挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
昔、書いてた奴のまとめ 作者:無職童貞

異世界クラス転移もの

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

12/39

002-3

前回までのあらすじ
区切れよ……長ぇよ……

今回のまとめ
だから、区切れよ……
004 醜くも、美しく

 殺すという言葉は安い。どれほど、安いかと言えば、私立六道高等専修学校で計測すれば一日に何百と登るほどに安い言葉である。類義として、ぶっ殺す、ぶち殺すなども確認されている。とにもかくにも、殺すという言葉は安っぽく、チンケでありきたりな文句というわけだ。

 けれども、殺すという行為は重い。それこそ、重犯罪の典型例として挙げるほどには殺すという行為は重いだろう。事実、日本で他人を殺したともなれば、普通に捕まるし。万が一にも捕まらずに生活が出来たとしても、それこそ、気が狂うような日常を送ることになるだろう。

 蚊や虫程度ならば、それほど重いとは感じなくても、小動物を殺せば残酷だと思う人間も居る。小学生の頃、蛙が何十匹と殺されていたことがあった。それを見た時、僕は命の重さというよりかは、殺すという行為の重さに慄いた。何せ、蛙を殺しただけで、まるで異端者の如く扱われ、存在自体を否定するかのように扱われることとなる。けれども、考えてみれば誰も蛙のことなんて気にもしていないし、むしろ蛙を見せれば気持ち悪がる人すら居る始末。にも、関わらずだ。

 殺す、重たい。殺すことは重たい。殺すということは重いのだ。背負うものが無いにしても、意味の無い錯覚だとしても。

 そして、僕は殺した。命を背負うわけでもない、何かを負うわけでもない。ましてや、罪に問われるわけでもなければ、責められるわけでもない。

 それでも、僕は殺したことを重いと思った。

 動物愛護団体でもなければ、平和の為に何かをするわけでもなく、遠くで戦争が起きていることに何の興味もないし、飛行機墜落事故や客船の沈没事故を見て大した感慨も抱かないのに、それでも重いと感じたこの重みの正体を僕はわからなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「開いて……いませんわね……」
「そうでござるな」

 とある紋様の扉を押してみてもうんともすんとも言わず、途方にくれている。

「ところで、ここは一体、何の店だ?」
「武器屋ですわ!」

 何故かテンションが高く、答えたのは紫香楽。おい、どういうことだ、聞いてねぇぞ……というか、一番近い場所だったので、とりあえず入れるかどうかを試してみたが無理のようだ。

「まぁ、別にそんな場所に用事もねぇし、もういいだろ、次、行くぞ、次」
「な、なぁっ! 武器はちゃんと装備をしないと意味がありませんわ!」
「いや、装備しないから、何言っちゃってんの、お前……」

 呆れたような視線を送ると紫香楽はフッと笑う。

「あなたには様式美が全くありませんのね。普通、異世界に来たら武器屋に行くのは当然の義務ですわ!」
「ねぇよ、そんな様式美。無くて結構だ」

 勝ち誇るような紫香楽に僕は呆れる。どこの様式美だ、そんな常識は存在しない。少なくとも常識云々で言えば僕の方に遥かに分があるので、問題も何も無い。

「ふむぅ……どうやら、すべての扉が無条件に開いている、というわけではござらないようでござるな。おや……?」
「どうした、小堂」
「ここを見てほしいでござる」

 剱山と神威と野母は周りの警戒をしてもらっている。ちなみに北村は警戒ではなく、しきりに神威に話しかけていた。こいつ、連れてこなければよかったと思わなくも無い。ただ、まぁ、荷物持ちにはなるかな、と結論。

「なにやら、四角いな……大きさは煙草の箱くらいか、深さは一ミリくらいか?」
「うむぅ、空洞殿、煙草を吸うなんて、健康に悪いから辞めた方がいいでござるよ」
「何で、僕が吸っている前提なんだよ……」
「不良ですわね。普通、こんな四角の部分を見て、煙草の箱なんて思いませんわ」
「えぇっ、じゃあ、例えるなら、何になるんだよ」
「そ、それは、そう! カードなどですわ! 遊○王カードサイズと言えばよいのですわ」
「いや、それならポイントカードでいいだろ……」

 何で、遊○王で表しちゃうかな、こいつ……コンビニで売っているから知っているけど。ともあれ、なにやら四角い部分があるのは確かだ。確かに言われて見ればうっすらとしか深みが無いのでカードといえばカードなのかもしれない。

「僕の場合はコンビニで煙草を売る機会が多いからだ」
「まぁ、そうでござろうな。ともあれ、ここ以外におかしい部分はござらんな」
「そうだな、宿屋の扉も見てみたいところだが……」
「必要ないでござるよ、拙者、入る時に散々、確認したでござる。このような深みはござらんかった。今はまだ、これが仕掛けなのか、それとも、偶々、こういう模様なのかはわからないでござるが、覚えておいて損はなさそうでござるな」
「あぁ」

 頷いて同意する。何事も考えておくべきだろう。それにしても小堂は凄いな……テストの点はパッとしないと言っていたが、頭の回転は少なくとも僕より遥かに早いような気がする。

「ふんっ、考えても仕方ありませんわ、次、行きますわよ、次」

 まぁ、紫香楽の言うとおりではあるので、次の扉を探そう。必要なのは武器なんて血なまぐさいものではなく、水と食料である。ふと、思ったが、ここに缶詰とかあるのか……? まぁ、考えても仕方があるまい。

「移動するぞ、皆」
「もう、いいのか委員長?」

 尋ねてくる剱山に頷き返す。早く帰って、化け物に見つからないうちに帰りつきたい。食べ物に関しては缶詰やチルドパックを補給しなければならないのだ。それに服もそれなりに見繕って、いかなければならないだろう。

「それで、委員長、向かい側のうすぼんやりと見える方に行くでござるか? それとも、こちらの扉の壁際を進むでござるか」
「隣を調べよう。恐らく、この場所は広い円のはずなんだ」
「なんと!?」

 驚いたようにこちらを見てくる六人。どうやら、どうしてわかったのか聞きたいようだ。いや、別に推理とかそういうんじゃなくて。

「実は、さっき目覚めた時に一周してきた」
「「「「「……」」」」」

 視線が痛い。おい、やめろ、そこ。アホを見るような目で見るな。神威だけが「ん……」と考え込んでいる。

「……お目覚めのランニング?」
「違う……テンションが上がっただけだ」
「委員長、病院いこ」

 北村が優しい。おい、やめろ、その優しさやめろ。酷く傷つくから。でもまぁ、そういうことにしておいた方がいい。僕のためにも、皆のためにも。僕がリーダーなんてものをやりたくないと思って、パニックに陥ったなど、今、話しても意味がない。不安にさせるだけでしかないだろう。ちっぽけな見栄が見え隠れして、自己嫌悪に陥るが、平静を装う。

「何故、テンションが上がったのだろうか。委員長。生憎、私は委員長のテンションが高いという姿を想像できん」

 剱山の疑問にうんうんと頷いている他の面子。余計な所にきづかれてしまった。どうやって誤魔化すか悩んでいると、状況が思い浮かび、確かその時、僕は檜山に膝枕されていた。

「ひ、檜山の膝枕で……」
「「「「「!?」」」」」
「おっ、委員長、柔らかかったか?」
「……まぁ、柔らかかった」

 北山の問いに素直に答える。硬いとか言って、あいつの耳に入ったら何をされるかわからないし、それに事実、柔らかかったのだから問題ないだろう。それにしても、別段に肉付きがいいわけじゃないのに、何故、女子のふとももというのは柔らかいのだろうか。

「もぅん、空洞ちゃん! 膝枕がいいならん、あたしがいつでもしてあげるのにぃ!」
「いや、僕はいいや。遠慮しておく」
「じゃあ、北村ちゃん、する?」
「よーっし! 次、行こうぜ、次ぃ!」

 北村が出発とばかりに手をあげる。非常にグッジョブである。これ以上、この話題を掘り返すのはよくない。野母がやる気になったら、困る。ヤル気は困るのだ……と、いうか皆、宿屋に入っていったと聞いていたから、てっきり知っているのかと思っていたが。まぁ、恐らく、誰か一人が僕を見てなきゃいけない所で檜山が出てくれたんだろうな。感謝をしなければ。けれども、僕はその恩に対して、酷い仇で返してしまった。取り返しのつかない、決して許されることのない。仇で。

 駄目だ、切り替えろ。今すぐに切り替えろ。自己嫌悪に陥ってもいいが、今はまだその時じゃない。こんな場所で呆けている状況じゃない。

 くいっ、くいっ、と。

「ん?」
「……」
「何だよ、神威」
「……なんでも、ありません」

 人の袖をひいておきながら、その返事はないだろう。けれど、いつものボーっとした顔ではなく、少しどこか怒っている気がするが……深くは考えまい。彼女のことは彼女にしかわからない。僕なんかが推測しても、推論してもならない。

 だって、僕達は誰のことも理解できないのだから。前を歩く神威 撫子の事も。北村のことも、小堂のことも、紫香楽のことも、剱山のことも、野母のことも。それだけではなく、檜山 桃香のことも、仙石 美代子のことも、後藤 達也のことも、誰も理解できない。他人だから、別人だから。だから、友情なんて育む必要がない、友達なんて要らない。理解できないから、怖い。怖いものは欲しくない。

 鬱屈になりながら、僕は歩く。それでも、僕は誰かに助けられて生きてきたのだから。誰かを助けなければならない。それは義務でしかない、この身を縛る鎖なんだとしても、捨てることなんて出来やしないのだから。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ここ、も駄目ですわね……」

 四つ目の扉を押してみて、紫香楽は溜息を吐く。どうやら、ここも開かないらしい。食パンのマークなのか、それともコック帽なのかはわからない。前者ならパン屋であり、後者なら洋食屋だろうか。いや、先ほど魚のマークと、レストランのようなナイフとフォークのマークがあったので、食べ物関係は三つ撃沈ということになる。

「……困ったな、ここいらで缶詰が見つからないと」
「「缶詰?」」

 紫香楽と小堂が声をハモらせて疑問を飛ばしてくる。あれ、何だろうか、この困った感じは。また、間違ったような感覚である。

「あなた、異世界に缶詰なんてあると思っていますの? 馬鹿ですわね」
「流石に空洞殿、缶詰は期待できないでござるよ……」
「えぇっ……じゃあ、僕らは何を探しているんだよ」

 根本的に意識の違いがあるようだ。というか、それならどうやって食べ物を見つければいいというのだ。

「そんなもの魔法で食材保存がかけられているに決まっていますわ」

 僕は明らかに怪訝な目をしていたと思う。正直、何言ってんだ、この馬鹿女とまで思ってしまった。どうしよう。こいつ、本気でアホなんだろうか。

「空洞殿、何も長期保存が可能なのは缶詰だけではござらん。干し肉などもござるよ。それに、不気味なことに……部屋には埃の一つもござらんかった。つまりは、何かしらの方法で宿屋は維持されていた可能性はあるでござる。そこから推論するに、少なくとも新鮮とまではいかないまでも、食材が保存されている可能性はゼロではござらんよ」
「……何だか、小堂だけ場違いだな」
「な、何故でござるか!」

 ぷんすかと怒る小堂。いや、褒めてるんだって。何でそんなに頭いいのに六道とか来ちゃうかなぁ。まぁ、理由は色々とあるけど、それでも、なぁ、もったいないというか、なんというか。

