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冒険家になろう! ~スキルボードでダンジョン攻略~ 作者:萩鵜アキ

1章 スキルツリーを駆使しても、影の薄さは治らない

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愛する町を守りぬこう!

「魔物が来たぞ!!」

 声が上がると同時に、バリケードを取り囲んだ自衛団が同時に武器を掲げた。
 武器――長剣や弓を持つ人はいる。
 だが自衛団のほとんどはスコップを手にしていた。

 自衛団は対魔物対策のスペシャリストではない。
 自分達の故郷を守るため、ありとあらゆる災害に対処する集団である。

 ある時は土砂崩れに立ち向かい、ある時は水害対策に土嚢を運ぶ。
 災害対処で主に使用するのがスコップだ。

 スコップはいわば、彼らにとってのメイン武器なのである。

 スコップを前に掲げた彼らを眺めながら、火蓮は冷静に状況を見極める。

 ダンジョンから現われた魔物はゲジゲジと狸のみ。

 ゲジゲジならば、問題なく倒せるだろう。
 狸はすこし手間取るかもしれない。

 そう思ったが、彼らの動きを見ていれば問題なさそうだということが判った。

 火蓮が想像していたよりも、自衛団の戦闘力は高かった。
 2・3人でかかれば、あれだけ素早い狸も敵じゃない。

 ひとまず火蓮は彼らの防衛ラインを突破したものだけに手を出すことにした。

 とはいえダンジョンの外では、火蓮は魔法が使えない。
 レベルは着々と上がっているが、杖での攻撃はまだ心許ない。

 火蓮はここのところ魔法に頼り切っていた。
 こうなることを予想して、杖でも戦えるように鍛えていくべきだった。

 だが後悔しても仕方がない。
 現にスタンピードは始まってしまったのだから。

 ダンジョンからは依然としてゲジゲジと狸しか現われていない。

 2階にいるタマネギの魔物はどうしたのだろう?
 ここに来る前に、食べられてしまったのだろうか?

 そんなことを考えながら、火蓮は魔物の出現を眺める。

「妙ね……」

 それに気づいたのは、魔物が現われてから5分ほど経過したころだった。

 スタンピードといえばモンスターパレードがそのまま外界に出てくるようなものだ。
 にもかかわらず、ダンジョンから出てくる魔物の数が異様に少ない。

 ここには自衛団、さらにはパラパラと町民までもが集まっている。
 それだけの人数が集ったとはいえ、まるで早食い選手権の回転寿司みたいに、出待ちが起っているのは明らかにおかしい。

 モンパレはこんなものではないはずだが……。

 一面に光る赤い瞳。
 通路を埋め尽くす魔物たち。

 火蓮が見たスタンピードは、これよりもっと大規模だった。

「まさか空星さんが?」

 途中で魔物を間引きしている可能性は十分ある。
 でも、どうやって?

 彼の気配の薄さなら、魔物に気づかれずに攻撃するくらいなら出来そうだ。
 だがさすがに、モンパレほどの集団を一気に半減させるような真似は出来ないはずだ。

 一体なにがあったのだろう?
 まさかこれから、本体が来るのだろうか?

 火蓮の疑問を余所に、自衛団が徐々に押され始めた。
 原因は疲労だ。

 防衛団は日々訓練しているとはいえ、これは慣れないスタンピード。
 通常の災害とは違う緊張状態の持続により、彼らのスタミナが一気に削られていったのだ。

 スタミナ切れにより一人、また一人と傷つき後に引き下がる。
 戦う人数が減ったことで、少数の魔物に押される。
 それを無理矢理踏ん張るから、さらにスタミナが削れて傷を負う。

 防衛ラインでは今まさに、負の循環が起こり始めていた。

 火蓮は素早く鞄に手を伸ばす。
 中にあるマジックバッグの口に手を入れ、手探りで傷薬を取り出した。

 晴輝からマジックバッグを預かったのは、それを火蓮が持っていても不思議ではないから。
 一種のカムフラージュだ。

 だが小さなポシェットから次々と傷薬を取り出せば、カムフラージュの意味がない。

 信用して貸してくれたものを奪われれば、火蓮じゃ二度と信頼を取り戻せない。
 いくら緊急事態とはいえ、火蓮は慌てず細心の注意を払う。

 火蓮は傷薬を取り出し、けが人に駆け寄った。
 見るだけで痛々しい傷に塗布しようとしたとき、

「ちょいとアンタ……ええと、空気の。素手で傷口に触らない」

 パフっと顔に何かがぶつかった。

 顔にぶつかったのはゴム製の手袋。
 ぶつけたのは、日頃お世話になっているお店の店員――朱音だった。

「一体なにを――」
「アンタね、軟膏を素手で塗ったらどうなるかわかる? 傷口にばい菌が入るかもしれないでしょ。おまけにその手でさらに他のけが人の傷口を触ったら感染症を蔓延させるじゃない」

