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異郷より。 作者:TKミハル

『荒れ地と竜』

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驟雨の後で

 遺跡のあるミストランテまで、あと少し。朝から草地と、遠くに小麦畑のある平野の、人通りの多い道を歩き続けていたシャロンは、アルフレッドに声をかけ、道からちょっと外れた場所の、岩がいくつか転がる空き地で休憩することにした。

 あの、思いがけず誕生日プレゼントを貰った日の夕方、天候は一気に坂を転げ落ち、激しい雨となった。
 いろいろなことが一度に起こり、混乱しながらも慌てて宿へ走り込み、服を部屋で乾かした後の夕食の時も、こちらが気まずい思いをしているのに、こいつはそのことを歯牙にもかけず、いつもと変わらない態度だった。

 例のあれも、きっと深い意味はなく、親愛の情とか、そういうことなんだろうな。

 そう結論付けて肩の力を抜いたシャロンは、休憩もそこそこに剣を抜き、邪魔な石を足で蹴ってから素振りを始める。

 ……こうして使っていると、普通の剣とほとんど変わりない。

 アルフレッドも鍛錬を始めたので、その姿を眺めつつ、集中して剣の流れの形に沿って振っていき、お互いに一区切りついたところで、声をかける。
「アル、この剣どう思う。何も考えずに振ると何も起こらないんだが、こうして振ると……」
といいながら巻き起こる風をイメージして剣を振りかぶれば、そのとおりに風が渡っていく。
 二つの違いは、と尋ねる彼に、自分がイメージしたとおりに風が起きていると説明する。

「……何が問題?」
 心底わからない、といった風のアルフレッド。
「だーかーらー、どう扱ったらいいか困っているんだよっ。こっちの思いがそのまま伝わるんだぞ!?例えばおまえとの打ち合い中に、突然風が起こったらどうする」
 ああ、と納得したように頷き、
「それなら、練習すればいい」
「え」
平然と前に立った。
「……おい、何のつもりだ」
「だから、実際にやってみるのは?」
「いやいや、おまえおかしいだろ。もしそれで怪我でもしたらどうする」
「シャロンなら、大丈夫」
 あまりにも譲らない態度に、だんだん腹が立ってきた。こっちが心配してるっていうのに!
「……」
 もう、どうなろうと知ったことか。剣を構え、正面から睨みつける。剣をかかげ、強風のイメージで大きく振り下ろした。

 同時に、ふわ、とアルフレッドの髪がなびく。
「あれ?……いや、この剣の力は、こんなものじゃないぞ」
 再び剣を構え、二度三度と振り下ろしたが、どの風も、アルの髪や服をはためかせたりするだけで、まったく強風とは呼べなかった。
「……」
 アルフレッドが何も言わずにいてくれるのが、救いといえば救いだが……その彼は、上からじりじりと照りつける太陽に汗を流し、だるそうにしている。

 だんだん悪いことをしているような気分になりながらも練習を続けていると、途中からアルフレッドの表情に変化が現れた。
 こちらの剣が振り下ろされる度に、心地よさげな表情になり、最後には手近な岩にもたれ、そのままうとうとし始めてしまう。

「この辺で、終わろう」
 その言葉に、パチッと目を開けてぐぐっと伸びをすると、ごそごそとカバンから手のひらサイズのクルミを取り出し、わざわざ地面に置いて、
「あげる」
と一言言って、脇へどく。

 美味しそうだが……クルミの殻は硬い上に剣やナイフでは割りにくい。気力を引きずり出し、もう一度剣を構えて、鋭い風の刃を頭に描きつつ薙ぎ払った。

 途端に疾風が滑り、クルミをスパッと両断して後ろの岩を薄く削り取る。
「……つまり、こういうことだよ」
頬を緩ませ、得意げなアルフレッド。

 どういうことだ、それは。

 そう思ったが、突っ込む気力も起きず、クルミを拾って口にした。やや渋いが、美味い。

 剣を振る度に精神力が削られ、消耗したこちらとは引き換えに、充分な休息がとれ、満足そうなアルフレッド。
 非常に理不尽なものを感じながらも、二人して道に戻り、歩き続けていくと、まわりはいつのまにか小麦畑になり、そこを抜けてミストランテの町の入口へと辿り着いた。


