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シリアスシリーズ

ピーターパンはいない


 セカンド○イフ?

 いいえ、ねぱーランド。





挿絵(By みてみん)





 俺はインターネット上で仮想現実世界「ねぱーランド」という所へ赴いた。何故ならば。

 親友が、ここのどこかで落し物をしたらしいのだ。この、無限に広がっていそうな実体の無い大地で……。

 俺の名は、天宮リュウ。ある日 学校へ行くと、同じクラスの隣の席の、小学校時代から7年間も親友が続いている長沢カヲルに、いきなり抱きつかれ懇願された。

「頼むリュウ!! お前の知恵を、貸してくれっ!!」

 お前の おかげで別棟の違うクラスにまで、俺たちのホモ説が囁かれた。

 それは、さておき。

 詳しく本人の理解(わか)る所まで状況を聞きだした。


 カヲルは まず始め、パソコンで(ここは敢えて聞いちゃいないが)刺激的ロマンサイトで遊んでいた。そこで、つい ある広告バナーを見つけてクリックしてしまい、全く別のサイト先へ行ってしまったのだ。

 そのサイト先とは、『仮想現実世界〜ねぱーランドへ ようこそ未成年〜』という、いかにも神秘的な……いや、怪しげな所。「未成年」という時点で行かないで欲しかったが……。

「いや、手が考えるより先にクリックしちまったんだよ。許せ、リュウ」

と、本人は そう言っているが、あまり反省している様子は無い。

 もういい。それで?

「どうやら そこは その名の通り、ねぱーランドっていう所だったんだ。そこでは登録された住民が、好き勝手に暮らしている。法律も規制も無い、個人個人が自由気ままに暮らせる。人形みたいな自分の分身(要するにアバター)を動かして、友達(ダチ)をつくったり、誰かが経営している店や施設、庭やらビルやらを訪問したり、遊んだり。誰かが作れば、音楽も聴き放題、ゲームもし放題、服も売っているし、絵も描き放題で売り放題。自分の作ったもんも誰かに売れる。買い物すれば、人形みたいな自分アバターも自由に着せ替えできるし、家も自由に設計できるぜ。

 ……で、俺も まぁ、試しに……登録して、住んでみた!」

 カヲルの鼻息が荒い。落ち着け、馬鹿ヤロウ。……で?

「そこの世界で使える通貨単位っていうのがある。ダンディ。1ダンディ、2ダンディだ」

 ダンディ……? 誰が決めたんだ、そんなもの。

「バイトやゲームで稼げるんだ。半日頑張りゃ、そこそこ貯まる。最初、俺も頑張って稼いで、なんとギャンブルにまで手ェ出したんだよな!」

 ああ、どんどん話がヤバそうな方向へ。破滅へのロンド。

「そこである、女の子に会った。清美ちゃん、っていう」

 清美ちゃん、ね……。ちなみに お前のハンドルネームは、何てんだ?

「俺か? 『リュウ』」

 何でじゃッ!!

「怒るなって。名前だけだから」

 そういう問題かいっ。覚えとけよ、カヲルッ!!

「へへへ。で、清美ちゃんとバーで、おしゃべりナイトを過ごしたワケ。口説いたワケよ……」

 急に そこでテンションの下がるカヲル。……どうやら上手くは いかなかったらしいな? その様子じゃ。

「難問を出された」

「は?」

 俺は聞き直した。難問て?

「私の所……ホーム(家)の事なんだろーけど。私の所に来てみせてと。その為には、ドン・ガーベラとプック戦長と、プーチーピンに会う必要があると。ホラ、これメモ書き」

と、カヲルは俺に自分のポケットから出した、クシャクシャになった紙を渡した。紙くず同然のような扱いを受けている そのメモには、殴られたようにキーワードだけが書き踊っていた。

『ドン・ガーベラ、プック、プーチーピン、初心者』と……。

 俺は「この最後の『初心者』って何だ?」と尋ねると、もはや緊張感の無くなったカヲルが欠伸をしながら「ああ、ソレ?」と涙目で俺と そのメモを見た。

「わかんねーー! って言ったら、最後に もう一つヒントくれたんだよ。『初心者が必ず行く所に、私はいる』ってね……。もーー、わけわからん。任せた、乙」

 アホウッ!! 話が半端だろうがっ!! ……で? とにかく、清美ちゃんとやらに そう言われたわけだ。それで? その後、お前は どうした?