 確かに彼女の弁は正論だ。
 けが人を治療する場合、感染症対策は必須。

 もし火蓮が無闇に触れ回ったことで厄介なウイルス――肝炎などに罹れば、彼女は責任を取りきれない。

 理屈は判る。
 だが、火蓮の腹の底から負の感情があふれ出す。

「確かにおっしゃる通り。でも、それを貴方が言いますか? もし貴方が防衛線に参加していれば、彼らは傷つかなかったかもしれないのに!」
「……なんのことかしらねー」
「とぼけないでください! 冒険家資格を持ちながらお店で働いている貴方のことを私は――」
「しっ!」

 彩華が唇に人差し指を当てて目を細めた。
 たったそれだけで、火蓮は言葉を失った。

 殺気ではない。
 なにか得たいの知れない凄みが、火蓮の体を硬直させた。

「ダベってる暇があるんだったら、治療したげて」

 そう言って彼女は、何事も無かったかのようにゴム手袋が詰まった箱を火蓮に放り投げた。

 それは鑑定用の手袋だ。
 彼女が仕事をしている際に填めていたのを火蓮は見たことがある。

 使い捨て(ディスポ)なので感染症対策はバッチリだ。

「……どうして、一緒に戦ってくれないんですか」
「アタシはお店を守るのに必死なのよ。ダンジョンの目の前にお店があると、こういうとき嫌だわー。ああ、怖い怖い」

 暢気な声を出しながら彼女は頭の後で手を組んだ。
 自分は一切手出しはしないぞ、と。

「…………ッ」

 彼女に言いたいことは山ほどある。聞きたいことも。
 だが今は、なにも言えない。
 言う権利がない。

 火蓮は底辺冒険家だ。
 晴輝に帯同しなければ、魔法が使えなければ、
 何も出来ないただのクズだ。

 それが判っているからこそ、火蓮はきつく唇を噛みしめる。

 どうにかしたいと思えば思うほど、誰かに迷惑をかけてしまう。
 自立した行動を意識すればするほど、甘えが顔を覗かせる。

 そんな奴が朱音に、なにかを言う権利などない。

 何も出来ないことが、
 迷惑をかけ続けていることが、
 無力であることが、
 悔しくてたまらない……。

 火蓮は唇をきつく噛んだまま、怪我をした隊員達に軟膏を塗布していく。

 いまの自分に出来ることは、これくらい。
 このくらいしか、役に立たない。

 その現実を、胸に深く刻み込む。
 二度と今日を、忘れないように。
 そしてこの感情を、二度と味わわないために。

 傷が浅い隊員は、すぐに戦線復帰出来るだろう。
 だが、傷が深い者は少し難しいかもしれない。
 骨折した者は無理だ。軟膏では治せない。

 軟膏で治療しながら、火蓮はもどかしさを覚える。

 自分にもっと力があったら。
 もっと様々な薬品が、鞄の中に入っていたら……!

 怪我で苦しんでいる人達を、救ってあげることが出来るのに!!

「お嬢ちゃん」

 火蓮の苦悩を表情から読み取ったのか、壮年の男性隊員が微笑みながら口を開いた。

「お嬢ちゃんは十分役に立ってる。こうして民間人の代わりに戦って傷つくのも俺達の役割だ。だから苦しまないでくれ。もしどうしても苦しいのであれば――」

 優しい表情から一転。
 隊員は鋭い光をその瞳に宿らせた。

「――次のスタンピードまでに強くなれ」

 その言葉は火蓮に対してだけではない。
 この壮年の男性も、悔しいのだ。
 怪我をして、戦線を離れてしまったことが……。

 だからこれは決意だ。
 もし次にこういう状況に陥るその日までに、もっと強くなってやる。
 誰も傷付かないように、守れる力を手に入れてやると!

 火蓮は力強く頷く。
 民間人のために傷付き、血にまみれ、命を賭ける。
 自分は――冒険家なんだから!

「――ッ?!」

 そのとき、空気が震えた。
 誰かの叫びか悲鳴の音か。

 音のした方を火蓮が振り返った。
 その瞬間、隣で腰を下ろしていたはずの隊員がかき消えた。

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 彼は自らの武器――スコップを手にして、魔物に向けて突進していた。