 町を囲む高い壁。門の前で荷物の中身や、不審者がいないかチェックする兵士たち。無事検問を終えて入ると、奥に大きな広場があり、たくさんの出店があってにぎわっていた。
「なんだか、久しぶりに街って感じがするな」
「……そうだね」
 広場からはいくつも通りが伸びているが、看板らしきものはまったくない。

 目印を探していると、向こうからボサボサ頭で薄汚れた服の男の子がぱっとこちらへ駆け寄り、話しかけてくる。
「おねいさん、半銀貨で町をすみからすみまであんないしましょうか?」
「高い。余所へいってくれ」
 にべもなくシャロンが断ると食い下がり、
「そんなこと言わないでよ。じゃあ、クアル半銀貨で」
「……大まかな場所さえわかればそれでいいんだ。必要ない」
「向かって西の通りは領主さまの館とじゅうたくち、まんなかはギルドと宿屋。西は商店街。……はい、教えたんだからなんかくれよ」
 シャロンが銅貨を5枚渡すと、それを引ったくった彼は、振り返りもせずに次の客を探しに走っていった。

 真ん中の通りにあるミストランテのギルドは大きく、入ると中は傭兵や冒険者で活気づいていた。念のために受付の男に名前を言い、預かり物がないか尋ねると、荷物保管担当の者が来てリストを確認し、
「ああ、シャーロットさんですね。一件郵便が届いております。お渡しするのに時間がかかりますが……お待ちになりますか?」
「ちょっと待ってくれ。連れと相談する」
 そう言ってから、アルフレッドを振り返り、
「というわけで、どうする?私はしばらくここの掲示でも確認しながら待つつもりだが……」
「……わかった。僕はその辺を歩いてまわってくるよ。ついでに、宿も取っておこうか?」
「あ、ああ、そうしてくれると助かる」
 シャロンが受付にギルド内で待つ旨を告げ、日没後に隣の酒場で、とアルフレッドに伝えると、なんの懸念も見せずにじゃあ、と手を振ってギルドから出て行った。

 その、これまでと違った行動に、シャロンはふと、ひょっとしたらアルもずっと不安だったのかもしれないな、と考えた。


 ギルドを出たアルフレッドは、シャロンが受付で話しているあいだに手に入れた簡単な地図を元に、まずは宿屋に行って部屋を二人分取り、それから急ぎ足で町の主要な通りを歩いてまわっていた。

 地図と道を照らし合わせながら、裏道、店の位置、どこに何があるかをだいたい把握していく。こうした下調べは、もはや彼にとって習い性と言っていい。

 夕方になるにつれ、明るく賑やかな町は徐々に姿を変え、その裏の顔をさらけ出していく。小さな通りで起こるいくつもの小競り合い。裏路地で男を待つ売春の少女たち。スラム街の方から小さく響いてくる悲鳴と怒鳴り声。

 それらを見聞きし、やがて入るには危険な地区や、できる限り安全といえる通り道、安全な場所をひととおり覚えたアルフレッドは、シャロンと待ち合わせした通りへと再び戻っていった。 
〈風の剣〉
・この剣に触れた魔法抵抗値の低い人・魔物から精神力を奪い、力を溜めて風を発動する。また、魔法抵抗値が高いものでも斬ることによって精神力を奪うことができる(発動に必要なエネルギーがないときは持ち主から奪う)。
・力の発動条件は、持ち主の意志による。ただし、表に加えて、無意識下での本音にも反応し、より強い方が影響する。
 例として、使うことへの抵抗や、剣の力に疑問を抱いていたり、心の奥底で傷つけたくないなとか思っていたりすれば発動に影響する。

 クアル半銀貨→4分の1銀貨
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