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モンスターのご主人様 作者:ショコラ・ミント/日暮 眠都

5章.騎士と勇者の物語

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02. 人形少女の恋路

(注意)本日2回目の投稿です。











   2   ~ローズ視点~


 竜淵の里から、アケルの町ディオスピロに戻る旅の途上での出来事だった。

 現在は真夜中。
 みんなが寝静まり、眠る必要のない者だけが活動する時間である。

 すぐ傍では、昼間よりもあどけない印象の真菜が、すやすやと寝息を立てている。
 華奢な手が、わたしのスカートの裾をきゅっと握っていた。

 思えば、危険な夜の樹海にいた頃、なにかあったときにすぐに対応できるようにと、リリィ姉様はご主人様の、わたしは真菜の近くにいるようにしていたのが、いつの間にか習慣になってしまった。

 いまでは樹海を抜け、ご主人様の眷属や同行者も増えて、旅の安全性は飛躍的に向上している。

 とはいえ、近くにいてくれたほうが安心できるのは確かだ。
 真菜の寝息を近くに聞きながら作業を進めるのに、すっかり慣れてしまったこともあり、この習慣をあえてやめるつもりはなかった。

「……ん、ん」

 夢でも見ているのか、鼻を鳴らした真菜が身じろぎをした。

 胸のなかのどこか深いところが満たされる感覚を得て、わたしはそれを笑みとして形にする。
 作り物のこの顔にはきっと、いまのわたしにできる一番自然な笑みが浮かんでいるのだろう。

 そんなことを思い――落としていた視線を上げた。

「……」

 そこに、とろける白い蜘蛛の姿があった。

 そうとしか表現できないような有様だった。

「ふ、ふふ……」

 にまにまとした笑みが、美貌をだらしなく緩めている。

「うふふふふ」

 いったい、なにを考えているのだろうか。

 口許をにやけさせて、ぽうっとしていたかと思うと、今度は頬を両手で押さえて声にならない歓声をあげる。

 かと思えば、自分の荷物を入れた魔法の道具袋をごそごそとまさぐり始める。

 取り出されたのは、つい先日、乞われて作ってやった櫛とブラシだ。
 髪を梳かし、蜘蛛の毛を梳り、手の届かないところは長柄のブラシで丹念に撫でつける。

 それが終わると、今度は手元で糸をこね始める。
 丹念に編み込まれた繭は、以前にも見たものだ。

 真菜が言うには「ある種の蜘蛛は、卵をくるんで繭を作る」のだとか。
 人間でいえば、産着みたいなものに当たるのではないか、とも言っていた。

 まあ、来たるべきときに備えているのだとしたら、理解できなくもない。
 しかし、わたしの記憶にある限りでは、ここのところ夜になっては作っているので、もう二十個以上はあるはずなのだが……。

