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冒険家になろう! スキルボードでダンジョン攻略(WEB版)  作者: 萩鵜アキ
1章 スキルツリーを駆使しても、影の薄さは治らない
23/166

みんなで日本を守ろう!

アップする過程で文章の抜けが見つかりました。

短いですが、第19部分に『今日の成果をブログにアップしよう!』を差し込みました。

 突如ダンジョンからあふれ出した魔物を殲滅しながら、マサツグは周囲の状況を冷静に観察していた。


 集結した冒険家はかなり多い。

 やはり北海道を代表する札幌だけはある。

 この様子ならマサツグが居なくても問題なく防衛し切れるだろう。


 ただ……少しだけ嫌な予感がする。

 それは冒険家最強の一角を担うマサツグだからこその予感だった。


 はたしてこのまま素直に終わってくれるだろうか?


 魔物を倒し続けていると、懐から音楽が鳴り響いた。


「悪い。少し抑えてくれ」

「了解しました!」

「まかせろ!」

「了解」


 先日捕らえて矯正中の盾男の四釜と、大剣のラルス、弓のハリアに目を前にやり、マサツグは携帯を取り出し耳に当てた。


『俺だ、ベーコンだ! いま大丈夫か』

「ああ」


 マサツグが使用しているのは、基地局が無くても通話が可能な衛星電話だ。

 現在日本において、以前のような携帯電話での通話は出来なくなっている。だが生きた衛星を経由する電話ならば、インフラに依存しないため使用可能なのだ。


 かなり使用料は高いが、マサツグのそれはスポンサーから貸与されたもの。もちろん、ベーコンもだ。いくら話しても懐は痛まない。


「ベーコン、そっちはどうだ?」


 現在ベーコンは東京都内に居たはず。

 東京には幸いダンジョンはひとつしかない。

 だがそのダンジョンこそが日本において最強と謳われるもの。


『ちかほ』のスタンピードよりも、防衛難度は高いだろう。


『なんとか踏ん張ってる。マサツグはいまどこにいる?』

「悪いが俺は北海道だ」

『……マジか』


 ベーコンは落胆を隠そうともせずため息を吐き出した。

 どうやら新宿駅の防衛戦はかなり分が悪いようだ。


「そんなに悪いのか?」

『中層の魔物が出てきやがった』

「……やばいな」


 最強のダンジョンの中層から魔物が出てきたとなれば、冒険家の半数は太刀打ち出来ないだろう。

 マサツグは顔をしかめる。


「他にランカーはいないか?」

『俺が連絡付けられる奴はほとんど参加してる』

「時雨は?」

『遠征中だった』

「くそっ!」


 東京が落ちる。

 その最悪の未来が、マサツグの脳裏に浮かんでしまった。

 背筋が冷たい。


「大手チームには声をかけたか?」

『ああ。あとはマサツグんとこだけだったんだが――』

「判った、すぐにメンバーを新宿駅に集結させる。自衛隊が出動するまでどうか持ちこたえてくれ」

『了解。頼んだぞ!』


 いつもならば、筋肉話の一つでもしているだろうベーコンが、一切の軽口を封印している。

 それだけで、マサツグはどうしても脳裏に浮かんだ最悪の光景がかき消せない。


 マサツグは即座に携帯でチームメンバーに連絡を取る。

 彼のチーム『ブレイバー』は総勢54名という大所帯だ。


 チームが大規模になると、活動拠点としてチームハウスを用意するようになる。

 彼のチームも勿論、チームハウスを隣の埼玉県に設置している。


 スタンピードが起っても被害を免れるためにハウスを隣の県に置いたが、それが徒となってしまったか……。


 メンバーは全員埼玉のダンジョンにて防衛戦に参加していたが、マサツグはその戦力を分散させる。


 全員を一気に新宿に向かわせると、防衛戦が傾きかねない。

 中でも強い10名を先に新宿に向かわせ、残る43名は状況を見て、その場で防衛戦を行うか新宿に向かうかの判断をしてもらうことにした。


 これでうまく行けば良いのだが……。

 嫌な予感が拭いきれない。


 携帯を懐に戻したそのとき、どこからか甲高い悲鳴が上がった。


 殺意と驚愕。

 その気配をピンポイントで察知。

 即座に移動。


 防衛ラインから漏れた魔物が、成り行きを外側で見守っていた見物客に襲いかかっていた。

 そこにマサツグがトップスピードで滑り込む。


 長剣を軽く薙いだ。

 ただそれだけで、ダンゴムシが木っ端微塵に吹き飛んだ。


 マサツグは即座にブレーキ。

 悲鳴を上げた一般人の女性に向き直る。


「ここは危ないですから、できるだけ離れていてください」

「あ、ありがとうございます……」

「いえ。国民の命を守るのが、冒険家の仕事ですから」


 女性を担ぎ上げ、安全地帯に運びまた、マサツグは前戦へと戻っていく。


 あんな啖呵を口にしたけれど、

 僕らはこの日本を、守り切れるだろうか?


