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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第二十六話 濡れ手に粟?

 数日経った昼過ぎ、剣の稽古を始めてから小一時間程した頃にヘガード達が帰ってきた。空になった馬車にへガード以外全員乗って帰ってくるのかと思っていたら、そうではなかった。馬車の荷台にはまだ荷物が載っているようだ、あまり売れなかったのだろうか。心配になった俺は剣の素振りも放り出してヘガードに駆け寄りながら問いかける。

「父さま、あまり売れなかったのですか?」

 騎乗したヘガードにそう問いかけた俺は、きっと悲壮な顔をしていたのだろう。ヘガードを始め、御者台に掛けているシャルとボグスも俺を見ると慰めるつもりだろうか、何とも言えない顔で笑いかけてくる。

 あっちゃ~、失敗したかな? ある程度期待していただけに落胆の色も顔に出たのだろう、俺は自分の表情が固くなるのを意識しながら、それでもゴムの評判や改良しなければならない点に思いを馳せつつも続いて尋ねる。

「どこがまずかったか教えてください。すぐに改良にかかります」

 そう言う俺を馬車の傍らで護衛に付いていたショーンが抱き上げるとヘガードに預ける。ヘガードはショーンから俺を受け取ると、にっこり微笑みながら

「全部売れたさ、追加の注文も貰ってきた。それに、お前が喜びそうなものも買って来た。さぁ、荷物を降ろしたら報告会だ。これから忙しくなるぞ!」

 なんと、全部売れたそうだ。荷台に乗っていたのは売れ残りの在庫ではなくて、買ってきた別の品物らしい。ホッと胸を撫で下ろす。今日はこのまま従士を集めてゴム販売の報告会になるらしい。



・・・・・・・・・



「全員集まってるな。早速だが、今回のゴムの販売について皆に知らせようと思う。また、同時に今後の村の方針について考えがあるのでそれも聞いて貰いたい」

 従士全員を庭に集めるとヘガードはそう言って全員を眺め回した。ここには家族と従士全員、それに従士の跡取りで既に成人している者全員が集まっている。端にミュンもいる。全員が地べたに座り込み、前で立っているヘガードに注目している。ヘガードの後ろにはシャルとボグス、ショーン、ジムが立っている。今回の商売のメンバーだ。

「まず、最初に言っておくと、今回用意した製品は全て売れた。因みにドーリットではサンダル二足とゴム引きの布1mだけ売れた。と言うか売った」

 用意した製品が全て売れたという言葉で全員の顔に笑みが浮かぶが、ドーリットで売れた数があまりにも少ないので訝しむ声もあがる。だが、ヘガードは『売れた』ではなく『売った』と言い換えたのだ。どういうことだろう?

「俺たちはドーリットに到着すると、まず『サグレット商会』に行って見た。村の特産品を露天売りしたかったからな。それから、ドーリットの領主のキンドー士爵への顔出しと領内での商売の許可を取りに行った。どちらもバークッドの特産品と聞いて農産物か何かだろうと思ったらしく、簡単に許可が貰えたし、税も免除して貰えた。だから中央通り沿いに馬車を停めて早速売り出してみた。最初なので様子を見るために予定通りサンダル一足で10,000ゼニーだ」

 ヘガードの後ろに立っているメンバーが面白そうにニヤニヤしている。

「ドーリットに着いたのは夕方だったから、商売の許可を取ってからちょっとだけ売って夜には宿に入ろうと思っていたんだ。だから店は皆に任せて俺は宿を取りに行った。すぐに引き返して店を開いた場所に戻ったんだが、まぁ当たり前だな。誰も見向きもしていなかったな」

 ヘガードもそう言うとニヤッと笑った。

「仕方ないのでその後ちょっとして店を畳んで……と言っても荷馬車を宿まで移動させただけだがな。その日は休んだんだ。そして次の日、朝からまた同じ場所で店を開いた。板を用意してシャルが値札まで書いてな……」

