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男なら一国一城の主を目指さなきゃね  作者: 三度笠
第一部 幼少期~少年時代
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第二十五話 量産開始

この世界の貨幣価値や相場についてご興味のある方は設定をご一読ください。

 翌週、ゴムの耐久性のテスト期間が終了した。


 どの製品も問題なく耐久性を発揮し、ゴム引き布、クッション、サンダル、靴についての製品化をヘガードは許可した。スリングショットとプロテクターについては見合わせるとのことだ。特にプロテクターについては予定されていた斬りかかってのテストすらしていない。しかし、一度決定したことに異を唱えても仕方がない。俺としては単価の高いプロテクターの製品化を望んだのだが、ヘガードは武具については製品化を許さなかった。しかし、武具の改良を続けるよう指示を出したと同時に、ファーンとミルーに対してもゴムの生成を出来るように指導しろと言って来た。改良についてはともかく、指導については全く問題ないので二つ返事で引き受ける。


 しかし、一点解せないことがある。


「父さま、村の他の人への指導は宜しいのでしょうか?」


「うむ、その件については今晩の夕食後に皆に話をする。それまではいつも通り稽古に励め」


 そう言うと、今はもう終わりだとばかりに席を立った。領内の見回りに行くのだろう。俺は釈然としないまま午前の魔法修行をしてMPを使い果たすと昼まで休んだ。どうせ夕食後には話し合いの時間があるんだ。




・・・・・・・・・




 夕食後、ヘガードは家族全員を見回すと「今日はこれから少し話すことがある」と言ってランプの火を点けたままにした。何のことか解っていないファーンとミルーはお互いに顔を見合わせると、直ぐにヘガードに向き直る。シャルは予め大体の話を聞いていたのだろうか、落ち着いた様子のままいつもと変わらずに微笑んでいる。ミュンが紅茶のような味のする豆茶を用意し、それが全員に行き渡るまでヘガードは待つつもりのようだ。もうミュンを疎外する必要を感じないので俺も黙って最後の俺のお茶が用意されるまで待つ。


 俺のお茶の用意が終わるとミュンは一礼して退室した。帰るつもりなのかどうかは判らないが、俺がミュンの方をちらりと見るとミュンは薄く微笑みを返してきた。


「さて、これから話すことは既に俺とシャルで話し合って決めたことだ。だが、ファーンやミルー、アルももし別の意見があれば言ってもいいぞ。場合によっては考え直すからな」


 ヘガードはそう言うとまた全員の顔を順に見ていく。


「もうわかっていると思うが、今日がこの前アルの言っていたゴム製品の耐久性を見極める日だ。まぁ、使っている奴らにはちょくちょく様子を聞いていたから最終的に問題になることはまず無いとは思っていた。予想通り問題は無さそうだから幾つかのゴム製品についてはバークッド村で生産し、他の街へ売りに出す事にした。売りに出す製品はサンダル、靴、ゴム引き布、クッションにした」


 そこまで言うと、へガードは一口お茶を飲み口を湿らせた。


「スリングショットや鎧については今回は見送る。その理由は今後、ゴム製品はバークッドの基幹産業になるので、もう少し完成度を高めると同時に、そろそろ起こりうる次の出陣で実際に使ってみてその優秀性を証明したほうが高値がつくと思ったからだ。あー、つまり、ゴムを使った品々はこれからバークッドがどこに出しても自慢できるくらいの名物になっていく。だから、もうちょっと使えるようにいろいろ工夫して、更に次の戦で実際に使ってみて、ゴムの武具が良い物であることを知らない人達に見て貰ってから売る、という事だな」