「……もうひとつ、手を打っておくか」


          *


【スタンピード】なろう情報棟【30群目】


512 名前:名も無き日本防衛隊

 新宿駅人手が足りなくて出入り口が数カ所封鎖出来てない!

 近隣チームで余力あれば人を出してくれ


513 名前:名も無き日本防衛隊

 こちら埼玉いま向かう

 それまでどうか持ちこたえてくれ


514 名前:名も無き日本防衛隊

 こちら神奈川

 悪い

 こっちは誰も出せそうにない


515 名前:名も無き日本防衛隊

 こちら千葉

 こっちもだ

 海から魔物が上がってきやがった


516 名前:名も無き日本防衛隊

 防衛出動はまだか!


517 名前:名も無き日本防衛隊

 まだ対応に時間かかってるみたいだ


518 名前:名も無き日本防衛隊

 致命的だな……

 他はどうだ?


519 名前:名も無き日本防衛隊

 こちら長野

 比較的安定してる


520 名前:名も無き日本防衛隊

 こちら香川状況は最悪

 製麺所が次々と破壊されてる!!


521 名前:名も無き日本防衛隊

 >>520 お、おう・・・

 大丈夫か?


522 名前:名も無き日本防衛隊

 大丈夫じゃねーよクソが!

 だがどうにかするしかないだろ!


523 名前:名も無き日本防衛隊

 すまん頑張ってくれ

 うどんの未来はお前達にかかってるぞ


524 名前:名も無き日本防衛隊

 おう

 まかしとけ!


525 名前:マサツグ★

 こちら北海道

 状況は安定してる

 各自十分気をつけて討伐に当たってくれ


526 名前:名も無き日本防衛隊

 >>525 ちょおま!


527 名前:名も無き日本防衛隊

 マサツグさんなんてところに……


528 名前:名も無き日本防衛隊

 新宿じゃなかったのかよ?!

 やべえな

 こっちもちょっと無理して新宿に人送るわ


529 名前:マサツグ★

 すまない皆

 ほんの少しでいい

 力を貸してくれ


530 名前:名も無き日本防衛隊

 >>529 おかのした!


531 名前:名も無き日本防衛隊

 >>529 了解!

 俺これが終わったら彼女に結婚を申し込むんだ!


532 名前:名も無き日本防衛隊

 >>531 フラグやめーやwww


533 名前:マサツグ★

 ありがとう

 さあみんな

 日本を救うぞ!!


          *


 ダンジョンの中は微振動していて、カツカツ、シャラシャラと奇妙な音が響き渡っていた。


 いままでとは違う、ダンジョンの嫌な雰囲気に横隔膜が上がっていく。

 まるで深夜の墓地に迷い込んだみたいな気分だ。


 なにが起っていなくても、気配だけで体が強ばってしまう。


 そんな中、晴輝はスキルボードを取り出した。


 空星晴輝(27) 性別:男

 スキルポイント:1→2

 評価:剣人


-生命力

 スタミナ0

 自然回復0


-筋力

 筋力1


-敏捷力

 瞬発力1

 器用さ1


-技術

 武具習熟

  片手剣1

  投擲0

  軽装0

 隠密0

 模倣0


-直感

 探知0


-特殊

 成長加速3



 先日5階層に到達したことでスキルポイントの残が2に増えている。


 このポイントをどうするか?

 それは既に決まっている。


 晴輝はそのスキルを1つ上げてボードをしまった。

 残る1ポイントは保険。

 万が一強敵が現われた場合、晴輝は敏捷に振って全力で逃走するつもりだ。


 気配を殺すために仮面を外したまま、晴輝は前に進んでいく。

 現在ゲートは停止している。

 どうやらスタンピードが起った場合は、ゲートが停止する仕組みらしい。


 前に進むと、やがて振動が大きくなってきた。

 おそらくスタンピードを引き起こす魔物――モンパレに接近してきたのだろう。


 晴輝は腰を落とし、息を潜める。

 鞄を下ろして、身構える。


「……来た!」


 魔物の姿が見えた。

 晴輝の心臓が激しく鼓動を開始。

 全身に熱い血液を送り出す。


 魔物は狸、タマネギ、ゲジゲジ、そして初めて見る狼。


 狼の名はシルバーウルフ。

 晴輝の短剣に使われている素材が取得出来る魔物だ。


 晴輝が真正面にいるというのに、魔物は彼の姿にまるで気づいていない。

 こういう時は、存在感が空気で良かったと心の底から思える。

 もし全ての魔物に睨まれていれば、さすがの晴輝も一目散に逃げ出していただろう。


「さて……」


 一呼吸置いて、晴輝は鞄から壺を取り出した。

 それは先日、ボスを倒したときにドロップした魔導具だ。


 晴輝は魔物に見つからないよう出来るだけ気配を殺す。

 壺に手を入れ、中身を全力で投擲した。


「ぐぎゃ!」


 ぼふ! と肉が弾ける音を立てて狸の頭が潰れた。


「いける!」


 そう、晴輝は確信した。

 左手で弾を拾い上げ、放り投げ、右手でキャッチし、全力投球。


 真正面にいる魔物の軍団が、晴輝が投げた弾によって次々と沈黙していく。

 モンパレの先頭はまだ30メートル先だが、晴輝は狙い通り魔物の頭に弾をぶつけていく。


 晴輝が上げたスキルは【投擲】。

 1つ上げただけなのだが、弾は面白いようい的に当たる。

 まるでプロの投手にでもなった気分だ。

 狙いが外れる気がしない。


 しかし、たった1でこれだけ精度があがるだろうか?


