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Chain179 永遠の恋人へ


 とても長い夢を見た……

 懐かしいもので、嬉しくもあり時には苦しくもある。愛憎に満ちたこの空気が、今ではとても心地よい……




 ――そして、俺は夢から覚める。


 「琉依、もうお昼……って起きた?」

 ドアを開けた君は、ベッドの上で上半身を起こしていた俺に声を掛けるとカーテンを開く。そして、手にしていたコーヒーを俺に手渡す。

 「今日は随分と眠っていたのね。いい夢でも見ていたの?」

 夢? そうだね、とてもとても長い夢を見ていたよ。

 「うん。とてもいい夢だったよ」

 「そう。それはよかったわね」

 とても、いい夢……嫌な出来事もあったけれど、今ではそれすらも懐かしく感じられては心地よいもの。夢から覚めた今も、こうして俺の目の前には君の姿がある。

 夢の中での姿ではなく、今の君の姿として……。君はこうして現実でも俺の傍にいてくれる……毎日こうして実感できる事が今の俺の幸せ。

 「さっきね、尚弥から連絡があったわ。今夜、一緒に食事でもどうかって誘われたからOKしたわよ?」

 「そう。久しぶりだね、尚弥達と食事するのも」

 ベッドから出て部屋を出て行く俺に後から来た君がガウンを羽織らせてはそう話しかける。約三十センチの身長差がある所為で、綺麗に羽織れなかったガウンを自分で直しながら答えては階下へと降りてはリビングへと進む。

 「もうお昼だから、ランチの用意をしたから顔でも洗ってきたら?」

 「あぁ、そうだね」

 そう告げてキッチンへ行った君の後姿を見て、俺もまた入りかけたリビングから元来た道を戻っていく。背を向けたリビング……そこの壁中には、俺と君と兄貴やメンバー達の写真が本来の壁紙が見える事無く貼られていた。

 幼い頃の俺と君……小学生から中学生、高校生と大学生。そして、モデルとして活躍する俺の写真が、まるで家人を見つめているかのように存在していた。


 ――そう、ここはお祖父様の家。


 そして、今では……


 「琉依が……こうしてこの家に住みたいって言ってくれた時、私凄く嬉しかったな」

 「? どうして?」

 テラスでランチをとる中、そう告げた君に俺はフォークを置いて詳しく聞こうと君の顔を見る。そんな俺と同じく君もまたフォークを置いては、リビングの方へと視線を移した。

 「ここは、私にとっても大切な場所だから……。おじいちゃんとの思い出がいっぱい詰まった場所だから」

 そう、そうだね。この家はもともと君のお祖父様が住んでいた家。そして、お祖父様が生きていた頃は暁生さんに連れられて此処によく来ていたね。そんな俺たちを、お祖父様は楽しい出迎え方をしてくれた。


 ――とう! ジャキーンッ、ダダダダダダッ!


 屋根から飛び降りては俺たちに銃を撃つフリをする……高齢を思わせないお祖父様の身軽さに、俺たちもまた負けないよう立ち向かっていたっけ。

 俺たちと対等に子供のようにはしゃぐお祖父様……俺は彼がとても大好きだった。

 そんなお祖父様の趣味は、君や俺たち兄弟の成長過程の写真を家中に飾る事だった。始めはフォトフレームに……そして、それらでは足りなくなってきたら今度は壁に貼るようになっていた。

 お祖母様がお亡くなりになって寂しいお祖父様が、少しでもこの家を明るいものにしようと考えてのものだった。そして、今では君や俺たち兄弟だけでなく成長していく中で付き合い始めたメンバーの写真もあった。

 とても明るくて……とても愛しいこの家を、お祖父様は俺に与えてくれた。そして、俺はロンドンから正式に帰国した今ここで暮らし始めた。

 お祖父様と同じ気持ちを抱きながら、俺は君と二人で暖かいコーヒーを飲みながら毎日過ごしている。

 「おじいちゃんが突然亡くなった時は本当に悲しかったけれど、今はこうしておじいちゃんの温もりが残る場所で過ごす事が出来るからね」

 君が告げた言葉で、俺の表情は微かに固まる。


 ――夏海には、この事は言わないでくれ。


 お祖父様が病気ガンを患っていて余命僅かという宣告……これは、未だに君には明かされていない真実だった。

 孫である君には一生隠して生涯を閉じたお祖父様の遺志を尊重して、俺は今でも君にその事実を黙っていた。今思うと、それが正しいのかわからない。君は真実を知る権利があるのだから。

 「それが、今の私の幸せでもあるのよ」

 しかし、そう告げる君の清々しい表情を見ると、俺はあえてその笑顔を崩さないようにと躊躇ってしまうのだ。結局、いつもその繰り返しだ。それは、つまりもう拘らなくてもいいのであろう……

 つまり、お祖父様の言葉の呪縛からも解き放たれても……いい頃だと。


 「ねぇ、知ってる? 渉の所、もう一人できちゃったみたいですよ」

 「本当に? それは凄くいい事ですね!」

 長い付き合いなのに相変わらず敬語が混じった会話。それすらも今の俺にとっては幸せの一つでもある。

 ひとつ屋根の下で共に生活を始めては、こうしてランチをとる……周りから見たら幸せというよりか何気ない事かも知れない。

 しかし、 その幸せを掴みたくても掴めなかったあの時……俺の瞳から枯れる事無く流れた涙。やがてすれ違いを見せるお互いの心。そして、消える事無く増え続ける君への憎悪。しかし、その中でも失われる事無かった君への愛情。

 それらによる複雑な心の交差……しかし、それはやがて一つの結果を生み出すきっかけともなったのだ。


 「それじゃあ、今日は天気がいいのでドライブにでも行きましょうか?」

 「そうね。そして、長い長いお話でもしましょうか」


 ――永遠に恋をしていこう


 それが……今の俺と君の姿。それが、本当の恋の始まり。




 『歪んだ愛情・束縛したい欲望〜これも恋の始まり?5〜』完結致しました!

 他のシリーズと比べてとても長くなったこの作品を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

 本来ならエピローグを加えて完結する予定だったのですが、内容的にこの話で完結させて頂きました。

 『これ恋』シリーズは、あと一回で完結です。こちらの方は、また改めて連載を開始させて頂きたいと思います。

 さて、次回作はタイトルは未定ですが明日か明後日から連載を開始させて頂きたいと思います。またジャンルは恋愛ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します!

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