「とっとと諦めて、カジノで遊んだ」

 ……それから?

「一応、後で地図らしきものを見て目を通したわけよ。キーワードから検索も出来るし。そしたら、『ドン・ガーベラの館』なるものを発見したから、そこへは行ってみたわけ」

 会ったのか? ドン・ガーベラ。

「花好きの主人だった。花に囲まれた館で、たぶん実際だと どっかのばばあだぜ。しばらく花のウンチクを我慢して聞いていたが、とうとう堪えきれなくなって、いーからとっとと清美ちゃんのいる所を教えろって言った。そうしたら」

 脅しみたいだな。どうした?

「巨大バズーカ砲みたいなヤツ、取り出してきやがった。不意だったぜ。早いとこ逃げねえとヤバかった! まさか あんなモノ持ってるとは……まぁ、こっちも持ってたナイフで先に脅したのが悪かったけど」

 自業自得だ。ざまあみろ。

「そう言うなよ。どーせ仮想現実なんだから……。俺は逃げたね。とにかくな。それで、見事に落として来た」

 何を?

「財布。全財産」

 ぜっ……。いくらだ?

「ギャンブルで そこそこ使っちまったけど……698ダンディは あったはずだ。うん。確か」

 698ダンディ……ピンと来ないがな……でも、落としたもんはもう、返って来ないだろう。

「そう言うなよ〜〜! 全財産だぜ? バイトとゲームとギャンブルで、コツコツ貯めたんだ! 一回その場から逃げて、館には それ以降 戻っちゃいない。昨日の今日だ。まだ どこかでマイ財布ちゃんが俺の帰りを待っていてくれている可能性が、ある!」

 ……戻ってみれば? とっとと。

「こりごりだ! それに、俺は今日この後、彼女とデートの約束がある。そんな所に行っている暇は、無い!」

 じゃあ、諦めな。いいじゃんか、お前が言ったように所詮は仮想現実。

「頼むって! 別に死んじまっても恨まねーしさ! ちょっくら、行ってきてくれよ! な!」

 死ぬ? 仮想現実で? 変な感じ……。


 仕方ねーなぁ……。

 何て思いながら、実は内心 少し興味を持った。ねぱーランドという仮想現実世界。「自身」というアバターを操作し、自分自身で作り出し生み出すマイ・ワールド。そこで知り合った謎の清美という名の女(たぶん)と謎のキーワード。ドン・ガーベラ、プック戦長、プーチーピン、初心者の行く所に私はいる……。

 俺は初心者だ。初心者の俺は、まず何処へ行くのだろう。

 まぁ、いい。とにかくパソコンだ。俺は早速、家に帰って自分のパソコンを たちあげた。


 ……


 カチカチ。静まった自分の部屋で、マウスをクリックする音だけが響く。

 カヲルから教えてもらったメールアドレスとパスワードを入力すると、今度はハンドルネームとパスワードを問われる画面に切り替わった。俺は『リュウ』そしてパスワードを入力する。ログイン画面が二重に なっているのか、このサイトは。

 すると、自分の「ホーム」のページが現れた。ページ内には、「マップ」「つくる」「たべる」「しらべる」「メール」「じょうほう」「メモ」「ログアウト」などなど、機能アイコンが両脇に縦にズラリと並べられ、真ん中には今、超売れっ子アイドルの 瀬戸なのか の壁紙が……。

 俺は、とりあえず「つくる」機能から「部屋の もようがえ」らしきものを発見し、壁紙を 瀬戸なのか から 富士の山 に変えてやった。瀬戸なのか は「ごみ箱」に消去した。

 ハンドルネームは『リュウ』で登録されちゃいるが、実際はカヲルが作ったカヲルの家(部屋、ホーム)だ。後で泣け、カヲル。そして ざまあみろと思った。


 さて。それでは財布でも ひとまず探しに「マップ」から出かけるか。

「マップ」を開くと、東西南北、見た事の無い島の地形が現れる。カヲルの家は、全体から見て東の方角に位置していた。

 しかし、カーソルをクリック&ドラッグしてみても、画面は動かない。ひょっとして移動しないと横スクロールできないのだろうか??

