士だった私達は、気が合ってすぐに友達になった。最初は彼女が上条電機のお嬢様なんて誰も、知らなかった。友達になった私にさえ、なかなか打ち明けはしなかった。


 後から知った事だけど、彼女は大学卒業後の進路を親にも内緒で就活し、親の会社と全く関係のない企業を選び、自分の努力で就職したのだった。いくらでもコネが効きそうなお嬢様だったが、彼女にとってはそれが一番嫌だったと後に語っていた。本来なら、大学卒業後花嫁修業をして親の決めた人と結婚する筈だったと、それが親の望みだったと彼女は笑う。娘ふたり姉妹の長女である彼女は、跡取りである自分の立場をよく分かっていたが、最後の我儘だと厳しい就活を戦い抜き、就職したのだった。それは、お嬢様の結婚までの腰掛などと言われたくないと言う彼女の精一杯の反抗だった。


 それでも、結婚は親の言うとおりにしなくてはいけないと自分自身で決めていたのか、恋愛事や男の人との距離感は、一本線をひいて決して縮める事はなかった。私は彼女のその凛とした一本筋の通った生き方が好きだったし、尊敬していた。ただ、彼女が恋も出来ず、自分の運命を受け入れているのが、傍で見ていて淋しさも感じていた。


 そんな彼女が結婚した相手は、やはり親の進めるお見合いでの出逢いだった。しかし、二人はすぐに恋におち、大恋愛の末結婚したと言えるだろう。十年近くたった今でも、ラブラブな様子を見ると、やはり運命の人だったのだなと、心から彼女の幸せを喜ぶ。


 それなのに、私はどうなのだろう?

 自分の中の想いさえ、大親友に告げられず、一人心に封印して日々を過ごしている。もう、恋も出来ないかも知れない。

 私の恋した人は、永遠に手の届かない人となってしまった。

 

 あの時、彼と共に歩く道を選ばなかった。それが彼のためだと思った。

 でも、結局は自分の事しか考えてなかったのかも知れない。

 そう、手を離したのは私の方。

 彼の手を握り返せなかった。

 彼を信じ切れなかったと言うより、私の事で彼に大変な思いをさせてしまうのが辛かった。

 母との約束もあった。

 そんな事より、本当は自分に自信がなかったからなのだろう。


 選ばなくて良かったのだと、平凡な人生を選んで良かったのだと、もうずーと自分に言い聞かせている。それなのに、誕生日が来るたび心弱くなって、あの時彼と歩く道を選んでいたらと考えている自分が哀れで、可笑しくなる。

 せめて、母のように愛する人の子供を授かっていたらと、年々出産のタイムリミットを感じながら、今更ながら母を羨ましく思う自分がいる。

 もう、故郷へかえろうかな。

都会の片隅で一人年を取って行く淋しさに押しつぶされそうになると何もかも投げ出して、帰ってしまおうと思う事がある。もう母はいない。だけど、今は養母となった母の親友玲子が、帰っておいでと言ってくれる。帰る場所があると言うだけで、勇気が湧いて、もう少しここで頑張ってみようかと思い直し、反対を押し切って都会へ出てきた意地をもう少し貫こうかと思っている自分もいる。

 ううん。それだけじゃない事は分かっている。もう、二度と会う事も話す事もかなわない彼とのかすかな繋がりを切ってしまいたくなくて、ここにいれば、どこかで見かける事があるかもしれないと微かな期待を抱いてしまう。そんな自分が可笑しかった。


 でも、それも今年でおしまい。もう彼は完全に手の届かない誰かのものになってしまうのだから。それに、彼の隣に誰かがいる姿を見るのは辛いから。

「本当に帰って、お見合いでもするかな」

 私はそう呟いて苦笑いした。


 そんな事を鬱々考えていると、ふいに携帯電話がメールの着信を告げるメロディを奏でた。時刻を見ると、0時を超えていた。送信者は、思ったとおり舞子からだった。舞子は毎年忘れず、誕生日の日付を迎えた途端にメールをくれる。最近はデコメール、誕生日のケーキの蝋燭が点いたり消えたりとチカチカするアニメーションのメールだった。おめでとうの文字も点滅している。

 いつの間にこんなデコメールを使えるようになったのやら。私と同じように機械ものには弱かったはずなのに。

 私はすぐにありがとうメールを返した。落ち込んでいた気持ちは、舞子のメールで少し浮上出来たようだ。又落ち込んでしまわないうちに、眠りについた私は、三十五歳になっていた。


はじめまして、拙い文章ですが、引き続き読んで頂けたら嬉しいです。

2018.1.24推敲、改稿済み。

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