 それを受けてにやけながらショーンが言う。

「何でしたっけ、ああ『超高級サンダル 特価 10,000Z』とか書いてましたね」

 皆は何が面白いのか解らないようで、ぽかんと聞いているだけだ。俺も何がそんなににやつく要素があるのか全く解らないので同じようにぽかんとしていた。

「昼くらいまで全く売れなかったなぁ。俺たちもいい加減売れないから全員荷馬車に寄りかかって座り込むようになってきた頃だ。そこにキンドー士爵が通りかかったんだ。士爵は多分、田舎から村の特産品を売りに出てきた俺たちにお情けを掛けて少しでも買ってやろうとして、わざわざ足をお運びになったのだと思う」

 今度はボグスが言う。

「ああ、あれは完全にそういう目でしたね。キンドー様はお優しい方なんだと思いましたよ」

「全くそうだな。だが、俺は辛かったぞ、気の毒な人間を見るような表情で『超高級サンダル……10,000ゼニー……ふむ、頑張ってご商売下さい……』そう言って銀貨を1枚俺の手に握らせたんだ。あの時の気持ちは……言葉に出来ん」

 シャルが口を抑えながら言う。

「でも、その後、凄かったじゃないの」

「ああ、確かにあれは凄かったな。と、話がそれたな。とにかく昼くらいに初めてキンドー士爵がサンダルを一足買ってくれた。その後は朝と同じでさっぱり売れなかった。と言うより足を停めて見てくれる人はそれなりにいたんだが、値札を見て呆れた顔つきをして通り過ぎて行ってたな。俺達も、こいつは厳しいな、と思い始めていたんだ。だが暫くしてキンドー士爵が今度は馬に乗ってやってきた。馬から急いで降りると慌てて言ったんだ『残っているサンダルを全部くれ』ってな」

 それを聞いて皆がガヤガヤとしだす。俺もちょっと吃驚した。全部くれ、だと?

「それを聞いて俺とシャルはピンと来た。やはりゴムは売れるってな。だが、相手は無税で商売を許可してくれたご領主様だ。どうやって断ろうかと思っているとシャルが言ったんだ『キンドー様、サンダルは殆ど全てキールにて売り先が決まっております。あと一足で店仕舞いをしようとしていた所なのです。申し訳ありません。ですが、お詫びと言ってはなんですが後一足サンダルをご購入頂けるのでしたら、こちらのゴム引きの布を1m無償にてお分け致します』ってな」

 ヘガードはおどけてシャルの口真似をしながらその場を再現する。

「しょうがないでしょう? やっぱり見る人が見れば物の価値というのは見抜かれるものだわ。あの場を切り抜けるのに他に言いようがなかったのよ。それに、ゴム引き布だったら色々な使い道を向こうが考えてくれると思ったのよ」

「そうだな、お前の言う通りだよ。あそこでは俺が言うよりも角が立たなかっただろうし、ゴム引き布をおすそ分けすることもいいアイデアだった。……とにかく、俺たちはサンダルを追加で一足売り、ゴム引き布を1m分だけ無償で渡した。まぁ税だと思えば良いし、帰り道に寄ればいいと考えたんだ。で、直ぐに店を畳み宿を引き払って逃げるようにしてキールを目指したんだ」

 皆は「サンダルって100足あったんだろ、なんで全部売っちまわなかったんだ?」とか「全部売れたら……(指を折って計算中)……ひゃ、百万ゼニーかよ、金貨じゃねぇか!」とか言って騒いでいる。俺は逆に、また両親を見直した。一気に売れるチャンスを棒に振ってまで更に大きな商売に賭けたのか。これはなかなか出来ることじゃないだろう。特に田舎領主で商売というか、商機に疎そうだった両親だと思っていたのだが、やはり先日の件は本物だったと言ってもいいのだろう。偉そうに評している俺だが、精神年齢は50を超え、食品商社で20年近くを過ごし、中間管理職をやっていたのだ。正直な話、両親を舐めすぎていた。改めないとな。

「で、それからは途中の街でも商売には手をつけないでキールまで行ったんだ。その間、俺たちは皆で何度も相談した。どこにどうやって持っていったら高く、継続的に売れるだろうってな」

 うーん、これはますます見直さないとな。どこに持っていったら、というのは誰でも考えるが、ここでは『どうやって』持っていったらまで言及されているし『継続的に』というのも素晴らしいな。基本的な商売の仕方は心得ていると言ってもいいだろう。いずれ貸借対照表などの経理的な概念や決算などについても教える時が来るかも知れない。転生してまで収益性分析とか面倒だなぁ。