「しらべる」をクリックするとキーワード検索が出てきたので、「ドン・ガーベラ」と入力して検索を かけてみた。するとすぐ『ドン・ガーベラの館』で、居場所を特定する事が出来た。ここからずっと南の方角だ。遠い。ついでに「プック戦長」「プーチーピン」も同じように検索を かけてみたが……。

「プック戦長」は『プックマニア』という名前でマップ上に表示された。これも遠く、北の方だ。しかし「プーチーピン」は何処にも表示されなかった。

 訪れてみよう。分かる所だけでも。ここから先に、繋がればいい。

 俺は「マップ」から「でかける」で、ホーム(自分の家)から出た。


 カヲルは自分の外見を、ジャニーズ系少年に設定したらしい。本人は見た目ポッチャリ体型なくせに、美化もいいとこだ……。ま、自分を どう着飾ろうが、本人の自由。どうせ実体は相手に見えないし。

 俺は目の前に広がる大自然(所詮は緑っぽい緑)と向き合い、深呼吸をした。そうだ、後で帰って来たらジャニーズ系から相撲体型に変更しといてやろう……。真実を見ろと、そういう友情をたっっっぷりと込めて。

 ジャニーズ系少年に設定された自分を練習がてら動かしてみた。右に行ったり左に行ったり……いつでも開けるチュートリアルを参考に、動かしてみる。なんとジャンプや回転アクションも出来るらしい。へえ……。


 だいぶ慣れた。そろそろ行こう。

 俺は快調にジャニ系な自分を動かし、まずは目的地『ドン・ガーベラの館』へ。

 カヲルが言うには、かなりの花好きらしいが……。


 数時間後。

 お金(ダンディ)が無い俺は、交通手段が無いので走る。もしあればバスや電車がこの世界にもあるので、使うのだが……仕方ない。生身の人間なら走りっぱなしなんて御免だが、ここでは苦も無く軽く可能だ。ただずっと、ボタンを押し続けなければいけないわけだが……。

 俺は走った。時々、マップで方位を確認しながら。迷子になって時間をロスするのは惜しい。……しかし、目的地まで一瞬で行けるスキップ機能でもあればな、と思う。そうだ、後でサイトの ご意見帳でもあれば、要望で書き込んでおいてやろう。


 そろそろ着く。ここまでの間、地下街やら商店街やら林の間やらと通ってきた上に、様々な格好の人間や、宇宙人やら動物やらと行き交う中 その あいまを くぐってきたが……。

 皆、赤の他人だ。この中に一人でも、知り合いが混ざっていたのだろうか。自由に自分を変えられた外見からでは知り合いが居たとしても気がつく事ができない。

「お。……変わった家が、あるな」

 小高い丘の てっぺんに、ポツリと緑の建物があった。緑に囲まれて……というよりは、家そのものが緑に包まれている。木の葉やツタ、つる、花と、緑の塊と化した建物……形からして館だ。そんな姿が進んで行くうちに目の前に迫って来た。

「たぶん ここで間違いない。ドン・ガーベラの館だ……」

 緑に覆われて、どこが窓だか玄関だか、分からなくなっている。救いは、門があって、表札に『ドン・ガーベラの館』と書かれていた事だった。

 俺は先に、辺りをキョロキョロと探索した。どこかに財布のようなものは落ちていないかと。

 ないか……?


