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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

1章.ご主人様と眷族の彼女たち

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02. 異世界転移した学生たち

前話までのあらすじ:
ヒロインとの出会い(ry
   2


 おれこと真島孝弘の通う○○県立第一高校の生徒および教員が異世界に転移したのは、一ヶ月ほど前のことだった。

 授業中、突然の酩酊感に襲われたと思ったら、おれたちは知らない景色の中にいた。

 うっそうとした森。じめじめとした空気。
 そこは明らかに現代日本ではない何処かだった。

 正直、おれは何も出来なかった。ただ、状況を把握しかねて右往左往していた。

 やがて、騒然とする学生たちを教師たちと数人の学生たちが取りまとめ始めた。

 教師のうちの一人が、偵察にいってくると言って、森の中に姿を消した。

 英雄的な行動だった。
 きっと責任感のある良い先生だったのだろう。生憎、担当する学年が違ったので、おれは彼の名前を知らなかったが。

 彼の断末魔の悲鳴が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。

 血も凍るような恐怖に身を竦ませたおれたちの前に現れたのは、体長五メートルを越える直立歩行するトカゲの化け物――ドラゴンだった。

 ドラゴンは偵察にいった教師の死体を咥えていた。

 生徒たちはパニックに陥った。

 そんな中、おれは誰かに突き飛ばされて、地面に転がってしまった。何度か踏まれて、悲鳴をあげて、それでも大怪我をしなかったのは、本当に幸運だと思う。
 それに、竜から離れた場所にいたのも幸運だった。

 おれと違って不幸だった生徒たちが次々に竜に喰われていたのが見えた。
 このままだと、おれもいずれ喰われてしまう。絶望で目の前が真っ暗になった。

 三人目、だったと思う。
 一人の男子生徒が竜に追い詰められていた。

 おれは転んでいて逃げ出すことが出来なかったから、彼の窮地をまじまじと見つめる羽目になった。

 男子生徒は腰を抜かしていて、竜は彼の上半身を喰おうとしていた。

「ひひゃあああああああああ――っ!」

 多分、何を考えたわけでもないのだろう。
 男子生徒は精一杯の抵抗として、両手を大きく振り回した。

 目にもとまらぬ速さで。
 想像も及びもつかない重さをもって。

 次の瞬間、竜の顔面が吹き飛ばされた。
 冗談のような光景だった。実際、一番驚いていたのは竜を殺した生徒だっただろう。

 こうしておれたちは最初の脅威をやり過ごすことが出来た。
 おれたちに与えられた力――チート能力によって。

   ***

 異世界転移の物語を読んだことがあるだろうか。

 残念ながら、おれは読んだことがない。
 ただ、おれと仲の良かった友人が語っていたところによると、現代日本に住む学生がファンタジーめいた異世界に飛ばされるというのは、若者に人気のテーマであるらしかった。

 実際にそんな目に遭ってみれば、それは災難以外の何物でもないが。

 しかし、どうしてそんなジャンルの物語が人気になるのか、最初聞いた時におれには、本当に理解出来なかった。

 だって、そうだろう?

 平和ボケした現代日本で生まれ育ってきたおれたちは、何の力もない学生で、剣と魔法の異世界ではただ喰われるだけの存在でしかない。
 異世界にいったって、何の活躍も出来ないだろう。せいぜいこそこそと隠れ住むだけだ。それでは、物語が成立しない。

 そうしたおれの疑問に答えたのが、チート能力というものだった。

 チートというのは本来はズルを意味する言葉であるが、日本ではネットゲームなんかのコンピュータ・ゲーム用語として、改造ツールを使って本来は有り得ない操作を行うことをいう。

 異世界にいった人間が、非常識な程に強力な力を持っているというのは、異世界転生・転移の物語において、一種のテンプレであるという。
 こうして得られた力のことも、チートというのだそうだ。

 とはいえ、だからといって、その友人のように「この世界にきておれたちがチート能力を授かったということは当然だ」と言える精神は、おれには到底理解出来そうになかったが。

 とにかく、実際におれたちは不可思議な力を手に入れていた。
 ある者は素手で地面を砕き、またある者は魔法としか言いようのない力を振るう。不思議なことに、使い方は自然とわかるらしく、彼らは呼吸をするように力を操った。

 それを、おれたちは何の捻りもなく、チート能力と名付けたわけである。

 チート能力によって、本来ならモンスターに蹂躙されるばかりだったおれたちの異世界転移生活は、格段に生きやすいものとなった。

 おれたちは仮の住処を作り、モンスターを撃退し脅威を排除し、それどころか食料とすることで当面を食い繋いだ。

 とはいえ、誰もがチート能力の恩恵にあずかれたわけではなかった。

 全体としては、チート能力を持っていたのは三割、三百名ほどだった。

 チート能力を持っている者は森へと狩りに出たり、仮の住居を守ったりしていた。彼らは森の探索を主に行っていたことから、『探索隊』と呼称することになった。
 持っていない者は、仮の住居を作り上げる作業に従事することとなった。彼らは『探索隊』に対して『残留組』と呼ばれた。そうして出来あがった集落を、おれたちは『コロニー』と名付けた。

