24. サフの報酬
薬草などを担当する受付嬢のサリーさんに、ビリーの兄が遺した借金について相談し始めたときだった。
「おっ、なんだ、なんだ? トラブルか?」
ギルド長のガルーダさんがやってきた。
「そんなとこに突っ立ってないで、談話室に入れよ! ギルド長の俺も、手助けしてやるぜ!」
どことなくワクワクした表情の彼にグイグイと押され、皆で、いつもの個室へと入る。
……俺も一緒の部屋に入ってしまったんだが良いのかな? 関係者じゃないんだけど。
部屋の中にいるのは、ビリーとその祖父、テッドとその父、サリーさんとガルーダさんに俺の総勢七名。
人数が多いと、せまく感じる……
指名依頼のときや、ギルドから直接何かを頼まれたとき、また一部の品の買い取りなどで、割とよく使われる部屋だったが――
「んで、何があったんだ? このガルーダに聞かせてみな。俺のバトルアックスに解決できない問題は、あんまないぜ!」
……バトルアックスで解決できない困りごとのほうが、多そうな気がするけど。
「じ、実は死んだ孫が借金を遺しまして……」
ビリーの祖父が、ガルーダさんに説明を始める。
「私の娘が保証人になっているのですが、娘が言うことには額が二桁ほど多くなっていると……」
「なるほど、詐欺か何かかと思っているのか」
ガルーダさんがうなずく。
「うーん……ちゃんとした、契約用の魔法紙を使っていれば、詐欺なんかは難しいはずですが……」
「それは、わからんぞ!」
サリーさんに吠える彼。
「とりあえず、借用書か何かがあるなら見せてみな」
ガルーダさんに要求されたビリーが、慌てて数枚の紙を取り出した。
ちゃんとした、契約とかに使われる魔法紙に見えるな……
もし本物なら、大魔導士と呼ばれるぐらいの一握りの魔法使いじゃないと、これに細工はできないはずだ……
ガルーダさんが、その紙を読み始める。
「……王金貨一枚を借りていることになっているな。……このウィルってのが、あんたの孫の名。んで、こっちに書いてあるのがあんたの娘の名……。……そして、こっちが……詐欺師だな」
「……まだ詐欺師と決まってないですよね?」
突っ込む、サリーさん。
「いや、こいつは詐欺師だな。この前から何度も何度も問題を起こしていたやつらだ。なんか変なトリックを考えついたんだろう」
断言をした彼が、ちょいちょいと俺を手招きする。
近くに寄ったら腕をつかまれ、そのまま別の部屋へ連れ込まれた。
隣にあった、さっきの部屋と同じような、防音性の高い談話室だ。
「なあ、これトーマからのギルドへのお願いってことで、処理しちゃっていいかな? 貢献度の高い冒険者からの依頼ってことになれば、無茶しても、冒険者ギルド内での言い訳が立つんだよ」
二人だけの部屋で、そんなお願いをされる。
「えっと……名前が出たり、目立つのは避けたいんですが」
「問題ない! 『薬草不足回復に貢献してくれる冒険者からのお願い』って伝えるから。しかも言うのは、俺の信頼している一人か二人だけだ! なあ、いいだろ……?」
猫なで声が怖いのだが、まあ、ビリー達が助かるならいいんじゃないかな、とうなずく。
「よっしゃ、よく決断した! この礼は絶対するぜ!」
元の部屋に戻る。
「話はついたぞ! 居所もわかってるし、子飼いの冒険者どもを連れて、ちょっくら話し合いに行ってくるわ! ビリーだっけ? お前らもついて来い!」
そんな宣言をしてビリー達を連れてガルーダさんが出て行った。
なんか「バトルアックスも持ってかないとな」とかつぶやいていたんだが……、話し合いなんだよね?
「不安です……」
そんなサリーさんの独り言が、俺の気持ちを代弁していた。
二人きりになった部屋。サリーさんが、ため息をつく。
「……とりあえず、いつもの薬草などをいただけますか?」
どうやら気を取り直したらしい彼女に促され、俺は薬草の入った袋を渡す。
「あと、これ……ガルーダさんから頼まれていたもので、パープルサフって言うサフ草になります。あっているか確認してもらえますか?」
紫色のレンコンのようなものを、いくつか渡す。
間違っていたときのため、シルバーサフなど色違いのものも出せるように、準備だけはしていた。
「……拝見しますね」
紫色のレンコンのようなものを受け取った彼女が、検分を始める。
「うん……大丈夫そうです」
うなずいたことに、ホッとする。
「他の薬草の鑑定もしてきますが……もし、オーガの素材を売るつもりなら、そちらも一緒に鑑定しますよ?」
ニッコリと笑ったサリーさんが、そんなことを伝えてきた。
……この前、オーガのツノをここで売ったからな。情報が共有されているようだ。
「……よろしくお願いします」
俺は、C級冒険者が使うことを禁止されているような強い毒を使っている。
そのことはバレていないといいんだが……
そんな思いを抱きながら、ツノを渡した。
それらを持って部屋から出て行く、サリーさん。
戻ってきた彼女が持っていたトレイには、王金貨六枚と、その他の金貨銀貨が乗っていた。
「サフ草の報酬が、王金貨三枚になります」
……あのレンコンが?
「存在をほとんど知られていない薬草なのですが、基本、手に入らないものなので……」
レンコンが三千万エーナになったことに驚愕する俺に、そんな解説をしてくれた。
すごいな……