 ないな。


と、いうわけで諦めろカヲル。俺は門の横のインターホンを押した。

「はい。どちら様?」

 ピンク色の吹き出しが現れ、その中に書き込みが……そうだな、ここでの会話は、チャットという事になる。今の現実時間、相手もこの世界にログイン中だという事だ。

「あのーー……リュウ、という者ですが。先日、同じ名前の者が ここへ来たと思うのですが……」

と俺は書き込んだ。

 一呼吸置いて、相手は答えた。

「そうですね。覚えていますわ。何か御用?」

「その、彼の友人です。名前が同じなんで、ややこしいんですけど……。訳を聞いてもらえますか?」

 俺は ちゃんと説明した。すると相手も理解してくれたようで、中へ招き入れてくれようとしてくれた。

「わかりました。中へどうぞ。ちょうどティータイムをしようと思ってましたのよ」

 どうやら機嫌が よろしいようだが……カヲルの言っていた事を思い出す。

 中に入ってしまったら、花についてのウンチクを延々と聞かされるかもしれないな。そいつは遠慮したい。

「すみません。あいにく、あまり時間が無く。財布の事と……さっき話した清美という名前とかについて、何か知っていらっしゃる事は ありませんか? もし何かヒントになりそうな事でも頂けたら……」

 丁重に断りつつも、何とかヒントなるものを。上手く何かに繋がらないか。

 しかし相手は、まるで決まりきったかのような口ぶりで こう答えた。

「清美、プック戦長、プーチーピン……今まで、何人かの方々が同じような質問をされましたけど。私は何も知りませんわ。財布の事も。残念ながら」

「そうですか……」

 俺はガックリと肩を落とした。

 何でもいい。何か一つでも、ヒントが増えたらな。

 仕方ないか。まだ手がかりがある。次は、「プックマニア」とやらの所へ行ってみよう。

「わかりました。ありがとうございました。それと、昨日は友人が大変 失礼な事をしたみたいで……。俺が代わりに謝ります。すみませんでした」

 この「自分」に お辞儀機能は付いてないのかな。これも今度、要望に書き込んでおこう。

「すごい緑ですよね。感心しました。今度、時間があればまた来たいです。それでは」

と、去ろうとした。その時。

「ちょっと待って!」

 呼び止められた。

「落とした お金の事なんだけど。……たぶん、ダンディ管理担当の所かもしれないわ。なぜなら。知らないでしょうけど、落としたダンディは、2時間後に自動的に落とした場所から管理局へ移るシステムになっているの。ネームとパスワード申請をしたら、誰かが拾ってネコババしていない限り戻って来るかもしれないわ」

 ……本当に? そんなシステムが??

「それと、プックマニアの所に行っても無駄足だと思うわ。私と同じで、何も知らないでしょうし、そう言うと思う。……ごめんなさいね」

 何故か、謝られてしまった。謝る理由が分からないが……。さて、どう返答しよう?

「いえ……教えて下さって ありがたいです。早速、管理局へ行ってみます。友人が喜びます。それでは」

 俺は そう言って去った。一度も振り返らずに。


 せっかくのドン・ガーベラの助言だったが、結局の所、これで手がかりを失った。プックマニアの所へ行っても無駄足だと。プーチーピンは検索では引っかからなかったし、初心者の行く所なんて多数あり過ぎて見当が つかない。どう考えていいのか……。

「げ。もう こんな時間かよ」

 突如、仮想から現実世界へ戻る。パソコンに向かい始めてから数時間。時計を見ると、なんともう夜中の0時だった。朝が来たら学校だ。

「仕方ねーな……とりあえず申請だけ済ませよう」

 ホームに戻って来た俺は、ドン・ガーベラの教えてくれたダンディ管理局を探した。一体何処だ?

