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異郷より。 作者:TKミハル

『荒れ地と竜』

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厄介な依頼人たち

 今回はちょっと長いです。
 ミストランテの遺跡自体は、最近まで出入り自由だったらしい。しかし、二百年に一度新しい入り口が出現するとの噂に、人が集まるにつれ、町長が出入り禁止にして、入り口が現れたのと同時解禁を宣言したようだった。

 ……入り口が現れなかった時の保険か、イベントをさらに盛り上げる心づもりか、どちらかは知らないが。

 辺りで興奮したようにしゃべる人の話から、その入り口というのは、地下への階段らしい、ということもわかったが、予想外に時間を取られたので慌てて宿へ帰り、必要なものをカバンに入れてすぐにギルドへ向かう。
 鐘が鳴るのは三刻ごとで、約束していた十刻半になんとかギルドに着くことができた。

 受付の男に話をすると、もう来てるよ、と言ってちょうどカウンターをぐるりとまわった反対側のテーブルを指し示す。
 窓から遠く薄暗がりになっているそのテーブルには、紺のフードを目深にかぶり、小柄な依頼人がすでに座っていた。

 コートとフードのせいであやしい雰囲気をこれでもかとかもしだしている人物の前の席に二人で座り、
「お待たせしました。私がシャ-ロット、こちらがアルフレッドで、冒険者をやっています。さっそくですが、詳しい内容を窺いたいのですが。ギルドの紙には遺跡にかかわる依頼だということでしたが……」
反応を窺ってみると、その人物は静かに頷いてから、
「私の依頼というのは、まず、遺跡ミストランテの最深部に到達することが絶対条件です」
落ち着いた少女の声でそう宣言した。
「……」
「どうかしましたか?」
 正体不明の人物が少女だったことと、その話の内容にシャロンが二重の意味で驚いていると、、彼女は小首を傾げてみせる。

 彼女の提示した依頼料は銀貨10枚。それでこの条件というのは厳しい。それに、とシャロンは首を振る。
「残念ですが、この依頼は受けられません。私たちはこの遺跡に深入りはあまりしたくないんです」
「……そうですか。それでは、この話はここまでですね」
 深くフードを被った少女は心なしか肩を落とし、椅子から立ち上がると静かにギルドから去っていった。

「どう思う。今の少女」
「さあ?……どことなく世間知らずそうな気はしたけど」
「そうだよなあ。あの依頼引き受ける奴なんているんだろうか」
 時間がかなり余ったので、外に出て屋台で軽食を取り、再びギルドで情報収集をしながら次の依頼人を待つ。

 冒険者といった風情の青年が、片腕を吊り、足を若干引きずりながら現れたのは、昼時の、約束の時間よりやや早めだった。おまけにやけにせかせかと歩いてくる。
「失礼。シャ-ロットさんとアルフレッドさんですか?」
「はい。あなたが、言伝てを頼みたいという依頼人ですね」
 彼は頷き、椅子を引いたシャロンに丁寧に礼を言ってから席に着いた。

「それでは、時間がないので簡単に言いますが、依頼というのは、今日の昼過ぎ、遺跡の入り口まで行ってそこにいる男に、『トムソン・ハーブルが来れなくなった』と伝えてほしいんです。ここの酒場で意気投合してパーティーを組もうと約束したのはいいんですが、冒険者同士の小競り合いに巻き込まれてしまって……」
 彼は悔しそうに顔を歪め、強く手を握り締めたが、気を取り直してカバンから飾り紐を取り出した。
「グレン・カワ-ドは用心深い男ですが、これを見せれば信用してくれるはずです。この紐と彼の持つ違う柄の飾り紐を交換してギルドへ持ってきてください。それと引き換えに報酬が受け取れます。……もちろん、会えない場合もあるでしょうが、その時は彼がギルドに姿を現したらその時報酬が彼に迷惑料として渡るようになっています」
「それで、彼の容姿の特徴は?」
「そうですね……不揃いな焦げ茶の短髪で、右顎に縫合後、皮鎧で大振りな斧を持っています」
「なるほど」
 この依頼は銀貨20。相手の特徴もわかりやすく、ただ伝言だけの内容にしては、破格である。
「しかし、なぜそこまでするんですか?彼はたまたまここで知り合っただけなのに」
 シャロンが尋ねると、青年は罰が悪そうに、
「それは、僕が紡績関係の仕事をしているハーブル商会の三男だからですよ。酒の席でその話もしてしまったし、苦情を持ち込まれても困りますから」
「なるほど。しかし今日の昼下がりというのは急ですね……」
「ええ、それでこの値段なんです。僕はこの後荷物をまとめて故郷へ帰るので、どうしようもなくて。引き受けてくれますか?」
 シャロンは頭で計算し、この後の依頼人と会う約束さえ変更すればなんとかなるんじゃないかとの結論に達した。
「きっつ……」
 指折り残り時刻を計算して苦い顔のアルフレッドに構わず、引き受ける旨を伝えると、トムソン・ハーブルは飾り紐をこちらへ渡し、
「それじゃあ、頼みましたよ。僕は荷物をまとめなければいけないので、これで」
ぎこちない動きで去っていった。

