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異郷より。 作者:TKミハル

序章

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道行きの前段階

 次の日。二人は朝と昼の中間ぐらいに集まり、これからのことをお互い相談した。
「依頼の場所へ案内する前に……どうしても頼みたいことがある」
「……?」
 首を傾げるアルフレッド。
「その……私が雪山に登ったのは、もともと見晴らしのいい丘へ行きたかったんだ。結局吹雪に巻き込まれて、まだ一度も行けてない。だから……先にそちらへ寄ってくれないか」
 ああ、と彼は呟いて、
「朝早く出れば……平気」
「それで、できれば、案内役もして欲しい。依頼料は、少しだけまけとくから」
 彼は素直に頷く。

 よかった、一挙両得とはこのことだ。

 シャロンは内心浮かれながらも、依頼を無事終えるため、アルフレッドのアドバイスを受けながら雪山を散策するのに必要なものを買い足すことになった。

「私があの雪山で歩いているとき、なんだか目がチカチカして頭が痛くなり、なるべく自分や木の下にできた影を見るようにしてやっと治ったんだが……あれをここの人たちはどうしているんだ?」
 通り沿いに並ぶ露店を物色しながらシャロンが問うと、案内役のアルフレッドは頷き、ぐいっと袖を引っ張ってから歩き出す。

 こいつは発声器官が衰えてやしないだろうか。

 ため息を吐いて彼のどことなくふわふわした足取りに続くと、毛皮や羊毛でできた服などがずらりと並ぶ大きめの露店の中に入っていく。
「おっ、いらっしゃい!どれもいい物がそろってるよー」
 露店のおばさんの威勢のいい声。

 アルフレッドは、所狭しと並べられている品物から、目元を覆う木彫りの薄い仮面を示した。両脇には穴が開き、ちょうど目の位置に横に細く切れ目があってそこから見えるようになっている。
「これは……仮面舞踏会に使われるものそっくりだ」
 シャロンは恰幅のいいその女性に断りを入れてから、手の込んだ彫りのものを一つ装着してみる。

「どうだ?似合うか?」
 アルフレッドの口元がふ、とわずかに震えた。
「……大丈夫」
「今おまえ笑っただろ。やっぱり、もっとシンプルなのにするか……」
 何点か見比べてみて、彫りの少ない濃い色のものを選んでおく。
「後は……」
「鈴」
「え?」
「魔除けの鈴は」
「あ、そうか。そういえばなくしたんだった」
 探すと、小さな棚に、いくつか並べられている鈴。
 それらを見つめていると、売り手のおばさんが話しかけてきた。
「どうだい?うちにはいい物が揃ってるよ」
「この鈴なんだが……装飾はともかく、効果が高いものが欲しい」
「お客さん目の付け所が違うね。この鈴は一つ一つ音色が違うんだ。だから値は張るが、いくつもついているのを選ぶのが一番。これなんか綺麗だろ?」
 彼女が持ち上げたものは、金の腕輪に小さな鈴が花のようにあしらわれていた。

「いや、もっと実用的なもので頼む。山へ登るときにしていきたいんだ」
「そうかい?こっちに猟師なんかがよく使うタイプのものがあるが……」
 そう言って近くにあった籠を持ってくる。
「振ってみてもいいか?」
「かまわないが、慎重に扱っておくれよ」

 カラカラ、と音がしたり、シャリンシャリン、と鳴ったり。本当にいろいろな音の鈴があり、なかなか選べない。
 困ってアルフレッドに助言を求めると、高く長く音が響くものが優れている、と低い声が返ってきた。

 ちなみに、ぼろぼろの服を着ているせいか、時折盗難を恐れての鋭い視線がいくぐらいで、彼の存在は店番の女性にほぼ無視されている。
 まあ、人見知りをする奴らしいので、それはそれでいいのかもしれない。