 今見ていた画面上では見当たらなかったので、キーワード検索で探してみたらすぐ出てきてくれた。

 縦に並んだ「ダンディに ついて」「ダンディの稼ぎ方」など数々の項目の中で、順番に見ていくと、『落し物は こちらへ』という、まさにソレな項目を見つける事が出来た。すかさずクリックすると、画面はパスワードなどを入力する認証ページへと切り替わる。俺は言われるまま入力し、ページが切り替わるのを待った……。


 ……


 ……気のせい、だったかもしれない。

 長時間 連続でパソコンに向かっていたので、疲れた脳が一瞬だけ見せた幻だったのかもしれない。

 一瞬だけ……チラッと、異質な画面が見えた気がした。

 今は『あなたが所有するダンディ確認』のページが開かれている。“こちらでお預かりしているダンディは全 698 ダンディです”……

 698ダンディ。

 カヲルが落としたと言っていた額と一致する。間違いない。ドン・ガーベラの言っていた通り、ここに戻っているのだ。

 ならば、このままページの下部の『ダンディを手元に もどす』へ進み、手続きを済ませば落としたダンディは自分の所へ帰って来るのだろう。良かったな、カヲル。きっと大喜びに違いない。

 しかし……そんな事より。

 さっきチラついた画面だ。あれは「女」だった。

 半身から上の、一人の女。明るめの黄色か、黄緑色のキャミソールを着ていたと思う。サラッとした短くダークブラウン色のストレートヘア。前髪を少し横分けしている。一時の○多田○カルを思い出させた。似ていたと思う。


 あれは誰だ。


「そもそも」

 俺は一人言で ふと説いた。

「何で お金を落とす……? 落とすはず、ないじゃないか。仮想空間だぞ? ……不便な。どうやって、この世界の中で お金を落とすっていうんだ」

 言って話を進めていくうちに、おかしな所に気がついていった。

 物を落とすシステムがある。それは明らか。だって、『落し物は こちらへ』という項目が あったじゃないか。

 それでは一体、何の為に このシステムが、ある……?

 誰が、何の目的で?

「落し物をすると……普通は、ここに来る……。管理局へ。皆、来る……」

 どれだけネットが張り巡らされていようと。この『仮想現実ねぱーランド』に登録された住人は、皆、落し物をすると、ここに集まる。そんなシステム。隠されたシステム。必ず、ここに……必ず。


 何かが、閃きかけているんだが!


 俺は、無性に頭を掻きむしりたくなった。何かが、分かりかけているのに! もう、ここまで出かかっているっていうのに……!!

 うーーーーん……!!


 俺は一度、机から離れてベッドに そのまま倒れ込んだ。一度、頭の中をリフレッシュしよう……。そうだ、そうしよう。

 グウ……。


 …………


 ……


 ……ねぱーランド……。ドン・ガーベラ。

 プック戦長に、プーチーピン。


 何で そんな変な名前なんだろうな?

 ねぱーランドって、明らかにネバーランドの事だよな。ネバーランドって、何だっけ。どこかで聞いた……。


 ガバッ。

 俺は勢いよく起きた。机の上の、パソコンが つけっ放しだ。画面が「待機状態」に なっている。

 俺は携帯電話をズボンのポケットから取り出して、ネット検索で「ネバーランド」を調べた。そうやって辞書を引く。「ネバーランド」……。

 調べて驚愕した。何に?



 『ピーターパン』だ!!



 ピーターパンが、妖精ティンカーベルと一緒に、ウェンディたちをネバーランドへ連れて行ってくれる……。


 プーチーピンがピーターパン?

 ドン・ガーベラって、ティンカーベル?? そしてプック戦長は、フック船長だな。


『ピーターパン』に出てくる登場人物と関係している!

「じゃあ、ピーターパンは何なんだ。誰なんだ? プーチーピンも、いないぞ。ウェンディは……」

 ウェンディ…………?

 ウェンディ……。

 その時。ズボンのポケットから携帯電話を取り出した際に一緒に こぼれ落ちたのだろう、十円玉がコロンと布団の上に姿を見せた。

「ダンディ……」

 偶然……か? じゃない。言葉が、似ている。それに気がついた。


 さっきの女。


 俺は急いでパソコンに向かった。少し興奮してきた。

 落ち着け、落ち着け……。焦るな! 焦ると、ページをめくり間違えてしまう。

 俺は まずログアウトした。そして すぐ再び、ログインを試みる為サイトのトップページへと移動した。画面はログイン画面へと変わり、まず二重ログイン画面のうちの最初にログイン、そして次の画面へ。そこで「名前」と「パスワード」の入力を言われる。


「名前がダンディ、パスがプーチーピンだ!」


 ピーターパンが、ウェンディたちをネバーランドへ……。しかしピーターパンは、この世界には いない。

 いるのは、プーチーピン。おそらくパスワードだけの存在、プーチーピン。つづりは、適当だ。putipin、puucheepin、puuciipin……。

 どうだ? この考え、当たったのか? まさかな? どうなんだ?


