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冒険者ギルド


 リスタルの冒険者ギルドは三階建てである。一階には登録や連絡等の受付。ギルドによるアイテム購買部。依頼の対象物引取り所がある。

 各依頼物件は二階にあり、殆どの依頼は掲示板に貼り出されている。隣には仲間内の打ち合わせや休憩に使われる喫茶室も備えられている。

 三階はギルド職員のスタッフルーム、ギルド事務所等、関係者のみ立ち入りが許される区画である。


 直時は少し緊張しながら受付へと足を向けた。

 受付には五人の見目麗しい女性が間隔をとって業務にあたっていた。


「すみません。宜しいでしょうか?」

 手の空いている受付の一人に声をかける。


「はい。ご用件をどうぞ」

 営業スマイルを浮かべる受付嬢は、浅黄色の髪に蒼い眼の若い女性だった。


「冒険者登録をお願いします。何分初心者なもので、判らないことばかりでお手を煩わせると思いますが、宜しくお願いいたします」

「わかりました。では書類をお持ちしますので、少々お待ち下さい」

 荒くれ者が集う冒険者ギルドとはいえ大組織である。対応は丁寧だ。


「お待たせしました。こちらにお名前と種族をご記入ください。他の項目はご都合の許す範囲で埋めていただければ結構です」

 直時の手元に獣皮紙とペンとインク壺が置かれる。


(名前と種族だけで良いのかぁ? 聞いてた通りアバウトな基準なんだな。でもまあ問題無い項目は出来る限り埋めておいた方が信頼も増すだろうな)

 名前、タダトキ・ヒビノ。種族、普人族。年齢、三二歳(アースフィアの時間の流れは地球とほぼ同じで一年は三六〇日)。国籍、空白。所属団体、無し。連絡先、未定。加護、無し。祝福、無し。刻印、無し……。

 たいして埋めることができなかったが、無しというのも情報になるだろうと記した申込書を受付嬢へと渡す。


「これで宜しいでしょうか?」

「はい。問題ありません。最後にこの水晶球に手を置いてください」

「はい」

 指紋照合でもされるのかと訝しげな直時である。


「少々お待ち下さい」

 受付嬢は個人連絡用の魔法陣を描き、連絡相手の反応を待つ。


(この水晶球で犯罪歴とか調べるのかな?)

 直時の予想はほぼ的中している。ただ、犯罪歴ではなく、過去に冒険者ギルドへ不利益をもたらす活動をしたか否かの情報を、直時個人の生体波オーラ登録とともに調べているのである。


「確認しました。登録に問題はありません。ようこそ冒険者ギルドへ」

 相手の声は本人にしか聞こえないようで、結果のみを直時にニッコリ伝える。


「有難うございます。これから宜しくお願いします」

 無事に登録が出来てひと安心の直時。


「では初めて冒険者に登録された方へのご説明に移ります。こちらへお掛け下さい」

「はい」

「では基礎知識等の転写術を行いますので、気を楽にして下さいね」

 にこやかに短杖を構える受付嬢に、直時は慌てる。


「えっ? ちょっと! 転写よりは口頭でお願いしたいんですがっ!」

「直ぐ終わりますからねぇ。痛いのは少しの間だから我慢しましょうねぇ」

 病院で注射器を片手に笑う看護師さんのように、容赦の無い天使の笑みで魔法陣を編む受付嬢。


「我与えるは 冒険者の知 そのはじまりの知 此の者への知となさん 『転写』」

 心の準備もないまま直時の脳裏へと情報が強制入力された。

 フィアからの転写情報と被る部分もあるが、冒険者心得からはじまり、ギルド利用規約や便利情報が流れ込んでくる。言語体系を転写された時に較べれば、痛みは格段に少ない。


「不意打ちとは非道いです」

 それでも激しい頭痛が襲う。直時は恨みがましい眼で受付嬢を見た。


「転写術の知識は記憶に刻まれて忘れないので便利なんですよ。口頭だと何度も同じ質問される方が多いため、ある程度大きな支所だとこれが普通の対応なんです。まあ、初心者の通過儀礼だと思ってください」

「――わかりました。有難うございました」

 礼を言うのに抵抗を感じつつも律儀に返す直時。


「冒険者証をお作りしますので、その間、知識の確認を兼ねて二階の喫茶店をご利用ください。こちらは飲み物券で一杯は無料になります。発行まで四半刻程かかりますので、そのくらい後に受付に申し出てください」