「褒めてるんだ、褒めて」
「う、うぅーっ、それは褒め言葉ではござらんよ」
「お待ちなさい! 何故、わたくしの意見に賞賛しないのです!」
「……魔法なんてあるわけないだろ。常識的に考えろよ」
「わ、わたくしに向かって、じぇ、JKですって!」
「何だよ、ジェーケーって……ここで女子高生って言う意味ねぇだろ」
「空洞殿、常識的に考えての略語でござるよ。KYみたいなものでござる。他にも常考って言い方もござるよ」
「あぁ、なんかそういや、聞いたこともあるようなないような……」

 何で略すんだよ、わかりにくいだろ、普通に。それにしても、ここまでのすべての扉に窪みが確かにあったな……そう考えてみれば、この窪みに何かを嵌める。そんな説が濃厚になってくる……らしい。僕としてはそもそも開かないんじゃないかとか思ってもいるが、小堂も紫香楽もそういうので、きっとそういうことなんだろう。

 ふと思って、試しに財布を取り出す。

「ちょっと、何をする気ですの?」
「いや、ポイントカードで無理かなって思って」
「無理に決まってるでしょう! このお馬鹿っ!」

 お、おぉう、めっちゃ怒られた。

「空洞殿、それは最後の手段にするでござる。もしも、罠が仕掛けてあったり、ペナルティがござったら、大変でござるよ」
「そ、そうか……やめておこう……」

 僕はいそいそとコンビニで使えるポイントカードをしまう。思いつきで行動して何だか凄く申し訳ない気持ちになった。

「まったく、少しは考えて行動してほしいですわ」
「こればっかりは紫香楽殿の言う通りでござる」
「はい、ごめんなさい……」

 いや、だってさぁ。普通、扉に罠とか黒板消しトラップかよ、とか思わなくもない。小学生の頃に一回だけ見た限りである。そもそも、扉に罠を仕掛けるとか、どういうことだろう。それに扉を開く鍵なんて、普通、鍵穴じゃね? カードキーとかあるけど、あれは翳すだけで嵌めるって発想もないし……

「問題はそのカードがどこにあるのか、だよなぁ……」
「モンスターですわ!」

 紫香楽が立ち上がり、言い放つ。何で、こんなに元気なのだろうか。いや、もう今更だと思うけれども、それでも突っ込まずには居られない。

「出来れば単語以外で頼む」
「もう、察しが悪いですわね、モンスターを倒せば、カードキーが手に入るのですわ!」
「何で、お前は分かるんだよ……」

 むしろ、こいつが仕掛け人じゃねぇかとすら思えてくるわ、マジで。いや、こんな大層なことを仕出かすほど、問題児じゃないと思うが……多分。いや、恐らく。そうだったら、いいなぁ。

「一理、あるでござるな」
「そうなのか?」
「どうっしてっ! わたくしの言葉じゃ信じませんの! 不愉快ですわっ」
「自分の胸に聞いてみろ……」
「なんって、破廉恥!」

 なんで、僕が詰られているんだろうか。おかしい、絶対におかしいよ。慣用句が通じないと人間ってここまでコミュニケーションがとりづらいとは思ってもいなか……いや、いたな。もう六道に入学して一年も経っているのだ、それくらい骨に染みている。主に仙道とか。

「まぁ、期待程度の話でござるがな。これがゲームの世界なら『敵』を倒して、主人公の能力を解放するためにショップを開いていく必要があるでござる。いわば、チュートリアル編とでも思ってもらえばいいでござるよ。まぁ、あくまでゲームのお話でござる、話半分に聞いてほしいでござる」
「いや、いわばとか言われてもピンと来ねぇよ」
「むむむっ、空洞殿は少し、サブカルチャーの勉強が必要でござるな……もし、無事に戻れたら拙者、直々のレッスンでござる」
「いや、いいよ、別に……そんなことよりもこんな事態に二度と巻き込まれない。帰ったら、そんな方法を勉強するんだ……」
「チョアーっ!」

 ガツンと二人からチョップをされる。何だ、一体!?

「な、なんて台詞を口にするでござるか!?」
「あなた馬鹿ですの!? 馬鹿ですわ! いい加減になさいましっ!」
「え、えぇぇぇっ……何でだよ……」

 いきなり、二人が激怒する理由に皆目見当がつかない。二人が怒るようなこと言っただろうか。心当たりがなさすぎるが、そもそもデリカシーというものが非常に足りない男だと自他共に認めているし、認められている。

「今すぐ、このお守りを胸ポケットにしまうでござる!」

 そう言って、手渡されたのはアニメのデフォルメであろうキーホルダーだ。お守り……?

「あ、あぁ……」
「ふぅ、これで死亡フラグは回避したでござるな」
「何だ、死亡フラグって」
「簡単でござるよ。漫画やアニメでこの台詞を口にする奴は「あ、大体、死ぬな」というパターンの台詞でござるよ」

 得意顔でふんすと胸をはって説明する小堂。

「……」
「ついでに言わせてもらいますわ。こういうお守りを胸ポケットに入れていることで、銃弾から身を守り死亡フラグを回避することを生存フラグと言いますわ」

 僕は胸ポケットからキーホルダーを取り出して、マジマジと見る。女の子フィギュア型キーホルダー……それを握り締めて。

「守れるかっ!」
「「あぁぁぁっ!」」

 地面にたたきつけた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 四つ目もハズレで、再び歩き出す。メモ帳にどこにどんなマークがあったのか、軽く地図を書いてみる。書き方は宿屋の部屋割りと一緒だ。

「……生存フラグ、大事」
「でござるよなぁ」
「全く、委員長は何もわかっていませんわ」

 コクコクと頷きながら、神威が会話に加わっている。先頭は剱山、野母、北村である。野母は実に楽しそうで、北村は必至に野母から一定の距離を保つための攻防に生死をかけている。命を懸けるのが速すぎる。剱山はその二人の様子を楽しそうに見ながら、それでも前方を警戒するのを忘れない。

 そんな中、僕は最後尾で背後からの奇襲に気をつけている。檜山は奇襲によって、先手を取られた。同じミスを繰り返さないために、奇襲を警戒する必要がある。無論、広い通路なので内側からの奇襲もあるが、ボウリングのピンのようなの形になり、真ん中に神威、小堂、紫香楽と固めているので、襲われるとしても、上の右側に居る北村か、下の僕が最も危険であるということだ。

「……あ」
「どうしたでござるか、神威殿」
「……お守りが気に入らなかった、かもです」
「ふぉかこぽぉ……拙者のメルたんシークレットバージョンが気に入らなかったというわけでござるか」
「まったく、わがままですわねぇ」

 おい、一番、後ろだから全部聞こえてるんだからな。別にお守りが気に入らなかったわけじゃない。いや、気に入ったか、気に入ってないかでいえば、気にいってないのだが、そもそも銃弾を守るという名目のくせにプラスチックってどういうことだ。

「……つまり、気に入るお守り」
「なるほど、流石は学年一の秀才でござるな。ふぉかこぽぉ、気に入るお守りとは一体何でござろうか」
「……難しい、ね?」
「わたくしは、こんなものくらいしかありませんわ」
「何で、ヴァイスシュヴァ○ツのデッキがあるでござるか……」
「朝のホームルームでデッキを組みなおすところでしたの。一応、サイン入りなら数枚、入れてますわ」
「拙者、サインはファイル派でござるからなぁ」
「……私もファイルです」

 誰のサインだよ。知らない相手のサインなど僕は要らないぞ。後、キーホルダーで駄目なんだからカードでも駄目だと早く気づけ。後、何やら大人気だな、そのカードゲーム。

「……残念、ですが」
「どうかしましたの?」
「……そらくんは、サブカル疎いです」
「ほんと、我侭ですわね」
「ふむぅ、だとすると、一体、何を持たせればいいのやら。皆目見当もつかないでござるよ」
「……あ」
「どうしましたの?」
「……好きなものをあげればよろしいかと」
「何とも、その手がござったか!」

 その手は無い。そもそも、死亡フラグとかなんとかフラグとか、そんな迷信あるわけねぇだろ……あるわけないよな……? いや、詳しく知らないからだんだんと不安になってきた。あと、もはやそれはお守りじゃない。

「……えっと」
「ふむぅ、何でござろう……」
「どうせ、あの男のことですから、破廉恥なものに決まっていますわ」

 おい、紫香楽。ちょっと裏、来い。じゃなくて、どうして、僕は破廉恥だと思われているのだろうか、そもそもそんな素振り見せたことないだろ……お前には。

「……パンツですか」
「なんと!? あの冷静クール委員長である空洞殿がもしや、パンツが好きだというのでござるか!? 納得でござる」

 今、僕は小堂に完全に裏切られた。何が、納得だ! 僕が納得してないよ、そもそもパンツなんて好きじゃねぇし、いや、好きか嫌いかで言えば好きだけど、パンツをお守りにするような人間では断じて無い。

「……よいしょ」
「おい、待て、神威」

 流石に不穏当な言葉が聞こえかけたので神威を止める。

「何をしようとしている……?」

 恐らく、今世紀最大の困惑顔であろう。それほどまでに僕は今の空気に困惑を覚えていた。異世界ってこんなに怖いところだったんだと、改めて思った。未だに異世界というものにピンときていないが、あまりにも怖すぎて早く帰りたい。

「……そらくんのお守り、です、脱ぎ、ます」
「やめろ! 馬鹿たれが!」

 チョップで止める。すると「……はぅ」と小さく呻いた後に頭頂部をさすりながら「えへへ……」と何故か嬉しそうにはにかんだ。ドMとか怖い。

「神威殿のパンツでは不満と申すのでござるか……」
「ま、まさか、わたくしのですの!? い、嫌ですわよ」
「はいはーい! 俺、神威ちゃんのパンツが欲しい!」

 小堂が驚き、紫香楽が僕を睨みつけ、北村が挙手していた。おい、先頭の奴らまでバッチリ聞こえているじゃねぇか。

「……残念ですが、駄目、です」
「な、なんでー」
「それはそうでござるよ。北村殿、死亡フラグを回避する為でござるから。遊びではござらんよ」
「あー、死亡フラグねー。聞いたことあるわー。あれだろ、うっし! 俺、帰ったら神威ちゃんと結婚するんだ」
「……残念ですが、結婚、しませんので、無効、です」
「マジか……」
「もうっ、北村ちゃん。欲しいのなら、あたしのをあげるわぁん」
「う、うわぁぁぁ、要るかよぉぉぉっ」

 騒がしくなってきたな……まぁ、警戒しぱなっしだったから、ここいらで少し休憩するか。

「剱山、五つ目が見えてきた、あそこで少し休憩しよう」
「相、わかった」

 そして、それぞれが腰を下ろす。最初に北村が壁によりかかり座り込む。

「ふぃぃぃ、疲れた……結局、どのくらい歩いたんだ」
「軽く三キロくらいは歩いているな」
「三キロ……!? マラソンかよ……」

 確かに走って数十分。それも、体力をかなり使っての疾走で一周なので距離はそれなりにある。恐らく四分の一、程度だろう。全長十二キロの円形の建物なんてどんな建造物だ、気が触れているな。いや、地下なのだろうか、まぁ、それもわからない。

「それにしても、この扉は十字……か。病院だろうか」
「空洞殿、これは十字ではござらんよ、よく見てみるでござる、少しばかり一の字が上にござろう? どちらかと言えば短剣符に近いでござる。確実とは言い難いでござるが、恐らく教会でござろう」
「教会っ!」

 何故か、教会と聞いて紫香楽が喜ぶ。どういうことだ?

