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はじまりの朝

微修正(H24 1/17)


 昨夜、月に向かって吠えた事で、直時は色々と吹っ切れたようだった。採取した果実と煎りドングリという簡単な朝食を済ませたあと、早速フィアへと教えを請う。


「元の世界じゃ極々普通の一般人だったんで、この世界の平民が身につけているレベルの習慣と一般常識、日常生活に使う魔術を教えて下さい」

「わかったわ。でも一からだと時間掛かるから、辛いだろうけどまた魔術使うよ?」

「それって言葉覚えるのに使ったやつ?」

 昨日の苦痛を思い出し、顔色が悪くなる。


「そう! (ニッコリ)」

「ううう……。優しくお願いします」

「任せなさいっ。じゃあいくよ! 我が知の欠片 汝の知となり肉と為さん!」

 それぞれの頭上に魔法陣が顕われる。直時は、次に来るだろう情報の奔流と激しい頭痛に身体を強張らせる。


「『転写』」

「―っ!」

 今回は心構えがあったため、脂汗に塗れながらも痛みには無言で耐えることが出来た。


「頑張ったわね。鼻血は出てるけどね」

「はぁっはぁっはぁっ。とりあえず顔洗ってくる……」

 荒い息を吐き、覚束ない足取りで泉へと向かう。冷たい水で気分も落ち着いたようだ。戻ってきた直時は、改めてフィアへ頭を下げた。


「フィア。知識の伝授有難う」

「美味しいお酒貰ったしね。これくらいは対価として当然よ。じゃあ、簡単な魔術の実践をしてみましょう。知っている事と使える事が全然違うっていうのは、どんな知識でも同じだからね。先ずは、火の術式。着火の術式を行使してみましょう」

 お手本よ? と、人差し指の先に火を出すための魔法陣を編む。さっきまでなら意味不明の模様にしか見えなかっただろうが、今は魔法陣の意味も構成も理解出来る。

 頷いた直時は魔法陣を編もうとして、そのまま止まる。


「どうしたの? 魔法陣を編んでしまえば、魔術に必要な魔力が自動的に吸い上げられるから簡単でしょ?」

 フィアが訝しげに問う。


「魔法陣を編むのにも魔力いるよね?」

「ほんの少しだけどね。でも、魔法陣自体にはほとんど消費しないでしょ?」

「――魔力ってどうやって出すの?」

「そこからか……。そう言えば魔力の無い世界だって言ってたわね。私達が無意識にできることも、意識的にしないといけないのかぁ」

 溜息を吐くフィアに申し訳なさそうに頭を下げる直時だった。


 フィアが魔力のイメージを何とか説明しようとするが、もともとその感覚がわからないので、直時の魔術実践訓練は苦戦した。


「もしかして魔力を認識出来てない?」

「全くもってわかりません」

「ヒビノから感じる力もすごく大きい力だけど魔力とは違うし、それも関係しているのかもしれないわね。力の自覚は出来てる?」

「全然。メイヴァーユ様からもそんなこと言われていたけど、自分にそんな力があることすら信じられないよ」

「これは先ず魔力を体感してもらわないといけないようね…。その前に感覚を上昇させる魔術をかけるわね」

 フィアが複雑な魔法陣を編む。


「視えざるを視 聞こえぬを聞き 触れ得ぬものに触れよ 『探知強化』」

(ほほう。これはもらった魔術知識の中には無かったなぁ。ふむふむ。この魔力回路がこうなって、五感だけじゃなく第六感的な感覚まで増幅されるのかぁ。憶えておこうっと!)

 転写された魔術の基礎知識を活用しつつ、頭上の魔法陣を興味深げに観察する。フィアが転写した魔術情報は、術こそ初歩的なものばかりであったが、魔法陣の構造や意味までもが知識として含まれていたのだ。様々な映像や記号、言語に晒されている日本人の直時は、貰った知識を元に初見である魔法陣を解析、記憶に留め置く。


 魔術の発動とともに直時の五感が跳ね上がった。視界は超高画質、超望遠、高速オートフォーカス付き。聞こえる周囲の音も大きく、種類も格段に増えたことから可聴域も広がったようだ。風が運ぶ匂いもせ返るほど。肌をなぶる風の筋、着衣の繊維の一本一本さえ判る。心臓の大きな鼓動や流れる血潮、肺が吸い込む空気の音まで全てが鮮明である。押し寄せる五感の情報に脳が悲鳴を上げそうになるが、認識力ごと強化されたため、なんとか判別、分類し、捌くことが出来た。


「これは凄いね! まるで世界が広がったみたいに感じるよ」

「ここからが本番よ。今からヒビノに魔力を放つ。安心して。術への変換前の魔力は特性を持たない。攻撃魔術を受けるのとは違うから。兎に角魔力を感じて欲しいの」

「わかった。感じられるよう集中する」

 五感以外で感じられるものに集中しようと、あえて意識を五感から逸らす。


(視ているようで視ない。聞こえる音はBGM。匂いはスルー。身体にはなーんも触れてない。その他に感じるもの、感じるもの……)

 傍から見ると、眼を半眼にしてぬぼーっとしているだけ。今にも涎を垂らしそうな様子である。

 フィアは、自身が内包する魔力をかざした右手へと集める。術を行使するわけではないし、本来の使い方ではないため慎重に制御しなければならない。身体の中央から腕を通り、掌へ流していく。そして、放出。イメージを補強するため、あえて軽く手を突き出す。


 直時が最初感じたのは『風』だった。その後、実体がつかめないのに密度だけが風を纏って迫ってくる感覚。フィアは風の精霊術を自在に使いこなすが故に、極僅かながらその魔力が風の精霊によって変換されてしまったようだ。

 そして、フィアの魔力、その密度の塊が肌に触れ身体を通り抜けていこうとする瞬間それが起こった。彼女の魔力は直時の内部の何かと衝突し弾き返された。


「えっ?」

 放出したはずの魔力が逆流する。自分のイメージと反する現象に無意識で防衛体制をとってしまう。フィアを中心とした周囲に逆巻く風の壁が唸りをあげ、直時を弾き飛ばす。


「しまった!」

 慌てて精霊達をなだめて、術をキャンセル。5メートル以上飛んで、仰向けに倒れている直時へ駆け寄る。焦るフィアが怪我の有無を確かめようと膝を突いたそのとき、直時の半眼だった眼が開いた。彼の口が笑いを刻む。


「なーるほど。この感じが魔力か」


やっと一歩を踏み出したところです

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