第四十話
遅くなり申し訳ないです
1941年十一月、カレリア地峡。かつて此処にはソ連の侵攻を阻止するためにフィンランド軍は長さ135キロ、幅90キロに亘り築いた防衛線――マンネルハイム線があった。しかし冬戦争後にソ連軍の工兵が破壊していた。だが継続戦争でもフィンランド軍とソ連軍は此処で激闘をしていた。
「アレクシ!! 右二時にT-34だ!!」
フィンランド軍に供与された二号突撃砲は木々を薙ぎ倒し、倒木を踏み倒して侵攻してくるT-34に照準を合わせる。
「Tulta!!(トゥータ)」
二号突撃砲に搭載された四八口径七五ミリStuK40L/48が火を噴き七五ミリ砲弾はT-34のターレットリング付近に突き刺さり行動を停止させる。
「次だ!! 装填急げ!!」
ガチャンと装填手が七五ミリ砲弾を急いで装填する。
「装填――」
装填手の言葉を告げる前に二号突撃砲の車体が揺れる。至近弾であった。
「T-34が接近してくる。奴に照準を合わせろ!!」
二号突撃砲はゆっくりと突撃してくるT-34に照準を合わせる。
「トゥータ!!」
再び火を噴いた四八口径七五ミリStuK40L/48の七五ミリ砲弾はT-34の操縦士の窓を撃ち抜き撃破する。しかしソ連軍は数に物を言わせて侵攻してくる。
『駄目だエンシオ!! 数が違いすぎる!!』
味方の二号突撃砲の車長はそう叫ぶ。
「idiootti!!(馬鹿)弱気になるな。此処で後退したらソ連の野郎がフィンランドに攻め込むぞ!!」
その時、二号突撃砲の車長エンシオ少尉は爆音を聞いた。
「敵機か!?」
だがそれは味方だった。
「はっはっは。まだまだいるじゃないかイワンども」
ヴェーヌス(金星)に乗るルーデルは眼下に捉えているT-34の軍団にニヤリと笑う。
「行くぞガーデルマン!! 急降下だ!!」
「隊長、垂直になるのは止めましょう!!」
「垂直だと命中率は高いぞ!!」
ルーデルはそう叫んでダイブブレーキを開いて急降下を開始する。ルーデルのヴェーヌスにはジェリコのラッパことサイレンが取り付けられており、急降下での風切り音が辺りに鳴り響く。
『ルーデルだ!?』
『全車後退せよ!!』
『後退するな!! 逃亡したら撃つ――』
そう叫ぼうとした政治将校のT-34の砲塔が吹き飛ぶ。エンシオ少尉の二号突撃砲の七五ミリ砲弾が命中して爆風で砲塔が吹き飛んだのだ。更に上空からはルーデル以下の爆撃隊が五百キロ爆弾、五十キロ爆弾を投下して戦車部隊を撃破する。
『待たせたなフィンランド軍!!』
エンシオ少尉の無線レシーバーに一人の男の声が響く。それに合わせるかのようにエンシオ達の後方から戦車部隊が現れた。
「ドイツ義勇軍!?」
戦車を見たエンシオ少尉は思わず歓喜の声をあげた。エンシオ少尉達の前に現れたのはドイツ義勇軍の派遣第二装甲師団の二個装甲連隊だった。
「パンツァー・フォー!! イワンを叩き潰せ!!」
装甲連隊長のヘルマン・フォン・オッペルン=ブロニコフスキー大佐(以降オッペルンと表記)は連隊を前進させる。ちなみに義勇軍の装甲連隊は武装SSの装甲連隊も組み込まれている。オッペルンの配下にはオットー・カリウス、アルベルト・ケルシャー、パウル・エッガーがいた。
そしてもう一つの装甲連隊はフランツ・ベーケ中佐が率いていた。
「パンツァー・フォー!! オッペルン連隊長の装甲連隊を支援だ!!」
ベーケはティーガー四十両、パンター五四両、フンメル六両、ヴェスペ十二両を率いており突撃するオッペルン連隊を援護している。それにエンシオ少尉達のフィンランド軍も加わり侵攻するソ連機甲師団を叩くのであった。
「カレリア地峡に侵攻したソ連軍を撃退しました」
「うむ。援軍が間に合ってよかった」
参謀長のハンス=ヴァレンティーン・フーベ中将の報告にマンシュタイン歩兵大将は頷く。
「それと現地からの報告でフィンランド軍は遺棄されたソ連軍の戦車を捕獲しているとの事です」
「それぐらいは良かろう。我々もラッチェ(擦過音)・バム(発射音)等を捕獲して運用しているくらいだからな」
戦闘後、フィンランド軍は遺棄していたソ連軍のT-34やKV-1等を合計で四六両を捕獲した。その中には戦闘に耐えられない車両が多数であり実際に運用出来たのはT-34十三両、KV-1八両だった。
「誤射をしないように気を付けないとな」
マンシュタインは苦笑するのであった。
「フィンランドは中々やっている……か」
俺は義勇軍からの報告書を読みつつそう呟いた。かなり久しぶりかと思うが気にするな。そこ、メメタァとか言わないで。いやほんとに。あ、石は勘弁して。
「フィンランドは二号突撃砲を有効に活用しているようです」
「そのようだな。我々も供与する意味があった」
参謀総長のハルダー上級大将とそう話す。二号戦車の車体は史実三号戦車だから四八口径七五ミリStuK40L/48を載せて二号突撃砲にしてフィンランドに120両を送ったからな。
勿論、他の戦車も送っているからな。本当だぞ?
「ですが義勇軍をこれ以上送ると中東作戦等に影響します」
「だろうな」
リッベントロップがイラク等で交渉に交渉を重ねているが……。サウジアラビアは枢軸側についているから問題はない。
「何とか上手く彼等を味方にしたいがな……」
「そうですね」
「うむ。それとマダガスカルはどうだ?」
俺はレーダーに視線を向ける。
「Uボート基地は既に完成して八隻がインド洋で通商破壊作戦を展開しています……が」
「が?」
「ベンガル湾近くまで行くとやはり物資や装備の不足が気になります。ペナン島に補給基地を設けたいのです」
「……確かにな」
「それと日本海軍のインド洋展開も要望します」
……レーダーの事も一理あるな。
「……よし、大島に言ってみよう」
俺はそう言うのであった。ドイツからの要請は直ぐに日本海軍に伝えられたが海軍はしかめ面だった。
「インド洋の重要さは分かっている。だが米空母の動向も気になる」
海軍は初戦でエンタープライズ、レキシントン、サラトガを沈めたがまだヨークタウン、ホーネット、ワスプがまだ存在していた。この三隻を沈めない限り、海軍は空母をインド洋に派遣する事はないと判断している。だが新型空母群の事も気になる海軍である。
「……伊号潜の派遣とペナン島の補給基地を承諾で今のところは手を打ってもらおう」
とりあえずはそうお茶を濁す海軍だった。
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