「……かなり無茶」
「アル。町から遺跡までは半刻と離れていないんだろ?大丈夫だよ。それに、万が一失敗しても、報酬がふいになるだけですむ」
 契約金を取られるのは痛いけれど、とシャロンは呟き、受付でハーブルの依頼を引き受けると伝え、ついでに次のアンリ・フェブラスカとの待ち合わせを夜にしてくれ、と頼み込んだ。
 受付の痩せた男は、それを聞いてため息を吐き、
「そりゃあやってみますがねぇ。アンリ・フェブラスカに通じるかどうか」
「?」
 それはどういうことかと聞き返す前に、突然、バタンとギルドの扉が跳ねられた。
「おれの依頼を引き受けてくれるってのは、どこのどいつだ!?」
 口ひげを生やした逞しい工夫っぽい男が、ずかずかとカウンターに向かってくる。
「え、ええと、アンリ・フェブラスカ?」
「おう!そうよ。するってえと、あんたらが依頼を引き受けてくれるんだな!?」
「いや、まだそう決まったわけでは……」
 ギルドに人は少なかったものの、注目を浴びるのが嫌で、シャロンは少しずつ奥のテーブルに移動する。
「なんだと!?引き受けられねえってのか!?」
「依頼の内容によって違ってくるだろう?……って、しまった」
 うっかり口を滑らしたシャロンに、アンリは便乗し、
「そうだな、じゃあ、まず聞いてくれ。おれの人生最大の悲劇を!」
無理やり人を椅子に座らせると、勝手にしゃべりだした。

「あれは……おれが恋人と遺跡にある美しい湖に行った時のことだ」
 遠い目をしながら語り出すアンリ。これは長くかかりそうだ、と、シャロンも自然と遠い目になった。アルは特に頓着もない様子で、隣に座っている。

「湖で恋人と、楽しくしゃべる最高の時を過ごしながら、おれはとっておきのタイミングで、この時のためにコツコツと金を溜めて買っておいた、まるで彼女の瞳のように青く美しい首飾りを取り出そうとした」
 いらん装飾語が多い、とシャロンは心の中で突っ込む。
「ところが、だ。……なんということだ。おれが大切に胸ポケットにしまっておいた首飾りは、影も形もなくなっていた!彼女にはなんとかごまかし、難を逃れたが、首飾りはなくなったまま、探しにいこうにも、次々と仕事が入ってきやがった!」
 結構なことじゃないか。というか、さっさと話し終われ。イライラしながら待つシャロンに、男は身を乗り出して訴えかける。
「そこで、だ!おれの代わりに首飾りを探してきてくれ!頼む!このとおりだ!」
 頭を下げてくる男に、まあ小指の先ほどの心苦しさはあったものの、
「残念だが、これから急ぎの用事があるんだ。それに……もう誰かに拾われている可能性だってある」
「おれはきっと見つかると信じてるんだ。あいつと出会ったのは五年前……その時は運命を感じた。それから数ヶ月……おれの姿を見て逃げてしまう彼女に、何度もアタックして、やっと友だちからと言ってもらえたのが一年後……」
「もういいから!……わかった。探してみる。ただし、見つからなくても文句は言わないでほしい」
 また長くなりそうな回想に、慌てて承諾すると、アンリは目を輝かせ、テーブルをバシンと叩く。
「なんと親切な!感謝してもしきれない!」
 もう突っ込む気も失せたシャロンは、受付にもう一度話をして、アンリに別れを告げると、近道を知るアルフレッドの先導で急いで東側の遺跡へと向かう。

 門を抜け、草原のあいだの砂利道を歩くことしばらく。辿り着いたミストランテの遺跡は、緑あふれる森の中に佇んでいた。

 本来ならひっそりと静まり返っているのだろうが、今は冒険者や傭兵やらがうろうろしている。
「それらしい人物は……いないな」
「……そうだね」
 大幅に遅れてしまったため、待ちきれなくなったのだろうかと、手近な人に聞いてみたものの、曖昧な返事が返ってくるばかり。もう入っちまったんじゃねえのか、と指摘されたので、あの集会の話にあった新しい入り口へと向かうことにした。

 倒壊した白い柱や敷かれた平らな石の隙間からは草が伸び放題で、かつての塔はただその栄華の名残りを留めるのみとなっている。それでも歩いていくと、白い大理石が敷き詰められた広間らしき場所の奥に、階下へ続く幅広い階段と、そこから出入りする人が見えてきた。
「すげえよな、これ。今日の朝いきなり出現したんだぜ」
 三流っぽい冒険者の男が興奮気味にしゃべっているが、残念ながら出現前を知らないのでその凄さが実感できない。

「こういう、閉鎖的空間は苦手なんだ……」
 しかも二週間後に閉じるってどうなんだ、とシャロンは二の足を踏む。。
 アルフレッドは顔をしかめていて、どうした、と尋ねると、
「……何か腐った、嫌な匂いがかすかにする」
と返事をした。シャロンも鼻をひくつかせたが……何も匂わない。
「中で誰かがごみを捨てたとか」
「わからない」
「……ふむ」
 まず安全性を確認しようと、出入りする人を観察してみたが、人々は普通に行き来していて、初めて入ると思しき者の緊張ぶりに比べ出てくる人たちは明るく、談笑する余裕すらある。
 呼び止めて中の様子を訊いてみるが、
「いや~大したことなかったぜ。まあ、おれはちょこっとしか行ってないけどもよ」
と軽く返されてしまった。

 それでも、ひとまずの危険はなさそうだ、と判断して、シャロンとアルフレッドは、遺跡の地下へと足を踏み入れた。
 
 ギルド裏話:シャロンたちは引き受け手のいない、悪名高きエドウィンの依頼を解決したので、ギルドの依頼の中でも厄介なのがまわってきやすい“便利な冒険者”リストに名前が載ってしまいました。
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