表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/801

1943ローマ降下戦15

 ナポリから出撃する艦隊を主攻、タラントからの別働隊を助攻とする今回の作戦の内容自体は比較的単純なものだった。予想されうるイタリア半島本土における国際連盟軍の上陸作戦に対して、確認された上陸地点に実質上イタリア海軍に残存する全戦力を持って突撃を敢行するというものだったからだ。



 最終的に作戦の目標となるのは、橋頭堡に上陸した国際連盟軍の部隊や補給物資、そして上陸前のそれらを満載しているはずの輸送艦群だった。

 シチリア島、及びサルディーニャ島における戦闘などから得られた戦訓を分析した結果、国際連盟軍が上陸作戦を実施する場合、その第一波は上陸戦闘に特化した部隊となることが確認されていた。

 そのような部隊は揚陸戦用の特殊な船艇や水陸両用車両などの上陸戦闘用の機材を集中的に配備される一方で、大威力の野砲などの重火器の装備は少ないようだった。おそらく装備を軽易なものに抑えることで迅速な上陸を可能にしているのだろう。


 ただし、重火器の保有数が少ないとは言っても、それは国際連盟軍の他部隊と比較しての話だった。

 最近では簡便で重量の割に大口径となるロケット砲を歩兵連隊や大隊などが装備することも少なくないし、日本軍では軽戦車並みの装甲と火力を持つ水陸両用戦車とでも言うべき車両も運用していたから、少なくとも重装備に乏しいイタリア軍の一般師団との近接戦闘であれば火力でも遜色ないはずだった。



 だが、上陸戦闘用の特殊な機材は構造が複雑となるし、素材も通常の戦闘車両などとは異なるから高価なものとなるはずだった。もちろんそれを取り扱う将兵も特殊な訓練を受けているはずだった。

 裏を返せば上陸戦に特化したそのような部隊や機材を撃破することが出来れば、上陸作戦そのものを阻止することができるのではないのか。少なくとも今後の作戦を遅滞させる効果は望めるはずだ。


 現在の国際連盟軍は大口径の榴弾砲や重量級の戦車の配備によって格段に重装備となっており、イタリア軍は勿論、北アフリカ戦線から撤退して補充が完了していないドイツ軍でさえ手に余る相手となっていた。

 しかし、火力の低い上陸戦用の部隊であれば艦隊が急行するまでの間くらいは友軍地上部隊でも足止めすることは不可能ではないだろう。ベルガミーニ中将ら艦隊司令部はそう判断したようだった。



 もっとも、実際にはかなりの僥倖を得ることでもない限り、イタリア艦隊が国際連盟軍の上陸地点にまでたどり着くことは出来ないのではないのか。そのことはボンディーノ大佐だけではなく、少なくない将兵が気が付いているはずだった。

 上陸岸が無防備で開放されているわけはなかった。周辺海域には間違いなく有力な敵艦隊が遊弋しているはずだった。

 先のシチリア島上陸作戦時に確認された戦力と同等だとすれば、少なくともイタリア艦隊と同程度の戦艦、遥かに優勢な軽快艦艇群が待ち受けているはずだった。

 しかも、地中海方面に展開する国際連盟軍指揮下の艦隊は日英混成のものだったが、英海軍が少なくない数の艦艇を英本土と各地を往復する船団護衛に回している一方で、日本海軍は保有する大型空母の大半を地中海に投入していた。

 最近では船団護衛に当たる簡易な空母も地中海で確認されていたから、それらも合わせれば日英合計10隻を超える空母が艦隊に同行しているのではないのか。


 日本海軍の大型空母は、戦前に確認されていた天城型の要目からすれば最大で100機弱もの艦載機を運用できるから、それと比べれば精々20機程度しか搭載できないと考えられる護衛空母は大した戦力にはならないようにも思える。

 だが、洋上で運用できる航空戦力を持たず、また空軍との連絡も容易ではないイタリア海軍は、簡易な護衛空母であっても無視することは難しかった。


 加えて日本本土やカナダから英国本土に向かう船団護衛部隊から上陸作戦の為に臨時に戦力を抽出すればかなりの数の護衛空母を動員することができるはずだ。だから一隻あたりの搭載機数は少なくとも、総合戦力は少なくないと考えるべきではないのか。

 さらに言えば、米軍を仮想敵として広大な太平洋で対峙することを想定していた日本海軍機の航続距離は、欧州列強の陸軍機よりも長大となる傾向が強かったから、上陸地点によっては艦隊航空隊だけではなく占領下のシチリア島などから進出してくる基地航空隊の戦力も加増されるはずだった。



