18. ハス
翌朝――
今日は、冒険者ギルドに、採取した薬草を売りに行く。
弓を持って外に出ようとしたのだが……
「きゅっ!」
なんかブラウニーが俺の背中に登ってきたぞ。
一緒についてこようとしているのか?
「……今日は町に行く日だから、君はお城で待っていてね」
まあ、それ以外にも、いくつかの実験をするつもりだが……
俺はブラウニーを抱き上げ、イェタに渡した。
「じゃあ、イェタ。このブラウニーの様子を見ていてあげてね……。一応、冒険者ギルドについたら、行方不明のブラウニーがいないか聞いてくるから……、多分、ダークエルフたちの従魔だとは思うんだけどね」
……ダークエルフの従魔だったら、どうやって主人を見つけてあげればいいのかな。
彼らがいそうな森の奥まで、こいつを連れて行けばいいのだろうか。
「うん、わかった! まかせて! トーマも気をつけてね!」
それに「うん」とうなずいて、彼女に見送られながら、町へと歩き始めた。
そして、途中、森の中を流れる川にたどり着く。
「ここなら大丈夫かな……」
『投げて割ると、良い感じに大炎上する』という唐辛子の濃縮霊薬……、それを試したいと思っていた。
森で試すと、木に火が燃え移りそうだが、開けた石の川原のようになっているこの場所なら平気なはず。
慎重に、燃えるものの無さそうな場所を見定める。できるだけ川に近い位置がいいかな……
唐辛子の濃縮霊薬を『倉庫』から取り出すと、そこに向かって「えい!」と投げた。
パリーン、というガラスが割れる音のあとに、ボン、という爆発するような音が続く。
「うおおお!?」
ビンが割れた場所から、円形に広がる炎。
六メートルぐらい先の大岩めがけて投げつけたんだが、そこから俺の足下近くまで、炎が来ている。
ついでに、かなり離れたところにあった木の近くでも火が燃えていて――
「水ーっ!」
木のバケツを『倉庫』から取り出し、あわてて消火活動を始めた。
霊薬の力か、川の水をかけても、なかなか消えなくて困ったよ……
魔力が尽きるまでの二十秒か三十秒、ひたすら燃え続けていたな。
「……これは森では使いにくいな」
今回は、たまたま問題なかったけれど、下手すると森林火災が起きそうだ。
二つ三つお守り代わりに持っていてもいいのかもしれないが……
火種が残っていなさそうなのを確認し、俺は川原から離れた。
「あとは、イール草の濃縮毒を試したいんだけど……」
そんな風に思いながら歩いていたら、単体で活動するゴブリンを見つけた。
(よし……)
濃縮毒を塗った矢を弓につがえ、気がつかれないように静かに近づく。
狙いをつけ放った毒矢は肩に突き刺さり、一瞬でゴブリンの命を刈り取っていた。
(……でも、普通の濃縮していないイール毒でも、一瞬でゴブリンを倒せるからな。正直、どのぐらい毒が強くなっているのかわからない……)
悩みながらも死骸を回収。
剥ぎ取るべき素材は無いので、そのまま倉庫行きだ。
移動を再開し森を抜けると、昼には町にたどり着いた。
「すみません、買い取りをお願いします」
冒険者ギルドの中、他の冒険者への対応を終えた、いつもの受付嬢――薬草などを担当する女性だ――に声をかける。
「こちらへ」
案内され、個室へ。いつも通り、袋に入った薬草を納品した。
そして彼女が薬草の鑑定をするため別の部屋へ行き、しばらくが経ち――
ガチャリと扉が開き「よう!」とギルド長……ガルーダさんが入ってきた。
……なんか、これもいつもの風景になってしまったな。
「ちょっとトーマに聞きたいことがあるんだけどよ……」
そう言って彼が紙を一枚、手渡してくる。
「かなーり珍しい薬草なんだがな。どうにか、そいつをダークエルフ達から手に入れられねーか?」
……紙には、彼が欲しい薬草についての情報がかかれていた。
サフ草という植物の根っこ部分にできる『実』のようなものを、いくつか欲しいらしい。
サフ草というのは、ハスに酷似した薬草で、池などに生える水草だそうだ。
ハスの根の部分には、『レンコン』という名の根菜ができるのだが、それと同じ部分にできるものなのだとか。
「ハスに酷似した植物……ですか……」
「ああ、酷似というか……、根っこのとこを掘ってみないと、違いはわからないそうだがな」
それを聞いた俺の脳裏に浮かんだのは、薬草園にある池……そこに生えるハスの姿だ。
イェタが時々、上に乗って遊んでいた葉っぱだったが、あそこの薬草園にある植物は、ほとんどが薬草だったからな。
あれもハスじゃなくて、サフ草なんじゃないだろうか……?