17. ブラウニー
翌朝――
「きゅっ? きゅう?」
いつもの寝室の中、そんな耳慣れない何かの鳴き声で、目を覚ました。ブラウニーの鳴く声だ。――小人のような外見だが、しゃべれる魔物は少ないからな……
目を開けると、イェタも、もう起きていたようだ。
なんか、ブラウニーと見つめ合っている。
「おはよう、イェタ」
「おはよう!」
「ブラウニーも、元気になったか?」
「きゅっ?」
話しかけられたことがわかったのだろう、俺を見てブラウニーが首をかしげている。
怪我はもう大丈夫そうだが、念のため……
俺は『倉庫』からレドヒール草を出し、それをあげた。
「きゅっ!」
両手でレドヒール草をつかみ、もぐもぐと食べるブラウニー。
「あっ、わたしも、あげたい!」
イェタが、カーマ草を取り出し与えようとしていたので、あわてて止める。
オスかメスかわからないから……
代わりにクッキーを取り出し、彼女に渡した。
「クッキー、食べてるー! かわいいーっ!」
イェタの手から、直接クッキーを食べるブラウニー。
もともとおとなしい従魔だが、ずいぶんと人に慣れている。
「じゃあ、とりあえず朝食でも食べようか?」
「うん!」「きゅっ?」
彼女たちを連れ、調理場に移動し、バターを引いたフライパンでハムと薬草を炒める。塩と胡椒で味付けをし、その野菜炒めをパンと一緒に彼女達に出した。
「薬草がしゃきしゃきするねーっ!」
「きゅっ! きゅっ!」
食用の薬草に、ちっちゃなニンジンっぽいものや、ちっちゃなキャベツみたいなものがあった。それを材料にしたせいか、思ったよりおいしくできたようだ。
「食べたーっ!」
「きゅっ!」
食事を終えた俺達は薬草園へ。
そろそろ採った薬草も復活しているはずだ。
「おー! 元に戻ったねー」
「今日は薬草採取して、明日またギルドに薬草を売りに行く感じかな……」
「きゅっ?」
そんな感じで、俺達は薬草採りを開始。お昼ちょっとすぎまで、作業をした。
「終わったー!」
「きゅー……」
今日は、前よりも手早く終えることができた。
途中からブラウニーが参加してくれたおかげだな。
ブラウニーの従魔は器用で、家の使用人として使われることも多い。
薬草採取の手伝いも問題なくこなせたようだ。
それじゃあ、あとはどうするかな。この時間帯なら、少しだけ魔物狩りをできるかもしれないが……
「トーマー! 遊ぼうっ!」
イェタに声をかけられたので、そちらを見ると、彼女が箱のようなものをいくつか持っていた。
「……何、それ?」
「おもちゃ! 城の遊戯室にあったから持ってきた!」
あー……
「それもいいかな……。ちなみに、魔物狩りのほうは……」
「遊ぼう!」
断言をされたため、城の寝室に行き、『おもちゃ』とやらで遊ぶことにした。
「三つ持ってきた! 『リバーシ』に『ジェンガ』に『すごろく』! どれからする?」
聞きなれない名前のゲームに戸惑う。
イェタも初めて遊ぶゲームのようだ。説明書を読解しつつ彼女と遊ぶことになった。
イェタにあわせて、ハンデとかつけたほうが良いのかな、と思いながら一通りやってみたんだが――
「きゅう、きゅう!」
積み上げられた、『ジェンガ』のブロック。その一つを片手でツンツンし、抜いたブラウニー。
「きゅう!」
イェタに渡すと、彼女がそれをジェンガの一番上に積んだ。
イェタは『すごろく』以外、どれも弱かったため、ジェンガのときは、ブラウニーに勝負を手伝ってもらうことにしたようだ……
そして、このブラウニー、ジェンガがめちゃくちゃ強かった。
背の低さのせいで上のほうのブロックは抜き取りにくそうだったが、それでも『そこ絶対くずれるだろ』ってとこに挑戦し、見事にブロックを抜き取っていく。
罠を解除する能力がある魔物だから、手先が器用なんだろう。
「トーマの番だよ!」
……なんか、どこ狙っても崩れそうなんだよな。
崩れてしまうと負けだから、気をつけないと……
俺は一つのブロックに狙いを見定め、それを指で静かに押した。
「あっ」
悲鳴とともに、ぐらぐらと揺れるジェンガ。
ど、どうにか止まったか……
「おおー」
感嘆の声をあげながら、取りかけの、一本だけ突き出たブロックをつんつんとするイェタ。
けっこう、グラングランしてるから、やめて……
「……しかし、これ、もう無理なんじゃねーかな」
そんな弱気な発言をしながらも、その一本をどうにかこうにか抜いた。
「次は、わたしの番だよ!」
そう言いながら、ジェンガの近くに、ブラウニーを置く彼女。
「きゅっ!」と応じたブラウニーが、ちょんちょんちょんとジェンガのあちこちをつっつく。
それでバランスが整ってしまったのだろう……、ブロックの一本に狙いを定め、軽々と押し抜いていたよ。
リバーシなら負けないんだけど……ってのは負け惜しみだろうか。