19. 混入
サフ草という、ハスに酷似した、池などに生える植物を欲しがるガルーダさん。
俺が持っていた薬草図鑑にも載っていなかった薬草だな……
「……どうだ? 手に入れてこれそうか? 知り合いのお偉いさんに渡す品として、あるとありがたいんだが……」
ギルド長のガルーダさんは、それを知り合いへの贈答品、もしくは賄賂として欲しているらしい。
「……確約はできませんが、もしかしたら」
薬草園の池に生えているのが、それかもしれない。
「そうか、そいつはよかった! もし手に入れたら、薬草を納品するときにでも一緒に持ってきてくれ!」
「はい」
俺は、うなずく。
「あと、もう一つ質問なんだがよ……」
真剣な様子の彼。
「トーマは、ここ以外には薬草を売ってないよな……?」
……高価な薬草をいくらでも手に入れられることが周囲に知られるとトラブルが起こりそうだ。
うまくごまかしてくれる、この町の冒険者ギルド以外と取引するつもりはないからな。
「……ガルーダさん達にしか、薬草は売っていませんよ」
「そうか……」
その返答に考え込んだ様子で、ゆっくりと話を続ける。
「……実はユモン・スカルシアという貴族が、どこからか魔の森の薬草を大量に手に入れたみたいでな。そいつが他の貴族達に、薬草を売りまくっているみたいなんだが……」
俺の顔を、じっと見る彼。
「……あいつは王族に気に入られているが、ダメ貴族だ。もしダークエルフ達が、あれにかかわっているようなら、手を引くように伝えてくれないか?」
……ガルーダさんは、俺がダークエルフ達から薬草を手に入れていると思っている。
ダークエルフ達は、過去、薬草が品薄になったとき、裏でこっそり人間の社会に、薬草を供給していたことがあったそうだ。
そのときのように、そのダメ貴族にもダークエルフ達からの薬草の供給があったと考えたんだろう。
俺に言えば、彼らにも伝わると思ったんだろうが……、俺、ダークエルフとは何の関係もないんだよね……
「……王族が気に入っているのにダメ貴族って珍しいですね」
どうしたら良いのかわからず、話をそらしてしまった。
「……ああ、この国の王族は、代々、皆がちゃんとしているからな。ただ、古い歴史を持つ貴族……この国の初代王である聖剣の英雄王には、庶子がいたんだが……そこにつながる血をもつ家系に、みょうに甘いところがあるんだよ」
そうだったのか……。そういう家系に、おかしな人間が産まれると、ダメな貴族ができあがるんだろう。
やっかいだな、と思っていると部屋のドアがガチャリと開く。
「お待たせしました」
薬草担当の彼女だ。薬草の鑑定が終わったようだ。手に持つトレイには、王金貨が五枚に、その他の金貨銀貨がのっている。
「……あれ? この前の報酬は、王金貨三枚ぐらいじゃありませんでしたっけ」
たしか、前回と同じ薬草しか持ってきていなかったはずなんだが。
「ええ……。今回は、貴族様が欲しがる薬草が混じっていましたので、その分報酬が高くなっていますよ」
俺の疑問に、首をかしげながら彼女が答える。
……そういえば、今回はブラウニーが手伝ってくれたんだよな。そのときに採取するつもりのなかった薬草まで、混じってしまったのかもしれない。
「報酬は王金貨五枚か……。……そろそろ王金貨も十枚ぐらい貯まったんじゃないか? 何なら聖剣晶貨に両替するか?」
ガルーダさんは、そう言うが、持っている王金貨は九枚だ。
他の大金貨やらを足せば、王金貨十枚……聖剣晶貨一枚分ぐらいになっているだろうか。
一億エーナだから、物価の低い村とかなら、悠々自適で仕事をせず生活できそうな金額だな。
だが両替は……
「細かいままのほうが使い勝手がいいので、遠慮しておきます」
そう断ると、ガルーダさんが残念そうな顔をしていた。
……この前、『聖剣晶貨も用意しておいたほうが良いか?』なんてことを聞いていたから、わざわざ俺のために用意してくれたのかもしれない。
「あっ、あと質問なんですが、行方不明のブラウニーとかの情報ってありませんかね?」
「保護したのか?」
「ええ、森で」
ガルーダさんに、うなずく。
「行方不明のブラウニーを探している方は、今のところいなかったと思いますが……。もし情報が入ったら、トーマさんが冒険者ギルドに来訪されたときにお伝えしますね」
薬草担当の彼女が、そう言ってくれたので、「ありがとうございます」とお願いをする。
用事を終えた俺は、二人に挨拶をして部屋を出て、ついでに受付に行き『倉庫』に入れっぱなしのオーガのツノを売ることにした。
「これは……途中から折れてしまっていますね。もう少し根元から折り取るか、抜き取っていただかないと……」
鑑定してくれた人の言葉だ。
まあ、オーガが地面に倒れたときに、たまたま折れたものだからな……
このせいで買い取り価格は半額になったが、それでも銀貨五枚、五千エーナになった。
俺がよく使っていた宿の一泊分と同じ値段だな。