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キョーハク少女  作者: ヒロセ
第二章 ホーロウ中年
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小嶋君と遊ぼう

「おい、佐藤!」


「え?」


 茶髪で長い前髪をヘアピンでとめている男の人、僕の部屋に遊びに来た小嶋君が僕を揺さぶる。


「今の見たか?!」


 僕の部屋のテレビに流れているアニメを指さし、小嶋君が興奮気味に僕を揺さぶっている。


「神作画! 神作画!」


「う、うん」


 僕にはよく分からないよ。


「ぬるぬる動きすぎだろこれ! 実写か!」


「実写ではないけど……」


「わかっとるわ!」


 そうだ。朝早く小嶋君がうちに来て一緒にアニメを見ていたんだ。

 今は八月四日昼。アニメを見ているうちに僕は昨日の晩のことについて考え込んでしまったんだ……。

 昨晩の出来事、まりもさんとの一件は解決するどころか悪化してしまった。

 サトウ君と呼ばれてすぐにまりもさんがログアウトしてしまったので、一体何故僕の名前を知っているのかは聞けなかった。


「ルイスちゃんサイコー!」


 僕の思考を散らす小嶋君の声。

 小嶋君。

 期末テストの前まではアニメや漫画なんて大嫌いなスポーツ少年だった。でも、僕が面白いアニメを勧めたりなんかしたから……。


「可愛すぎるっ……。誰か、俺を召喚してくれ……!」


 もう駄目だ……。


「何故俺は二次元に生まれてこなかったんだ……。畜生……ちくしょおぉ!」


「小嶋くん……」


 なんだか小嶋君の悩みに比べたら僕の悩みは小さい気がしてきた。僕の悩みは解決できるけど小嶋君のは解決できないからね。


「なあ、佐藤。どうすれば二次元に行けると思う?」


「えっと……」


 過去に楠さんが僕に言ったことがある。プレス機に挟まればいいと。でもそんなこと言えないよ。


「無理かな……」


「なんて残酷なことを言うんだお前は!」


 えっ、これ残酷なんだ。


「ああ……可愛すぎて生きるのがつらい……」


 重症だよ……。


「あ、終わっちまった……」


「うん」


「面白かったー……。じゃあ次は何を見せてくれるんだ?!」


 子供のようなキラキラした瞳で僕を見つめる小嶋君。

 とても純粋な目だ。この汚れきった世界とは別の次元で生きているからこそできる


「えっと……、これは、見たよね……。これも見たか……。えーっと……」


 あ、もうないのかな。


「ごめんね、僕の部屋にあるのはもう全部見尽くしちゃったみたいだよ」


「…………は?」


 目を大きく開きわなわなと口が震えている。


「なん……だと……」


 どうやらアニメだけでなくネットの方にも手を出しているみたいだね。


「見尽くしたって……。俺は残りの夏休みをどうやって過ごせばいいんだよ!」


「勉強とか……」


 テストの結果が悪かったって言ってたじゃない。


「勉強とか、将来の役に立たねえだろ。そんなことよりアニメでも見て心を浄化したほうがいいだろ」


「そうだね」


 そうだねって言っちゃった。話し合わせちゃった。


「なあ、マジな話俺はどうすればいいんだ? どうすれば二次元の世界に触れることができるんだ?」


「漫画とかはダメなの?」


「漫画はしゃべらねえじゃねえか! 俺は会話がしたいんだよ!」


 アニメも会話はできないよ!


「ゲームは?」


「ゲーム? ゲームねぇ……」


 あまりお気に召さないようだね。


「やっぱりアニメが見てえなぁ。あ、なに? レンタルしろって? んなことしちまったら破産すんだろうが!」


 何も言ってないよ。でも、確かに今の調子だと破産しちゃうね……。


「大丈夫だよ。僕とある人に話をつけているから」


「とある人? 誰だ?」


「雛ちゃんのお兄さんなんだけどね」


「有野の兄貴ぃ? 有野の兄貴がどう関係してくるんだよ」


「うん。実はね、雛ちゃんのお兄さん――」


 とここで思い出す。雛ちゃんはお兄さんのことは出来るだけ秘密にしておきたいと言っていたっけ……。


「――その、ちょっと、待ってね」


「ちょっと待って? まあ、いいけど」


 僕の言葉を聞きアニメの二周目を見始めた小嶋君。

 僕は慌てて雛ちゃんに電話をかけた。


「……あ、もしもし」


『なんだなんだ! 優大から電話掛けてくるの珍しいな!』


 とっても機嫌がいいね。これなら國人君のこと許可してくれるかもしれない。


「あのね、実はお願いがあるんだ」


『何でも言えよっ。私と優大の仲じゃねえか!』


「ありがとう。実はね、小嶋君を國人君に会わせたいんだ」


『今すぐ行くから待ってろ』


「え」


 電話が切れた。あれ? どういうことだろう? 直接話そうっていうことなのかな。あ……、もしかしたら僕怒られるのかもしれない。こういう状況に陥ってしまった僕は怒られても仕方がないけれど……。