「……もしかして弾か?」


 現在晴輝が投げている弾は、壺と同じくボスから排出された、堅い石だ。

 ジャガイモのような表面になっていることも相まって投擲用として最適だ。


 さらに、補充する魔導具のおかげで弾切れしない。

 固定砲台に持ってこいである。


 朱音はこのジャガイモ石を鑑定したとき、魔導具の可能性を否定しなかった。

 投擲を1つ上げただけでこれだけ命中するのは、投擲+1の効果が付与された魔導具だからか。


 いずれにせよ、絶好の条件だ。

 晴輝は次から次へとジャガイモ弾を投げ飛ばす。


 左手で拾い、右手に移し替え、投擲。

 その精度を、速度を、上げていく。


 1秒に4発投げて、4匹の頭を粉砕する。

 さすがにシルバーウルフは一撃で倒せない。


 頭に当たっても「キャイン」と悲鳴を上げて、倒れる気配がない。

 なので狼相手には2発投げる。

 それで死ななければ3発だ。


 次から次へとジャガイモ石を投げる。

 三十メートル手前に魔物の死体とジャガイモが、高く積み重なっていく。


 気配を殺しているにも拘わらず、シルバーウルフだけは晴輝の存在に気が付いた。

 おそらく嗅覚が優れているのだろう。彼らに攻め込まれれば固定砲台を解かなければいけない。

 晴輝は狼にのみ狙いを定めた。


 狸とゲジゲジは、感覚器官が弱いのか晴輝に気づかない。

 狼を重点的に狙うと何匹もスルーしてしまうが、大丈夫だろう。

 きっとこれくらいの魔物なら上で対処出来る。


 タマネギは一切攻撃しない。

 奴らに当てたら、涙目で攻撃どころじゃなくなる。


 狸とタマネギ、それにゲジゲジ。

 この程度の魔物であれば防衛ラインで食い止められる。


 ジャガイモを投げる、投げる、投げる、投げる、投げる。

 壺から拾って、投げて、頭を潰して、拾って投げて潰して潰して潰して。


 晴輝は目の前にいる、晴輝の存在に気づく狼しか見ていなかった。


 意識が集中し、集約し、筋繊維一本の動きも見逃さない。

 どの個体がより早く晴輝に近づけるか。

 冷静に、コンマ1秒で見極めていく。


 脳が加速。

 体が過熱。

 快楽が浮上。


 笑う、笑う、笑う。


「は、はは……はははっ!」


 晴輝は、笑っていた。


 狼は知恵を絞ってなんとか晴輝に近づこうとしている。

 その知恵を、狙いを、筋繊維から見極める。


 これは狼の頭脳と、晴輝の観察眼との勝負だ。


 相手の試行錯誤が、それを食い止める思考速度が、

 体を、横隔膜を、気分を浮上させる。


「うおおおおおおおお!!」


 レベルアップ酔いを気合いで消し飛ばし、撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ!

 気がつけば、30メートル先には狼の死体のみがうずたかく積み上がっていた。


 周りにはもう、魔物の姿はない。

 ほとんどが外に出てしまったか、あるいは別の道を歩んでいるか……。


「いや、別の道はないか」


 実際、上に向かう通路はここ一本だけだった。

 他の道に入っても上には向かえない。


 だからこそ、晴輝は迎撃にこの道を選んだ。


 外で迎撃しようにも、魔物が散らばってしまう。たとえこの攻撃法を用いてもこれほど素早く殲滅出来ない。


 狭い通路なら、投擲で簡単に狙える。

 手元にはいくら投げても減らないジャガイモ(石)。

 実に最高の状況だ。


 おまけに、魔物が倒れればバリケードにもなる。

 進行速度を遅らせられる。


 ここが晴輝が思い浮かんだ、最高の未来に繋がる極小の光明だった。


 数と力任せの暴力のぶつかり合いは、晴輝の勝利で幕を閉じた。

 鞄に壺を納め、一息つく。


「……おぇ!」


 緊張感が多少緩んだためか、胃がむくむくと動き出す。

 レベルアップ酔いを我慢し、無理を続けた結果である。


「ああ、気持ち悪い……」


 だが、気持ちが良い。


 このままへたり込んでしばらく休憩したい。

 そう思った晴輝の背筋が、突然ぶわっと粟だった。


 地面に下ろした腰を即座に持ち上げる。

 なにが起きても良いように、晴輝は慎重にスキルボードを取り出した。

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