「……紫香楽殿」
「な、何かしら?」
「教会といえど、小説ではそういう展開が多くないのはご存知であろう?」
「え、えぇ、わ、わかっていますわよ。も、もちろん」

 小堂が釘をさすように呟いた。よくわからないが、ろくなことではなさそうである。聞かないほうがよいだろう。というか、聞きたくもない。十中八九、ろくでもなさそうだ。

「ふぅ、それにしてもやっぱり、とんでもなく広いな……」
「最早、町でござろう……いや、町なのでござろうな」
「どういう意味だ?」
「一つ、推論を述べるでござる。突拍子もなければ、荒唐無稽、とても信じられぬ話になるでござるが」
「こうとうむけー?」
「おい、北村。わからないなら、後で教えてやるから黙ってなさい」
「はいよー」
「一つ、推論を立てたでござる。まず、あ」

 指をピッと立てて、小堂は真面目な顔をした後に「し、しまったでござるぅぅ!」と何故か後悔していた。え、何か間違ったのだろうか。

「ど、どうしたんだよ」
「真実はいつも一つってかっこつけるのを忘れていたでござる! これは拙者、切腹ものでござるよ!」
「……いいから、さっさと進めろ」

 何の台詞か分からないけど、自信の無い推論に関してその台詞は間違いじゃねぇのか? いや、わからんけど……

「恐らく、ここは町であるということ。二つ目、呼ばれた理由は「勇者様方」ということ。三つ目、表れた化け物のこと。この三つから鑑みるに、拙者らはその化け物に対応するために呼ばれたと一つ、推測を立てておくでござる。無論、全然、情報もなければ、あの御姫様らしき人物が消えた扉は開かぬようでござる」
「……けど、待ってくれ」
「どうしたでござるか?」
「そもそも、僕達は役割というものを果たすとして、それはどんな役割だ?」

 そう、そこが問題だ。思い出せ、あのお姫さまが何て言ったのかを。

「簡単ですわ、魔王を倒すことですわ」
「王道でござるなぁ……けど、どうでござろうか。拙者は何だか、そんな話ではない気がするのでござるが……」
「……何で、魔王ってのを倒すことになるんだよ」
「簡単ですわ! 魔王の侵略で人類が危機に陥っているのですわ。そして、追い詰められた人類は勇者を召還。そして、その中で無能な少女はイジメを受けて、裏切られ、それで命の危機に陥るのですわ……おっと、危ないですわ……」

 慌てて、何かを言いよどむ。途中から、もうめんどくなったので話半分しか聞いていない。 紫香楽の妄想話についていく必要なんてない。それにしても、別に役割か。

 役割。与えられた役。勇者。そもそも、何故、呼び出したのか。少なくとも『お姫様』は困っていたのだろうか。答えは『否』である。少なくとも、あの笑顔は、あの微笑は、他人を見下している目だ。いや、そんな生ぬるい表現ではない。まるでガキが壊れた玩具の代わりに新しい玩具を買ってもらった、そんな例えが『一番しっくり』くる。

「でも、まぁ。創作物の中には召還して奴隷にするというパターンもござるからなぁ、それに比べたらマシ、とまでは言わないまでも最悪とはいえないでござる」
「……」

 いや、僕はまだ、その最悪を考えている。奴隷で、戦わされる。確かに最悪なのかもしれない。けれども、最悪なのは戻れないこと、戻る術がないこと。そして、これが演劇のようにショーや遊戯を観戦して楽しむための舞台ではないのか、ということ。

『舞台』

 そう考えた、瞬間、嫌な予感で背中に汗が溢れる。まるで、思いつきでしかないその言葉が真実のようにすら思える。そうだったのならば、僕達は与えられるだけになってしまう、生殺与奪を完全に奪われてしまう。それは奴隷と同じである。

 けれども、戦うための奴隷だったら、まだしも。もし、これが舞台であったのならば、それだけでは収まりがつかない。それこそ、人は悲劇を愛するように、滑稽な喜劇を愉しむように。醜い争いを期待されれば、僕達は為す術がないのだ。

 いや、あくまで推論だ。それこそ、小堂なんかよりもよっぽど荒唐無稽であり得ない話だ。紫香楽の妄想と大して差のないものだ。そう、それを裏付けるものなんて、何も――

『なぁ、ミヨ姉よぉ、何で、こんなに部屋が増えてるんだよ……』
『いや、なんか増えたのよ』
『部屋って増えるものなのかよ……』

――存在した。僕達が監視されているということを。僕達を監視しているということを。つまりは僕達の人数を的確に把握している何かがここには存在している。それが、ショーの為なのか、違うのか、まではわからない。けれども、少なくとも『監視』という面において、強力な証拠の一つではないだろうか。

「……そらくん?」

 神威が僕を覗き込んでくる。言うべきか……いや、それは不味い。もし、監視者が居たとして、ショーをぐちゃぐちゃにするような真似は決してしてはならない。機嫌を損ねてはならない。それこそ、まさに、命を握られているのだから。何せ、檜山を襲わせる。そんなことに躊躇いすら覚えないような笑えないお話だ。だったら、絶対に迂闊な行動はできない。

「何でもない……」

 けれども、なんて迂闊な。なんと迂闊な。そうとすら思える。何故ならば、こんなの、直ぐにバレるに決まっている。当たり前だ、少し考えれば誰だってたどり着く当然の結論だ。

「そうでござるか? まぁ、そこまで深く考えなくても、拙者の与太話で済む可能性の方が圧倒的に高いでござるからな、気にしないでほしいでござる」
「あ、あぁ……」
「委員長」

 すると剱山が真面目な顔で僕を見ていた。

「ど、どうかしたか?」
「私はふんどしなのだが、お守りはそれでも構わないか?」
「その話はとっくに終わってる! あと、剱山。一般的な女子はふんどしなんぞ履かない。お前はどこを目指しているんだ!」
「ふっ、冗談だ。あまり、暗い顔をしてくれるな。男前が台無しだぞ?」

 気遣われたのか。全く、そうだな。別に僕の考えが当たっている可能性なんて低い。それこそ、現状、幾らでも可能性はあるのだ、その中の一つの真実を抜き取れるほど、僕は運を持っていない。ただし、嫌なことに、僕は悪い予感に関してはかなりの的中率を誇っている。

「それはそうと、私はさらしなのだが、胸の形が潰れると言われた。それは本当なのか」
「僕が知るかっ!」
「ふっ、それも冗談だ。きちんと、ブラをつけている。ピンクのふりふりだ」
「聞いてねぇっ!」
「うーん、剱山ちゃんはスタイルいいから、一度見てみたいなぁ」
「北村……不埒なことを言うと、伸すぞ」
「なんか、俺だけ扱い酷くねぇっ!?」
「北村ちゃん、あたしのでいいなら、ブラをあげるわぁん」
「何で、てめーがブラをつけてんだよっ! お、おい、俺に近づくな、擦り寄るなぁぁぁぁっ」

 まったく、騒がしい奴らだ。これじゃあ、僕が不安になっているのが馬鹿みたいだ。けれども、この騒がしさこそが我がクラスの特徴なのだから、文句を言っても仕方がない。



~~~~~~~~~~回想~~~~~~~~~~~

『おい、空洞』
『後藤、どうかしたか』
『何か、武器、必要なんだろ?』
『……あぁ。まぁ、いざというときのは欲しい、な』
『待ってろ』

 数分後。

『……相変わらず器用だな』
『図画工作から技術まではオール満点だからな』

 受け取ったのは細長い、木刀というよりも、鋭利さを追求した木の杭である。学ランの後ろ、ズボンに入れて隠しておけばいいだろう。

『全員分はいらねぇのか?』
『あぁ、武器なんて持ってたら、逃げずに戦おうとする奴もいるだろうからな。僕は万が一の為にもっておくよ』
『……生きて、帰ってこいよ』
『まるで死ぬみたいなこと言うなよ。怖いなぁ……僕はちょっと食べ物探しに行くだけだ。無茶なんてしない。方針は逃げるなんだから。ヤンキー見てぶるっちまうような僕だぜ? 化け物なんか相手にするかよ』

 そう。僕は臆病で、弱くて、どうしようもない人間でしかない。さっきの話し合いで述べた通り、一番に逃げ出すだろう、なりふり構わず逃げ出すだろう。けれども、万が一の時のために武器を持つ矛盾。いや、矛盾ではない。臆病だから、武器を持つのだ。

『というか、これ、どうやって作ったんだ?』
『ん? 十徳ナイフがあるから、それでベッドの足を削っただけだ。さしずめ、俺特製の木の槍ってところか』
『え……槍かよ、これ。杭だと思った……』
『まぁ、槍にしては短ぇな。よし、木の杭だ。攻撃力が+二される』
『それがどれほど高いのかが、わかんねぇけど』
『高くねぇよ、所詮、、素人だ。まぁ、こんなんでも人間相手に目とかに刺せば必ず潰せるぜ』
『あぁ、ありがとな』
『ナイフも持っていくか?』
『いや、それはいいや。お前が持っていた方がいざという時、便利だろ。それに、それ。妹さんからのプレゼントだろ』
『な、なんで知ってやがる……』
『てめぇが僕に自慢したんじゃないかよ……『にぃに、これでたくさん頑張ってね』って誕生日にプレゼントされたんだろ?』
『あぁ。他にもドライバーセットとか貰ってるぞ』
『実に兄遣いの上手い妹達だ……この前、めっちゃ大きな本棚、作ってたよな』
『あぁ。けど『兄様、あと二段追加してください』って言われちまった、情けねぇ』
『それは情けないな、確かに』

 主に妹に荷馬車の如く使われているという事実が。いや、こいつにとってはご褒美だな。なにせ、妹に対する奉仕精神が極まっているのだから。

『まったく、修学旅行前に最悪だな』
『同感だ。さっさと終わらせて、僕は修学旅行を楽しむ』
『まぁ、ちょっとした修学旅行と思えば……』
『僕はこんな修学旅行はいやだよ』
『奇遇だな、俺もだ』

~~~~~~~~回想終了~~~~~~~~

 ズボンに木刀を隠すかの如く、細長い五十センチ程度の木の杭。それが当たっているせいか歩く時の違和感が凄くある。

「剱山」
「どうした、委員長?」
「いや、いざという時は全員を連れて、逃げてくれ、と」
「殿はしないのだろう?」
「百パーごめんだけど、足の速さなら、剱山が一番だからな、先導しながら皆を頼む。この面子じゃ、僕は遅い方だ」
「……」

 流石に小堂と紫香楽には勝っているが、神威や北村、野母には負けている。それでも小堂と紫香楽は普通の女子に比べれば十分に早い。

「わかった。危険など――っ!」

 急に剱山が飛びずさる。すると、ブゥンと何かが通り過ぎた。そして、暗闇から赤色の化け物が現れた――

「なっ……なんだ、こいつ!?」
「ま、まるで気づかなかったわよん!?」

 そう、それが一番、あり得ない事実。僕達は壁を背に、話していたのに目前に急に現れた。それはまるで、あたかも最初からいたかもように。

「……よく避けた、な。剱山」
「何、容易い……と言いたいところだが、唯の反射だ、一瞬だけあの得物が見えたからよかったものの、下手をすれば檜山の二の舞となっていたかもしれない」

 そう得物。本物の得物。それは錆付いた剣である。とても、斬れそうにない、けれども錆付いても尚、人を殺せるとばかりに存在を主張している両刃の片手剣を化け物は握っていたのだ。

「全員ッ、逃げろっ!」

 僕の合図に剱山が一番に動く。下手に戦ってみようという欲がない。恐らく、僕よりも本能的に化け物のヤバさに気づいているのだろう。

「し、紫香楽!?」

 何故か、ペタンと腰を抜かしている紫香楽アリア。何をしているんだ、てめぇは。今、遊んでいる場合じゃねぇだろ、それとも、何か。お前はまさか、小説の主人公の如く、まるで力があるとでも勘違いしているんのか?

