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異郷より。 作者:TKミハル

『遺跡ミストランテ』

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 滑る布

無事滝の横の入り口に辿り着き、階段を上がって再び地下四階へ戻ってきた。
サワサワ……サワサワ……。
途端にまるで柔らかい葉擦れのような音が響いてくる。
「何だありゃ」
下りた場所の、ちょうど対角、交互に並ぶドア付近に、何に例えればいいのか、人ほどある肉色の、滑らかで細めの十本指の手袋を内側に巻き込んだみたいなモノが数体、その枝(?)を揺らしている。
「気持ち悪い……。前はなかったよな?」
シャロンが非常に嫌そうに顔を歪め、腕をさする。

「行きはなかった」アルフレッドが答えてさっそく剣を抜き放ったので、シャロンとグレンもそれぞれ武器を構えながら、じりじりとサワサワ揺れる物体に向かっていく。
「食らいやがれッ!」
 叫んだグレンが斧を、手袋型魔物の丸い体に力強く振り下ろした。
 ブニョッ。
同時に魔物の体がへこみ、十数本からなる触手が斧を包み込む。
「痛てッ。なんだこいつ!」
 腕が震えるほど力を込めても斧は外れず、やがて他の部位から触手が伸びてくる。
「グレン、右に避けろ!」
シャロンが剣で疾風を起こしてその触手を切り離す。斧は外れ、グレンは後ろに跳び退った。
「おお!助かったぜ」
「このまま……」
「シャロン、横!」
 言いかけたシャロンをアルフレッドが突き飛ばし、グレンに当たって後退する。そのすぐ目の前を、無数の針が通過していった。
さらに、二体の魔物はこちらに向けて大口を開き、中の針をそばだてる。
「げっ」
 グレンが呻き、慌てて斧を盾にするため引き寄せた。針はすぐさま発射されるかに見えたが、その前にアルフレッドが小さな塊を手袋型軟体生物の口に投げ入れた。
 即座にその口をすぼめ、丸く縮まる魔物をシャロンが風の刃で切り裂くと、プチュッと水を吹き出し萎れて床にへばりついた。

「……アル、いったい何を投げた?」
 シャロンが不思議そうに尋ねると、
「岩塩」
と簡潔に答えが返ってきた。
「なるほ、ど……?」
 この魔物がダメージを受ける原理がわからなかったが、そういえば、山で蛭に出くわした時も、塩をかけるとしきりに嫌がり縮こまるので、それと同じことかも知れない、と無理矢理自分を納得させた。
 ということは、あの巨大蛭にも塩が効くのかもしれない。覚えておこう。
「おい、そろそろ行かねえか?」
 潰れた軟体生物を気味悪そうに斧の柄でつついていたグレンが、声をかけてきた。

 小さな部屋を通り、もはやお馴染みとなった溝と流水の部屋へ入る。すると、反対側から顔を覗かせた痩せてくたびれた感じの男と目が合い、こちらを見た瞬間彼はなぜか慌てた様子で中へ引っ込んだ。
「何なんだ……」
「よくあることだし、気にすることねえんじゃないか?あれだよ、面倒を避けるってやつ」
 グレンはさっさと蔓薔薇の彫られた扉の前に立ち、開けるよう促した。

 そんなもんかなあと考えつつ、罠があってもすぐ対処できるよう慎重にコインを入れ、扉を開ける。

 扉は何事もなく開いたが……なぜか開けたところは、つるつるした真っ白な壁になっていた。
「何のための扉だ!」
 叫んで思わずバタンと閉める。

 あれ、おかしい。確かかなり前に会った冒険者の一団は、普通にこの中に入ってたはず……。

「グレン何か知らないか?」
「いや、俺もこの扉の中を見るのは初めてだ。ここに来る前に捕まっちまったからな」
 そうか、と呟きシャロンはじっくり扉とそのまわりを眺め、触ってみたが、仕掛けらしきものは感じられなかった。
「アル、何かこう、この辺が怪しい、とかは?」
「……この扉の向こうが怪しいと思う」
「そりゃそうだろう。わかった、もう一回開けてみよう。それでヒントが掴めるかも」
 シャロンは再びコインを取り出し、扉を開ける。やはり目前には壁。
「ちょっと待った。……ずれてる」
「え。いや、それじゃわからない。前から思ってたんだがアル、おまえは言葉を省略しすぎるんじゃないか?もっと長く、伝わるように話せ」
「壁が、ずれてる」
「短いっ。それのどこが長く話したんだ」
 思わずアルフレッドを揺さぶるシャロン。それを傍から見ていたグレンは、
「仲がいいねえおまえら」
呆れたように呟いた。

 シャロンがなんとかアルフレッドから聞き出したことによれば、どうやら最初に開けた時より、二回目の方が、蟻の這う隙間ほどほんのわずか向こうにずれているらしい。
「じゃあ、しばらく待てば壁が遠ざかるのか?」
「さあ……たぶん」
 グレンが本当しゃべらん奴だな、そっちのわりとおしゃべりな嬢ちゃんといいコンビだぜ、などどにやにや笑っている。
「私はそんなにしゃべってるか?」
「ああ。時として墓穴を掘る方向に」
「……」
 ショックを受け、二言目が出て来ないシャロンの表情に、グレンはげらげらと笑いだした。

「じゃあ、しばらく時間を置くか」
 どうやら一度ツボに嵌ると抜け出せないタイプらしく、まだひぃひぃ言ってるグレンは無視して辛抱強く待ち、シャロンは三度目の正直とばかりに扉を開けた。

 すると、壁は随分向こう側へ後退していて、部屋がすっかり見渡せるようになっていた。

 今まで壁で見えなかった部屋の真ん中には、勢いよくジャンプして飛び越せるだけの幅の溝があり、中は黒く何も見えないほど深い。

 この部屋は動く白い壁があるものの、他の壁が灰色なのに加え、ランプが左奥に続く通路に一つあるだけで全体的に薄暗く、ともすれば足を踏み外してしまいそうだ、と溝を覗き込んでいたシャロンは身震いした。
 非常にゆっくり下がっている壁の右には二三人立っていられるだけの空間があり、その先にもドアがあるのがわかる。

「まずどっちに行く?」
「……右に」
 じっと壁の様子を観察していたアルフレッドが低く答えた。
「じゃあ、そうすっか」
 グレンがひょいと溝を飛び越え、手を貸そうか?とにやにや笑いながらふざけたことを言うので、アルと一緒にさっさと渡ろうとして、
「あ」
ちょうど飛んだ時、腰にくくっていた布が解け、はらりと床へ落ちる。
「拾っ――――――」
 取ろうとすると、アルが強引に体を押してねじ入れてきて、同時に壁が奥まで到達して止まったかと思いきや、今度は元来た扉の方へまるで氷の上で石を滑らせたかのように速く戻っていく。
 落とした布は壁に押され、そのまま溝へ落ちた。

「……行こうか」

 背筋を寒いものが走り抜けるのを感じながら、シャロンたちはすぐ側のドアを開け、むわっと暖かい空気となぜか地下にもかかわらず全体が光で包まれた草地の部屋へと進んでいった。
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