23. 少年たち
魔導投石機や魔動大型連弩を設置した次の日は、薬草の採取をして、すごろくやジェンガで遊んだ。
今日は、採取した薬草を冒険者ギルドに売りに行く日だ――
「昨日の天ぷら、おいしかったねー」
「きゅー」
「今日も、天ぷら食べたいねー」
「きゅー」
イェタ達が、そんな会話を交わしながら、チラッチラッと、こちらを見てくる……
……二日連続天ぷらは胃がもたれるんじゃないかな。いや、食べたいのなら作りますけど。
「……帰ってきたら作ってあげるから、おとなしく待っているんだよ」
「わーい!」
「きゅー!」
そんな会話を寝室で交わした。
町が苦手だというブラウニーは、城でお留守番。
俺は彼女達に見送られながら、町へと出発した。
森の中を、周囲を警戒しつつも踏破。
途中、ゴブリン二体やイノシシの魔物を倒し、町についた。
「あれ……あなたは……」
冒険者ギルドに向かう途中、路上で声をかけられる。
声をかけたのは少年で……
「……もしかして、ビリーか?」
前に森の中で会った、オーガに襲われていた子だ。
横には、そのときに一緒にいたテッドと呼ばれていた少年と、俺の知らない老人と中年の男性の姿があった。
……四人とも、ずいぶんと暗い顔をしている気がするが。
ビリーが老人に何かを伝えると、彼が弱々しい笑みを俺に向けてくる。
「おお……あなたが、孫を助けてくださった冒険者の方ですか……」
「え……ええ、トーマといいます」
今にも死んでしまいそうな彼の様子に、ちょっとビビる。
「ど、どうかされたのですか……?」
おせっかいかな、と思ったのだが、何かできることがあればと彼に問いかける。
「いえ……」
口ごもってしまう、老人。
ビリーも何かを言おうとしたのだが、途中で同じように口ごもってしまった。
代わりに吐き捨てたのがテッドだ。
「ウィルのやつだ。……あいつ、借金を残していきやがった」
……ウィルというのはビリーの兄、あの時オーガに殺されていた少年の名だな。
「ただ、その借金の金額がおかしくて……。母が保証人になっていたようなのですが、王金貨一枚もの金額ではなかった……金額が二桁ほど多くなっている、と……」
……ちゃんとした契約書なら魔法が込められている。
細工をするのは難しいはずだが……
「心臓の薬はあるんだが、ビリーの母親は体調が悪化してな……。それで町の冒険者ギルドに、俺の親父やビリーの爺さんと相談に来たんだ……です」
慣れていなさそうな敬語で、テッドが話してくれた。
……冒険者ギルドは、こういう相談にも乗ってくれるが、あまり頼りにならないことが多い。
B級とかA級以上の冒険者になると、けっこう親身になってくれるらしいんだが。
「冒険者ギルドで大丈夫なのか……?」
俺の質問にビリーはうなずく。
「はい……。職員でサリーさんという方がいるのですが、彼女が、こういう問題にも詳しいと聞きまして」
「サリー……?」
誰だ?
「薬草や希少鉱石などの鑑定を担当している方です」
……もしかして俺がいつも薬草を渡している受付嬢かな。
鉱石も、彼女の担当の一つだ。
木の採取依頼なんかも担当していたし、こう考えるとけっこう多才だな……
「……トーマさんも、冒険者ギルドに行くところですか?」
ビリーに聞かれた俺はうなずく。
「そうだよ」
「そうですか! 改めてお礼を言いたかったので、ちょうどいいです。ギルドまで、僕たちもご一緒していいですか?」
「うん、問題ない」
ビリーが、無理に笑顔を見せているような感じなんだよな……
イェタも文句言わないだろうし、王金貨一枚ぐらいなら、貸すことはできそうか……
もし、彼らが詐欺に引っかかっているならば、できるならその詐欺師をどうにかしたいところではあるが。
「……ギルドへの相談がうまく行かなかったら、そのときは俺にも声をかけてくれ」
そんなことを伝え、彼らと冒険者ギルドへと向かうことになった。
「こんにちは……、今日はどうされたんですか?」
いつも薬草を渡している受付の女性。
俺の顔を見て、次にビリーたちを見て、首をかしげている。
「サリーさんに用事があるらしくて……」
この人がサリーさんなのかな、と思いながら伝えると……
「……もしかして、私への相談ですか?」
キリっとした表情になった彼女。
その言葉に、ビリーたちがうなずいていた。
ビリーの祖父が前に出る。
「どうも、うちの家族が詐欺にあい、ひどい借金を負わされたんじゃないかと思っとりまして……」
彼が、そんな説明をしていたときだった。
「おっ、なんだ、もう来てたのか!」
ギルド長のガルーダさんが、俺に話しかけてきた。
受付の近くにいるのは珍しいが……
「あっ、なんか面倒ごとが起こりそう……」
そんな、つぶやきをサリーさんが漏らしていた。
ガルーダさんが関わってきたから、そう思ったのだろうが……
『顔は怖いが、親しみのもてる偉い人』ってイメージだったのだが、じつは事態をかき回すタイプの人でもあるのだろうか。