表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/73

エピローグ

「ねえママ。あのお話聞かせて!」


「ふふ……エナは本当にあのお話が好きだな」


「うん! だって面白いんだもん!」


「では、話そうか。あるところにいた二人の勇者のお話を」


「うん!」




 ――今から少し前、この世界の人たちは危機にさらされていました。そのため、国の偉い人たちは勇者を呼び出す事に決めたのです。


 しかし、呼び出せる勇者は本来一人だけ。なのに、二人も呼び出されてしまいました。


 王様たちはどちらが勇者なのか分からず、どっちも勇者にしてしまおうとしました。


 でも、呼び出された人の片方はそれが我慢できず、逃げ出してしまいます。




「どうして逃げ出しちゃったの? 勇者になれるって、すごい事なんでしょ?」


「それはな……誰かに押し付けられた事だからだよ。エナだって、ヤンに掃除を押し付けられるのは嫌だろ? 彼にとっては、それと同じだったんだよ」


「ふーん」


「さあ、続けるぞ」




 逃げなかった勇者は心強い仲間と一緒に旅をします。その旅は辛く、何度も苦しい目にあってきました。


 けれど、勇者は諦めませんでした。ほとんど見ず知らずの人たちのために、勇者は身を削って戦い続けました。


 しかしある時、勇者たちは敵の罠にはめられて、危険な状態になってしまいました。


 そんな絶体絶命の勇者たちを助けたのが、一度は逃げ出したもう片方の勇者だったのです。




「何で一度は逃げたのに、助けたの?」


「その人はね……どうしても放っておけなかったんだよ。自分の知っている人が苦しむのが耐えられなかったんだ」


「じゃあ、その人は優しいの?」


「……ああ。誰にでも優しいわけじゃないけど、目の前で困っている人には必ず手を差し伸べる人だよ」




 逃げ出した勇者も覚悟を決め、魔王を倒す事に決めました。二人で一人のその勇者は、本当の力を発揮して戦い続け、そしてついに魔王を倒したのです。




「ねえ、どうして二人で一人なの? 勇者って、誰でもそうなの?」


「うーん……それは、彼ら限定だね。二人は、両方揃わないとただの人でしかないんだよ。でも、両方が揃えば、負けなしなんだ」


「すごいんだね、どっちの勇者も!」


「そうだな……。今、エナがこうして私の話を聞けるのも、その人たちが頑張ったからなんだぞ? 今を生きれる事に、感謝しないとな」


「うん! じゃあ私、お姉ちゃんの面倒見てくるね!」


「ああ、私は旦那さまを迎えるとしよう」




「誰が旦那さまだボケ」




「うん? もう帰ってきてたのか?」


「話の途中でな。それとお前なぁ……子供たちに変な言葉教えるな。誤解解くの大変なんだぞ」


 目の前にいる妙齢の美女にそう愚痴る。言うまでもないと思うが、薫だ。


「いいじゃないか。あながち間違ってもないんだし」


「確かに俺があいつらの父親である事は認めよう。だが、お前に旦那さま言われる覚えはない」


 普通に鳥肌立ったから。しかもこいつの容姿で言われると並みの男ならコロッと落ちてしまいそうな破壊力を秘めているので性質が悪い。


「しっかし……お前が孤児院のママねぇ……最初は似合わねえと思ったけど、なかなかどうして、母親が板についているじゃねえか」


「やれば何とかなるものさ。それより、静こそみんなに慕われているパパになっているじゃないか」


「るっせぇ。俺だって子供を邪険に扱いはしねえよ」


 薫が決めた事。それは戦災孤児を引き取って孤児院を開く事だった。


 とにかく孤児を拾ってきた。魔族の子供だろうと、人間の子供だろうと拾った。


 俺たちの戦いに巻き込まれてしまった子供たちへ少しでも責任を取ろうとしたっていうのもあるが、一番の理由は薫が魔王と交わしたあの約束である。


 魔族と人間が手を取り合う世界。俺たちでも実行可能で一番手っ取り早い方法がこれだった。


 言い方は悪いが、やはり純粋無垢な子供のうちに教育しておいた方が何かと便利なのだ。大人になるにつれて固定観念とかが多くなり、魔族を友として見れなくなってしまう。


 ちなみに運営資金は薫が要請する各国の王様からの援助と、俺が働く冒険者ギルドでの稼ぎだ。当然、前者の方が額は多い。


 ん? 何で俺が援助を頼みに行かないのか、だって?