「……よし、これにしよう」
 いくつかの鈴が皮のベルトで連なるものと、先ほど選んだ木彫りの仮面の値段を尋ねると、銀貨20枚だよ、とはきはきと返事が返ってきた。大きい露店の、最初の値としてはまあまあだ。
 そして、この値がどれだけ引き下げられるかは自分の腕にかかっている。

「う~ん、そうだなあ。彫りも少ないし、大量に作れそうだ。銅貨50枚でいいんじゃないか?」
「はあ!?あんた何言ってるんだい?せめて銀貨10、いや15は欲しいね」
「あいにく、ずっとここに滞在していたせいで持ち金も少なくて……銅貨90ならなんとか」
「あんたのその外套。高級じゃないか。それで金がないなんて言わせないよ」
「これは、家から勘当された後、妹が届けてくれたんだ……ずっと大切に使ってる」
「……じゃあ銀貨12枚じゃどうだい?」
「ぎりぎりで、銀貨1枚」
「こっちだって吹雪で店が開けなかったんだ。銀貨7枚。これ以上は下げられないよ!」
「天気も回復したし、まだまだ稼げるんじゃないか?なんならこの店のことを何人かに紹介しとく。銀貨5枚でどうかな。これで駄目なら他の店まわるけど」
 にっこりと微笑んでシャロンがたたみかける。

「……わかった。本当にやってくれるなら、それで手を打とうかね」
 しぶしぶながらも、やっと店番の女性は頷いた。
 ひょいと品物を取り、赤い紐を上着のポケットから出しつつ、
「これが売却済みの印だから。店出るまで取るんじゃないよ」
言いながら短く切ろうとしたのをシャロンは止めた。
「その紐、くれるならもっと長く切ってくれないか?」
「あーもう、あんたには負けた。ちょうど耳にかけられる長さ二つ分だろ?持っていきな」
「どうも。ちゃんと宣伝しとくから」
「期待しないで待ってるよ」

 成果に満足し、いつのまにかいなくなっているアルフレッドを探すと、露店の外にぼんやり立っているのに気づいた。
「待たせて悪かった。アルフレッドは何か買うものはないのか?」
 駆け寄ると彼は首を振り、そっちはと尋ねてくる。
「後は……携帯食料とか。そういえば、お腹すいたな」

 自覚した途端、きゅぅとお腹が鳴り、切ない思いで食べ物の屋台を探すため歩き出すと、すぐに美味しい匂いが道向こうから漂ってきた。
「ちょっと行ってくる」
 屋台へ走り、串焼きを二つ買って一つをアルフレッドに渡すと、驚いたように目を見開き、シャロンを見つめてくる。
「あのさぁ……一人だけ食べるってのはやっぱ気になるんだよ。それにずっと待たせちゃったし」
「……ありがとう」
 串を受け取り、きらきらした眼差しで熱心に息を吹きかけ冷ましている。

 そこまで喜ばれるとは思わなかった。
「え、っと……そういえばこれ、何の肉なんだ?シシ肉としか教えてくれなかったんだが……」
 買っておいてなんだが、シシという言葉に、どうしてもあの白猿の姿が浮かんでくる。
「だいたいウサギとか、鹿」
「そ、そうか。猿じゃなくてよかった……」
「猿の肉は硬い、まずい。狼の方がマシ」
 食べたことがあるような言い方が気になったが、無心に串焼きを頬張る彼を見て思い直した。別に、いいか。

 串焼きを食べた後は食料品を買い、あちこちを回っているうちにすっかり日が傾きかけていた。
「もうさすがに足りないものはなさそうかな」
「……」
 相変わらずアルフレッドは無言だったが、なんだか午前中よりしっかり立っているように感じる。
「今日はありがとう。最初はどうなることかと思ったが……うまくやれそうな気がしてきた。明日もよろしく」
 自然に浮かんだ笑みとともに差し出した手を、アルフレッドは握り、二三度振って放す。

 それから明日の待ち合わせ場所と時間を決めて、市の入り口にある広場で手を振って別れた。
銀貨1枚=銅貨90~100枚
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