 さっきから良く解っていない顔をしていたミルーにも理解できるように言い直したようだ。しかし、そんな事を考えていたのか……。


「サンダルやゴム引き布は使ってみると直ぐにその優秀性に気づく。実際に売りに出してみないことにはなんとも言いづらいが、俺とシャルはそう考えた。ある程度高い値を付けるつもりだが、それでもそこそこ売れるだろう。農奴はともかく、平民なら手が出ないような金額にはしないつもりだ。まぁ、実際にいくらで売るかはまだ何も案がないから、これから詰めていくんだがな……。だが、命を預けることになる武具はそうはいかん。まさか売りに出すたびに実際に斬りつけて、試して貰う訳にも行かんしな。だから、武具についてはこれからも更に改良を重ねた上で次の戦に持っていく。いい加減、そろそろお声がかかってもいい頃だしな。そこで見せつけた上で、場合によっては他の貴族たちにその場で売り込んでくるつもりだ」


 なるほど、武具については実戦証明コンバットプルーフ付きで売り込むつもりなのか……。俺はそこまでは考えていなかった。人の多い大きな街でサンプルの鎧でも用意して斬り付けて貰えば充分だろうと高をくくっていた。しかし、実戦証明コンバットプルーフとかよく思いつけたな。この考えはヘガードなのかシャルなのか、又は二人で相談しているうちに出てきた物なのかは知らないが、うちの両親も伊達に領主をしているわけじゃないな。それに、商売っ気についても大したもんだ。


「そこで改めて言うが、良く覚えて置いて欲しいことがある。それはな、ゴム製品についてはいくつか秘密がある。その秘密を家族以外には絶対に漏らしてはいけないということだ。今でも幾つか秘密があるが、製品が増えていけば今後も秘密は増えるだろう。他の事なら良い意見があれば聞くが、これはもう決めたので変更はない。グリード家の決め事だ。いいな」


 全員が頷いた。


「ゴム製品の作り方はアルから聞いて大体分かっているつもりだ。今から話すが間違っていたら訂正してくれ」


 ヘガードは俺の方を見ながら言うと、ゴム製品を作る手順を説明し始めた。特に間違っていなかったので途中で口を挟むことはしないで済んだ。俺の説明とゴム製品のサンプルを触っただけでよくここまで正確に説明できるな、と思ったが、ヘガードは領主としてそれだけ真剣だったのだろう。単にぼーっと聞いていたわけではなかったことが良く解ったし、へガードの理解力も大したものだ。


「要するにゴムを作るのに、本来は魔力は必要ない。きちんとした手順を踏み、時間をかければ誰にでも作れる。だが、一番時間を食う乾燥の時は魔法を使ったほうが数段効率がいいことは解るな? それと、樹液だけでなく炭の粉と北の山の黄色い石の粉を混ぜていくと弾力が増し、更に加えていくと最終的には硬くなってエボナイトになる。混ぜものがあることは誰にでも予想がつくだろうし、それが何を混ぜているのかもこれから沢山作って行き、使う材料も増えていけば隠すことは出来ないだろう。しかし、どのくらいの割合で混ぜるといいかというのとその混ぜ方は秘密だ。いいな」


 また全員が頷く。なるほど、まぁ混合率や手順を秘密にする方がいいか。他の要素についてはヘガードが言う通り秘密にしたくても無理だろうしな。その後、ファーンとミルーには明日からゴムの製法を学ぶようにとお達しがあった。同時に俺にはゴムの生産量を増やすように言われた。これは従士達を中心に人を使って良いとのことだったので、あまり手間はかからないだろう。


 ゴムの樹液を出すパラゴムノキは俺が知る限り265本ある。俺は今まで主に手間の問題から30本の木からしか採取していなかったが、話し合った結果、採取する木を200本にまで増やすことになった。後の木は種を取り、別の場所に植えてゴムの木を増やす為に使うのと、使い切らないように取り敢えず何もしない、ということになった。


 いい加減時間も経ち、子供達が眠くなったのを見て取ったのだろう、この日はこれで寝ることになった。




・・・・・・・・・




 ゴムの採取は上手く行き、生産量も格段に増えた。まぁ樹液を取ってきて木炭と硫黄を粉にして、混ぜるだけだし、そうそう失敗があるわけもないが。混合率についても、俺が纏めたメモを作ったので間違えようがない。2ヶ月をかけてゴム底の革ブーツ20足、ゴムサンダル100足、1m幅のゴム引き布が50m分、ゴムクッション10個が完成した。ゴム自体は生産量の半分位しか使っていない。