 それに、仮に上陸作戦全般の支援に当たる機動艦隊を突破して上陸岸に接近することが出来たとしても、輸送船団には直掩の護衛部隊が存在するはずだった。

 直接護衛に当たる部隊は少なくとも1個水雷戦隊はあるはずだ。日本海軍の艦隊型駆逐艦は長射程の大口径魚雷を装備していたから、戦闘能力の高い戦艦であっても機動艦隊との交戦で消耗した状態で突入するのは危険だった。

 それに、国際連盟軍は小規模な部隊の輸送などに駆逐艦に類似した高速輸送艦を多用していたが、この輸送艦にはある程度の自衛戦闘能力もあったから数が揃えば駆逐隊程度の迎撃ならこなすのではないのか。



 何れにせよこの最後のイタリア艦隊が上陸岸までたどり着くのは相当に困難なはずだった。

 艦隊司令部はそのような不利な情勢を考慮して非情とも言える作戦を立案していた。タラントから出撃する別働隊を囮艦隊としようとしていたのだ。

 主隊に先行して出撃した別働隊は、シチリア島を大きく迂回して上陸岸に接近する予定だった。その別働隊に対して敵機動艦隊が迎撃を開始したのを確認してから時間差を付けてナポリから出港した主隊が攻勢をかけるというのだ。


 だが、この作戦にも穴があった。

 戦艦4隻を含む主隊と比べると、砲力の低下した航空重巡洋艦ボルツァーノを主力とする支隊の戦力は格段に小さく、しかも予想される国際連盟軍の上陸岸までの進出距離が格段に長くなるものだから、上陸岸から敵機動艦隊の主力を動かすこと無く迎撃されてしまう可能性は少なくなかったのだ。

 それに、タラントとは違って逆にナポリは艦隊の前進根拠地としては予想戦場に近接し過ぎていた。支隊が動けば上陸岸への攻勢とたちまちの内に察知されてしまうだろうから、敵機動艦隊が支隊への対応を開始したとしてもその間に艦隊主力を牽制する動きを見せるのではないのか。


 別に戦艦を含む敵艦隊主力を動かす必要はなかった。イタリア艦隊が終結するナポリ湾の沖合に重爆撃機などを用いて機雷でも敷設されてしまえばそれだけで艦隊の自由な行動は阻害されてしまうはずだった。

 現在の枢軸軍の航空戦力では長大なイタリア半島全体の防空など不可能だったからだ。



 実は、今回の作戦は実行直前まで一度進められていた。一週間ほど前の事だった。

 シチリア全島を制圧し終えた国際連盟軍がメッシーナ海峡を超えてイタリア本土に上陸したのだ。ナポリに前進配置されていた旗艦ローマに座乗していたベルガミーニ中将は、直ちにかねてからの手筈通りに艦隊に出撃待機命令を出すとともに、ローマの最高司令部に作戦実行の承認を求めていた。


 しかし、最高司令部は現地の情勢を判断した上でベルガミーニ中将の要請を却下していた。メッシーナ方面に出現した敵艦隊の規模からすると、この上陸作戦は陽動にすぎない。そう考えられていたからだ。

 メッシーナ海峡周辺で確認されたのは英国海軍の艦艇がほとんどだった。狭い海峡を渡るのに使用された雑多な揚陸艦艇を除けば、戦艦を基幹とした水上砲戦部隊といえるものだった。

 この艦隊には未だ英国海軍で最大の口径の主砲を有するネルソン級戦艦2隻と4,5隻の軽巡洋艦、20隻程の駆逐艦に加えて、主砲塔を1基しか持たないが、戦艦並の主砲を有する特徴的なモニター艦が含まれてた。

 モニター艦は速力も遅く浅喫水のため外洋での戦闘は難しいが、主砲そのものは戦艦に搭載されているものと同一のものだった。メッシーナ海峡では少なくとも3隻のモニター艦が確認されていたから、対地砲撃に限れば戦艦1隻分に相当すると言っても過言ではないはずだった。

 つまり、シチリア島と最短で3キロの距離でイタリア半島を分けるだけのごく狭いメッシーナ海峡に、ネルソン級と合わせて戦艦3隻分の火力が投入されたということになるのだ。


 だが、地中海に投入された国際連盟軍の総戦力からすると、この艦隊の戦力は決して大きくはなかった。メッシーナ海峡を渡って上陸した英国軍部隊の規模もさほど多くはなかったし、何よりも作戦の前提条件である揚陸戦部隊も確認されていなかった。

 上陸部隊を支援する艦隊も対地砲撃に特化したような鈍足の部隊だったから、機動力のある主力艦隊はまだ所在を明らかにせずに何処かに潜んでいるものと考えられていた。

 ナポリの艦隊が動くとすれば、その国際連盟軍主力の位置が判明してからのことになる。それが最高司令部の判断だった。



 もっとも最高司令部の判断というのも実際には表向きだけの話だった。それを知るボンディーノ大佐は、冷ややかな目で状況を見据えていた。すでにマリーア皇太子の影響下にある海軍最高司令部は、国際連盟軍との単独講和に傾いていたのだ。