「電話終ったのか」


 画面から目を離さずに小嶋君が聞いてくる。


「う、うん。あの、雛ちゃんがここに来るって」


「はぁ?! なんで有野がここに来るんだよ! 来るな来るな!」


「多分、もう向かってると思う」


「なんだよ! あいつが来たら落ち着いてアニメが見れねえじゃねえか!」


「でも一回見たから大丈夫だよね」


「セリフ覚えるまで見たとは言えねえだろ!」


 それは無理だよ! その分の記憶力勉強に使おうよ!


「有野は追い返せ!」


とっても嫌いっているね……。仲良くすればいいのに……。


「え、そ、それは……」


 無理だよ……。


「優大ぁ!」


 バンとドアが勢いよく開き雛ちゃんが飛び込んできた。本当にすぐ来たね。


「あ、いらっしゃ――」


「てめえ小嶋この野郎! 優大に何しやがった!」


 入ってくるなり僕なんかに目もくれず小嶋君の胸ぐらをつかんだ雛ちゃん。


「な、何もしてねえよ!」


「嘘つけこの野郎てめえ! 何もしてなかったら優大が助けなんか呼ぶかよ!」


「俺が聞く限り佐藤助けてなんて言ってなかったぞ?!」


 言ってないよ!


「小嶋っていう単語が出ただけでそれはヘルプの合図だろうが!」


「とんでもねえ飛躍した考えだな!?」


「優大……大丈夫か……?」


 突き飛ばすようにして小嶋君の胸ぐらを放して、僕の体のあちこちをポンポンと触ってきた。


「僕は何もされてないから大丈夫だよ」


「んなバカな話があるか」


 えっ。信じてくれない。


「優大が助け以外で私に電話掛けてくるわけねえ」


「お前それ自分で言って悲しくねえのか」


 小嶋君がツッコんでいた。僕は助けを求める以外でも雛ちゃんに電話掛けるよ。


「ヘルプじゃなきゃ一体なんだ?」


 僕から離れて不思議そうに僕らを交互に見る雛ちゃん。


「えっと、國人君に小嶋君を会わせたいんだ」


「ああ、そういやそんなこと言ってたっけ。でもなんであいつにこいつを会せるんだよ」


「國人君のコレクションを貸してもらおうと思って……」


「ああ、そうゆうことか。別に私に許可取らなくてもいいのに」


「あ、ごめんね。この前國人君のことはみんなに知られたくないって言ってたから一応確認取った方がいいと思って」


「……優大は本当に優しいな……」


「え、そんなことないよ」


「そんなことある。なんか悪いな気を遣わせて。でももういいんだ。どうせ文化祭に来るんだし」


「え? 文化祭に来るんだ」


「ああ。例の生徒会のコンテストにな」


「あ、そっか」


 僕もお姉ちゃんを説得しなきゃ。その前に許してもらわなくちゃ……。

 僕らの話に興味がないのか入れないから暇だったのか、小嶋君はまたテレビに集中していた。


「ああ……ルイスちゃん萌えー……」


 また呟いていた……。

 その呟きに雛ちゃんが反応する。


「なんだ? 陸上選手が可愛いってのか? お前気持ち悪いな」


「誰がスプリンターに萌えるんだよ!」


「お前カールルイスって言ってただろ」


「いたなぁそんな奴も! ちげえよ! ルイスちゃんだ!」


「ああ、アメフトの……」


「ちげえよ! ボルチモアのラインバッカーなんて誰も知らねえよ! 俺は屈強な男たちを愛でるような妙な性癖を持ってねえ!」


「うるせえな」


 スプリンターもラインバッカーも、どちらも僕にはよく分からなかった。多分スポーツ選手だと思う。

 一瞬静かになった僕の部屋にアニメの声が響く。


『べ、別にあんたの為にやってあげたんじゃないんだからねっ!』


 ツンデレだね。


「……優大も、こう言うのが好きなのか?」


「え?」


 アニメのことかな?


