第二十話 発表会
ああ、すみません。また予約投稿をミスってました。
幾つか試作品を作ってみた。
まずは硬質ゴムを使って作ったプロテクターだ。前世のアメフトやアイスホッケーの防具のようなものを思い出しながら作った。厚さ1cm程度の硬質ゴムの板で作ろうと思ったが、曲面が上手く作れないことにすぐ気がついたので、各パーツにあわせて型を作るとこからやってみた。
地魔法と風魔法でざっとしたゴムを流し込む型を作り、それを無魔法で更に整えるのだが、これがなかなか上手く行ったと思う。何しろ手先を使わず、イメージ力だけで型を作れるのだから、便利なことこの上ない。調子に乗ってゴム製の鎧も考えたが、デザインはともかく通気性の問題について何も考えていなかったし、金属ほどではないがそれなりの重さになりそう、と言うかゴムの量が限られていることに気がついて鎧はすぐに没にした。
既存の革鎧や服の上に取り付け、要所を保護するプロテクターのようなものが出来た。形状は肩と肘を守る御椀の出来損ないのようなものと、昔の仮面ライダーを思い出して適当に作った胸当てと腹当て、そしてそれらを保持するゴムベルトだ。ベルトの金具は取りあえずエボナイトと釘を使って作った。お世辞にも洗練されたデザインだとは言い難いが、試しに従士たちに着て貰っていろいろテストをしてみた所、大きな問題はなさそうだったので良しとした。これに以前作ったエボナイト製の手甲を合わせてみると、上半身が黒っぽくなってまるで忍者鎧のようだ(そんなものが無い事は当然知っているが、子供の頃に読んだ漫画が思い出されて、もう忍者鎧としか思えなくなってしまった)。表面をつや消し処理したエボナイトで固め、更に下半身用の膝当てと腿や脛を保護するパーツも併せて作ってみると、思いのほか好評だった。
次は靴やサンダルだ。こちらは特に問題もなく作れたし、今までの革のみや、麦藁を編んで作ったものとは比較にならない履き心地と耐久性を示したので、非常に満足がいったものとなった。
その他、好評だったものは大きな麻布の片面に軟質ゴムを塗りつけたものだ。このゴム引きの布については多方面から評価を得られた。耐久性はそれなりだが、雨具のようなものや、荷車の幌などに便利だろうと言う評判だ。丸めたり畳んだりすればそう嵩張らない事も地味にポイントが高かった。
また、パチンコを改良して作ったスリングショットだが、こちらは男性陣の受けが良かった。ある程度強力なものを用意したのが良かったのだろう。専用の弾丸もエボナイトで直径1cmの球体を幾つか作ってみると、これが良く飛んだし、威力もかなりあることが判った。ただ、重量は金属とは比べ物にならないし、威力だけ取っても小石のほうがまだましだ。単純に球体に出来る中で一番重かったのがエボナイトだったというだけの話だ。空気抵抗を受けづらいので狙いが付けやすかろうという以上の意味は無い。
なお、軟質ゴムの座布団はそこそこ好評だったが、ホースについては何に使うものなのか理解できなかったらしく、不評であった。尤も、上下に置いた桶の水をサイホンの原理で移動させるのを見ると納得はしてもらえたが、それでも需要はないとの結論だった。風呂が一般的になればこの評価は覆るとは思っているが、ゴム栓も開発してしまったので、確かに微妙なポジションな気もする。
ヘガードやグリード家に仕える従士たちにこれらのゴム製品を発表すると、概ね好評であった。
しかし、いくら領主に言われたとはいえ子供が作ったもの(ヘガードは余計な思惑が発生する可能性を慮り、ヘガード自身が俺に命じて作らせたと説明していた。領主の次男が非常に優秀なのは既に殆どの村人が知っている)なので耐久性も含めたテストを行うことになった。
耐久性のテストは2ヶ月間と決定した。但し、鎧だけはヘガードが訓練等で使用し、2ヶ月後に改めて人形に着せて斬りかかったりして耐久テストを行うようだ。
まぁ、多分大丈夫だろ。
・・・・・・・・・
ゴム製品の試作中、ミュンは今まで通り全く怪しい動きを見せなかった。
しかし、家の庭で製品の発表をする時にヘガードが「意見は広くから聞いた方が良い」と反論不能の声を上げ、従士全員の他、当家で働く農奴達、当然の様にミュンも発表の場に居合わせることになった。
俺は、ある意味でこの発表会で何らかの反応でもあればめっけ物かな? という気持ちでいた。ゴム製品を作っているところは魔法を利用するので絶対に見られないように気をつけていたが、試作品の発表については見られても問題は無いと思ったからだ。没になれば日の目を見ることなく消えていくゴム製品もあろうが、そうでなければ、バークッド村で生産して他所に販売して外貨を稼ぐ商品になるのだから、見られることに何の問題もないと思っていた。
但し、戦略性の高いと思われるタイヤだけは今のところ試作品や中途半端なバウムクーヘンのような物さえ見せないことにした。故のタイヤ抜きの試作発表会だった。