 しかも、恐ろしいことにペースが一向に落ちない。

 作り過ぎではないだろうか。
 というか、どれだけ『作る』つもりなのだろうか。

 なんてことを考えながら眺めるわたしの視線にも気付かず、血のように赤い目を熱っぽく潤ませて、今日もガーベラはせっせと新しい繭を作っては、魔法の道具袋に入れていた。

 そしてまた、にやにやと物思いに耽り始める……。

 まるで挙動不審の見本市だった。

 眠るご主人様の傍で、部分擬態の練習をしていたリリィ姉様も、ガーベラを見て苦笑している。

 昼は身を隠すために乗り込んでいる車のなかで寝ているはずなので、睡眠不足になることはないのだろうが……あまり熱中し過ぎるのも、体に毒かもしれない。

「楽しそうですね、ガーベラ」
「む?」

 わたしが話しかけると、ガーベラはきょとんとした顔をした。

「ご主人様との関係は、うまくいっているようですね」
「お、おう? なぜそれを?」
「見ていればわかります」

 なにを今更、という話だった。

 夜中、人の目が少なくなった頃になると、さっきのように箍が外れるようだが、日中だって十分に上機嫌でいるのだ。
 これでわからないほうがおかしい。

 挙動不審になった時期を思い返してみると、関係が進展したのは、竜淵の里に滞在している間なのだろうということまで推測できてしまうくらいだった。

 だというのに、指摘されたガーベラの反応は、驚きに満ちていた。

「すごいな、ローズ殿。見ただけでわかってしまうとは」
「……」

 まさか、本人には自覚がないのだろうか。

 思わず絶句したわたしは、ガーベラの顔を見返したが、そこには純粋な驚きしか見付けることはできなかった。

 これには、こちらのほうが驚いてしまった。

 もっとも、ガーベラらしいといえば、らしい話ではあるのかもしれない。

「……まあ、なにはともあれ、うまく行っているようなら、なによりです」

 わたしは気を取り直して、祝福の言葉を口にした。

「おめでとうございます、ガーベラ」

 ガーベラはまだ樹海にいた頃からずっと、ご主人様に想いを寄せ続けてきた。
 思いが受け入れられてからも――これは、自業自得ではあるのだが――ご主人様と愛し合うことができずにいた。

 念願叶ったというのなら、これほど喜ばしいことはない。
 同じ眷属として、ガーベラの幸せを祝福するのは当然のことだった。

 しかし、わたしの言葉を聞くと、なぜかガーベラは複雑そうな顔をした。

「どうかしたのですか?」
「う、うむ」

 不思議に思って尋ねれば、ガーベラは少し気まずげな様子で頬を掻いた。

「実のところ、これでよかったのだろうか、と思うところも妾にはあってな」
「……よもや、ご主人様との関係に不満が?」

 意図したことではないのだが、低い声が出た。

 聞いたガーベラが、びくっと肩を揺らした。

「ち、違うぞ? まさか。不満などあろうはずがない。主殿は、とても優しくしてくれたし、お互いが気持ちよくなれるように試行錯誤しつつ、初めての妾を気遣ってくれた」
「そうですか」

 ならいい。

 ……どさくさ紛れにすごいことを聞かされたような気がしたが、ご主人様の気持ちを考えて、わたしは聞かなかったことにする。

「特に、接吻はすごかった。びっくりした。身も心もとろけるようだった。……あれ、リリィ殿の仕込みかの?」
「……」

 聞かなかったことにする。

 リリィ姉様の、すごくいい笑顔も見えない。

 ともあれ、ガーベラには不満はないらしい。
 考えてもみれば、あれだけだらしない様子を見せていたのだから、不満などあろうはずがないだろう。

 わたしは首を傾げた。

「それでは、『これでよかったのだろうか』とはどういうことですか?」

 尋ねると、ガーベラは困ったような顔をした。

 そうして返ってきたのは、よくわからない返答だった。

「……まあ、なんというか、妾にも一応、『順番』というものを気にする心くらいはあるのでな?」
「順番、ですか?」
「加藤殿に関しては、ほれ。主殿のことにかけては、『へたれ』だからの。ある意味、発破をかけることになるのではないかと思っておる。だが、ローズ殿に関しては、そうではないからの」
「なにがですか?」
「そういうところが、かの。だが、だからといって、妾が気にして歩をとめるのは違うだろうしの。難しいところだ」

 ガーベラは豊かな胸の下で腕を組むと、うーんと唸ったあとで、改めてこちらに赤い目を向けた。

「なあ、ローズ殿。これは、以前にも聞いたことではあったが……お主は、主殿に抱擁してもらうために、自身を飾っておるのだったな?」
「はい。そうですが」
「あのときは、うやむやになってしまったが、いまでもお主は、そこから先を望んではおらんのか?」
「……」

 それは、ディオスピロの町を訪れる前、問い掛けられたのと同じ質問だった。

 わたしはご主人様に目をやって、よく眠っていることを確認してから、十分に小さい声で答えを返した。

「いいえ。わたしのなかには、ガーベラの言う通り、確かにその先を望む気持ちがあります。あるのだと、気付きました」

 それは、ご主人様と初めてのデートをしたときに、感じたことだった。

 わたしは、ご主人様に抱擁されたい。
 人形として、女の子として、ご主人様に抱き締めてほしい。

 そのためだけに努力してきて、それだけが自身の望みなのだと思っていた。

 けれど、違った。
 わたしのなかには、抱擁のその先を望む気持ちがどこかにある。

 真菜からも、ガーベラからも、欲がないと言われてしまったわたしにそれを悟らせてしまえるくらいに、ディオスピロの町中をご主人様とふたりで歩いたあの時間は、幸せなものだったのだ。