「それでだ。俺たちはいろいろ話し合った。それこそ頭が茹だって煙が出るほどにな。なにしろ、キンドー士爵が慌てて全部買い占めに来るぐらいの代物だ。作れる数も限界がある。出来るだけ高く売りたいじゃないか。そうすれば皆の生活も豊かになるしな。俺たちは道すがらああでもない、こうでもないと知恵を出し合った。そして、考えついたのはウェブドス侯爵に直接売るか、侯爵の弟が経営しているウェブドス商会に売るかしかない、と結論づけた。どっちも一長一短がある。侯爵に直接売る場合には税を払う必要はない。代金をその分上乗せすればいいんだからな。だが、売れる数はわからん。軍に採用されれば継続的に販売できるかも知れん。商会に販売すれば税が必要になる。あまり高くすればその先での一般に販売する際には更に高額になるので売れ行きがどうなるか予想がつきにくい。だが、商会は侯爵領だけでなく王国全土に販路を持っている。上手くいけば買ってもらえる量や継続性は侯爵に直接販売する場合の比では無くなるかも知れん」

 皆はまた黙ってヘガードに注目している。ヘガードはそれを確認するとまた口を開く。

「持っていく先は二箇所まで絞れた。取り敢えず、俺達は侯爵に直接売り込むことに決めた。どちらにしろ侯爵にお目通りは願わねばならんしな。直接の売り込みに失敗しても次に商会の方へ行けるからここは安全策を取ったんだ。で、持っていき方だが、単に『バークッドの特産品』と言うと軽く見られてしまうことはドーリットで判っていたから、それを考えた。もう既に皆が知っている通り、ゴムはいろいろな使い道がある。結果としてバークッドの特産品ではあるがそれは大きな声で主張するまでもない。そこで考えた結果だが、お年を召した侯爵に直接良さを訴えても難しいであろうと思い、ここは搦手から行くことにした。俺達はまず最初にセンドーヘル様の所にお伺いした」

 センドーヘルって誰だ?

「皆も知っていようがセンドーヘル様は侯爵のご長男で3年前に騎士団長に任ぜられている方だ。まだお若いが確かな剣の実力もあり侯爵も跡取りを公認している。家のファーンの事もあるから、最初にお目にかかっても失礼ではないしな。ファーンの騎士団への入団のお願いと併せてさりげなくゴム製品の紹介をしたのだ。センドーヘル様は流石にお目の高い人だった。直ぐにゴムを気に入ってくださった。皆の者、聞いて驚け、騎士団の正規装備品として継続採用を約束して下さったぞ!」

 おお、そんな事があったのか。しかし、それはすごいな。皆も興奮を隠せないようでざわついている。しかし、やはり喜びが大きいのだろう、笑みが溢れている。

「サンダルは騎士や従士の訓練用の装備として一足40,000ゼニーで納入する。ブーツは騎乗時と実戦用として一足190,000ゼニーで納入する。但し、ブーツについては今の豚革ではなく鞣して二重にした豚革にしなければならない。また足の甲にプレートを取り付けるのでその固定用のバンドも一緒だ。ゴム引き布については1m四方辺り30,000ゼニーで納入する。但し、これについては注文時に大きさの指定があるそうだ。クッションは馬の鞍に合わせた形に広げてもう少し薄く作れるなら1個250,000ゼニー、持っていったものと同じものなら100,000ゼニーだ。但し、こちらも条件があり、クッションの表面はゴムのままではなくゴム引き布で全体を覆う必要がある」

 全員度肝を抜かれて声も出ない。俺も声も出ない。5倍くらいで売ってくるって言ってたじゃん。サンダルなんか普通の皮製で3~5000ゼニーくらいなんだろ? ブーツもいいとこ15,000ゼニーだって言ってたはずだ。10倍以上じゃねぇか。ボッタくりもいい加減に……いや、いいのか?

「なお、これらは今後継続して半年ごとにサンダル300足、ブーツ100足、ゴム引き布は取り敢えず幅1m長さ200m分、クッションは早期に鞍用30個、普通のもので20個の注文だ。全部で4650万ゼニーだな」

 ……。農耕馬買えるじゃん。

 
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