 その魔物の前には、ランドセルを背負った小さな子供が居た。

 一体何故こんなところに!
 反射的に魔力を練ろうとするが――上手くいかない。

 ここはダンジョンの外だ。
 魔法が発動しない。

 火蓮が藻掻いている間に、動いた隊員がスコップを振り上げる。
 だが、魔物との距離は絶望的に遠い。

 救出が、間に合わない。

 ブラックラクーンに切りつけられた少年が、無残な姿を晒す。
 その光景を想像し、火蓮が目を背けようとした直前。

「――ほいさ!」

 ブラックラクーンの頭が、地面に大きくめり込んだ。

 攻撃をしたのは、壮年の隊員じゃない。
 無論、火蓮でもない。

 朱音だ。

 プレハブの前でくつろいでいた朱音が、20メートルは離れたこの場所まで一瞬で移動していた。

 移動も攻撃も、火蓮の目にとまらなかった。

 一体彼女はどれだけ……。

「僕、大丈夫? 怪我はない?」
「は……はい……」

 怒られると思ったのか。
 朱音が手を伸ばすと少年が首を引っ込めた。

 だが手が乗ると、少年が徐々に脱力した。

「貴様ら、一体なにをやっている!?」

 少年を救おうと走り出した壮年男性が、突如怒号を上げた
 その強烈な声に、戦場の緊張感が一気に張り詰めた。

「す、すんません! こっちが手一杯で……」
「そんなことは聞いてない! 何故子供を助けに来なかったと聞いているんだ!! 貴様らそれでも、K町自衛団か!?」
「――ッ!」

 何故横をすり抜ける魔物を見過ごしてしまったか。
 その身を挺して子供を守ろうとしなかったか。
 彼のそんな言葉に、隊員達が凍り付いた。

 これを聞き火蓮は胸を押さえた。

 彼の怒号には、きっと自らへの怒りも含まれている。
 もし朱音が居なければ、少年は確実に死んでいた。

 自分の力では、一切対処が出来なかったのだ。
 幸運を喜ぶより、彼は自らの力の無さを嘆いてる。

 その言葉が自分に重なり、火蓮の胸が苦しい。

「気を引き締めろ! これから一匹たりとも防衛ラインの外に魔物を通すな!!」
「「「ハッ!!」」」

 隊員達が一斉に気合いの声を発した。
 聞いていて、火蓮さえも身が引き締まるような声色だった。

 厳しい表情から一転。
 男性隊員は朱音から少年を引き継いだ。
 腰を下ろしてにこやかな笑みを浮かべる。

「ボク、こんなところでどうしたんだ?」
「あの……が、学校に……」
「おお、そうかもう学校の時間だったな!」

 ははは、と男性は快活に笑い少年の頭をなでつけた。

 君には一切非はない。だから安心しろ。
 そう諭すような態度に、少年がほんの少しだけ緊張感を和らげた。

「あの……ありがとうございました」
「なあに。みんなを守るのがおじさん達の仕事だからな」

 そう言ってまた、ぽんぽんと少年の頭を撫でる。
 少年の目にはもう怯えはない。

 逆に、朱音や男性に憧れるような光が瞳に宿っていた。

 少年の気持ちが、火蓮にはとてもよく理解出来た。
 彼女もまた、助けられた一人だから。

 自分を救ってくれるヒーローは、いつだって最高に格好良いものだから。
 憧れてしまうのも、目標にしてしまうのも、仕方がない。

「おい、誰かこの子を学校に送っていってやれ!」
「はっ! 自分が!!」

 そう言って、骨折して戦線を離脱した隊員が、怪我を思わせぬ機敏な動きで少年を送っていった。

 少年を助けた本人は既に、プレハブの階段に座っていた。
 足を投げ出し、少年にプラプラ手を振っている。
 緊張感の欠片もない。

 ちょっとは見直したんだけど……。
 彼女の不真面目な態度に、火蓮は気が抜けてしまった。

 それは壮年男性も同じだったようだ。
 朱音の姿を見て苦笑した。

 だがすぐに、彼の顔が一気に苦痛に歪んだ。

 先ほどの攻撃で怪我が悪化したかもしれない。
 火蓮は慌てて男性の傷口に軟膏を塗りつけた。
 痛い痛いと、まるで甘噛みする子犬に文句を言うように彼は声を上げる。

「……良かったんですか? あの子を学校まで送っていって」
「自宅にいるより学校に居るほうが安全だからな。しかし……スタンピードの際の情報伝達は見直さねばならんな。おそらく早朝だから情報が伝わりにくかったんだろう」

 確かに、緊急情報の伝達がなされていれば、子供はこんなところを通りかからなかっただろう。
 あるいは親と共に、自宅に籠もっていたかもしれない。

「まったく、課題が山積みだ。だがまずは今日を乗り越えることが先決だな」
「ま、待ってください! まだ傷が……」
「大丈夫。歳とったおっさんよりも、さらに歳取った爺さんががんばってんだ」

 彼は親指で指さしながら苦笑する。
 防衛戦の一角では、タンクトップ姿で農具を振り回すおじいさんが、未だに戦線を維持している。

 そのおじいさんに、黄色い歓声を浴びせる朱音。
 朱音の歓声に親指で答えるおじいさん。

 ……そういえばあの二人、知り合いだったな。

「負けるわけにゃいかんだろ?」
「はは……」
「舐めんな! 若いもんには負けんわ!!」

 この距離から聞こえていたのか。
 おじいさんが血走った目で男性隊員を威嚇した。

 それにはさすがの隊員も苦笑せざるを得ないようだ。

「まったく、強い爺さんだ。それじゃ、後方支援は任せたぞ。前戦の維持は、お嬢ちゃんの治療の腕にかかってる。そう思って、励んでくれ」
「はい!」
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