 すべての品質を確かめたヘガードは数人の従士と、珍しいことにシャルを連れてドーリットの街まで売りに行くそうだ。場合によっては侯爵領の首都であるキールまで行くかも知れない、とも言っている。向こうでどのくらいの時間を過ごすつもりかは判らないが、直接売るとなるとどのくらいの時間がかかるのだろうか? 今になって売れなかったらまずいな、と思い始めてきたが、冷静に考えれば売れないはずがない。だが、ここまで棚上げにしてきた問題について指摘しないまま、と言う訳には行かないだろう。


「父さま、それぞれの値段は決めたのですか?」


 思い切って聞いてみる。あまり高いと売れないだろうし、安いと売れたとしても家畜を買ったり維持する費用が出ない。


「ああ、既に決めた。サンダルは10,000ゼニー、靴は30,000ゼニーで売る。布は1mで5,000ゼニー、クッションは1個20,000ゼニーだ」


 ああ、畜生。どれくらいの価値かわかんねぇ。


「なるほど、因みに馬は一頭でどの位の価格なのでしょうか?」


「そうだなぁ、家にある程度の荷駄用の馬なら一頭で六百万ゼニーというところだな。俺が乗っている戦争にも使えるような軍馬で一千万ゼニーくらいだろう」


 は? なら、今の在庫全部予定通りの値段で売れても二百万ちょっとじゃねーか。ぜんぜん足りねぇよ……。うーん、馬の値段はもともと貴重な動物なので高いらしいのは判る。だが、ゴムの価格が判らん。だいたい、1ゼニーってどのくらいの価値よ? ついに経済感覚が無いことが問題になったな。


「あのう、皮サンダルは普通どのくらいの値段なのでしょうか? あとブーツも」


「ん~、そうだなぁ、サンダルはだいたい3~5,000ゼニーくらいだろうな。ブーツも今回と同じような出来のもので12~15,000ゼニーと言ったところだろう」


 なるほど、よくわからんな。だが、ゴム製品と比較対象になるような既存の製品の倍かちょっと高いくらいというのが安いと言うことはわかる。


「アル、お前が心配していることはわかる。これでは安すぎると言うのだろう? だが、心配するな。これは最初だけだ。すぐに沢山売れるようなら、ドーリットでの商売は止めてキールにいって5倍くらいの値段で売ってみるつもりだからな。大丈夫だよ」


 そう言うとヘガードは俺の頭を撫で、荷物の積み込みを見守った。


 うーん、流石に5倍はどうなのよ?




・・・・・・・・・




 三週間が経った。ヘガード達はまだ帰ってこない。両親がいないのでのびのび出来ると踏んでいた俺たち兄弟だったが、従士長のベックウィズ・アイゼンサイドが毎日昼には必ず来て俺たち三人を拉致して強制的に従士達の剣の稽古に放り込まれる。俺は元々素振りしかしていなかったのであまり問題は無いが、ファーンとミルーは思い切り扱かれている様だ。


 あとで聞いてみるといつものヘガードが指導する稽古よりは楽らしい。おいおい、じゃあいつもはどんだけ扱かれてるんだよ、と思わずにはいられなかった。俺もあと何年かしたらあれに混じるのかと思うと気が滅入るな。だが、それもまた必要なことだし、致し方ない。


 なお、この前始末した連絡員つなぎ以降、新たにコンタクトを取ってきた者はまだいないそうだ。あれから約3ヶ月、次の動きがあるとすればそろそろじゃないかと思うと、おちおち夜に狩にも行けない。実際、あれからはまだ2回しか狩に行っていない。使いたいときに腕輪の魔力が無いと言うのだけは避けたいし、これは仕方の無いところだと妥協するしかない。


 

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