 すると、ある時、突然。

 画面が どこかに繋がった。

 ……。

 何だ、ここは……?


 そう、開いたページは 何処か、誰かの、ホーム。俺のホームでは、無い。フレームが似てはいるが、壁紙は ただの白一色。そっけない部屋だった。名前の所に「ようこそダンディ」と書かれている。

 え? ……ダンディ?? ……ダンディの、部屋?

 ダンディって、この世界の中に存在しているのか? ……しまったな、先に検索を かけてみればよかった。

 ダンディって、誰だ?

 しばらく考えていると、ホームの中に突如 白い吹き出しと、その中に書き込みが現れた。


「ようこそ ここへ。あなたが初めてね。ここへ来られたのは……。驚いたわ。さぁ、まず あなたの本当の お名前は?」


 文章だけの、姿の見えない相手。女性である事は分かる。

「リュウ。……あなたは? ダンディ?」

「ダンディとは、この世界での通貨単位。それと、私のハンドルネームでもある。私には まだ、もう一つハンドルネームがあるわ。私の かたわれの名は……清美」

 清美……!


 ダンディ(通貨)=ダンディ(名前)=清美(名前)


という図式が思い浮かばれた。

「まさか本当に会いに来られるなんて。あんな適当なヒントで。よく分かったわね。……勘?」

「それに近いかと。でも分からない。なぜ、ここに辿り着けたのかも。今思えば、偶然が重なっただけなんじゃないかと」俺は書き込み返した。

 突破口を開けてくれたのはドン・ガーベラの助言の力が大きい。もっと言うと、ドン・ガーベラは何かを知っていたのではないかと思う。

 導きで、俺はダンディ管理局へ赴く事となる。そこで開くは、名前とパスワードの認証ページだ。

 別に何処からでも良かったんだ。認証ページへ行けるなら。

 初心者が行く所。それは「チュートリアル」ページだ。俺はカヲルに(あらかじ)め少し教えてもらっていたおかげで、そんなに開く事は無かったが……。全くの初心者なら、必ず一回は開いていくだろう。そしてその中には いくつか、認証ページへと進める。チュートリアルを開いて進めば、どこぞの項目からでも皆いったん認証ページへと行けるのだ。

 求められるは、「名前」と「パスワード」。

「プーチーピンが、ダンディをねぱーランドへ連れて行ってくれる」

 この発想に行き着けた者だけが、行ける場所。それがここだ。

「もし十円玉が転がらなかったら……。気がつけなかっただろーな」

 俺は呟いた。己に起こってくれた偶然に乾杯したい。

「あなたは何者で、一体何の為に こんな厄介なゲームを?」

「面白いかな、と思って。宝探しみたいで。ダンディ探し? ……かな。私を探して欲しかったの。素敵じゃない? 王子様を待つお姫様の気分を想像してみて(無理かしら?)。だけど、現実、私の仕事はね……。このサイトで、ダンディを管理するのが、お仕事」

 え?