「あ、あはは、あははは……」

 笑っていた。力なく、紫香楽アリアは内股に座りながら、立つこともなく笑っていた。けれども、それは彼女らしさの一切が無い。いつも張っている威勢の一つも見えやしない。

「委員長、逃げてくださいまし。腰、抜けてしまいましたわ」
「……ッ!?」

 あぁ、くそっ。僕は何を勘違いしていたんだが。そうじゃないだろう、空洞 空。身体能力? そういうものも確かに必要だ。けれども、最も必要なのは『心』の強さでだろうがっ。紫香楽 アリアは三学期にストレスで胃潰瘍になる程度にはメンタルは弱い。

 つまり、これは。僕のミスだ。連れて行くのならば、別の奴が適任である。何故、僕はその判断を出来なかった。あぁ、くそっ。言い出したのは紫香楽だ、僕は悪くない。そもそも、最初から連れて行きたくなどなかったのだ。

 遊び半分だし、能天気だし、お気楽だし。何が勇者だ、何が無能だ、何が覚醒だ、何が異世界召還だ。そんなものはどうでもいい、そんなことはどうでも、いいのだ。そんな意識など本当にどうでもいい。

 僕達は、今、確実に、見も知らぬ場所へ、誘拐されたことを、正しく認識するべきだ。何故、僕は注意できなかったのか。言えばよかっただろう、呆れるんじゃなくて、面倒くさがるんじゃなくて、もっと、ちゃんと。

 反省はした。ならば逃げろ。問題はない。紫香楽アリアという犠牲をもって、僕達は生き残るべきだ。一人に対し六人が救われるなら万歳だ。それならば、紫香楽も納得してくれるだろう。自己犠牲とか紫香楽が自分に酔う要素など幾らでもある。

「ぎひひ」

 赤の化け物が僕と紫香楽を交互に見てくる、背後から誰かが何かを叫ぶ声。あぁ、あの化け物も見逃してくれるのか、さっさと行けとばかりに僕を無視している。紫香楽アリアばかりを見て、僕を一切見ていない。あぁ、なんて、なんて――

「面倒くさいっ!」

 僕は突撃する。踏み出す。馬鹿だ。踏み込む、救いようがない。踏み出す、自己犠牲? 踏み出す。そんな高尚なものではない。踏み出す。責任? 踏み出す。取るようなほど人間は出来ていない。なら、何故、僕の足は踏み出したのだろうか。紫香楽アリアが好きだから? 否。他の女子にかっこいいところを見せたいから? 否。 カードキーとやらを持っているかもしれないから? 否。男の意地? 否。

 ならば、何故、踏み出す。何故、踏み込む。

 簡単だ。僕だからだ。僕が空洞 空で、あいつらを助けなきゃいけない。助けなければならない、助ける必要がある、絶対に助ける。理由なんてわからない、助けなきゃいけない。助けたいわけでもないのに。人間なんて大嫌いなのに。他人なんて望んでもいないのに。友情とか恋愛とか本当にめんどくさいのに。

 それでも、僕が空洞 空だから、逃げ出すことを許せない。

「う、うあああああああああああああああああああああっ」

 ぎょろりと向いた目に心が凍てつくが、それでも踏み込むことを辞めずに、木の杭を油断しきって、女にしか興味がない下品で、くそったれな化け物の瞳に向かって突き刺す。

「ぐぎゃああああああああああああああああああっ!」

 浅い、と思った時には既にブゥン、と剣を真横に凪ぐのが見えた。その剣閃が見えても、尚、避けきることは叶わない。その瞬間、圧倒的なまでの暴力が僕の脇腹を打つ。

「ガァッ!?」

 何が起きたのか、わからない。いや、簡単だ。あんな錆びて切れ味の悪い剣で力任せにぶん殴られた結果、僕は三メートルもぶっ飛ばされたのだ。まるで自動車に撥ねられた、それほどまでに強力な一撃をもらってしまった。感覚で言えば、確実に脇腹は折れている。痛みでのたうち回りたい衝動をグッと堪えて、僕は声を大にして、叫ぶ。

「野母と北村で紫香楽を運べ! こいつは僕が注意をひきつける」
「なっ!? 委員長、それは無茶だろう!」
「剱山! いいから、行けっ! お前はお前の役割を果たせっ!」
「しかしっ」
「大丈夫だ、僕は男だ。何も犯されるわけじゃない」

 僕は気丈に笑う。問題ない。何も問題ないのだ、こいつが野母みたいな趣味がなければ問題ない。びちゃびちゃとかかった緑の粘液が口に入ったので、それを唾と共に吐き出す。

「いいから、全員、早くやれっ! 神威」
「……」
「もしも、僕が戻らなかったら、後を頼む」
「……死ぬ、気ですか」
「死なない。絶対に死なない。何もまだ、しちゃいない。何もまだ、見ちゃいない。僕はまだどこにも行ってないんだ。こんな所で死んだりできるか。僕はようやく、初めての修学旅行にいけるんだぞ、こんな所で死んでたまるか」
「……そらくん」

 あの化け物が目を押さえて、片手で剣を杖代わりにしてこちらを見ている。僕はそれを睨み返し、いつ飛び掛ってきても無様にでも避けられるように神経を尖らせる。

「……また、仲良く」
「あぁ、生きてもどったらな。昔のことは水に流そう、お互いに。なんて、偉そうに言っても神威が許してくれるかわかんねーけど」
「……わたしは、最初から」
「行けっ! 全員、早くっ! ここは俺に任せて、先に行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」







Episode 剱山 剣花

 私と空洞 空という少年が始めて会話したのは冬の雨がふり続ける満月の夜だった。クラスメイト、よく知らない少年。同じ年ではあるが、私は彼のことを少年だと思っている。少なくとも、顔だけ見れば中学生でも通じそうなほど幼い。高校生ともなれば、多少なりとも顔から幼さが抜けきるものだろうに、彼が童顔だから、私はどこか彼を軟弱な人間に見えた。

 六道高等専修学校。学区内では有名な問題校である。生徒の特徴は偏差値だけの問題ではなく、素行の悪さ、質の悪さ、態度の悪さなどなど、枚挙きりがないとはこのことで、逆に良いところを聞けば暫く考え込んで「ない……」と答える。

 そんな学校に通っている生徒は何かしらの問題を抱えていた生徒で、問題を抱えたまま生きている生徒だ。やれ、ヤンキーだの、やれ、元ひきこもりだの。そういう私はどのような問題を抱えていたか。

 簡単だ。私の顔の右半分が焼け爛れている。それが私の抱えている問題だろう。この醜い容姿を持って、まともな学校に行けば、馴染めるわけもない。けれども、六道という学校で馴染めているのか、と聞かれれば私は首を横にふるだろう。入学して早三ヶ月、私に声をかけるものなどいない。事務的な会話ですらも短く済ませられる。

 つまりは六道という学校であっても、醜いものを受け入れてはくれないのだ。そうすると、私に生きている意味などあるのか、と。常々、思う。薬を塗り、包帯で隠していた時期もあるが、それだと「男」が寄ってくることもあった。

 まだ女としての何かが残っていた私は男に恋心らしきものを抱き、包帯を取ったならば最後。誰も、彼もが私を否定する。なればこそ、初めから包帯など必要ない。この醜く無様な顔を晒し生きていく。それが私の決めた覚悟だろう。

 昔、誰かが包帯で顔を隠して学校へ来い、と言った。確かに道理だ。他人にお見せするのも堪えない顔だと自覚はある。それでも、それでも、この私を受け入れてくれる何かに出会える可能性を信じて、生きていくことすらも許されないのだろうか。

 この傷は私がつけたわけではない。私は被害者だ、けれども現実は……そんなものは一切、関係がないのだ。被害者であろうが、自分のせいでなかろうが。醜いのは私なのだから。

 剱山古流剣術。

 顔の火傷を話す時に、私は家の話ときっても切り離せない。何故なら、この火傷は兄がつけた傷なのだから。私が、兄に、つけられた傷なのだ。

  剱山古流剣術は対人を旨とした格闘技である。剣術というのに、剣術では非ず。剣術では非ざるのに剣術である。その本質は打、投、撃であり、体術を初め、武器がない状態での護衛術……として、道場の門戸が開いている。故に剣術ではあらず。

 しかしながら、それは基礎であり、本質は殺人剣術にある。本家と分家にのみ伝えられる剱山剣術は真剣を使い、鍛錬を行う。無論、現代日本でそんな光景はご法度である為に、本当に極々、本当に。年末年始の時期にしかその光景は見られない。基本的には木刀を使っての稽古となる。祖父様曰く『剱山も温くなったものよのぉ……』と嘆いておられた。

 さておき。そんな特殊環境に幼少の頃から過ごしていた私は剱山家次女として生まれた。兄は一人、姉も一人。ただし、姉は十五歳も離れていて、わずか十八歳で嫁いでいったので実の姉というよりも親戚のお姉さんのようにしか見えない。

 私は専ら十歳上の兄について回っていた。兄についてまわっては怒られ、兄についてまわっては疎まれ。一方的ではあるものの兄を慕い、いつしか兄が振るう剣を見様見真似で真似し始めたのだ。五歳の少女が木刀を振るう様は微笑ましく見守られていた。

 けれども、見守られてくれたのは僅か二年という短い月日だった。見稽古で、手ほどきを受けていないにも関わらず、私は兄よりも腕が上がってしまった。そして、それを祖父様が認められ、私は本格的に跡取りとして、育てられることになる。

 それを許せなかったのは兄だ。嫌われていることを知っていた、疎まれていることも知っていたが、それでも憎まれるとは思ってもいなかった。

 跡取りの交代の旨が告げられたある日の夜。私はあまりの激痛に目が覚めた。私の叫びを聞きつけて、すぐさま家の手伝いが飛んできたが……既に私は顔の右半分の価値を失っていた。私は兄を恨まずにはいられなかった。

 何故、右半分だけだったのか。何故、すべてを醜く、化け物にしてくれなかったのか。そうすれば期待など持たずに、絶望して、死ねたのに。そう恨まずには要られない。

 そうして、私は醜さだけを会得した。代わりに剣を握ると呼吸が乱れ、視界が揺れ、まともに立ってはいられなくなった。得たものは望んでもおらず、失ったものも望んではいなかった。ただ、兄がどうしてそんなことをしたのか。幼い私には理解できずに唯、唯苦しんでいた。

 それから八年と少し。高校に入学し十月ほど経った、満月ものぼりはじめていた夕刻。兄が現れた。私の目の前に。その顔を見て、私は逃げ出した。雨が降っていた。傘もささずに、ただ逃げ出した。剣術をやめても、身体は鍛えていたので瞬時に動くことが出来た。軟禁されていたと聞いていた兄が追いつけないほどにスムーズに身体は動いたのだった。

 けれども、所詮は子供。行ける場所など限られていて、逃げるだけで計画なんてなくて。行き当たりでばったりなとても、幼稚で浅い考え。公園で穴が幾つかあいたドーム上の遊具の中に隠れて、眠ってしまった。

『止まない……か』

 起きてみれば、夜の帳などすっかり落ち、十二時は回っていないとしても、結構な夜遅くに目が醒めた。そういえば、止まない雨はない、という言葉を聞いたことがある。けれども、それでも、今、止んでほしいと思うのに、気長に待とうだというその言葉が酷く醜く感じてしまう。止まない雨はない。けど、今、止んでほしいのだ。

『……お腹すいた』

 ぎゅるるるると実に女の子らしくない腹の虫が盛大に鳴り響き、ふらふらと立ち上がる。そういえば今日は昼抜いたのだった、朝飯から数えれば半日以上空いている。どこを目指すわけでもない、家に帰るわけでもない、それでも雨の中、歩いて、私は彷徨うかのように歩き続けた。冬の寒さと雨の飛礫に手はかじかみ、身体は震える。もう、死んでしまおうか……冗談でもなんでもなく、そう思う。

