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スタイリッシュ武器屋 作者:弘松 涼
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9 戦術指南 初級編2

 改めて思い出した。
 伊藤氏の怪獣図鑑で、奴のステータスを見たとき、正直、度肝を抜かれた。

【ワイバーン】
 HP:2500
 攻撃力:751
 防御力:125
 素早さ:1821

 私のHPは60。攻撃力は25。
 珍念なんてHP18に攻撃力はたったの5だ。
 勝てるのかよ。
 こんな化け物に。
 伊藤氏はこの膨大なHPを、たったの2500です、とさらりと軽く流す。



 とにかく賽は投げられたのだ。
 もはや後戻りは許されない。

 珍念は岩陰から飛び出ると、上空を見上げ、声を張り上げた。

「そもさん!」

 ワイバーンは珍念を見つけた。
 青い眼光でギラリと睨んだかと思うと、猛烈な速度で突撃をしてきた。


 珍念の喉がゴクリとなるが、それでも腹に力を入れて言葉を振り絞った。

「汝に問う。
 馬車に一番から十番までの通し番号を振って競争しました。
 ただゴールのラインを越えても一台だけ止まることなく走り続けました。
 果たしてそれは何番でしょう?」


 なんだよ。
 そのくだらねぇなぞなぞ。
 9番か?
 車は9(急)に止まれないとでもいう痛いオチか?
 ワイバーンが怒るぞ。
 てか、まったく聞いていないじゃん。
 一直線に突撃をしてくる。
 スピードはどんどん加速していく。

 猛烈な突風で、珍念の菅笠(すげがさ)が吹き飛ばされた。



「今です!」



 この状態でどうしろと。
 でも私は伊藤氏の合図で、ひのきの棒を思い切り高く放り投げた。

 どうしたんだろ?
 ワイバーンの様子がおかしい。
 ぐぁぁぁと苦しそうにうめいている。

 伊藤氏はメガネをクィと上げた。

「どうやら上手くいったようですね」

「いったい何が起きたんだ?」

「ワイバーンは岸壁の地で生まれ育った野生のモンスターです。本能で相手の戦闘能力を感じ取ることができます。
 珍念様のレベルは1。
 ワイバーンにしてみれば、子ネズミのような存在に感じていたに違いありません。
 そんな珍念様が、逃げることなくワイバーンに向かって必死に話し続けました。
 ワイバーンにしてみたら、子ネズミに挑発されているように思うでしょう。
 ですから目を大きく見開き、珍念様をめがけて加速していきました。
 その勢いで突風が巻き起こり、珍念様の頭部が露出しました。珍念様は僧侶です。剃髪は戒律で決められております。
 その一遍の曇りのない珍念様の頭部に太陽の光が反射して、その光を眼球に受けてしまいました。
 突如視界が奪われて混乱しないものはそうそういません。
 ワイバーンは知能が低い。
 ですから、ほら、あのようにみっともなく混乱しております。
 珍念様のとんちが、クリティカルヒットしたという訳です」


 クリティカルヒットっていうのかよ。
 でも確かに効いている。

「ヴァルナ様、珍念様は硬直してしまっているようなので、彼を背負い9時の方角に400メートルほど走ってください。急いでください。ですが、なるべく静かに。間もなくヴァルナ様が高く投げたひのきの棒が落ちてきます。落下ポイントを中心に半径50メートルのクレーターができますから」

「お、おう」

 察しがついた私は、珍念を抱きあげてつま先で走った。

 500メートルくらいの地点の岩陰にはすでに伊藤氏が立っており、懐中時計を見つめている。

 あいつ、足、デタラメに速ぇな。


 そしてひのきの棒がドサリと落ちてきた。

 怒りに狂ったワイバーンは、グォォと唸りを上げ、音の方へ猛烈に突進していく。獲物がいると勘違いしているのだろうか、減速しようとしない。
 奴は時速200キロ以上でているのだ。
 僅かなミスが、致命傷になることに気づいていないのだろうか。
 とにかく自分をコケにした子ネズミを粉砕したいだけのようである。