「ガーベラの言っていたことは、正しかったということですね」
「おお。そうか。では、ローズ殿もまた、主殿を陥落せしめると決めたのだな!?」

 喜々とした様子で身を乗り出してくるガーベラに、わたしは掌を向けた。

「いえ。待ってください。それは、違います」
「む?」
「そんなふうには、わたしは思っていません」

 先走るガーベラを押し留める。

「というより、わたしは、ご主人様とどうなりたいのか、自分でもわからないのです」
「わからない?」

 ガーベラは、変な顔をした。

「妙なことを言うものだ。自分のことであろ?」
「はい。ですが、わたしは本当にわからないのです」

 抱擁のその先を望む気持ちは、確かにある。
 けれど、それはあくまで漠然とした期待であり、希望だ。

 いざその先というものを考えようとしても、たとえるなら光り輝く霧のような、ふわふわきらきらとした具体性のないものしか浮かばない。

 自分の望みが、確たる像を結ばない。

 だけど、それも当然なのかもしれない。
 以前、真菜にも指摘されたことがあった。

 わたしの心は、未発達で未熟なのだ。
 自分の心のことさえ、よくわからないくらいに。

「言ってしまえば、わたしは自分の望みというものに、酷く鈍い性質なのでしょう」
「むぅ。だが、主殿に抱き締めてほしいという望みはあるのだろ?」
「それは、以前に一度、ご主人様に抱擁された夜があったからです。一度あったから、もう一度と望むことができました」
「想像できぬものは、望むこともできぬというわけだ?」

 腕組みをしたガーベラが、体を傾けた。

「それでは、ローズ殿は本当に、主殿と抱き合って、接吻をして、触れてもらって、愛し合うことを望まぬというのか?」
「……」

 あまりに当たり前のことのように尋ねるガーベラに対して、わたしは凍り付いてしまった。

 ……なんてことを訊くのだろうか。

 わたしにとって、それは想像の埒外にある出来事だった。
 想像するしないの問題ではなく、そもそも、そんな発想がなかった。

 こうして正面から尋ねられたところで、考えることさえはばかられるというのが、正直なところだった。

 けれど、尋ねた本人であるところのガーベラは、どこまでも真剣な顔で、わたしのことを見詰めていた。

 彼女も冗談でこんなことを言っているわけではない。
 真面目なのだ。

 真面目に、考えてみてはどうかと言っているのだった。

 だから、わたしはちょっとだけ。
 分不相応な妄想を、自分に許してみることにした。

「……」

 けれど、すぐにその困難さに行き詰まった。

 抱き合う?
 キスをする?
 触れてもらって、愛し合う?

 わたしと、ご主人様が?

 いざ具体的に挙げられてしまえば、それはいかにも現実味に乏しい光景だった。

 かつてわたしは、抱き締められたいという願いさえ、身の程知らずな夢だと思った。
 いまでも、そう思うところはある。

 ならば、それ以上の行為をなんと表現すべきなのか。
 わたしにはわからなかったし、それを頭のなかで形にすることは、困難を極めた。

「……想像もできません」
「ローズはガーベラと違って、生殖に基づいた本能的な部分がないからねえ」

 わたしが正直なところを告げると、リリィ姉様が助け舟を出してくれた。

「だからといって、わたしと違って、美穂の記憶と感覚から学べるわけでもない。となれば、こうしたことに疎くても仕方がないんだよ」
「……なるほど」
「まあ、性格もあるんだろうけどね。ローズは忠誠心の塊みたいなとこあるし、真面目だから」

 諭すように言うリリィ姉様に対して、ガーベラは唇を尖らせてみせた。

「しかし、傍から見ておったら明らかだというのに、歯痒いというか……」
「自覚のあるなしばっかりは、外からどうすることもできないからね。ローズのペースでやらせてあげるしかないよ」