『……剱山?』

 その時、私は声をかけられた。顔を見てみれば覚えがなくもない。唯、非常に目立っていない生徒だったので名前が合っているかどうかは疑わしいが。

『……確か、空洞だったか?』

 訊ねた瞬間、盛大に腹の虫がなった。私は頬に朱がさしたことを鏡もないのに自覚してしまう。

『すげぇ、腹の音だな』
『わ、悪かったな! 文句でもあるのか!』
『いや、無いけど……んー』
『何だ』
『いや、寒くねぇのかなって思って。いや、でも人によってはそれがいいという特殊な性癖がある可能性も捨てきれないわけで、僕如きが尋ねてもいいのか考えた結果が『んー』という反応なわけです』
『寒い……』
『だろうな。家出か?』

 びくりと肩が震えてしまう。何故、わかったとばかりに。

『いや、不思議そうな顔をするなよ。似たような奴を十数人ばかり、見てきたからなんとなく心当たりがあるわけだ。というか、うちのクラス、家出しすぎだろ……反抗期にも程がある』
『……だったら、どうというのだ』
『今夜、泊まる場所あるのか』
『ない』

 悲しいことに友達も知り合いも居ないのだ。けれども兄に会いたくない。そんな葛藤の狭間で揺れる私に空洞は。

『んじゃ、ついてこい』
『は……?』

 そういって、学生鞄から折りたたみの傘を取り出して、プラスチックの傘を私に渡してきた。これは、泊めてやるということだろうか。貞操観念でやや抵抗を覚えるが、すぐさま自嘲する。すでに女を捨てた身だ。その覚悟がこの包帯を外した醜い姿だろう。男など必要ない。そう威嚇するために、私は素顔を晒しているのだから。

 歩いて、十数分。私達は廃墟についた。いや、廃墟のようなアパートについた。何せ、電灯の一つもない。いや、あった。奥の方に申し訳程度、チカチカと光っている。醜さという点で今、もし通行人が私とこの廃墟を見たら腰を抜かすだろう。

『……おい、廃墟とか思っただろ』
『お、思ってない』
『いいよ、別に……』

 大きく溜息を吐きながら、ポケットから鍵を取り出している。どうやら、このアパートが空洞の家らしい。短く『入れ』と促されて、入ってみれば室内は酷く整っていた。この場合の酷くとはあまりにも殺風景すぎて、整えるもなにも最低限の日用品しか存在していない。ベッドもなければテレビもない。机もない代わりにみかん箱がある。みかん箱……都市伝説ではなかったのか。よもや、まさか、みかん箱を机の代わりにするような男が居るとは。

『まぁ、シャワーはついているから入って来い。その間、つまむものくらいは作ってやる』
『……いいのか?』

 どうやらシャワートイレは完備しているようだ。中に入れば芳香剤の臭いが鼻につく。しまった、着替えはどうしようと思っていると。ノックが響き『着替えとタオル置いとくからな』と実に至れり尽くせりだ。

 温かいシャワーを浴びて、自分の身体が芯まで冷えていたことに気づく。ゆっくりと温まりながら、考える。何故、空洞は私なんかを助けてくれたのだろうか。少なくとも容姿を見れば助けようと思えるような女ではないことを誰よりも自覚している。ならば、助けた恩に金を出せ、だろうか。それも腹の音を聞いた時点で金を持っていないことを察してもおかしくない。ならば、やはり身体だろうか。顔には自身はないが、スタイルだけは整っている。とても宝の持ち腐れではあるが。もし、顔とか関係なくて、身体だけでいい、という御仁ならば私は身体を求められるのだろうか。

『う、うぅむ……』

 いや、そんな貞操観念の軽い女だと勘違いしてほしくない。むしろ、貞操観念は強いほうだと自認している。けれども、命の恩人といっても過言ではない空洞である。もし、あの寒空の下、さ迷い続けたら肺炎になって悪ければ死んでいたかもしれない。けれども、それとこれとは別問題だ。

『い、一応、磨いておこう……』

 置いてあった高級そうなボディーソープを使い、念入りに身体を磨きあげる。そして、髪の毛もしっかりと磨き上げ、すのこを歩き、扉を少し開いてタオルと着替えを掴む。タオルで身体を拭き、着替えを見る。ジャージだった。いや、待て。いいのか剱山 剣花。このような色気の無い恰好で。いや、待て。逆にジャージというギャップこそ、求められているのではないか? ジャージがいいという男も居るかもしれない。高校生でジャージがいいと言えるのは些かマニアックであると思うが、それも人の性癖である、気にする必要はあるまい。

『……ん、あがったのか』
『あ、あぁ……』

 カチューシャで顔をあげてフライパンを振るっている空洞。学ランを脱いで、カッターの上から紺色のエプロンを着用している。いや、悪くないな……うむ、なんというか男が料理をしている姿というものはグッとくるものがある。

『……もう少しで出来るから、待ってろ』
『相、わかった……と言いたいところだが、どこで食べるのだろうか?』
『あぁ……みかん箱でいいか?』
『それを私が使ったら、空洞はどうするんだ?』
『僕は膝で結構だ。慣れてるし』

 そう言って、手早く鍋から中身を器に移している。どうやら、うどんのようだ。肉を別にいためてあるので、あれが付け合せだろう。つまりは肉うどんということか。なるほど、と感心してしまう。先ほどから鼻腔をくすぐる甘辛いようないい匂いがただよってくるのだ。

 そして、おぼんに二つの器を伸せて、みかん箱の上に差し出される。箸は割り箸を手渡されて、手を合わせる。

『いただきます』
『はいどーぞー』

 そう言って、空洞も自分の分を食べ始めた。彼は自分の膝の上におぼんを乗せて、その上にのった器からうどんをすすり始めた。猫背になって、姿勢が悪い。みかん箱を使わせてもらっている私のせいでもあるが……

『なぁ、空洞。どうして、助けてくれたんだ……?』
『ん? あぁ、そんなつもりはない。唯、あそこで見捨てると僕が後で罪悪感やらシコリが残るだろ? それが嫌だっただけだ。僕、捨ててある空き缶とか見過ごせない性質なんだよな。けど、正義が最高って信者でもないし、まぁ、なんというか結局のところ、気紛れだ。優しさなんてものじゃないし、生憎、持ち合わせていないんで』

 ずずずっと汁を飲み干す空洞。けれども、彼のいう事が理解できなかった。それが『優しさ』でないとするならば『優しさ』とは一体何なのか。けれども、本人が本気でそう思っているようで私は突っ込むことをしなかった。

『実に美味しかった。ごちそうさま』
『世辞はいいよ』

 そういって、彼は器を回収して、さっさと洗い物をしている。手馴れた手つきを見て、何だかほのぼのと……じゃない! いや、食後に温かいお茶を湯のみで飲んでいる私は理解しているのだろうか、この後の展開を。幾ら、何でも展開が早すぎるだろう、空洞 空。いいのか、私で? もっと慎重に考えるべきだ。いやいや、命を救って貰った恩がある以上、私は断れないのだが。まぁ、ここまで来たんだ、覚悟を決めろ、剱山 剣花。

『んじゃ、布団敷いとくから、適当に寝てくれ。僕は風呂、入ってくる』
『……』

 情緒も何もない。いや、いいのだが、な。元々、そういう愛のささやきというのは期待していない。オイルヒーターから出るファンの音と、シャワーの水の音が室内に響き渡る。部屋を見渡してみれば、実に殺風景だ。娯楽の一つも見当たらない。もし、ここに人が住んでいないと言われても納得ができる。逆に人が住んでいると聞かされたら、とまどいながらも日用品があることから納得してしまう。そんな部屋だ。

 水の音が止む。そして、出てきた空洞は部屋着でラフな恰好。ああして見ると幼い顔立ちの割にはしっかりとした筋肉がついている。

『さて、電気を消すぞ? いいか?』
『あ、あぁ……覚悟は、出来ているっ……』
『覚悟……?』

 怪訝そうな空洞が電気を消した。そして、ゴソゴソゴソと動く音。そして、音が止まる。音が止まって、一分、二分。そういやぁ、この布団は普段、男子が使っているものだ。いや、全然、興味などない。私は女を捨てた身だ。

 それにしても、空洞はいつまで布団の外に居るのだろうか。確かにこれだけ暗ければ顔など見えたもんじゃないし、な。カーテンは閉じられて、満月の光さえ心もとない。

 待つ……待つ。待つついでに羊を数えてみよう。

 羊が二万匹を超えたあたりで朝が来た。そして、そっと隣を見る、空洞が寝ていた。普通に、何も知らないで、こちらの気もしらないで。寝袋の中に空洞 空は寝顔を晒して、ばっちり睡眠をとっていた。

 寒空の下、何時間も居たこと。雨にうたれたこと。睡眠不足。この結果。

 私は風邪を引いた。ごめんなさい、昨日、お風呂場で言い訳に使いましたが、風邪など引くなんてこれぽっちも思っていなかった。なぜなら、生まれてこの方、怪我はあっても、病気なぞ片手で数える程度しか経験がない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『三十七度九分、風邪だな……』
『……このまま、私は、死ぬのか?』

 沈痛な面持ちで僕の布団に寝ているのは剱山 剣花。クラスメイトである。滅多に喋らず、孤高を貫いている女子。顔の半分に火傷を負っていて、動作の一つ一つが自然で綺麗な少女である。

『いや、死なないだろ……』
『……死んでしまうのか』

 先ほどからこの調子である。どれだけ、弱いんだ、こいつ。普通、男よりも女の方が風邪に対する免疫は強いと聞いたことがあるが、そうではないのだろう。微熱如きでここまで深刻になれるなんて、逆に驚く。

『じゃあ、少し出ていくけど……』
『あぁ……』

 それは返事なのか、それとも嘆きなのか。とりあえず、電話線を引いていないので、公衆電話から学校へ電話しなければならない。ポケットのメモ帳を取り出し、一番近い、公衆電話から学校へ連絡を入れる。

『はい、六道私立高等専修学校ですが』
『えっと、商業科一年A組、空洞ですが、菊池先生は既に出勤しているでしょうか?』
『少々、お待ちください』

 事務員の男性の声から保留の音楽へ切り替わり、一分ほどで再び繋がる。

『はい、菊池です。どうかした、空洞くん?』
『げーほげほっ、せ、先生、風邪を引いたので、休みます……』
『嘘っ? 大丈夫?』
『だいじょばないです……えーっほえほっ』
『そ、そう。ちゃんと温かくして寝るのよ? そういえば、空洞くんって一人暮らしだったわよね? 大丈夫なの?』
『えーっほえほ、げほんげほん。親戚が見舞いにきてくれるので大丈夫です』
『そう、それなら安心ね。それじゃあ、お大事に』
『はい』

 通話終了。ついでに言えば、皆勤も終了である。まぁ、休みすぎなければ奨学生取り消しにはならないので大丈夫だろう。そもそも、女の子を泊めて、ずる休みだなんて、詐欺にも程があるが、まぁ、いいだろ。問題ない、問題ない。帰り際、スポーツドリンクを買って、家に戻る。

『……んんぅ』

 布団で寝ている剱山はうなされているようだ。僕はタオルを用意して寝汗を拭き取る。熟睡しているのか、身体に触れても起きる気配がない。無防備だな、こいつ。

 そういえば、昨日。こいつが何故、助けてくれたのか、と聞いてきた。優しさだと思われたら迷惑だ。昨日、述べた以上に、僕は理由がある。何故なら、こいつはきっと、自分を客観視できていなかったかもしれないが、夜道で出会った時の剱山の様子は酷かった。

