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異郷より。 作者:TKミハル

『荒れ地と竜』

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魅惑の歌姫

 閲覧ありがとうございます。
 ほどよく混んできた店の話題はやはり遺跡のことで、漏れ聞こえる会話によれば、どうやらその遺跡に入り口が開くのは明日らしい、ということがわかった。

それでこの盛り上がりか、と納得しつつ飲み食いし、頃合いを見計らって店を出れば、混雑していた通りの人も減り、酒場も――――――
「思ったほど、減っていないな」
それでもかろうじて中を覗けるぐらいにはなっていたので、背伸びをして人の頭越しに奥のステージを見やる。
 そこでは、美しい歌姫が長く赤く濃厚な葡萄酒色の髪を揺らし、切れ込みの入ったドレスの裾をひらめかせてステップするたびに歓声が沸き起こる。
「レンレンちゃん、いいぞ~!!」
誰かの呼びかけににっこり笑って手を振り、それから滑らかな動作で胸に手を当てると、すっと背筋を伸ばす。
途端にまわりが静まりかえり、彼女の艶かしい歌声が隅々に響き渡った。
「う」
シャロンはその歌を聴いた瞬間、ぶわっと鳥肌が立つのを感じ、身震いする。
歌の内容は、つれない男をなじるもので、ねっとりと絡みつくような声が、体の奥底まで響いてくる。
「……でよう」
アルフレッドが顔をしかめてシャロンの手を引き、二人は酒場を後にした。

「……なんか凄まじい歌だったな」
こう、背筋がぞくぞくするような感覚は馴染みのないものであり、それを楽しむには、シャロンはまだ経験が浅すぎた。
その隣にいたアルフレッドは、ひっそり幾度か深呼吸をして、高揚を落ち着かせている。
「……戻ろうか」
二人は微妙な気分のまま、ぎこちなく距離をとって、宿へと道を辿っていった。

 次の日。シャロンが早朝の鍛錬をしようと部屋を出ると、同じように出てきたアルフレッドとかち合い、おあつらえ向きの空き地で修練して、さて宿に帰ろうと広場へ差しかかったところで、大掛かりな集会に出くわした。

 用意された即席の台の上で、恰幅のいい男性が手を振り上げ熱心に演説している。
「今、ここに立ち会えた私たちは、幸せ者である。………そもそも、このミストランテの町は………」
 どうして権力者というのは、こうも話が長いのだろう。うっかり立ち去りそびれ、今終わるか、いや、頼むからもう話し終えてくれとシャロンが強く念じ始めたところで、
「諸君、今日は実に記念すべき日になるだろう。ここに、ミストランテの遺跡への立ち入りを、解禁する!」
この町の有力者らしき人物が宣言し、ウワァアアアアッと、轟きにも似た歓声をその場にいた冒険者や傭兵などが一斉に上げて集会は終わった。

「大分時間を食った。アル、急いで戻ろ……」
 シャロンがそう言って振り向くと、そこには無表情のアルフレッドではなく、にっこりと赤い髪の美しい女性が微笑んでいた。ふわりと濃厚な薔薇の香りが漂ってくる。
「ぅわっ……!あ、と、あなたは……?」
 よく見るとそこから五六歩離れてどことなく嫌そうなアルもいる。どうやら、彼はこのひとが苦手のようだ。

「初めまして。あたしはリリアナ・レンレン。流れの歌姫兼、冒険者をやっています」
 胸に手を当ててにっこりと微笑む姿は優美で、決まっている。
「あ、ああ……私は、シャーロット・リー」
 ヴァイス、と名乗ろうとして、なぜかアルのきつい眼差しに止められた。
「シャーロット・リー?変わったお名前ですね。……シャロンさんとお呼びしても?」
 彼女がそう言って首を傾げると、リング型のピアスがキラッと光を反射した。
「かまいませんが……。私に、何か?」
 正直なところ困惑していた。このひとに呼び止められるようなことを、何かしただろうか。

「いきなり呼び止めてしまってすみません。ただ……あなた方が、エドウィンのことを知っていると、小耳に挟んだものですから」
「エドウィン?ああ、あの」
 あの、無精ひげの生えかけた、ボロいコートの男と、目の前の洗練された女性とが、どうにも結びつかないが……。
「ええ。彼をずっと探しているんです。お願いです、彼のことを教えてください!彼は、彼はここに来るんですか!?きっと、あの人ならここの遺跡に興味を持つと思って、あたしはここに……」
「残念だけれど、あいつはここには来ないよ。事情があって、来れないって言ってた」
「そうなんですか……」
 リリアナは項垂れ、碧の瞳を伏せた。憂いを帯びた表情でさえも、艶めかしい。
 美人は得だな、とシャロンは頭の片隅でぼんやりと考える。

 彼女は再び顔を上げ、その手を伸ばしてシャロンの手を柔らかく握り締めた。
「それでは……よければあたしと遺跡ミストランテの探索をしませんか?あの人と冒険した人なら信頼できるし……」
「え、と、それは……」
 シャロンが答える前に、アルフレッドがぐいっと腕を引いてリリアナから引き剥がし、
「悪いけど、あんまり関わりたくない」
とバッサリ断った。

「そう、ですか……」
 彼女はまた失意の表情を容作かたちづくったが、やがて、もし気が変わったら、いつでも声をかけてくださいねと微笑んで軽やかに立ち去った。

「まさか、エドウィンにあんな追っかけがいるとは……」
「きっと、あのひとが彼の“事情”なのかも」
 アルフレッドは、リリアナの去った方向を見つめ、苦々しく呟いた。
次回、やっと遺跡へ。
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