 だが、そこには誰も居ない。
 ゴツゴツした岩があるだけ。

 激しい音と砂煙が舞い、でっかいクレーターができた。


 ワイバーンは木端微塵に吹き飛んだようだ。


「全長8メートル35センチのワイバーン。
 重量を25トンと概算して、それが時速254キロで岸壁に叩きつけられたのです。
 力積と運動量の変化で計算してみます。
 Ft=⊿mv を使って,停止させる力をFとして
 F=⊿mv/t=2500kg×254(km/h)/t=2000kg×70.5(m/s)/t [N]となります。
 停止するまで一瞬でしたが、時間としてt=0.1秒だと式に代入して
 F=17921.1N=179211/9.8 [kgw]≒18286kgw

 ワイバーンの防御力は125。
 18286 - 125 = 18161
 つまり一瞬で18161ポイントのダメージを受けたことになります。
 ワイバーンのHPはたかだか2500です。
 この衝撃に耐えられるはずもございません」


 相変わらずさっぱり分からんが、すさまじい破壊力であったことは認識できた。

 でも……
 これって……
 もしかして……

「……やったのか!? あのワイバーンを倒したのか!!」


「はい。
 おめでとうございます」


「でも伊藤氏よ。
 もうちょっと具体的に作戦を教えて欲しかったぜ」

「もしそれをするとどうなっていたでしょうか?
 珍念様があれほどまでに、必死にとんちを発動できたでしょうか?
 それにヴァルナ様があそこまで高くひのきの棒を投げられたでしょうか?
 作戦を知らないが故に、それから発生する不安的要素が、お二人の行動をここまで真剣なものにしたのだと思います。
 そうしなければ、何かあるとワイバーンに悟られてここまでうまくいっていなかったでしょう」

「言われてみればそうかもしれんが……」

「それよりか、面白いお話があります。
 実はわたくしがゴブリンやオークから逃げ回って、初戦をワイバーンにしたかった理由がもう一つあるのです。
 ご存知とは思いますが、自分よりも弱いモンスターだと少々倒したところで経験値上昇率は極めて低いのです」

「あぁ、知っている。
 レベル4の私がスライムを少々倒しても、なかなかレベル5にならない。
 だけどおそらく珍念なら、スライムを2匹程度撃沈させるだけでレベルが上がっただろう」

「はい、その通りです。
 この現象は逆の場合でも言えます。
 よろしければご自身のレベルをご覧ください」


 私は空をタッチしてステータスウィンドを開いた。
 なんじゃ、こりゃぁ――!!
 たった一戦で、なんとレベル27もあるではないか。
 あのカイルを抜いて、アルディギルドの中でもぶっちぎりでトップクラスだ。

 伊藤氏は続ける。

「今の自分よりランクの高いモンスターを倒せば、経験値はたくさん入ってきます。これを経験値ブーストといいます。大抵は強い者とパーティを組んで引っ張ってもらい、この現象を起こすのですが、その場合、経験値をメンバーで分割するのでここまで極端なブーストを起こすことができません。
 珍念様はレベル1でした。
 面白い現象が起きていますよ」


 珍念も同様にステータスウィンドを開いた。

「え、え、え!!
 すごいです。
 レベル31になりました」

「なんだと!
 私を追い越して、ずるいぞ!」

 大僧侶にクラスチェンジした珍念にちょっぴり嫉妬した。

「ヴァルナ様。
 次の戦いでは、ヴァルナ様の方にたくさんの経験値が入ります。
 一般的にはレベル30台でもワイバーン攻略は難しいとされています。
 ブーストの幅は先ほどより縮まりますが、まだまだ高い経験値が期待できるでしょう。
 あと4戦すれば同一レベルになれますよ」


「そ、そうか。
 それにまぁワイバーンなんてこんな単純な手で仕留められるから、なんてことはないな」


「いえ。
 次戦からはこのような単純な戦法は通用しません。
 あなた方はもはや初心者パーティではないのです。
 ワイバーンは慎重になってきます。
 つまりHP2500のモンスターと正面から渡り合わなくてはなりません。
 ここからがひのきの棒タクティクスの本領発揮です。
 中級編に入ると一気に難易度が跳ね上がりますが、体得を目指しますか?」


 もちろんだ! なぁ、珍念。
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