 それこそ、触れば崩れてしまいそうなほどに脆く見えた。だから、手を差し伸べずにはいられなかった、つかまずにはいられなかった。少なくとも優しさではない。それほどまでに酷い状態の人間を無視できるほど、僕は未だ、人間を辞めていない。だから、感謝なんてしてほしくない。誰だって、当たり前に、あの時の剱山を助ける。そんな選択をしただろう。僕が特別なわけじゃない。

 優しさなんて崇高なものではなく、優しさなんて高尚なものではなく、優しさなんて素晴らしいものでもなく、優しさなんて賞賛されるべき事柄でもなく、優しさなんて僕に最も不釣合いなものではないのだ。

『……暇、だな。昼飯の準備だけでもしておくか』

 僕はうなされている剱山から視線をそらし、エプロンを準備して、キッチンに立った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 目が覚めたのは昼過ぎだった。空洞は窓の外を呆けるように眺めている。気だるさで起き上がるのも億劫ではあるものの朝に比べれば幾分かマシだった。額に手をあてると、タオルが置いてある。

『……学校は?』
『ずる休み』

 きっとズル休みではなく、私の看病をしてくれるためにわざわざ休んでくれたのだと思う。御礼を述べるべきなのか、それともわざわざ本人が言い張っているのだから、無粋に突っ込むのをやめるべきか。

『昼飯、入るか?』
『ん、あ、あぁ……』
『待ってろ』

 言葉少なく、彼はキッチンへと向かった。一DKの彼の部屋はここからでも調理している姿がはっきりと見える。私は料理というものに余り、興味はなく、小中と家庭科の時間は隅っこで大人しくしているのが私の仕事だった。それにしても、彼の動きは機械的だ。鼻歌の一つでも口ずさむことなく、黙々と動いている。少し経てば、いい匂いが漂ってくる。

『一人で食べれるか……?』
『あ、あぁ……』

 のそりと布団から身を起こし、用意されているスプーンで土鍋の中身を掬う。中身は粥のようだ、卵と薬味のネギの配色が綺麗であり、まるで料理本のお手本のような完成度である。

『あちゅい!?』
『……そりゃ、出来立てだからな』

 私からスプーンをひったくり、空洞はスプーンで粥を掬い。息を吹きかけ。

『口を開けろ』

 どういうことだ……どういうことだっ! 私はいつから、ボーナスタイム(困惑)に入ったのだろうか! い、いや嬉しくないことはないが、いやいや、女を捨てた身、別にこのようなことで、はい、ごめんなさい、嘘つきました。いや、でも、しかし、あぁ、でもこうしてみれば、空洞は年下みたいな顔立ちで、いや、軟弱といえば聞こえは悪いが、可愛くみえてくる。それでいて、頼りがいがあるのだから、ギャップというか、なんと言うか、いやいや違うぞ、剱山 剣花。私は出会ってすぐに恋に落ちるような安い女ではない。そもそも――

『おい、どうした、さっさと開けろよ……僕だって手が疲れるんだぞ』
『……相、分かった』

 目を閉じて、顔がプルプルと震えながらも口を開く。旨い。一口食べれば、腹の虫が活動しはじめたのか、また空洞 空に向かって主張を始めた。恥ずかしい。それを何とも思っていないのか、まるで機械作業のように黙々と私の口に運び続ける。

 部屋にテレビも何もないせいか、壁掛け時計の針の音と空洞の息で熱を冷ます音が響く。それだけではなく、自分の心臓の鼓動が痛いくらいに早い気がして、この音が空洞 空に聞こえていないのか心配になる。

『ん、食べ終わったな。待ってろ』

 土鍋を直して、空洞 空は小さな冷蔵庫から水を取り出し、常備しているのであろう風邪薬のパッケージをマジマジと見ている。

『……うぉっ、結構、ギリギリだな。一回も遣ってないのに、もったいない』

 何だか、とても不穏当な発言が聞こえたのだが、気のせいだろう。水とクスリを飲み、私は再び、布団の中で横になる。

『……なぁ、空洞』
『ん? なんだ、剱山。トイレか? ちょっと待ってろ』
『違う……』
『なら、なんだよ』
『気持ち悪くなかったか……?』

 何故、聞いてしまったのだろうか。甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼が余りにも普通だったから、期待してしまったのだろう。だから、私は尋ねずに入られなかった。こんな私でも好きになってくれる可能性があるのか、と信じたくて。

『顔のことか?』
『あぁ』
『んー、まぁ、気持ち悪いと気持ち悪くないで言えば――』


『やっぱり、気持ち悪いと思うよ』

 あぁ、やはり、聞かなければよかった。

『う、うぅぅっ、うぇっ、ぐすっ』
『お、おぉぉぉぉっ!? 何、泣いちゃってんの!?』

 泣くに決まっておろう、馬鹿者。ちょっと好意を抱いた男子に面と向かって気持ち悪いと言われれば普通に泣いてしまう。

『えっ、だって、僕にはその火傷の痕をカッコいいとか思える間違った美意識も可愛いと思える美的感覚も、綺麗だと思える前衛芸術に対する感覚も持ち合わせていないぞ……』
『おぉぉぉぉぉぉっ……』

 ボロクソに言われた。こちらは病人なのに、死ぬかもしれないのに。どうして、こんな酷いことを言うのだろうか。

『おいおい、マジで泣き止めよ……』
『き、ぎぼぢわるいから、みんなわだしをぎらうのがっ……』
『……は?』
『だ、だっで、みんな、みんな……』
『……え、嫌、その皆ってのがよくわかんねーけど、それだけで嫌う理由にならねーだろ』

 乱暴に顔をタオルで拭かれる。

『今、火傷の話かと思ったら、お前の話だったの?』
『い、一緒だろう、私の顔が――醜いからっ、誰も近寄ってなど来ない』
『えぇっ……それは『違う』だろ』
『何が、違うと言うのだ!』
『いや、だって、お前が近づいてくるなって空気を教室で振りまいてるじゃん』
『そ、そんなことは……』

 無い、と言えるだろうか。

『六道って学校は特殊環境なんだぜ? 待ってて、誰かが近づいてくるなんてあり得ないだろ……むしろ、誰にも話しかけないからほっといてくれとばかりに思ってるぞ、皆』
『う、嘘だ……』
『何で、僕が嘘をつく必要があるんだよ……』

 だったら、私の。私の――入学してから今までは何だったというのか。何の意味もない十ヶ月だったというのだろうか。

『……なら、私はどうすればいいのだ』
『知るかよ。僕は何の手伝いもしないし、何の応援もしない。友情や恋愛に価値なんて見つけていないし、友達も要らなければ、恋人なんて必要ない。そんな僕にそれを尋ねるなんて無意味だぞ』
『……友達にはなってくれないのか?』
『何で僕が……友達なら、教室一杯に候補が居るだろ』
『だ、だが、この顔を気持ち悪がって……』

 何故か空洞は私の顔を覗き込む。その瞳がどこまでも透き通っていて、それでいてどこまでも無垢で、何の汚れもないように思えて、醜い火傷の痕を隠したくなる。

『……五十点、だな』
『五十……?』
『元はかなりの美女で満点だとしても、火傷のせいで五十点まいなすだ』
『……酷いな、空洞は』
『酷いだと! お前、いい加減にしろよ! 厭味か、貴様ァッ!』
『な、何故、怒る』
『僕みたいな赤点ギリギリの顔とかと比べたら、マシだろ。むしろ、他にも三十点顔やら十五点顔とかも居るんだぞ! どれだけ恵まれていると思うんだ、一体』
『……だが、この顔で彼氏など出来るわけがないだろう』
『ハァ? 出来ないわけ、ないだろ』
『お、お前は何も知らないんだ! 私が顔の半分を隠して、生活していて、告白されて、この火傷を見せる度に、皆、去っていくんだ!』
『そりゃ、期待値が高すぎるからだろ……あのなぁ』

 大きく溜息を吐いて、空洞は私の方をじっと見る。

『中学生や高校生なんてヤリタイ盛りなんだ、顔と身体がよければあわよくばやりたい。そんな奴らにいきなり、隠していた火傷を見せてみろ、重くて叶わねーよ。ましてや、高校生にいきなり顔を火傷を持ったやつがいて、それを受け止めてほしいなんて、重すぎだろ……徐々に交流を深めていけよ……』
『……』
『それに、触れてほしくないのなら、一生隠し続けていろ。受け入れてほしいなら、相手をちゃんと見極めろ。お前はお前に優しくしてくれる人間しか受け入れられないから、そんなみっともない真似をするんだ』
『……言い過ぎ』
『言いすぎなもんか。いいか、剱山 剣花。お前の動作は綺麗だし、スタイルはいいし、顔の造りは半分はすげぇいいんだ。なら、それに相応しい生き方ぐらいしろよ。まったく、羨ましい……』

 相応しい生き方。

 初めてだった。この顔になってから、醜さを自覚してから。哀れまれることは多々とあった。気持ち悪がられることも多々とあった。それでも一度たりとも『羨ましがられる』ことなんてなかった。一度だって。

『……なぁ、空洞』
『ん、さっきの話は本当か?』
『さっきの話?』
『わ、私が皆に避けられてるのは私が近づくなオーラを出しているから、だと』
『オーラ……? まぁ、そんな雰囲気はあるよな』
『そ、そうか……』
『そうだけど……』

 ならば、私は受け入れて貰えるのだろうか。いや、多分、空洞はこういう考え方を重いと言ったのだろう。目を閉じて、ゆっくりと考える、そして、いつの間にか訪れた睡魔に身を委ねた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『……すまなかった、剣花』

 兄の土下座。それを見た時、私はどういう気持ちだったのか。複雑だった、兄を苦手と思い、十年も会っていなくて、恨みなど積もりに積もっている筈なのに。それでも、何故か恨み言を呟くことなど出来なかった。

『……兄さん』
『剣花、本当にすまなかった。あの時の俺はどうかしていた。本当に理解がし難い、死んで詫びれるものなら、死のう。けれども、まずは剣花、お前に謝りたかった』

 そういって、大の大人がボロボロと情けなく、泣き始めた。私はそれを受け入れた。だって、そうだろう。剱山 剣花。私は自分に誇る、生き方をするのだと、決めたのだから。なればこそ、些細な火傷程度で今更、何を。

 十年。長かった。とても、長く感じた。けれども、そんな長い間の問題が僅か二日で解決できたような気がするのだから、重たい問題ではなかった、そんな気すらしてくる。何て、浅はかなのだ。好いた男の言葉を十全と信じるなど女を捨てたなどと言っていた自分が今更ながら、恥ずかしい。

『死ぬのはやめてください、兄さん。死んで侘びなんて、今の時代、古臭いですよ』
『……だが』
『だが、も何もありません。兄さんが戻ってきたのなら、言いたかったことが一つだけ、あります』
『……恨み言でも何でも言ってくれ』
『お帰りなさい、兄さん』

 袖にされても、疎まれても。私は兄さんが大好きだったことを、兄さんが帰ってくることを幼い私は待ち続けていたのだから。

『ッ……あ、あぁっ、ただいま……』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 昼休み、教室。

『く、空洞、本当に昼飯を誘ってもいいのか?』
『だから、お前はどうして、僕のところに来る……いいから、一人でやれよ』
『無慈悲すぎるぞ……少しばかり手伝ってくれてもいいじゃないか』
『めんどくさい……』

 め、めんどくさいとは酷すぎる。空洞は何を思ったのか、教室をキョロキョロと見渡し、檜山と呼ばれている少女と北村と呼ばれている青年に声をかけた。そして、あろうことか、自分は一人で食べ、私は見知らぬ、いや見知ってはいるが、あまり知らない連中と食事をすることになった。完全に丸投げである。

