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11. C級昇格

 自分の兄が亡くなったことを知り、ショックを受ける冒険者の少年。

 彼の話を聞き、なぐさめていたら、もう一人の気絶していた少年が目を覚ましたようだ。

 たしかテッドと呼ばれていたか。さっき調べたときは、出血も止まっていて、特に体に問題は無さそうだったが……


「う、うう……」

「大丈夫かい?」


 目を覚ましうめき声をあげる彼にも、俺は霊薬を渡そうとする。


「あなたは……? それにビリー……、なんで泣いてるんだ?」


 俺を見て、次に兄が亡くなり涙を流している友人の姿に気がつく。


「そうだ、オーガが!」

「その魔物なら、すでに死んでいるよ、安心していい」


 ボーっとしていた頭がハッキリしたのだろう。魔物のことを思い出し、飛び起きようとする彼をなだめ、その手に霊薬を握らせた。


「さあ、飲んで。傷を癒す霊薬だ」


 ゆっくりと霊薬を飲む彼が、地面に横たわる少年の死体に気がつく。


「ウィ、ウィルのやつは……」


 死んだ少年の名前なのだろう。

 俺は「残念ながら……」と首を振った。


 ウィルは、俺の目の前でオーガに殴り飛ばされていた少年だ。

 あの一撃に耐えられなかったんだろう。


「ごめんなさい、兄さん……」


 いまだ涙を流しているビリー。

 さっき慰めていたとき、自分の体力が保たずオーガに追いつかれたと、そんなことを言っていた。


「……泣くな、ビリー。お前がいなきゃ薬草は見つからなかった」


 テッドが、なぐさめる。


 ビリーから聞いた話によると、彼らは薬草採取のため森に入ったらしい。

 ウィルとビリーの母……、その心臓の持病のための薬草だ。


 今年は薬草があまり採れない年――

 森の浅い部分で薬草が見つからず、ついオーガが出るようなところにまで踏み行ってしまったとか。


(……しかし、自分を助けるために息子が森に入ってくれるってのは嬉しいのかもしれないが、それで死んじまったんじゃな)


 母親の気持ちを考えると、複雑な気分になる。


「あ、あの……」


 声をかけてきたのはテッドだ。


「どうしたんだい……?」

「いえ……霊薬やお礼のお金とかを払いたいんですが……」


 言葉を濁す彼。

 お礼も含めて、どのぐらい払っていいのかわからないのだろう。


「銀貨七枚ちょっとの霊薬だし、あのオーガの死体でいいよ」


 倒れて動かない魔物を指す。


「で、でも、あれ、俺たちが倒したわけじゃ――」

「俺も、他の冒険者に助けられて霊薬をタダでもらったことがあるから気にしないでくれ」


 ……まあ、助けたお礼として、けっこうな金を要求されることも多いみたいだが。


「それより、薬草は手に入れたんだろう? 彼の遺品なんかを持って、早く帰ったほうがいい」


 ビリーの兄の死体を示すと、テッドは「すみません」と頭を下げた。

 彼らはギルドカードやお金、武器、遺髪などを遺品として持ち、村への帰路についた。


 本当は、送っていったほうが良いのかもしれないが……、彼らの村と俺が行きたい町は微妙に方向が違う。

 オーガなどは基本、魔力が強い森の奥にいるはずだし、この辺の魔物なら彼ら二人でも問題なく対処できるそうだから大丈夫だろう。


 彼らの母親のように、薬草を必要としている人は多そうだ……


 彼らを見送った俺は、オーガの死体に近づく。

 頭から地面に倒れたせいで、片方のツノが折れている……

 折れたツノと死骸を『倉庫』に入れた。


 ウィルの死体も倉庫に入れて、あとで墓を作ってやることはできるが、城の近くに埋めると魔物が来そうなんだよな……

 町と違って、火葬する設備もない。


 イェタから求められていたのは魔物の死骸だけだし、説明もなく、少年の死体が『倉庫』から出てきたら彼女も驚くかもしれない。

 俺が襲って殺したとか思われても大変だしな。


 迷いながらも結局、少年の死体は森に放置することにした。


 そして道中、狼の魔物を倒したりして、町の冒険者ギルドまでやってくる。

 建物の中へ。


「トーマさん!」


 最近いつもお世話になっている受付の彼女――薬草の確認などを担当する女性だ――が、俺に気がついた。

 挨拶をする俺達。


「こちらへ」


 彼女の案内で、個室へと入った。


 ギルドには『大量の薬草を誰がギルドに持ち込んでいるのかわからないようにしてくれ』というような要望をしていた。その要望を叶えるため、密室で取引をおこなうようだ。


「確認をお願いします」


 部屋の中、薬草の束が入った袋を彼女に渡す。


「す、すごい量ですね……」


 ちょっと笑顔がひくついているな。


「別の部屋で査定をしますので、少々お待ちください」


 彼女が部屋から出て行った。

 そのすぐあと――


「おうっ、トーマ、待っていたぞ」


 部屋の扉が開き、男性が入ってくる。

 この冒険者ギルドの長、ガルーダさんだ。


「受け取れ」


 彼が、何かを俺に投げた。

 顔面に向かって飛んできたそれを、あわてて受け取る。


「これは……」


 ギルドカード……?

