10 戦術指南 中級編1
ワイバーンが激突してできたクレーターをのぞいた。
黄金や宝石がキラキラと輝いている。
ワイバーンも他のモンスター同様に死ねば金塊の山に変わるのか。
それにしてもかなりの額だな。
さすがワイバーン。
ゴブリンやオークは鼻くそみてぇな金塊しか落とさない。
丸一日狩りつづけても200ゴールドがいいところか。
ゴブリンを狩るというフレーズで、カイル達を思い出した。
意地悪シーフに、駆けだし勇者のお嬢様。
伊藤氏が宣告した時間まで、残り2時間をきった。
んなこと、どうだっていいか。
あいつらがどうなろうが私には関係ないし。
「ヴァルナ様、どうされました?」
「あ、いや。なんでもないよ。
あはは。
あまりの大金にちょっとビビっているってところだ」
「左様ですか。
全部で841ゴールド分あるようです。
わたくしは商人ですので、この場で換金できますが、如何されますか?」
「そいつは助かる。
ゴールドの方が軽いし私のアイテムボックスには、ひのきの棒を40本近く置いているからそれ程容量も無いしな」
「さて中級編になると、本当にひのきの棒を装備して戦って貰います。その前にひのきの棒の特性をおさえておきましょう。
ではヴァルナ様。ひのきの棒の特徴を思いつく限り言ってみてください」
「え?
え?
えーと。
攻撃力が低い。
折れやすい。
限りなく軽量。
投げることができる。
安い。
えーと、えーと。
それから……うーん」
「珍念様は如何でしょうか?」
「え? ボク?
あのですね。
木だから燃える。
あと、うーん、うーん」
「はい、大体いいでしょう。
ですが肝心なことを忘れております」
「他にまだ何かあるのか?」
「はい。
ここが肝です」
伊藤氏は2本のひのきの棒を取り出した。
私達は伊藤氏に注目した。
「まず長さに注目してください。
左のひのきの棒は一番扱いやすい60cm、右のひのきの棒はやや長めの90cmのタイプです」
お、おぅ。
長さが違うのか。
だから何だ?
「この二つは合体します」
そう言って伊藤氏はひのきの棒を合わせて見せた。
まるで磁石でも入っているかのようにピタンとくっ付く。
「ひのきの棒はブロックのように組み合わせる事ができるのです。戦闘中、自在に形を変えることができます。長さも異なるので、発想次第で様々な道具を生み出すことができます」
……そ、そうだったのか!?
ひのきの棒は合体できるのか。
初めて知った。
「ひのきの棒の特徴をもう一度おさらいしてみましょう。
木材なので強い衝撃で折れます。
攻撃力は1。
軽量。
ジョイントできる。
燃える」
「なるほど、これに伊藤氏の物理なり力学なりエコノミックなりの力説が加われば、なんか大化けしそうだな」
「なんか工作バトルみたいで楽しそうですね」と珍念も続いた。
「いえ。ここからはアドバイスはしますが、口数は徐々に減らしていきます。ヴァルナ様、珍念様が自らの頭で考えて戦うのです。
さてと」
伊藤氏は石に腰をおろし、どこぞから何やらアイテムを取り出した。
「こんなところで商談を持ちかけて不躾ですが、ひとつ面白いご提案があります」
伊藤氏の提案で悪い話なんてなかった。
私はなんだろう、と首を傾げはしたものの、わくわくした気持ちで聞いていた。
「ひのきの棒中級者向けアイテムをご購入されませんか?」
伊藤氏が取り出したのは、ひのきの棒を収めるソケットのついたベルトだった。ソケットは腰の部分に左右2つずつ。背中にも背負えるような形状で左右2つある。
合計8本のひのきの棒が同時に装備できる代物のようだ。
「それは便利そうだな。いくらだ?」
「400ゴールドと少々高額になっております」
「ぐぅ。単純な仕様のようなのにわりとするな。まるで館内で買うポップコーンのようだぜ」
「わたくしが考案した特注ソケットですのでかなりの手間がかかっており、多少の値は張りますが、機能は価格以上と自負しております」
「まぁ、丈夫そうだけどな」
「実はこのソケット、アイテムボックスと連動しております。ベルトにはボタンがあり、それを押すとアイテムボックスからひのきの棒が補充されるようになっております」
「すげーな。
そんなもんまで作れるのかよ!?
なるほどな。
アイテムボックスから取り出して装備する手間が省けるって訳か。どうする? 珍念」
「ボクはとろいから、欲しいかな」
私たちは800ゴールド出して、ひのきの棒を8本装備できるソケットを購入した。
続いて20本のひのきの棒をアイテムボックスから取り出して、珍念に手渡す。
そして8本のひのきの棒を左右の腰に2本ずつ、背中に4本装備した。