「うん。好きだよ」


「……そっか」


 何故か困ったような顔をしてテレビ画面を見つめていた。何かあったのかな……。


「んじゃ行くか」


「え? どこへ?」


「どこへって、兄貴のところに行くんだろ」


 困った顔を吹き飛ばし爽やかな笑顔で僕に笑いかけてくれた。

 そうだった。僕らは國人君に会いに行くんだった。

 國人君は小嶋君を受け入れてくれるかな。大丈夫だよね。

 ……國人君、パソコンのこと詳しそうだから、まりもさんに僕の名前がばれてしまったことについても聞いてみよう……。何か分かるかもしれない。





 さっそく雛ちゃんの家にやってきた僕ら。

 真っ直ぐに國人君の部屋に向かう。

 その途中、階段を上がりながら雛ちゃんが笑いながら僕に笑いかけてくれた。


「優大は別に用事ねえよな。兄貴の部屋に行かないで私の部屋来るか?」


「え?」


 小嶋君を初めて会う人と二人きりにするのは少し酷な気がするよ。


「んなのダメに決まってんだろう! 何言ってんだ有野!」


 やっぱり一人になるのが嫌なのか必死に止めようとする小嶋君。


「うん。僕も一緒に國人君のところに行くよ。僕も聞きたいことがあるし」


「……そうかよ」


 笑顔を収め國人君の部屋へと歩き出す。

 僕らは國人君の部屋の前にたどり着いた。


「兄貴ー」


 ノックも何もなしに扉をあける雛ちゃん。大丈夫なのかな?

 大丈夫ではなかった。

 國人君は、その、……。



 中略



「全く、恥かいたじゃないか雛タン!」


 パソコンの前に座る、ちゃんとズボンをはいている國人君。


「恥かいたのはこっちだよくそデブ! 死ね、死ね、死ね!」


「い、痛いから、痛いからもっとお願いします雛タン!」


 兄妹仲良くじゃれ合っているけれど、先ほどの事件は僕の心に大きな傷を刻み付けてしまった。いや、僕は何も見なかった。なんにも見ていなかった。


「汚いもの見せてゴメンな優大……」


「汚いものなんて失礼だZO☆」


「次ふざけたこと言ったら殺す」


「……」


 本気の目だった。


「僕は何も見てないよ。だから安心して」


 記憶からも消去しなきゃ。


「さすが優大タン。気が遣えるいい子だねぶひひ」


 ぶひひ……。


「それで、俺の部屋を興味津々な様子で物色しているそこのドキュンは誰?」


「あ、この人は小嶋君。この前話したアニメにはまっているクラスメイトだよ。アニメを貸してくれるって國人君言ってたから連れてきたんだ」


「あぁあぁ。そう言えばそんなことも言ってた気がするニャー。君君! 勝手に触るなよ!」


「分かってるって!」


 嬉しそうに小嶋君が僕らの元に戻ってきた。とてもわくわくしている。


「な、なぁ」


 小嶋君が僕の腕をつついて急かす。


「う、うん。その、國人君、早速、何か貸してくれないかな……?」


「……いいんだけど、それはいいんだけど、その前に!」


 と、國人君が喜ぶ小嶋君を止める。

 何事かとみんなが國人君を見る。


「貸すのはいいけど、その前にお前の情熱を聞きたい!」


「じょ、情熱?」


 小嶋君が、訳が分からないといった顔で首をかしげた。


「情熱だ! どれほどアニメを愛しているか俺に示してみろ!」


「そんなこと言われても……、俺あんまり見てねえし……」


「そんなものなのか! 嫁はおらんのか!」


「俺は助手が好きだ!」


「いくらでも貸そう!」


 早っ!


「さあ、どれでも好きなものを持って行け」


 椅子から立ち上がり両手を広げ小嶋君に選ばせる。


「ありがとう有野の兄貴!」


 小嶋君が再び部屋を漁りだした。

 この隙にまりもさんのことについてお知恵を拝借しよう。ちょんちょんと、腕を組んで小嶋君を見守っている國人君の肩を叩く。


「あの、國人君。その、相談があるんだけど」


「なんだい優大タン。優大タンもアニメについて語りたいのかい?」


「あ、その、それじゃあないんだけど……」


「なら話すことは無い! 今は新たなる同士の誕生に喜ぶ場面だ……。面倒くさいことは話さない!」


「えっ、あ、ごめん」


 怒られちゃった……。


「おいデブ! 優大を泣かせるな!」


 庇ってくれる雛ちゃん。だけど、


「な、泣いてないよ?」


 泣いてないよ?


「優大タン……。今は空気読もうよ」


「そ、そうだね……」


 僕、空気読めないから……。


「デブ! おいデブ! 殺すぞ!」


「何と言われようとも今俺は楽しい話以外しない!」


「て、てめえ……!」


 わなわなとふるえる雛ちゃん。僕は慌てて止める。


「い、いいんだよ、雛ちゃん。僕の話はしょうも無いから……」


「優大……。私が代わりに聞いてやるよ。一体何の話だ?」


 背を向ける國人君の後ろで、雛ちゃんが僕の肩を優しくつかんでくれる。


「私にできる事は何でもするからな?」


「ありがとう……。でも、パソコンのことなんだ……」


「……そっか……。なら、ちょっと力づくで兄貴を……」


「あ、いいんだよ? 本当に、どうでもいいことだから」


「そ、そっか……?」


 雛ちゃんが悲しそうに握りしめていた拳を解いた。

 ……また違う機会に聞いてみよう……。


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