「ダンディ管理者?」

 俺が そう書き込むと、「そうなの」と返って来た。

「このサイトを利用している人たちのダンディの扱い方、皆知っているんだぁ……。私の管理パソコンで、この世界の全てが お見通しなの。知っているけど、でも……たとえ、何が起こっても、どうにも出来なかった。始めの頃は。ただ、見ているだけ……。ユーザーの人たちが、ダンディをどんな汚い使い方しようとも……」

 一体、今まで何を見てきたってんだろう。この物言いようは……。

「お金が絡むと、どうして人は……欲張ってしまうんだろう……。通貨単位が円じゃなくても、それがダンディでも。いっそ、全てのダンディを消してしまおうかと思った事もあった。でも、そんな事できっこない。だから」

 しばらく書き込みがストップして、再び続きが書き込まれた。とても長い文。

「ランダムだけどね……。落し物システムを、作らせてもらったわ。もしそれに選ばれたら不運ね。面倒だけど一度 管理局に来なくちゃならない。そうやって、何かのキッカケで お金の大切さを少しでも分かって欲しかったわ。そして私、試してみていた。落とした お金をちゃんと取りに来るか? とかね。だいたいは本人に返していったけど、中には わざと返さなかった人もいる。トップ・シークレットなんだけど、私は利用者を独断で識別しちゃっているんだ。……コレ、内緒よ?」

 それって、ある意味 詐欺じゃ。

「馬鹿よね? 仮想空間の仮想通貨なのに。なぜ……仮想の世界でも、争いや犯罪が起きなければならないの……」


 清美が……泣いている。

 俺たちの世界の何処かで、泣いている。嘆いている。

 本物の、清美が……。


 今すぐに飛んで行って、泣いている背中を さすってあげられたら、いいのに。


 その後、清美は いくつかの実例を挙げてくれた。

 ささいなダンディの貸し借りでトラブルになり、当事者の一方が現実では有り得ないほど大きなハンマーを持って、家を破壊しに来たという。

 また ある時はダンディ強盗。ダンディ詐欺。ダンディ賭博。ダンディ……。

 何だ、やっている事は現実と変わらないじゃないか。

 むしろ、タチが悪い。規制が無いからだ。そりゃそうだろう。

「あなたには、ここに辿り着いた ご褒美をあげなくちゃね。1000ダンディを、プレゼントするわ。もうここには来れないよう、残念ながらブロックをかけてしまうけど。ごめんなさい。……そのダンディを、


 正 し く 使 っ て 下 さ い ね 」


 最後にダンディ……清美は、そう告げた。

 俺が返事を書き込もうか どうしようかと迷っているうちに、強制ログアウトされた。画面が、ログインページに戻っていた。もしダンディの名でログインしても、ブロックアウトされてしまうのだろう。

 俺は椅子に座り直して、今度は自分の名前とパスでログインし、自分のホームへ。

 何も変わった事の無い、俺が自分で設定した、富士の山の壁紙の、自分の部屋。

 ただ、手持ちのダンディ数が 1698 に なっていた。



「よお! ダンディは、見つかったか!?」

 朝、学校へ行くと。教室で一番にカヲルの顔に出くわした。カヲルの方から、俺の方に走って来た。「いや、分からんかった」と、俺は答えた。

「そうかよ〜〜。ま、しゃーねえわな!」とカヲルは手を頭の後ろに組み、ピュ〜〜と口笛を吹きながら去って行った。

 単純な奴で助かる。よかった、ツッコまれなくて。


 あの1698ダンディは実は もう無い。所有0ダンディだ。

 カヲル(リュウ)の装飾費用、及び 家のリフォームに全部使ってやった。次にカヲルがログインした時には、ここが何処かと さぞ慌てる事だろう。

 カヲルの姿は家畜の姿に、家は江戸城に設定しておいた。

 せいぜい往生してくれ、カヲル。


 授業中、窓から青空を見ていた。

 何処かに いないか、ピーターパン。いたら、清美の所へ行って欲しい。

 そして、何でもいいから夢を与えてあげて欲しい。


 いつかまた。

 ねぱーランドで逢おう、清美。



《END》




【あとがき】

 ピーターパンにウェンディが付きものだと思っていたんですが。

 調べてみると そーでもないみたいで。がーん……。

 でもまぁ、いいや! ははは!

 ありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
[一言]  仮想世界と『お金』の話ですね。ご自身時事ネタをよく使うとおっしゃっていましたが、1つ貫いたテーマを書こうとする姿勢は、とても好感がもてました。物語も、テーマに向かってまとまっている感じがし…
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