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モンスターのご主人様  作者: ショコラ・ミント/日暮 眠都
6章.人形少女の恋路
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19. 正義の男

前話のあらすじ:


偽勇者の正体を知った飯野。

謎の男の助言を受けて、辺境伯領へ。

   19



 モンスターに蹂躙される故郷の村。


 その光景を思い出すたびに、ルイス=バードは自問する。

 人々のために、自分にはどれだけのことができるだろうかと。



「おや、ルイス様。それはどうなさったのですか」


 ルイスが野営の段取りについて打ち合わせをしているときのことだった。

 集められた部下のひとりが、ふとした様子でルイスに尋ねた。


「ああ。これか」


 目敏いものだと苦笑しつつ、ルイスは手首を持ち上げた。

 そこには、革製の腕輪が巻かれていた。


 編み込んだ革紐を何重にも巻き付けた、独特の意匠のものだった。


 普段、ルイスは身を飾ることをしない。

 マクローリン辺境伯領では高い地位にあり、それなりの俸給を得ていながら、彼は贅沢の一切に興味を示さなかった。


 それだけに、素朴なものとはいえ、装飾具の類は部下の興味を惹いたのだ。


「この間、ちょっとしたいざこざを仲裁したことがあってな」

「草原の民の少年を助けたという話ですか」

「それだ。そのときに、礼をしたいと渡された。草原の民のお守りだそうだ」


 この遠征の最中、立ち寄った町での出来事だった。


 難癖を付けられていた草原の民の少年をルイスは保護し、傷の手当てを手配してやった。


 別れ際、少年はルイスが軍を率いて遠征の途上にあることを知り、その身を案じてこの腕輪を渡した。


 ただの装飾具であれば受け取らなかっただろうが、それは少年の想いが込められたものだった。


 その事実に気付かないほど、ルイスは気の利かない男ではない。

 ありがたく受け取ると、その場で付けてみせたのだった。


「あの少年、ずいぶんと感謝していましたね」


 別の部下が話し掛ける。

 彼はあのとき、ルイスに同伴していたひとりだった。


 口にされたのはルイスを褒める言葉だったが、当の本人は浮かない顔だった。


「わたしは当たり前のことをしただけだよ」


 溜め息をつく。


「あのような年端も行かない子供が虐げられるとは嘆かわしい。草原の民を虐げることは不当であり、無意味だ。彼らもまた、帝国の臣民には変わらないというのに」


 心の底からの嘆きだった。


 帝国には、草原の民を蔑視する風潮がある。


 防壁を築いて町を作り、モンスターの脅威をやり過ごす人々にとって、危険なはずの平野で放牧を行い、壁の外側で暮らす彼らは、酷く異様な存在に見えるものなのだ。


 その気持ちは、ルイスにも理解できた。


 もっとも、だからといって、彼らを差別してはならないとも考えていた。


 正確に言うなら、現マクローリン辺境伯であるグラントリー=マクローリンが、ルイスをそのように育てたのだ。


 ルイス=バードはモンスターに滅ぼされた村の出身であり、危ういところをマクローリン辺境伯領軍によって保護され、辺境伯の屋敷に引き取られた。


 これはある種の慈善事業で、屋敷には同じような境遇の子供が何人もいた。

 グラントリー=マクローリンは彼らに生きていくために必要な仕事と、教育の機会を与えた。


 そのなかでもルイスの素養と努力は抜きんでていた。


 そんな彼に、辺境伯も目をかけた。


 人々を守り、導くのが貴族としての自身の責務なのだと、幼いルイスにマクローリン辺境伯は語って聞かせた。


 そこに差別などない。

 あってはならない。


 人々がみんな手を携えなければ、いつまで経ってもこの世界に真なる平和は訪れない。


 世界のために、人々を脅かす悪なる存在と戦う。

 正義を為す。

 無論、勇者様とは違って力は足りていないが、それでも自分に為すべきことを為さねばならない。


 そのように、グラントリー=マクローリンは語って聞かせた。


 ルイスにとっては、誰にも代えがたい恩人の教えだ。

 疑問など差し挟む余地はなかった。


 自分もまた、その思想に殉じるつもりだった。


 そう思い定めているだけに、ルイスにとって現実は歯痒いものだった。


 たとえば、この間の草原の民の少年を虐げていた中年の男性。

 とある商会の幹部であった男と、ルイスは語り合った。


 そのうえで、あの男の偏見をなくすことはできなかった。


 残念なことだと思う。


 ましてや、偽勇者などという存在に至っては言語道断だ。


 どうして人間同士、手を取り合うことができないのか。


 ルイス=バードにはわからない。


「ルイス様!」


 深い溜め息をついたそのとき、ひとりの兵士がその場に駆けつけてきた。


「ご報告します!」

「なんだ」


 ルイスは即座に頭を切り替えた。


 一軍を率いる者として、浮世のままならなさを嘆いてばかりもいられない。


 モンスターでも出たかと思ったが、兵士が伝えたのは違うことだった。


「先程、ルイス様に面会の申し出がありました」

「面会だと?」


 予想外の内容だった。


「詳しく話せ」

「はい」


 頷いて説明を始めた兵士の話を聞いて、ルイスは目を細めたのだった。


◆お待たせしました。忙しかったのに加えて、すごい手こずりました。


あと2回更新します。

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