序章
文を書く習慣もなしにはじめた物語ですが、終わりが来るまで書いていこうと決意だけはしています。お目汚しにしかならない気が満々ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
助言を頂いた部分を改変してみました。
「はぁ」
森を切り開いた街道を歩む人影から溜息が洩れる。
木々の間から茜色に染まる空。
(予定通りなら小さいとはいえ、ムロトの村で一息ついていたころなんだけど…。今日だけで三度も追剥に襲われるなんて、この辺りの治安も悪くなってきたなぁ)
陽が落ちてしまったわけではないが、残照を梢が隠す森の中だ。足元が見難くなってきた。
彼女は右の人差し指を立て、空中に小さく魔法陣を描く。ほんの少し魔力を込める。
小さく呪文を呟くと、彼女の頭上の少し先に、握り拳大の光の球が浮かぶ。闇に覆われた足元に光が指す。
「あとちょっとね。今日は屋根付きで寝られそう」
ここまで七日間の旅程は、全て野宿生活だったので屋根付きの寝床が恋しい。
「村に入ったら少し稼ごうかな」
手にした楽器の弦に白く細い指が軽く触れる。
「うっ!」
楽器を爪弾こうとした瞬間、風が嫌な臭いを運んでくる。
とてつもなく悪い予感!
「風の精霊達。お願い!」
呼び掛けに応えた精霊達が、身を疾風で包む。さらに前方の空気を圧し退け、後ろから背を押し出す。
彼女は灯火の術をキャンセル。視覚は諦め、風の声に耳を澄まし、空気の流れを肌で読み取り障害物を避ける。
(万が一もある、か……)
村の手前で森の街道を外れて木々を縫い、走る。風を纏い、風を巻き、風の音だけを残して。
村と森との境界。拓けた土地と森の境目。そこに聳える大きな樹の梢に身を隠す。
ここまで来ると一層酷くなる異臭。間違えようもない。
死臭だ。
生者の気配はない。彼女は念のため、探索の風を飛ばしてみるが、命の息吹はどこにもなく、昼間なら正視できないであろう無残な骸の数々を感じる。襲撃者の気配は既に無い。
「生存者なし……」
魔素も瘴気も感じられないことから、襲ったのは魔物や魔族ではないだろう。遺体の損傷具合から魔獣の類とも思えない。恐らく人族かそれに準ずる者だと思われた。
風の精霊の報告では遺体には爪や牙の痕は無く、刃傷や矢傷、そして人魔術の傷のようだ。
襲撃者は人族であると判断できた。
(この国も隣国との長い戦で治安が悪くなってきたわね。近隣で聞いた敗残兵たちの野盗かなぁ。戦い慣れている上に、自棄になっているから始末に負えないわ)
「魔のモノも怖いけど、人も負けず劣らずね……。ハァ」
思わず呟いてしまった後の溜息は、先程のものより暗く重かった。
暗闇が惨劇の痕を黒く隠していく中、ぽつぽつと青白い鬼火が灯りはじめ、数体の骸の眼に赤光が見える。魔物化してしまったようだ。
「っ! 負の気に当てられたのね。厄介な奴等が集まる前に退散しないと!」
風が逆巻き彼女の体を浮かび上がらせる。
「風の精霊達、お願いね」
梢から飛び出した身を風が優しく抱きとめ夜空へと飛翔させる。
「あなた達の魂にいつの日か安らぎが訪れますように…」
背後を振り返り、小さくなるムロトの村へと別れの言葉を呟く。
月光に透けるかのような透きとおった淡い金の髪。翠瞳に悲しみの色を浮かばせ天翔る妖精の如き姿。
いや、彼女は正しく妖精だった。
フィリスティア・メイ・ファーン。
諸国を旅する吟遊詩人。風の精霊の化身と云われるエルフ。
一滴の涙を残して滅んだ村を後に明日へと宙を舞う。
―キュゥ。
夜空に可愛らしい音が聞こえた。
「はぁぁぁ…。お腹空いた…」
……。
オチないほうが良かったか・・・いや悲惨なだけでは・・・いやいや・・・後悔と煩悶の繰り返しです(なさけなぁー)