13. もじゃもじゃ
風呂を終えた俺たちは、夕食を食っていた。
作ったのは、調理場のレシピブックに載っていた『フライパンで簡単! お好み焼き』という料理。イェタからリクエストされていたものだ。
そして、できた熱々の『お好み焼き』に『ソース』と『けずりぶし』というのをかけたんだが……
「なんだ、これ……」
お好み焼きの上に乗せた『けずりぶし』が、モジャモジャ動いている。
まるで魔界の生き物のような……
前に使ったときは、こんな動きはしていなかったと思うんだが。
「わー、けずりぶしが、おどっているねー!」
踏み台に乗って、それを見るイェタは楽しげなのだが……
「こ、これ、けずりぶしが踊るっていうのか?」
「うん! たぶん、そう! レシピブックの『らんがいコラム』に書いてあったから! ここ!」
あっ、本当だ……
「いっただっきまーす!」
躊躇しないイェタが、フォークを持ち、フライパンから直接お好み焼きを食べる。
「あついー! でも、おいしー! トーマも食べてみてー!」
フォークでザクリとお好み焼きを刺し、俺の口にそれを運ぼうとするイェタ。
――もじゃもじゃと蠢く、けずりぶしが乗るお好み焼きを……
くっ……どこの誰だ。こんな悪魔のような食べ物を考えついたのは!
「はい、あーん!」
半泣きになりながら、それを食べると……
「ん……、あれ? これ、すごく、おいしい」
ふわとろアツアツの、今までにない味だった。
このレシピブックの料理、どれもスゴイな……
そんな風にして食事を終え、今は後片付け中――
「ねーねー、トーマー、今度ポイントが貯まったら、石壁とか投石機つくろうよー。そうすると、お城っぽくなるー」
イェタが、おねだりする感じで話しかけてきた。
「……石壁とか投石機なんかも作れたのか」
「うん! 城レベルアップするときに、そういうのが新しく作れるようになるって書いてあった! あと宝物庫とか調合室とか、いろいろ新しく作れるようになるみたい!」
へー。
「他には、どういうのが作れるようになったかとかは、わかんないのかな?」
「うん! わかんない!」
……なるほど。
実際にポイントを獲得すれば、確認できるようになる感じだろうか。
彼女が挙げた施設の中で、個人的に気になったものがあったのだが……
「調合室ってのは、薬草関連の調合が出来る部屋なのかな?」
「ん? トーマは、調合室が気になるの?」
「うん……、持っている毒を強くできればいいなー、と思ってね」
「おー……、……そうすると、トーマ、魔物いっぱい倒せる?」
「わからないけれど、強い魔物をいっぱい狩れるようにはなる」
彼女に言う。
「ポイントのことだけ考えると、ゴブリン中心の狩りでも良いのかもしれないけれど、いざという時のために冒険者ギルドのランクも上げておきたいんだ」
B級になるといくつか特典があり、問題が起こったときもギルドから、かばってもらいやすくなる。
また、強い魔物を倒すことによる身体能力の強化もあった。
C級に上がった人間がオーガを安定して狩れるようになるのにはかなり時間がかかるというが、それでも強くなればイェタを守りやすくなると、そんな説明をしようと思ったんだが……
「うん、いいよ!」
あっさりと、うなずく彼女。
「トーマのこと信頼してるし、トーマがそう言うんなら、わたしも調合室、試してみたい!」
……正面から『信頼している』と言われると気恥ずかく感じるものの、うれしくもある。
「……じゃあ、あとは冒険者に、この城が見つかったときの対策かな」
前々から思っていたのだが、森の中にある城っぽい建物は目立つ気がする。
周囲の木々で隠されているから、意外に見つけにくくはあるんだが。
「んー? それなら大丈夫だよー」
彼女は、こてん、と首をかしげた。
「城の住人や、城の中にいる生き物が招かないと、普通の生き物は、この城のことに気がつけないよー」
あれ、そうなのか。
城が目の前にあるのに、そのことに気がつけない。
そんな認識阻害の結界のようなものがあるのだろうか。
「なんか、ダークエルフさんが自分たちの薬草園にかけているのと同じような強い魔法なんだってー」
……たしかに、それはすごそうだ。
噂では、ダークエルフたちは、魔法の優秀な使い手だって話だから。