当然意図的に抜いたタイヤ以外にも俺自らが時期尚早やあまりの不出来に発表しなかったものもある。例えば魔道具と組み合わせて使うようなものは、今回一切発表していない。
未発表のゴム製品はさておき、いろいろ発表をしていると、明らかにミュンの目つきが変わった物が2つあった。一つはある程度予想していた物だったが、もう一つはちょっと予想外だった。
最初のひとつはスリングショットだ。これはある程度予想していたので、実は目つきが変わった時に、多少なりとも反応を示してくれたことに安心さえしたのだ。やはり武器という、軍事転用可能な物に反応を示してくれたので、ほっとしたくらいだ。何しろ、今まで碌に尻尾を現さなかったから潜入してきた目的が不明だったので、これで少なくとも目的の一つか、その周辺に近づいたのだな、と思うことができたのだ。
スリングショットを披露したとき、従士を中心に質問がいくつか出たが、軍人以外の、しかも女性で質問をしたのはミュンだけだった。その質問は「そのスリングショットという小型の弓はアル様でもそのような威力を出せるのですか?」と言う、質問というよりは戦力化の目安の確認のようなものだったからだ。一見するとスリングショットの威力に感心したようにも取れるので、俺の他には誰も気がつかなったようだ。
それと、スリングショットの改良版である、スリングショットの散弾バージョンのような物を発表した時も目つきが変わった。俺はスリングショットがかなりの好評を博し、ミュンの興味も引けたようだということにその時ちょっと調子に乗っていて、発表するつもりのなかった散弾バージョンまで披露してしまったのだ。
散弾バージョンはスリングショットのハンドルはそのままに本来Y字の上部、つまりゴム紐を付ける部分を取り外し、直径5cm程のリング状にしたエボナイトを取り付けたものだ。そのリング部分には作成に失敗したコンドームを分厚いまま数枚重ねたものが取り付けてある。そのコンドーム内に直径2mmほどの球体のエボナイトを20発程入れ、思い切り引っ張って発射すると15m程先で直径1.5m程に拡がり散弾状に着弾するのだ。
威力は俺がテストしたところ厚さ2cm程度の杉板を割ることが出来るくらいだ。目に当たったら失明は免れないだろうし、露出している皮膚に当たっても相当に痛いだろう。だが、目に当たらない限りは15mも離れると大人の行動を完全に阻害できるようなものではない。勿論距離が近ければ威力はもっと強いのでその限りではないが。だが、俺はそれを格好をつけて腰に拳銃よろしく吊っていた。腰とは10cmくらいのゴム紐でベルト部分に接続していた。
予め右手に散弾を握り込み、西部劇のガンマンのように左手でスリングショットを構えるとコンドーム内に散弾を流し込みすぐに右手で散弾ごとコンドームを思い切り引き15m程先にある、それまでスリングショットの的に使っていた杉板に向かって発射すると、複数並べていた杉板を同時に3枚割った。発射後すぐにスリングショットから左手を離すと、散弾バージョンは接続されていたゴム紐によって腰に戻りぶら下がる。その時にはナイフを構え、誰もいない正面に向かって突き込む動作をしておしまいだ。
発射までの時間の短さと手を離すとすぐに腰にぶら下がり、次の動作を行える柔軟性。且つ発射装置自体を放棄することもないので隙があれば再度発射可能な便利な飛び道具。そして正確に狙わなくても広範囲に広がる散弾が命中の期待値を上げる。威力だってそう馬鹿にしたもんじゃない。
ミュンはその全てを幾らか驚愕を含みつつも冷静な目つきで観察していた。
もう一つ、スリングショット以外にミュンが興味を示したのは靴だった。これはミュン以外にも興味を示した人数は多かったので目立たなかったが、何人かに履いてもらう時にミュンが自ら試すと言って来たのだ。ミュンが試したのはブーツではなくサンダルタイプで、そこだけ見れば使用人なので当たり前と言えなくもない。だが、サンダルタイプの方がゴムのベルトで足にしっかりと固定する分、スニーカーに近い履き心地なのだ。ゴムの特性を余すところなく使った品である。
歩いたり小走りに駆けてみたり軽くジャンプしてみたりしてその性能を確認していたことは、しっかりと目の端っこで確認していた。
俺は少なくともミュンの興味を引くものを作ることは出来た。
次はこの情報を得たミュンがどういう行動をとるのか、しっかりと観察するべきだろう。
耐久テストが終わる2ヶ月先までミュンは様子を見るだろうか?
それとも早速どこか、又は誰かに連絡をするのだろうか?
単に思わせぶりな目つきをしただけという可能性も極小ながらある。
だって、一番ゴムをふんだんに使った鎧には大して興味を示さなかったのだ。
実は俺は興味を示されるなら鎧だろうと当たりをつけていたのだ。
いや、一番作るのに苦労したから俺の欲目もあったかも知れないな。