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一件落着



「偉大な朝だ……そうは思わないかね、エリスン君」

 窓から見える朝陽に、探偵は目を細める。

「眠いわ」

 エリスンはいますぐにシャワーを浴びて、眠ってしまいたかった。一睡もせずにアジと格闘していたのだ。なんという一日だろう。

 それでも、成果はあった。

 朝になると同時に、とうとう、納得のいくものが完成した。

 何匹のアジを消費したのかわからないほど、アジを使い尽くした。

 試行錯誤を繰り返し、何皿も何皿も作り上げ、一切の妥協なく、完成させたのだ。

 キャサリンは、すでに探偵社を飛び出したあとだ。ここにジョニーを呼んでくるのだという。それまでに少しでも片付けておこうと、エリスンは重い腰を上げた。

「手伝ってとはいわないから、端っこにいてちょうだい、シャルロット」

 冷たくいい放ち、調理器具をシンクに運ぶ。洗ったら次は箒で掃き掃除。ぞうきんがけも待っている。

 いわれるまでもなく、シャルロットは端っこでおとなしくテレビジョンを見ていた。料理教室開始と同時に消していたものを、再びつける。朝のこどもアニメ再放送を見なくてはならない。

 しかし、アニメを一話見終わるほどの余裕はなかった。

 足音を鳴らしてキャサリンが駆けてきて、はめ込んでいたドアを再び破壊してジョニーを招く。よほど急いだのだろう、キャサリンは汗を流し、肩で息をしていた。しかし、徹夜明けだというのに、それらすべてが輝くほどに、笑顔だった。

 自信に溢れているのだ。

 愛する人(生物)に、最高のものを渡せるのだという、自信。

「ヒュイ」

 ジョニーが身体全体で一礼して、遅れて入ってくる。

 エリスンは気を利かせ、シャルロットの隣まで避難した。どんな展開を迎えるのか、そこはしっかり見ておきたい。

「あのね、ジョニー。恥ずかしいんだけど……シャルロットさんたちにお願いして、アジの研究をして、作ったの。とっても、とってもおいしくできたの!」

 キャサリンの頬が赤い。シャルロットやエリスンに対するときとはまったく違う、乙女の顔。恋する瞳というやつだ。

「ヒュイ」

 ジョニーは優しく目を細めている。ような気がするがそのあたりはいまいちわからないので脳内補完。

「どうぞ……食べてください!」

 まるで告白をするかのようにうつむいて、キャサリンはずいっとラッピングされた箱を差し出した。

 ジョニーはゆっくりまばたきをすると、うなずいてそれを受け取……ろうとしたが短い手では無理があるので、キャサリンにテーブルへと置いてもらう。

「ヒュイ?」

「もちろん! いまここで開けて、食べてみて。ふふ、ちょっと、恥ずかしいけど」

「ヒュヒュイ」

「やん、もう、ジョニーったら」

 探偵と助手は、背景と化していた。口を出してはいけない雰囲気だった。とても口出しなどできない、濃厚なラブオーラに包まれていた。

 ジョニーの短い手が、リボンをほどく。キャサリンの手を借りて、箱を開ける。

「ヒュイ……!」

 ジョニーの目が、感動に見開かれた。

「どうぞ、召、し、上、が、れっ!」

 キャサリンがくすぐったそうに笑う。ジョニーはうなずいて、蓋を脇に置くと、フォークを構える。

 そうして、がっつりと、アジフライを食した。





 こうして、事件は解決した。

 キャサリンとジョニーは手と手を取り合い、二人に何度も礼をいって、並んで愛の巣へと帰って行った。

 残された探偵社、つけっぱなしのテレビジョンから、コマーシャルフィルムが流れている。

 

  作り方はとってもカンタン


  おいしいおいしい手作りクッキー


  お好きな材料さっくり混ぜて


  仕上げはもちろんカクシアジ


  たっぷりたっぷり心を込めて


  愛するひとに贈りましょう



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  ***






 舞台は、フォームスン探偵社──

 ノースリーブ探偵服をオシャレに着こなした名探偵が、テレビジョンを見ながらアジフライを食している。おかわりと声をあげたところで、こちらに気づき、フォークを置くと肘掛け椅子を回した。

「やあ、皆さん──またこうして皆さんにお会いできたことを、心から嬉しく思う。今回の私の活躍は、いかがだったかな。名探偵の名推理ぶりが冴え渡り、おかげで、夫婦の危機というものを脱したのだ。我ながら、素晴らしい推理だった。なんといってもアジはおいしい。これはとても重要な事実だ。ああ、アジフライもいいが、アジクッキーも捨てがたい。実はいま、エリスン君に焼いてもらっているところだ。そろそろできる頃合いかな。食べてみたいって? それならぜひ、身近なだれかに、リクエストしてみてくれたまえ」

 微笑むシャルロット。エリスンがシャルロットを呼ぶ声が聞こえ、立ち上がる。こちらに向かって一礼し、歩き去っていく。つけっぱなしのテレビジョンから、例のコマーシャルフィルムが流れ出し──



 ──暗転。




  

 

 

 


読んでいただき、ありがとうございました。


この小説は伽砂杜ともみさま主催、『お菓子&お返し企画』参加作です。詳細はhttp://spikeofgold.web.fc2.com/okasiokaesi/top.htmlへ。

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