 俺の名前などが書いてあるが、ランクがC級となっている。


「薬草を大量に持ち込んでもらっているからな。今はD級だったろう? ワンランク昇格だ」


「おおっ」


 ほとんどイェタの薬草のおかげだが、すごく嬉しかった。

 あっ、でも……


「『試験』とかは受けなくていいんですか……?」


「ああ。C級になってくれると、なんかあったときにお前さんをかばうのが楽だからな。ギルド長の権限で、時間がかかる戦闘試験は免除した」


 ちょ、ちょっとコネを使い倒した感じがして罪悪感があるぞ。


「まあ、トーマの達成した依頼などを見る限り、C級で購入できるようになる魔物用の毒を使えば、C級下位としてじゅうぶんやっていけると判断できたのもあるしな……」


 そうなのか……


 俺は、前にいた町のギルドでは、もうすぐC級といわれながらも『冒険者としては性格が甘すぎる』という理由でランクアップを見送られ続けていたんだよ。


 その後、信頼していたパーティーメンバーに金を持ち逃げされたりして、もう何もかもイヤになってしまったんだ……


 心機一転、拠点をこの町に移して正解だった。


 C級は経験を積んだ冒険者である証。

 村や小さな町だと、トップのランクがC級であることも多い。


 試験を突破しての獲得でないのは残念だったが、ひとつの壁を突破したような実感はあった。


「――お待たせしました」


 感慨に浸っていたら、薬草の査定を終えたらしい彼女が戻ってきた。


「王金貨三枚か……」


 トレイに乗った金貨銀貨を見てガルーダさんがうめいた。

 一枚一千万エーナの王金貨が三枚。その他、金貨銀貨も乗っている。


「聖剣晶貨も用意しておいたほうが良いか……?」


 彼がつぶやいた聖剣晶貨とは、一億エーナの価値がある硬貨。

 見たことはないが半透明の宝石っぽいお金らしい。

 この国の初代王、『聖剣の英雄王』にちなんだ名だ。


 今回持ち込んだ薬草は庶民向けや冒険者向けのものが大半だった。

 たしかに貴族向けの高い薬草を持ち込めば、この三倍以上の報酬を得られるかもしれない。


「それと、こちらを」


 女性が小冊子を渡してくる。


「ガルーダさんからC級昇格の話はあったと思いますが、今の薬草の他に、C級クラスの魔石……、もしくは、こちらの魔物素材を納品し続けていただければ、B級昇格への後押しができますので」


 見ると魔の森で狩れるC級冒険者用の魔物や、そういう魔物から取れる薬とかの素材のリストか。

 小冊子は、このギルドが、昇格した冒険者用に独自に配っているものらしい。


 ――ここに載っている魔物を狩りつつ、その魔石か魔物素材をギルドに売れば良いみたいだが……、死骸はイェタが必要だからな。載っている魔物も、ほとんどがパーティーで対峙すべき魔物だし……


 ……あっ、でも、ここに『オーガの肝』ってある。

 強い毒を使ってしまうと、使い物にならなくなるようだが……

『オーガのツノ』も納品できるな……

 ツノには血管がないから、こちらは何の毒を使って倒しても大丈夫みたいだ。


 ……たしか、町に来る途中、オーガの死骸やツノを手に入れていたな。

『倉庫』に入れた物品を意識すると、オーガの死体は消えていたが、ツノは残っていた。


 多分、死骸はイェタがポイント化したんだろう。

 ツノぐらいなら、取ってしまっても問題ないようだ。


 まあ、麻痺毒も持っていないはずの元D級冒険者が、これをギルドに納品するとおかしく思われるかもしれないけれど……


 魔石を取り除いた死骸でもポイントにできたりしたら、ギルドに魔石の納品もできるかもしれない。

 一度イェタに相談してから、試してみるか。


 考え込んでいる俺に、ガルーダさんが声をかけた。


「トーマが戦闘試験を突破できるかはわからんが、B級になってくれると、こちらも便宜(べんぎ)(はか)りやすい。ただ、無理はするなよ」


 ……B級となると、首都や大きな町でのトップ達だ。顔役であることが多い。

 多くの冒険者が目指すランクではあるが、あくまでも命優先だからな。


 ガルーダさんに「はい」とうなずき、王金貨なんかを小さな袋へと入れた俺は、お礼を言って部屋を出る。

 人目のないところで、お金を『倉庫』にしまった。


 ついでにギルドカードを出し、C級以上の冒険者しか買えない、例の麻痺毒を受付で買ってみることにした……


「ひとつ六万エーナになります」


 おお、本当に買える。

 親指ほどの大きさの小ビンで六万エーナは、けっこう良い値段だ。――麻痺毒の矢を五つか六つ作れば終わってしまうんじゃなかろうか?


 ただ、この毒が高性能なら、大量にあるお金をここに使うのも良いかもしれない。

 プロが作ったものだし、俺が自分で作ったものより、使い勝手が良い可能性がある。


 一応、霊薬……人の魔力を混ぜ入れて、使い勝手や効果をよくしたり、能力を変質させたものなのだろうか?

 見分けがつかない。


 とりあえず、イェタからお金は好きに使って良いとは言われているし、夜にでも麻痺の毒矢を作って、明日試してみるか……

 そう結論を出し、麻痺毒の小ビンを五つほど購入した。


 オーガのツノを売るのは次に町に来たときかな。


 俺はギルドを出て、夕食の材料や毒で剣が傷んでしまったときのことも考え、武器の予備を購入。使った霊薬なども補給。

 今日はオーガ戦でも時間を使ってしまっていたから……、他の店にはよらず、帰路についた。

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