 ちなみに、おれはチート能力を持っていなかったし、おれにチート能力について教えてくれたオタクの友人も持っていなかった。持つものと持たざるもの。そこに何か理屈があったのかもしれないが、生憎、おれにはわからなかった。

 正確には、残り七百名の中には、多少なり体力などが向上したものがいたようだが、それはチート能力とは呼べないくらいに些細な力だった。おれも、ほんの少し体に違和感を覚えたりもしたのだが、それは錯覚かストレスによる感覚の混乱が原因だといいきれる程度のものに過ぎなかった。

 それから一週間。
 更に何人かの犠牲を支払いながらも、異世界転移した学生たちは、一応の安定した生活を送れるようになっていた。

 その頃には、一部の学生たちによる統治機構のようなものも機能し始めていた。
 千人近い人間がいるのだから、それを統括する存在は絶対的に必要不可欠だったのだ。

 そうすると、次に気になるのはこの世界がどのようなものなのかということだった。
 今更、此処が元いた世界だとは、誰も思っていなかった。先天的にチート能力として魔法を扱える者に頼めば、おれたちは魔法を習得することさえ出来たのだ。

 勿論、魔法を習得する機会にあずかれるのは、同じチート能力者だけだった。彼らは生活の為に戦う必要があり、木々を切り倒して造った仮設住宅に住むおれたち残留組にまで魔法を教えるような余裕は流石になかったのだ。

 ともあれ、おれたちはこの世界の知識を求めていた。

 此処におれたちのような人間はいるのか。
 いるとしたら、この森をどのように抜ければ彼らに出会えるのか。

 こうして第一次遠征隊が結成された。彼らの目的は、この森を抜けることだった。今から考えれば、その名称には皮肉めいたものを感じずにはいられない。何故なら、遠征隊が二度目に派遣されることは永遠になかったのだから。

 おれたちの仮の住居であるコロニーは、遠征隊が出ていった一週間後に壊滅した。

 チート能力者の一部がクーデターを起こしたのだ。

 かつていた世界から、法律の存在しない異世界の森の中に放り出された学生たちがモラルを保ち続けることは難しいことだった。それも、チート能力なんてものを持っていれば尚更のことだ。力は人を狂わせる。若さは道を誤らせる。そういうことだ。

 志の高い者が集まった第一次遠征隊の留守を狙って、反乱グループはクーデターを企てた。
 治安を守ろうとする学生と、反乱グループの学生との間で、激しい戦闘が行われた。

 チート能力というのは、竜をも簡単に殺す力だ。
 そんなものを持つ者同士がぶつかったのだから、チート能力を持たない生徒たちは、おれも含めて逃げ惑うしかなかった。

 逃げ惑うだけなら、まだ良かった。

 理性を失っているのは、一部のチート能力者だけではなかったのだ。
 能力を持たない学生たちもまた、凶行に身を委ねた。

 そんな中、おれは同じ残留組の生徒たちから激しい暴行を受けた。
 何が悪かったのかと言えば、運が悪かったのだろうと思う。おれの他にもそうした人間は何人もいて、彼らは騒ぎの生贄だった。

 誰も助けてはくれなかった。

 みんなそれどころではなかったのだろう。誰もが生き残るために必死だった。それは、理性では理解できた。

 だが、感情は別だ。何人もの生徒が暴行を受けるおれのことを見て、見て見ぬ振りをして逃げていく光景は、おれの心をずたずたに引き裂いていった。

 おれが助かったのは、単純に運が良かったからだ。

 丁度、近くでチート能力者同士の戦いが始まり、その余波を受けたのだ。
 おれに暴力を振るっていた学生たちは、みんな黒い灰になってしまっていた。
 地面に倒れていたおれだけが助かった。

 ただの運だ。死んでいても、殺されてしまっていても、なんらおかしくはなかった。

 そう認識した途端に、傷つききっていた心が、とても虚ろになったのを覚えている。

 傷ついた体をひきずって、おれは森の奥へと逃げ出し、数日間森の中を彷徨った。
 そして、今朝方、洞窟を見付けてそこに逃げ込んだのだった。

 命からがら逃げ込む場所を見つけたおれだったが、そこから先はどうしようもなかった。
 何しろ、この森の中は多くのモンスターが跋扈しており、チート能力を持たないどころか、戦う手段の一つも持たないおれは、洞窟から動くことが出来なくなってしまったのだ。

 本当に生き残りたいのなら、おれはコロニーから逃げ出す前に、リスクを侵してでも信頼の出来る人間を探すべきだったのかもしれない。

 だが、あの混乱の中で、おれにはそれは出来なかった。いいや、たとえ、あのような一分先がわからないような状況ではなかったとしても、今のおれではそうした選択をすることは不可能だっただろう。

 おれはもう人間を信じることが出来なくなってしまっていた。

 人間なんて屑ばかりだ。
 その確信は、おれがこの異世界にやってきて唯一得たものだったかもしれなかった。

 あるいは、おれは人として大切なものを失ったのかもしれなかった。

 どちらにしても、もう死んでいくばかりのおれにとってはどうでもよいことだった。
◆ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

◆とりあえず、三話までは連続投稿。

◆ヒロインがヒロインし始めるのは第六話からです。
丁寧に書いていくつもりなので、いましばらくお待ちを。
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