『へー、んでー、剱山のその火傷って大丈夫なわけ?』
『あ、あぁ……もう、痕というだけで、痛みは殆どない。それでも疼く時は軟膏を塗るがな』
『そっかー、けど、元は凄くいい顔してんだけど、残念なー』

 檜山はモフモフとメロンパンを頬張りながらそう言った。仙道と呼ばれている女生徒が『疼く……エロイわ』と呟いていた。エロくはない。

『剱山ちゃんの家って何屋さん? どっかで聞いたことがある気がするんだけど』
『ん、道場をしている』
『道場? あぁ、あの山の上の。剱山古流剣術だったっけ? 凄いんだな、剱山ちゃん』
『あぁ、いや、凄いのは父で私は別に凄くはない。剣も握らないし、な。少し格闘術を使える程度だ』

 北村の質問に私は答える。思えば、これが間違いだったのかもしれない。いや、間違いだったのだろう。

『ほぉー。ならば、この檜山さんが剱山の力を試してやろう』

 そして、昼休み。教室の中の机は一斉に動かされて、数人が集まっている。中でも後藤と檜山が言い合いをしている。

『お、おい、剱山! お前、何をやった?』
『え、いやいや、わ、私にもわからない……』
『お前、喧嘩が強いとか言ったわけじゃないだろうな!? こいつら、頭がおかしいから直ぐに腕試しとかわけのわからないことを言い始めるんだぞ!』
『い、いや、家が道場って話を少ししただけだ……』
『……何やってんだよぉ、おかげで僕の昼飯途中だったのに埃が舞う中、食べないといけないじゃないかっ!』
『心配をするということはないのか……』
『知るかよぉ……』
『なぁ、空洞。応援してくれるか?』
『しない。勝手に頑張れ、勝手にやれ。僕は関係ないし、どちらも選ばない』
『そう、か……まぁ、いいだろう。私もカッコいいところを見せれるように少しだけ、頑張ってみよう』

 すると、背後から『ッしゃああああ!』と声があがる。どうやら、ジャンケンをしていたようで、後藤が両手をあげている。

『ふっ、俺は女だからって手加減はしねぇぜ。俺が加減するのは妹だけだ』

 横目でチラリと見れば、空洞が呆れたような視線で後藤を見ていた。まぁ、その発言に呆れるのは私も同意だが。

『うむ……相、分かった。それでは、合図を』

 檜山が肩を落としながら、中央に立つ。そして、両手を広げ『レディィィィ、ファィッ』と合図をした。

 私は一歩、二歩、と進む。無拍子。全身の力を抜き、自然な動作で行う歩法の一つ。また、肩が上下しない為に、相手が近づいてきたという判断が幾分か遅れる。

『うぉっ!?』

 驚いたのだろう、後藤は躊躇いもなく、ミドルの蹴りを脇腹目掛けて、狙ってくる。申し分ない、並みの男ではこの一撃で決着はつくだろう。けれども、だ。

『剱山流 柔の参『回向』』

 体重を乗せた足をそのまま受け流すように潜り抜ける。相手の力を利用して、潜り抜けるスピードが増す。

『剱山流 打の伍『脊髄穿』』

 そのまま、両掌を後藤の背中、正確には脊髄と頚椎に当てる。威力はそこまで無いが、それでも心の臓と頚動脈を震わされれば、如何なる大男でも地に伏せる。

『『『『『『『……』』』』』』』

 し、しまった……やりすぎてしまったか。視線が私に集まる。

『おぉぉぉぉっ! 拳王さまが降臨なされたでござるぅぅぅぅぅ』
『おじゃあああ、現代に甦る古流武術、胸熱でおじゃぁぁぁぁぁ』
『す、すげぇ! 剱山ちゃん! ガチで強いじゃん!』
『あ、あぶねぇ、後藤で無理なのに、俺がいかなくてよかった』
『猿渡ちゃん、運がよかったわねぃ』
『そ、そういうてめぇこそ冷や汗掻いてるんじゃねぇか……』
『おい、檜山、お前、後藤が負けたらやるって言ってたろ』
『うっせー』
『おい、檜山、テッペンとるんだろ』
『うっせー! あんな奴に勝てるか! 今の何だよ! 後藤の股下を回転しながら、潜り抜けたかと思えば、一撃とか、漫画だろ! 勝てるかっ!』

 賞賛されたり、歓声を挙げられたりなど私には理解できなかった。初めての体験で、初めての応援で、泣き出しそうになる。あぁ、何てことだ、本当に。本当に――私の十年は本当に無意味で。何でもないことだった。ただ、自分の勇気がなかったのだ。近づく勇気が。

『そ、それにしても後藤の奴、起きないけど大丈夫なの』
『ん? 仙道、あぁ、ちょっと待ってろ……『妹さんを嫁にください』』
『俺を倒してからにしろぉぉぉぉぉっ』
『おぉぉっ、起き上がりやがった……耳元で囁いただけなのに……』
『ふぅ、何だ、夢か』
『いや、現実にきまってんだろ』
『え? マジか? 兄と妹でも結婚できるようになったのか!?』
『それは夢だ。現実なのはてめーが一発でのされたことだよ』
『お、おぉう、マジか……化け物か』
『あぁ、化け物だ』

『ほぅ、誰が化け物だ、空洞に後藤』

 ゆらりと私は二人に近づく。

『あ、後藤が言いました。僕は関係ありません』
『お、おい、てめぇっ! 俺は妹と結婚するまでは死ねねぇんだよ』
『大丈夫だ、死んでも出来ん。安心して身代われ』

 まったく、こいつらは……

『ふっ、何、痛くはしない。ただ、午後の授業が受けられなくなるだけだ』
『『逃げるぞ!』』
『ま、待てっ!? って早いな! あいつらっ……』
『まぁ、ソラは逃げ足だけは超一流だからねぇ』
『仙道』
『ミヨでいいわよ。お姉さまは勘弁してね』
『ふっ、わかった。ミヨ姉』
『なんで、皆、あたしを姉にするわけ……』
『面倒見がいいということだろう』
『じゃあ、あたしも剣花って呼ばせてもらうわね』
『あぁ、よろしく頼む』

 空洞 空には恩がある。それも返しきれないほどに。だからこそ――

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「委員長。どうやら、私は思っていたよりも反抗期のようだ」
「どうして、戻ってきた」

 必至に転がり、無様に転がり、赤い化け物が遊びとばかりに、もぐらたたきをするかのごとく、僕を追い詰めていた。これでいい、時間を稼げる、稼げばいい。けれども、飛んで来たのは剣ではなく、拳。僕にではなく、赤い化け物に、拳はとんでいった。

「本当ならな、男の言うことはすべて受け入れ、三歩後ろを歩くいい女になろうと思っていたのだが、どうやら、性分ではないみたいだ」
「……他は?」
「大丈夫だ、宿の前までは見送った」
「そっから、すぐに来たのかよ」
「なぁに、全力で走れば容易い」

 赤の化け物は首を振り、立ち上がる。

「ふむ、委員長。悪い報告と凄く悪い報告の二つある」
「……悪いことは聞きたくないな」
「まぁ、そう言わずに聞け。一つ、あの化け物に繰り出した一撃、剱山の打の奥義「抜打」と言うのだが、中身を壊す技だ」
「……おぉう、護身術じゃなかったのか」
「素人が覚えられる領域ではないよ。だからこそ、あの技が効かないとなれば、まともに戦うのは得策ではない」
「……だろうな」
「二つ目、どうやら、あの化け物から逃げ切れるほど委員長の体力が残っていないということ」
「そこら辺はわかっている」

 そう、僕は既に限界に近い。転がり、何度も避けて。下手をすれば、打たれて、折れて。転がっているだけで内臓が痛み、立つことすらも気力を振り絞らなければならない。そんな状況下。

「ならば、一つ。倒すしかあるまい」
「……出来るか」
「ふっ、私一人では不安だが、委員長である空洞 空が居る。それだけで、私は安心して戦える、倒せる自身が沸きあがる、つまりは悪い報告があっても何の問題も無いというわけだ」
「……僕はどうすればいい」
「私が柔術で動きを止める。故に、委員長は――あの杭を押し込んでくれ」

 それは無茶だろう。何せ、あの化け物の膂力は僕達が想像しているよりも遥かに強い。緑の化け物なら、まだしもあれだけ血を流し続けても尚、動き続けるほどの赤い化け物は格が違うということが想像できる。

「あぁ、わかった。けど、どうやって……」
「ふっ、簡単だ。私は女だ、問題などあるまい」
「……待てよ、それって」
「三分後だ、委員長。三分後までに、私は『組み伏せられておこう』」

 つまりは作戦なんてものではない。小堂祥子から出発前に全員に伝えられたゴブリンという化け物の特性を利用するのだと、剱山は言ったのだ。

 知能が低い、性欲が旺盛、本能に忠実。つまりは、簡単だ。身を差し出して、動きを止める。奇しくも語らなかった檜山と近い状況になる、と自ら立候補するのだ。

「……彼氏作るんじゃなかったのかよ、処女は価値だぞ、剱山」
「ふっ、あのような化け物にくれてやるつもりはない。あくまで組み伏せられた状態で踏ん張るだけだ。三分後に王子様が助けに来てくれるのを待つ」
「王子様なんて、柄じゃねぇよ」
「わかっている。そういうの嫌がるというのは十二分に、な」

 ジリジリと歩幅を進めていく。赤い化け物も剱山が『油断できない』と判断したのか、無闇に飛び掛ってくることをしない。

「……なぁ、空洞。一度、だけだ。名前で呼んでもいいか? 実は羨ましかったのだ、ミヨ姉や桃香達が」
「別に空洞でも、空でも好きに呼べばいいだろ」
「ふっ、馬鹿だな。私のような無骨者が下の名前で男を呼ぶなど、勇気がいることなんだぞ。では、空、言ってくる」
「あぁ、任せた。僕もきっかり三分以内に見つけて、押し込む。任せろ、時間にはぴったりな僕だ」

 そう言って、剱山は赤い化け物に飛び掛り、引き連れて、闇の中へ移動していった。立ちあがる。脇腹の痛みは強い。間違いなく折れている、足。二度ほど打たれた、けれども折れてはいないが鈍痛がする。右腕、折れている。いや、折れたというよりも肘を壊された。顔、床でこすったせいか鼻の頭を擦っている。ヒリヒリとした痛み。

 走ることに問題はあるか。問題ない。オールオッケー、万事抜かりなし。気力とか根性とか必要ない。ただ、耐えればいいだけ。痛みに。

 逃げる? そんなことは出来るか。戻ってきた剱山にボコボコにされて、殺される。クラスメイトに殺されるなんてことは真っ平ごめんだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 見つけた。まだ、だ。息を潜めろ。まだ、三分を経っていない。あの赤い化け物は剱山ににじり寄っているが、周りをいまだ警戒している。まだ、だ。まだ早い。

 剱山が捕まった。逃げようともがいている。赤い化け物は腰布を外して、醜い一物を外気に晒していた。

 剱山が必至に抵抗している。今にも、均衡が崩れそうだ。足を踏み出す。音が漏れる、けれども油断をするな。

 走り出せ、駆け出せ。ただ、一撃を狙え。ただ、一点を穿て。剱山を組み伏せている赤い化け物に向かって――雄叫びを上げるな、息を漏らすな、ただ、闇に紛れて、欲望に息を潜めて、抜くこともしないあの杭を押し込め。

 細長い杭を見る。イメージする、想像する、どうすれば奴を倒せるのかを、どうすればあの化け物を殺せるのかを。殺すという物騒な単語が脳裏を支配しても尚。足は別の生き物のように進んで行く。