 どうやらわたしの気持ちは、傍から見ていればわかるものらしい。

 わたし自身としては、そんな大それたこと望んでいるつもりはないので、困惑するばかりだった。

 そんなわたしを見て、リリィ姉様は笑顔を引っ込めると、その眼差しを酷く真摯なものに変えた。

「ローズにとって、なにが切っ掛けになるかはわからないけど……もしもそのときがきたら、きちんと受け止めなくちゃ駄目だよ? それはきっと、ローズにとってなににも勝る宝物であるはずだから」

 それは、姉から妹に向ける慈愛に満ちた台詞だった。

 同時にそれは、確信に満ちた物言いでもあった。

 いつか、必ずその日は来るのだと。

 気付けばわたしは、こくりと頷いていた。

「……はい。わかりました、リリィ姉様」
「よろしい」

 姉様は満足げに笑った。

 そして、一転、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべてみせたのだった。

「差し当たっては、ご主人様に抱き締めてもらうことだよね。切っ掛けって言ったら、まずはそれだろうし」
「ね、姉様……?」
「そろそろ、おねだりしてみたりしないの?」
「それは……」
「おお。それはいい。やはり、動いてみなければわからぬこともあるしの」

 ガーベラも乗ってくる。

 楽しんでいるし、半分冗談めかしてもいる。
 だけど、残りの半分は紛れもない本気だった。

 どうにも覚悟を定められずにいるわたしは、これには少し困ってしまう。

 もっとも、いつまでもわたしがこんなふうでいるから、姉様たちも背中を押そうとしてくれているのだろうけれど。

 気遣いがありがたいやら、それに応えられない自分が情けないやら、困惑するわたしを救ったのは、見回りに出ていたシランさんの帰還だった。

「ただいま帰りました。……おや。なにやら楽しげですね」
「お帰り、シランさん。あれ? また、モンスターがいたの?」

 話を切り上げた姉様が、鼻をひくつかせた。
 血の臭いを嗅ぎ付けたものらしい。

「怪我はない? 今日は、少し戻ってくるのが遅かったように思うけど」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 心配そうに眉尻を下げたリリィ姉様に対して、シランさんはにこやかに答えた。

「遅くなりましたのは、すみません。いまはベルタがいませんから、見回りは密にしておいたほうがよいかと思いまして」
「あ。うん。それは、もっともだけど……」
「少々返り血を浴びましたから、湯浴みをしてまいりますね。ローズ殿、一式、お貸しいただけますか?」

 わたしが魔法の道具袋から大きめのタライや手拭いを渡すと、笑顔で礼を言って、シランさんは目の届かない離れた場所に移動した。

 その背中を、リリィ姉様はじっと見詰めていた。

「どうしたのですか、リリィ姉様」
「……うん、シランさんのことなんだけど」

 思案げな顔で、姉様は答えた。

「けっこうな頻度で、モンスターを倒してきてるよね」
「え? ……ええ。そうですね。ご主人様たちの夜の安寧が保たれているのは、シランさんの手によるところが大きいでしょう」

 モンスターのなかには、夜に活動を活発にするものが少なくない。
 樹海にいた頃は、夜中にモンスターの襲撃を受けることが何度となくあった。

 けれど、最近ではほとんど、そうしたことはない。

 野営地周辺のモンスターの駆除のために見回りをしているシランさんが、頻繁にモンスターを倒してくれているというのなら、ほとんど夜間の襲撃を受けることのない現状は、彼女の活躍のお陰と考えるのが妥当なところだろう。

「彼女の勤勉さには頭が下がります」
「うん。そうなんだけどね……」

 リリィ姉様の返答は、歯切れの悪いものだった。

「なにか問題でも?」

 わたしが尋ねると、少し迷ったあとで、リリィ姉様は答えた。

「……どうにも、シランさんがモンスターと遭遇して帰ってくる回数が、多過ぎる気がするんだよね」
「多過ぎる、ですか?」

 さっきとは、微妙に違う言い回しだった。
 すぐにはぴんとこないわたしだったが……言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 わたしたちが、昼の旅路でモンスターと遭遇することはあまりない。

