挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

72/341

 地下庭園

 苦労して入ったその場所は、不思議な空間だった。

 草地の床にはびっしり根が張り、水が流れている。うっそうと茂る草と、白や黄、紫などの可憐な花々。そしてこの部屋では天井全体が明るく、まるで屋外のように広い庭園を照らし出している。奥には水がチョロチョロと湧き出る噴水のような石組みまであった。
 ブゥウン……と時折虻のような昆虫が花と花のあいだを飛び、あちこちに群れを作っている。
「シャロン。これ」
 アルフレッドが、カバンから薄荷油を出したので、グレンにも説明して渡す。
「おっ、さんきゅ」
さっそく振りかけると、まわりから嘘のように虫が引いていった。

 草を掻き分けて進み、真ん中から水が沸き出し溜め池のようになっている石組みまで来ると、アルフレッドがストップをかけた。
「中に、何かいる」
 水草のあいだに、何か黒く、百足のような生き物が泳いでいる。溜め池の底の中央には石の輪っかがついており、蓋のようになっていた。

「おい、あんまり身を乗り出さない方がいいんじゃねえか?」
 グレンがそう言いながら、何気なくその辺の草をむしり、溜め池へと放り込む。すると水面が泡立ち、バシャバシャ音をさせながら黒いのがそこへたかり、草とわかったのかすぐに離れていく。

 あの石の輪が気になるが、これでは入ったところでただの餌食か。

 そう思いながらシャロンが溜め池の中央をじっと見つめ、考え込んでいると、
「あれ使ったらどうだ。ほら、前に手に入れた命綱」
「あ、そうか。それがあったな」
 シャロンはカバンの中から倉庫で見つけたロープと鉤を取り出し、投げ入れようとしてはっと気がついた。このままでは百足もどきに食いちぎられるかもしれない。

 もったいなくはあったが、干し肉の小さい塊をなるべく遠くに投げ入れ、それに奴らが群がっている隙に鉤つきロープを水の中へ入れる。
 静かに動かすが……バチャバチャ水面が揺れているせいで思うように動かせず、鉤はするりと抜けてしまう。
「下手くそ。俺がやるよ」
 グレンがさっさとロープを奪い取り、揺れる水面をものともせず鉤を穴に通した。

「行くぞ、せーの!」
 ぐっとロープを握り、引っ張るが動かず、シャロンとアルフレッドも手を貸して、やっと少しずつ蓋が開き始めた。

 ズゴゴゴ、と音を立て、水が下へ吸い込まれていく。引っ張るうちに、石の縁にロープが何度もこすれ、ぶつりと切れる。
 しかし蓋は開いたらしく、水位はどんどん下がり、中から大量の水草とびちびち跳ねる百足もどきの姿が現れた。
「このッ」
 百足もどきを陸に上げられた魚のごとく斬り伏せ、中央を覗く。するとそこには……格子のついた排水口と、散らばる銀貨十数枚を発見した。

「いや、嬉しいは嬉しいんだけど……なんだろうこの、期待外れ感は」
 銀貨を皆で分け合った後、シャロンがひとりごちる。
「ま、いいじゃねえか。他を探してみようぜ」
 グレンがそういいながら生えている草を薙ぎ払い、それを合図に三人は部屋のあちこちを調べ始めた。

 そうやってしばらく探していると、アルフレッドが
「……ここに扉がある」
と蔦の這う壁をぺちぺち叩いて知らせてきた。
「これは、蔓薔薇か」
 壁を覆う蔓薔薇を、手袋でえいやっとばかりにむしり取ると……その下から蔓薔薇の扉が現れた。
 妙にそれが符合していたので作為的なものを感じながらも、シャロンはコインを取り出し、振り向くと後ろの二人も頷いたので、慎重に扉を開けることにした。

 ギィィイイイ、と軋みながら扉が開き、その向こう側は暗い。
 じっ、と目を慣らしていると、やがて中央にある人サイズの美しい女神像、それを囲む形で四隅には台があり、そのうち三つには小さな彫像が飾られていた。

 一つは、まるで子どもが作ったような、角ばった石の人形。一つは、コウモリの翼と鎌を持つ悪魔の像。三つ目はかわいらしく手を繋ぎ合った双子の女の子の像だった。四つ目の台には、何かを嵌め込むような跡があるだけで、他には何もない。

「あー、こりゃ単純だな。どっかから像を持ってきて、ここに乗せるってわけだ」
「しかし、そんな像が置かれた場所なんてなかったぞ」
「そりゃあ、これから探すんだよ」
「また後回しか……」
 先に像や壁を調べ、床を叩いたりしているアルフレッドと同じように一通り見て、他の仕掛けはないとわかると、また再び庭園へと戻ってきた。相変わらずブンブンと虻や羽虫が音を立てて飛び交っている。

「じゃあ……もう一度この部屋を探してみるか」
 シャロンはうんざりしつつも剣を抜き、端から徹底的に草を刈っていくことにした。

 大規模な伐採で、地面から蜂の巣が見つかり、慌てて風で叩き伏せたとか、次第に台無しになる景観に心痛めたりはあったものの、その成果として、水を入れる持ち運び用金属製タンクやホース、ボロ布が見つかり、部屋の南西の壁だと思ってた場所に鍵のかかった倉庫が発見された。
 それから、なぜか地面を突きまわっていたアルフレッドが、
「ここに硬いものが埋まってる」
と南の壁に沿い、そこら一帯に土が固められている場所の一部を示したが……掘るものがないのでどうしようもない。
「倉庫にスコップとかあるんだろうが……開いてねえな」
 グレンがドアを探り、ため息を吐く。
「……このタンクとホース。これに水を溜めて、どこかで使えるんじゃないか?例の、熱そうな部屋とか」
「おお、そういえばそうだな。一度戻ってみるか」

 入口へ戻ると、アルフレッドが足を止め、ドアの隣をじっくり眺めて蔦をむしり取る。そこから現れたのは金属の箱で、中にはレバーが設置されていた。
「水門のレバーがこんなところに……おまえさっきからやるじゃないか」
 グレンが笑いながらアルフレッドの肩をど突こうとして……さっと避けられ空振りに終わった。

 動く壁の部屋へ戻ると、反対側には通路とドアがあった。そういえば、あそこはまだ調べていなかった、と迫る壁に戦々恐々と走り抜けると、ドアの先には小さな部屋があり、石の宝箱の中に銀貨が数枚入っていた。

 思いがけない収入に、喜ぶべきはずなのだが……やはりもやもやした気持ちは残る。

 腑に落ちないものを感じながらも、例の溝を慎重に渡り、三人で再び地下五階のあの部屋へと戻っていくことにした。
 地下庭園……南東の一角の大部屋。すぐ隣(南西)には給排水操作室。
 四つの守護彫像の間……この部屋の西隣には毒と熱の部屋の通路とはしごがある。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