 気づかれた。こちらをぎょろりと剥く、目。脅えるな、問題ない。剱山が押さえると言ったのだ。ならば、僕は唯、その言葉に従えばいい。

 恐れるな。問題はない。剱山が身を這っているのだ。ならばこそ、僕は唯、その杭を目掛けて走ればいい。

 剱山が、片腕で剣の柄を掴んでいる。ゴブリンは慌てている。何故、あんな細腕で、自分の腕力で振り払えないのかと。剱山が足で足を押さえている。ゴブリンが右手を振りかぶる。剱山を殴りつけようとする。それを間一髪のところで避けるどころか、その手首を極めている。化け物のイチモツは外気に晒されたまま、足を絡めて、腕を取っているので、剱山の顔とイチモツが近く、実に嫌そうな顔をしている。

「ぎ、ぐぁぁぁっ!」

 それは何の言葉なのか。剱山に向かって叫んでいる。けれどもどこ吹く風、素知らぬ顔で手首を極め、足を絡め、柄を離さずにいる。もう遅い。一歩の間合いだ。もう、すべてが遅い。僕は飛びかかるように全体重からの突撃を杭から杭の先端へのベクトルに預ける。

 沈む。

 感覚は沈んでいく。叫び声が聞こえる。絶叫が聞こえる。化け物の断末魔が聞こえる。ずぶずぶと先端がはっきりと埋まっていく感覚を僕は感じ取る。コンマゼロ以下の感覚ではあるが、はっきりと感じ取る。それだけに長く感じる。

 何秒経ったのか、何分経ったのか。どのくらい経ったのか、わからない。ただ、動かない化け物の身体がさらさらと灰になって消えていく。僕は近くにいた剱山と顔を見合わせて、ついぞへたりこむ。

「や、やった……」
「あ、あぁ……」

 お互いに信じられないとばかりに呟く。すると、化け物が消えたと同時に安っぽい音楽が鳴る。

「は……?」
「どうした、委員長?」

 怪訝そうにこちらを見る剱山。灰の近くに浮かび上がったカード状の何かを手にとってこちらに戻ってくる。

『空洞 空はレベルが1になった』

 男なのか、女なのか、老人なのか、子供なのか。わからない。けれども、そんな声が確かに僕の耳に飛び込んできた。その瞬間。

 今まで、見えなかった何かが僕の視界の中にはっきりと飛び込んできた。そして、その緑の化け物、額に傷を持つ化け物は棍棒を振り下ろし……









 そして、剱山 剣花は死んだ。





~~~~(???)~~~~

 空洞 空と剱山 剣花。

 彼は考える。この二人はならないと。それではいけない。それでは駄目だと。それでは何も面白くないと。空洞 空には一つ与えた。それでも、尚、空洞 空はならない。けれども、それは『剱山 剣花』という圧倒的なまでのズルを前にすれば取るに足らない、と。

 事実、剱山 剣花は『無レベル』でありながらもゴブリンリーダーという中位種の魔物の動きを組み伏せられたまま止めるという力技をこなした。あり得ない、こんなことはあってはならない。少なくともこの舞台の意味を成さなくなる。

 故に退場。

 そう彼が考えた結果、剱山 剣花は死んだ。殺されたのだ。けれども、ここまで大規模に干渉をした結果、警告が飛んでくる。舞台からの警告だ。彼が如何なるものであったとしてもそれは許されざる行為。舞台を好きに弄る権利など彼には持ち合わせていないのだから。けれども、絶大なる彼の力の前には舞台も『警告』を告げるので精一杯である。

 結果、空洞 空は生き残る。けれども、空洞 空には一つの枷が嵌められている。それはこのショーを開くにあたっての枷。空洞 空もまた、特別な主演の一人なのだ。いや、すべての人間が特別な主演でありながら、それでも尚、空洞 空に枷が嵌められている。

 剱山 剣花と空洞 空という天秤で剱山に傾いたが故に空洞 空は生き残ったのだ。彼は監視者となる。監視者? いや、違う。観測者だ、客だ。彼は客なのだ。客でありながら、展開する舞台に口を出せるほどの有権者。

 それが『彼』だ。

 空洞 空は気づいていた。これが唯のショーであると。正解でもあり、不正解でもある。ショーである。けれども無意味ではないのだ。意味はある。全ての事柄に意味はあるのだ。

『警告:これ以上の干渉は許されません。以下、これ以上の干渉が確認された場合、すべての舞台と駒の退場となります』

 老人でもあり、子供でもあり、男でもあり、女でもある声に彼は溜息を吐き、両手をあげる。

「しない、しない。何もしない、もうしない。大人しく見てるだけにするから、怒るなよ。何をそんなに怒っているんだ。彼女が居ない方が我の為でもあるし、其が為でもあるだろうよ」

『反証:例え、そのような理由であったとしても、干渉は許されざる越権行為であります』

「了解、了解。まったく、我が悪いみたいな言いかたをしないでほしいな」

『肯定:あなたが悪いのです』

「ふっ、それを君が言うのかい。こんな世界を生み出した、君が」

『……』

「悪い、悪い。仲良くしようぜ。どうせ、結末なんてものはありきたりで物語にもなりやしないたった一つの奇跡に向かって進むだけの面白味も何ともない結末でしかないのだから」

『肯定』

 彼と『何か』は同意を示す。

『肯定:結末などありきたりで物語にもなりはしない、たった一つの奇跡の為でしかないのですから』

「ただ、まぁ……これでようやくバランスが保てたというわけか」

『肯定:バランスブレイカーたる剱山 剣花が退場した結果、予測しうる絶望の数が増幅。空洞 空という異端をもってしても、絶望を乗り越えることは不可能と判断』

「ふっ、そうかい。なら、ようやっと始まるな」

『否定:最初から始まっています』

「そうかい? 今までは何のこともない唯のチュートリアルだ。犯されることも、殺されることも当たり前の世界だという認識をしていない彼らのための優しい優しい教訓じゃないか。我としてはチュートリアルの続き、犯すことも、殺すことも当たり前の教訓はいつになったら見れるのか楽しみで仕方がない」

『……』

 それから、男でもなく、女でもなく、ましてや老翁でも、少女でもない声は反応しなくなった。最後に彼がポツリと呟く。

「あの剱山 剣花という化け物を呼び寄せたのは空洞 空という異端であることを、知っているのかねぇ……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ただ、我武者羅に振るった。ただ、滅茶苦茶に振るった。ただ、支離滅裂に振るった。殺すために、殺す為だけに。落ちていた、錆付いていた剣を拾って、緑の化け物に振るう。弱弱しく鳴いたとしても叩きつけた、必至にもがいて、逃げようとする背中を叩きつけた。命乞いをするような鳴き声も聞き入れずに叩きつけた。

 使い方などわからない、剣の振り方など習ってもいない。けれども、ただ振るう。無茶苦茶に、支離滅裂に、我武者羅に。殺すという非常に重たい行動。殺意という圧倒的な暴力を、忌避すべき悪を、それを自覚しながらも、殺す。

 生きるために殺すわけでもない、生き延びるために殺すわけでもない、快楽のために殺すわけでもない、ましてや復讐の為に殺すわけでもない。考えているのは唯、殺すということ。理由など要らない。理由など必要ない。僕が殺すと決めたから、僕は殺す。

「……」

 カランと音を立てて、剣の柄が地面に落ちる。いつの間にか灰と化した緑の化け物。灰になっても僕はただ地面を叩きつけて。ずっと、叩きつけていた。涙が溢れる、涙が零れる。それが当然だ、それが当たり前だ。

 地面には一つのカード。途中で見た四つ目の扉のマーク、コック帽なのか、パンなのか、よくわからぬ形を模したカードが落ちていた。フラフラと歩きながら、額が割れて、何が起きたかも理解せぬまま、死んだ剱山の下へ戻る。

「……これは」

 剱山が握っていたのは剣のマークのカード。武器屋と紫香楽が言っていたカードだ。それを手に取り、握り締める。へし折りたくても、非常に硬い。諦めて、剱山を見る。死んでいた。唯、死んでいた。こんなわけのわからない場所で死んでしまった。僕を助けたばっかりに死んでしまったのだ。

「……」

 僕は緑の液体に染まった学ランを脱いで、剱山にかける。今、運ぶのは無理だ。だから、必ず後で引き取りに来るから。そう誓って、僕は剣を杖代わりにして、一歩ずつ進む。先ほどから視界の中に文字が目に入る。

 今まで浮かび上がらなかった文字が目に入って、目を閉じたくなる。なんなのだ、ここは。一体、ここは何なのだ。夢なら、早く覚めてほしい、夢ならさっさと覚めるべきだ。

 ゆっくりと、ゆっくりと歩く。死んでしまいたかった。否、死ねるわけがない。剱山が助けて、永らえた命をそんな風に粗末にしてはならない。死にたかった、否。命をそんな風に投げてはならない、僕には生きながらえる理由があるのだから。

 だから、一歩ずつ歩く。剱山が死んだことを理解していながらも必至にいき足掻く自分が嫌になる。一緒に逝ってやるべきだろう、それが義理ではないのだろうか。そんなことすら思えてくる。

 ぐるぐると考える。ぐらぐらと地面が揺れる。今すぐにでも横になりたかった、このまま消えてしまいたかった。それでも、僕はゆっくりと歩みを進める。剣を杖に。

「あ……」

 四つ目の扉が見えた。ポケットからカードを取り出し、嵌める。文字が見えた『パン屋・未解放・解放可能』と視界に浮かんでいた。何も、考えたくない。

『パン屋・レベルⅠが解放されました』

中を見ると、食パンだけがあった。僕は食パンをそこいらにあった袋につめる。大きな袋を背負うように背負う。数は三十七。気が狂いそうになった。ご丁寧に水筒らしきものもたくさんある。

剱山が生きていれば、必要な数は一つ多い筈なのに。あたかも剱山が死んだのを知っているかのように用意されたパンの数を見て、僕は気が狂いたかった。

 それでも、僕はパンを持って帰らなければならない。ナップサックに大量の食パンを詰め込み、水筒のような筒のヒモを全身に巻きつけて僕は一歩ずつ進む。総重量はどれくらいだろうか、既に感覚がない。足取りが重く、気が進まない。それでも、僕は歩く。途中に剣の扉があったが、無視をして進む。これ以上、剱山が死んだことを見られているかのような証拠を見たくなかったのだ。

 そして、ようやくたどり着いた。そして、文字が浮かび上がる『宿屋・レベルⅠ』と書いてある。今まで、何もわからなかったのに、ホテルと言って笑われていた半日前が酷く懐かしく思える。

 ゆっくりと扉を開く。

「空洞ッ!」

 後藤が必至に押しとどめていた。そこから見えるのは外に行こうとする何人もの顔ぶれ。あぁ、その判断は正しい。後藤、どこまでも正しいんだ。お前のおかげで剱山、以外が無事だとわかった。お前が誰も外に出ることを許していないのなら、安心ができる。

「……食料」
「空洞、てめぇ、なんて面してやがる」

 後藤が僕を見て、近づいてくる。怒っているわけではない、言葉は悪いが、これが彼なりの心配の仕方なのだ。

「空洞殿、拙者達、剱山殿を止めることが出来なかったでござる……もしかしたら、今も外で迷って」
「あぁ、心配ない。心配するな、もう心配しなくていい」

 もう、楽になりたかった。

「剱山は死んだ。緑の化け物にやられた」

 全員が息を呑むのがわかる。

「あぁ、パンと水はあった……僕は休む」

 フラフラと自分の部屋へ向かう。一回の右通路三番目の部屋だ。フラフラと倒れこむようにベッドへ。もう、何も考えたくなかった。目が覚めれば悪夢が終わるような気がして。あの醜いと自分を卑下する、美しい少女にまた会える。夢から覚めれば、悪夢が終われば。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