 すでにイタリア海軍の最高司令部には戦闘の意志はなかった。抗戦派の将官やドイツ軍を欺瞞するためにナポリに主力艦隊を前進配置させてはいるものの、来るべき国際連盟軍主力のイタリア半島上陸と同時に放送される予定の国王による停戦の発表の後に艦隊には出港命令が出されるはずだった。

 勿論、それは国際連盟軍上陸岸への突撃などではあり得なかった。事前の国際連盟軍との協定に従ってイタリア艦隊はまず占領下のシチリア島まで移動することになっていた。


 その後の艦隊の行動に関しては知らされていなかったが、おそらくはマルタ島かエジプトのアレクサンドリア辺りまで移動して、この戦争が終わるまで抑留されることになるのではないのか。

 その点ではボンディーノ大佐は現状を楽観視はしていなかった。いくら事前に協議を行っていたとは言え、強大な戦力を誇る国際連盟軍艦隊であっても無視できない数の戦闘艦がイタリア海軍には未だに残されていた。

 国際連盟軍が停戦後もその有力な艦隊を野放しにしておくとは思えなかった。しかも、講和に関する情報はドイツ軍への漏洩を恐れて一般将兵には知らされていなかったから、信頼性を確認しようもなかったのだ。

 いざ投降するとなれば、主戦派の将兵による反発も予想されていたからだ。


 この戦争が終わった後、イタリア海軍という組織がどのような形になるのかはボンディーノ大佐にも分からなかった。無条件降伏などではなく、単独講和という形になるから、一方的に海軍が廃止されるということは無いはずだが、存続するとなっても艦隊の規模は強く制限されると考えるべきだった。

 おそらくは戦後にはすべての植民地を失ったイタリア王国は厳しい経済状況に追い込まれると予想されるから、財政面からしても大型艦の新規建造などは難しくなるのではないのか。

 海軍に長く身をおいたボンディーノ大佐にとって、そのような状況は身を切るような思いではあったが、この無謀な戦争をいつまでも続けるよりも遥かにマシなはずだった。



 だが、この艦隊を指揮するベルガミーニ中将は単独講和の件について知らされていなかった。そのせいか、この一週間というものの何度もローマの海軍最高司令部に対して作戦実行承認の催促を出しているほどだった。

 ベルガミーニ中将も、おそらくは今後のイタリア海軍の見通しに期待が持てないのではないのか。それで未だ戦力を残している内に国際連盟軍に大打撃を与えることで海軍の意地を見せようとしているのだろう。


 停戦受諾放送が行われるという重要な日に最高司令部からマリーア皇太子を含む何人かの将官が艦隊を訪れているのは、ベルガミーニ中将に海軍上層部の総意を内密の内に伝達する為でもあった。

 そうでなければベルガミーニ中将は独断で艦隊を出撃させかねれない。そう現地にいるボンディーノ大佐が密かに報告していたからだ。



 ボンディーノ大佐は、旗艦ローマが停泊している辺りから1艘の内火艇がヴィットリオ・ヴェネトに向かってくるのを見て、僅かに安堵の表情を見せていた。おそらく内火艇はベルガミーニ中将を説得するために訪れていたマリーア皇太子らが乗り込んでいったものだろうからだ。

 勿論内火艇の様子から説得が上手く行ったかどうかを計り知ることなど出来ないはずだが、ボンディーノ大佐は戦艦ローマに向かう前にヴィットリオ・ヴェネトを訪れた皇太子の決意を込めた顔つきから、説得の成功を疑ってはいなかった。

 それに、ボンディーノ大佐はそれほど待つ必要は無いはずだった。あの様子ではマリーア皇太子達はすぐにこの司令官公室に戻られるはずだからだ。


 だが、愁眉を開いていたボンディーノ大佐を驚かすかのように勢い良く司令官公室の扉が開けられていた。慌てて大佐が振り返ると、青ざめた表情でヴィットリオ・ヴェネト副長のラザリ中佐が突っ立っていた。

「やはりここにお出ででしたか艦長。ローマ……首都ローマの方から通信が入っています。ローマで市街戦、我が軍とドイツ軍との間で戦端が開かれたと……」

 ボンディーノ大佐は声を返すことも忘れてラザリ中佐の顔をまじまじと見つめ返していた。

九九式水陸両用戦車の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/99srtk.html

天城型空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvamagi.html

ボルツァーノ級航空重巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cabolzano.html

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