「了解です」

 二階へと向かう直時に、受付嬢が再び声を掛ける。


「ヒビノさんはなかなか頑丈なのですね。医務室に運ばれる初心者さんも多いのですよ? 冒険者としてのこれからの御活躍を期待しておりますね」

「有難うございます。まぁ死なないよう適度に頑張ります」

 初心者に対するリップサービスだと思った直時は愛想笑いを返して階段を上っていった。


「久し振りに転写術に堪えた人を見たわねっ!」

「華奢なのに根性あるわよね」

「成長が気になるところね」

「次会うのが楽しみだわ」

 かしましいお喋りの後ろで、他の受付嬢が対応し、登録に来た二〇歳前後だろう逞しい若者が医務室に運ばれて行く。

 担当した受付嬢が同僚と噂話している事を知る由もない直時だった。


 階段を上った直時は、依頼が貼り出された掲示板が気になったが、先ずは知識の確認のため喫茶店に入る。

 隅の席に着くと、女給が注文を聞きにやってきた。三色の毛並みをした猫耳おねーさんである。肩までのボブカットは前髪が白、右耳側は明るい茶色、左耳側は黒である。直時の胸が高鳴る。


「ご注文を伺いますニャ」

「気分転換に良いお勧めのお茶をお願いします。これ、飲み物券です」

「新人さんですニャ? 転写はきつかったでしょうから、スキっと気分爽快になるお茶をお持ちしますニャァ」

「有難うございます。(なんて素敵な語尾だ!)」

 顔色が悪いながら、猫耳ねーさんに身も心も魂も癒された直時である。厨房へと戻っていく魅惑の尻尾付きお尻を見送りつつ、早速冒険者ギルド情報を記憶から呼び出す。


――登録された冒険者には、ギルドから身分証となる冒険者証が発行される。記載内容は名前と冒険者のランクのみ。

――ランクは八段階。最高ランクはS。次いでAから順にGまで(表記がアルファベットであるのは便宜上。文字はアースフィア独自のものである)。

 同ランクの依頼だけでは何度受けてもランクアップはしない。同ランク依頼を一〇件以上完遂し、且つ一段上のランクの依頼を三件こなすことによりランクアップする。

依頼失敗には、ランクアップに必要な依頼達成数が失敗数の二倍必要になる。ただし、上ランクの依頼失敗は同ランク依頼五件を新たに完遂せねば受けられない。


(つまり、俺がGランクを八件達成して次に失敗すると合計一二件完遂がFランクを受ける条件になって、Fランクを一件失敗するとGランクを五件完遂しないとFランクを受けることが出来ないってことかな? 同じランクの依頼だけでランクアップしないってことは、上の実力が付くまで修行しろってことなのかもしれないな。成長しないと仕事を任せられないってのもあるだろうけどね……)

 自分なりに解釈する直時。


――罰則規定。故意に冒険者ギルドに不利益を与えたものは除名され、罰則が科される。最悪討伐の対象になることもある。故意でない場合はその旨を申告し、ギルドに了承されればある程度のペナルティ後、復帰を許される。


(身分保証と仕事の斡旋をしてもらえる代わりに、ペナルティもあるわけか。しかし討伐対象って…、冒険者達から狙われるってことか)

 脳内情報の冒険者の心得を検索しつつ、真面目に働く決意を固める。


「お待ちどうさまニャ」

 猫耳ウェイトレスさんがトレイを片手に直時のテーブルにやってきた。


「鎮静効果のある花茶ニャ」

「有難う」

「ふむ」

「何か?」

「お客さんは昨日エルフちゃんと一緒にこの町に来た人かニャ?」

 顔をしげしげと覗き込んでくる。


「ああ! 宿屋を紹介してくれた猫耳ねーさん!」

「やっぱり! その黒髪に見覚えがあったのニャ」

「あの後すぐに宿泊できました。有難うございました」

「堅苦しい挨拶は無しニャ。うちはミケラ・カルリン。今はここで臨時の給仕をしているのニャ」

「自分はタダトキ・ヒビノです。登録したばかりの駆け出し冒険者です。宜しくお願いします」

「これから御贔屓にお願いするニャ。うちのことはミケでいいのニャ」

 何故か直時の頭をわしわしとかき回しながら撫でる。


「うむ! 良い毛並みなのニャー」

 黒髪が気に入られたようであった。


煩悩の赴くままやってしまいました。

三毛猫ミケさぁーん!

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