 ここは樹海に近い土地ではあるが、樹海そのものではないのだ。
 人間にとって厳しい生存環境だとはいえ、さすがにモンスターの生息数は樹海ほどは多くない。

 また、町と町を繋ぐ街道は、アケルの護国騎士団によって、モンスターの駆除が行われてもいる。
 モンスターと遭遇する確率は抑えられているのだった。

 しかし、現実として、シランさんが出回りでモンスターを倒してきて、狼の嗅覚を持つリリィ姉様がそれを指摘するのは、そう珍しいことではない。

 それだって、毎回、気付けるわけではないだろう。
 ひょっとすると、なかには確信が持てなくて、口に出さなかったときもあるのかもしれない。

 とすれば、実質はそれ以上に多く、シランさんはモンスターを倒しているのかもしれない。

「だがの、リリィ殿。ベルタは毎夜、モンスターを狩ってきておったろ?」

 ガーベラが疑問の声をあげた。

「それも、何匹もだ。それと同じことなのではないのか?」
「あれは、狩りに出ていたんだよ。能動的に、獲物を求めて動き回っていたの。シランさんとは、根本的にやってることが違うでしょう?」
「む。それもそうか」

 相槌を打つガーベラから視線を外して、リリィ姉様はシランさんのいなくなった木立に目をやった。

「かなり広い範囲を歩いて回らないと、そうはいかないと思う。もちろん、それ自体はありがたいことなんだけど……」
「また少し、彼女は頑張り過ぎているのでしょうか?」

 わたしも心配になって、木立の奥に視線をやった。

「……そうかもしれないね」

 リリィ姉様は相槌を打った。

「別れる前に、ベルタが言ってたんだよね。『貴様は自分たちの身内の問題をどうにかしろ』って」
「身内の問題、ですか?」
「うん。口を滑らせた感じだった。そのときは誤魔化されちゃったんだけど、それって、ひょっとすると……」

 シランさんの頑張り過ぎは、かねてよりご主人様も心配していたことだ。

 ベルタが口にした『問題』というのが、シランさんのことを指しているのではないかと言われれば、確かにそうなのかもしれないと思えた。

 ……けれど、同時にわたしは、少し引っ掛かるものも感じていた。

 もしも、それが『問題』なのだとしたら、ベルタはどうして誤魔化したのだろうか?
 すでに認識されている問題に関して、誤魔化す理由はないはずなのに。

 もちろん、真実はわからない。
 ベルタは工藤のところに戻ってしまい、いまや問い詰めることもできない。

 そもそも、ベルタの口にした『問題』が、シランさんのことに関するものなのかどうかも定かではないのだ。

 ただ、引っ掛かりは残った。

 姉様も同じなのかもしれない。

 木立の奥を見詰め続ける横顔には、憂いの影が差していた。

   ***

 結局、この件については、ご主人様に相談して、わたしたちもそれとなく気を配ることになった。

 と言っても、これまでも気にしていた案件ではあったのだ。
 すぐに目に見える進展があるはずもなく、そうこうするうちに、わたしたちはディオスピロに到着した。

 町で待つ深津さんと合流すべく、わたしたちは宿に向かった。

 何日か滞在していたことのある宿のある通りに入る。
 すると、女性の声があがった。

「おお! シランじゃないか! それに、ケイも!」

 通りをこちらへと歩いてくるのは、金髪碧眼の若い女性だった。

 耳が尖っている。
 エルフだ。

 快活そうな笑みを浮かべた顔立ちは、少し頬の骨が張っているものの、シランやケイに少し似ていた。
 他人の空似、というわけではないのだろう。

 珍しく、シランさんがぽかんとした顔をした。

「……伯母様?」
「久しぶりだね」

 女性は懐かしそうに目を細めた。
◆ちなみに、なにがとは言いませんが、半分は主人公の性格です。
彼は眷属たちが最優先の男なので。
残りの半分は、リリィさんのお手柄です。さすがです。

なにがとは言いませんけど。
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