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異郷より。  作者: TKミハル
『荒れ地と竜』
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石柱と夏日影

 野営地を出発してから随分時間が経ち、太陽がじりじりと真上に上がったところで、

「……ここで降りましょう」

エドウィンが怖ろしいことを言い出した。


 窓の外に広がる平地には、もはや日陰となるような木はおろか、草さえまばらにしか生えていない。

 露骨に顔をしかめるシャロンに、怪しげな考古学者は慌てて、

「あれ?私、伝えましたよね?途中下車して歩くって」

といい、それにアルフレッドも頷いた。


 どうにも覚えがないが、すでに承諾してしまっていたらしい。


 空は晴天だが、どんよりとした気分で、本当にいいのかい、と驚く馬の操縦者に別れを告げ、荒れ地に降り立った。

 日差しが強いのでバンダナを頭に巻いておく。


エドウィンは大きな荷物を背負い、にこにこと遥か彼方にある黒っぽい点々を指差した。

「あそこに石柱で囲まれた場所があります。そこで休憩にしましょうか」

「……」

 口を開けば体力が奪われる。シャロンは黙って頷き、一歩を踏み出した。


 歩いても歩いても同じような荒涼とした大地が延々と目の前に広がっている。目的地であるあの黒っぽい点が徐々に縦長の粒へと変化していく様子がなければ根を上げていたかもしれない。


 人の汗や目に溜まる水に惹かれる蠅を払い、ごく稀に近づいてくる火蟻を切り払いながら無心に歩くうちに、シャロンたちはいつのまにか石柱の群れへと到達していた。


 円を描くように立ち並ぶ石柱と、その内側にやはり円形に埋まっている拳大の石の数々。

 特に興味は引かれなかったので石柱の裏に陣取り、水を一口飲んだ。

 アルフレッドはずっと無言で、暑さに弱いのかかなり怠そうにしている。


「暑いな」

「そうですね。でも、秋や冬では日が沈むと死者が出そうな寒さになります。今の時期が一番いいんですよ」

 満足したのか機嫌のいい考古学者は、背負っている大荷物を下ろし、肩掛けカバンから古ぼけた手帳を取り出してめくる。

「この石柱のサークルはその昔、竜に祈りを捧げる儀式を行ったそうです」

「……そうか」

 石柱の影で受ける風は心地よく、眠気を誘ってくる。


 彼はまわりを一周したり、石柱に彫られた文字を手帳と見比べたりしながら調査していたが、やがてこちらに戻ってきた。

「せっかく三人揃っているんですから、一度儀式をやってみませんか?」

「はあ?」

「文献によると、三人がこのサークルのそれぞれに立ち、一心に祈ることで竜が出現した、とあります」

「……竜は危険なんじゃなかったのか?」

「いえ、なんといいますか……もしあの竜の噂が本当だとして、ここに現れると思いますか?」

「さあ。そう簡単には現れないとは思うが」

 シャロンはうんざりしながら答えた。アルフレッドは石柱に持たれながら気持ちよさげに目を閉じている。


「そうですよね。というわけで、やってみましょう。幸いやり方は私が詳しく知っています」

 いそいそとアルフレッドを呼び、石柱に囲まれた内側の一点に立つよう指示をした。起こされた彼は不機嫌そうにしながらも言うとおりにする。


 シャロンもエドウィンの指示通り三角形を作るように立ち、彼が長々と、竜への祈りの言葉を唱えるのを見守った。といっても何を言ってるか全然分からないので、ひょっとしたらまったく別のことかもしれない。


 アルフレッドは目を細めて青空を見上げ、ゆっくりと輪を描いて飛ぶ大ワシを眺めている。……何を思っているのかはだいたい想像ついた。


 ……そういえばお腹がすいたな。


「リーヴァイスさん、アルフレッドさんも。ちゃんと竜のことを考えてくださいね?」

 鋭いエドウィンの指摘が刺さった。


 強い日差しにさらされること、しばらく。もはや頭の中は竜がいるなら早く出てきてくれ、という思いでいっぱいになった。アルフレッドは殺気のこもった目で三角形の中心部分を見ている。

 その殺気がエドウィンに向けられないといいが……。


「……現れませんね」

「だから言ったじゃないか」

 これでこの苦行から解放される、とシャロンは安堵のため息を吐いた。

「ひょっとしたらこの石の配置がおかしかったりは」

「いや、もうあきらめてくれ」

 思わず叫ぶと、彼はしぶしぶ動いて自分の荷物を取りに行った。


「ここから行けるのはターミルと、もう一つ小さな村があります。実はそっちの村の方が近かったりするのですが……」

 小休憩を挟んで、考古学者は次なる目的地について話し出した。

「でもターミルの噂も気になるので、いっそのことまず近い方の村へ行って、それからターミルへ行きましょうか」

「そんなにターミルまでは距離があるのか?」

 シャロンが尋ねると、エドウィンは真剣な表情で頷いた。

「村へは日没までに着けますが、ターミルだと着くころには日が落ちています」

「……そんなに変わらないじゃないか」

「でも、夕方からは急速に冷えますよ。それでもよければ」

「いい。多少時間はかかっても、ターミルへ行こう」

 寄り道をすれば、何をさせられるかわかったもんじゃない。


 シャロンたちはその祭壇を出発しターミルへ向かったが、エドウィンの言ったとおり町へ着いたのは日が完全に暮れてからだった。




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