 ちょっと話は遠くなるが、英雄譚というものの説明から入ろう。


 俺と薫の冒険譚はさっき薫が話していたように、かなり有名なものとなっている。


 だが気付いた人はいるだろうか? そこに容姿の説明が入らなかった事に。


 まあ、さっきのあれは子供に読み聞かせるために薫が適当に書いた簡略本だから容姿について言われていないのも無理はない。あいつ自分の容姿には無頓着だからな。


 そして別の人が書いた英雄譚というのが存在するのだが……マジでない。


 薫に関しては別に良い。概ね特徴と合致しているし、あいつの旅も事細かに書かれていた立派な代物だった。


 ただ、俺のは……すでに俺の原形が留められてなかった。


 買い出しに出かけた街で軽く読んでみたのだが、俺の容姿は女性と見間違うほどの中世的な美男子で、髪は銀色の長髪、瞳は金と銀のオッドアイ。そして三日でこの世界の魔法を全て覚えて、なおかつ剣術の天才という事になっていた。そして必殺技は背中から生える光の翼が全てを消し飛ばすらしい。


 これを見て思わず「イテェッ!」と叫んでしまった俺は悪くないはずだ。そんなイタ過ぎる容姿に生まれたら腹を斬るぞ。


 というか俺の特徴がどこにある。背中から羽が生える時点ですでに人外確定だよね? そんな奴勇者で良いの?


 薫は街に買い出しに行くと、色々な人に捕まってしまい大変なのだが、俺は別に誰にも声をかけられないのだ。


 ……別に目立ちたいわけじゃないが、それでも素直に喜べない何かがある。


「しかし、結局戻ってきたんだな……」


「まあ、お前と俺が選んだ事だしなあ」


 今さらな事だが、俺たちはフィアたちの住む世界に戻ってきた。理由は先に言った通り、孤児院を開くため。


 確かにあの時帰るとは言ったが、別に二度と戻ってこないなんて言った覚えはない。両親を安心させるために帰っただけだ。


 帰った時は大変だった。予想通り地球では大騒ぎになっているし、その後の両親の説得とかも色々とキツかった。


 とりあえず、外国に出稼ぎに行っているようなものだと説得して、年に何回か顔を見せに戻る事で妥協した。やはり子は親元をいつか離れる存在なのだ。俺たちはそれがちょっと早かっただけで。


「ところで、フィアに会ってきたのだろう? 息災だったか?」


 よく思うのだが、こいつは結構唐突に話を変えてくるな。こっちも慣れてるから対応するけど。


「あいつが病気する姿の方が想像できねえっての。きっと今日も兵士相手に剣振ってるんじゃねえの?」


 フィアは旅で磨かれた剣術を兵士たちに教える仕事をしていた。お姫さまがそれでいいのか、とか思わなくもないが、兵士相手に高笑いしながら剣を振る姿を見て、あれが天職なのだろうと確信した。


 ただ、最近は貴族たちの縁談話が増えてきて辟易しているみたい。例によって窓から侵入したのだが、ぐったりした様子を隠そうともしてなかった。


「そうか……。みんな、それぞれの道を歩いているんだな」


「俺もお前もそうだろ。あの時は想像もしなかったぞ。俺がこんな事するなんて」


 まさか孤児院を薫とやっているとは。人生って塞翁が馬だとつくづく思う。


「それなんだが……」


 何やら薫が目線をそわそわさせながら、こちらをチラチラと見てくる。何だろう。何事もはっきり言うこいつが口ごもる事とか。


「その、迷惑じゃないだろうか? これはただの我がままだし……」


 何を言い出すかと思えば。そんな事か。


「お前が俺を気にするなんて……明日は雪だな」


「ま、真面目に答えろ! 真剣に聞いているんだぞ!」


「お前なあ……」


 本気で呆れてしまう。こいつは俺の事を理解していないのか?




「俺は自分で決めた事しかしないっての。お前が一番よく知ってるだろう?」




 まあ、自分で決める前に巻き込まれるのも結構あるんだけど。それは例外だ。


「……ははっ、相変わらずだよ静は。いつもそうやって私を助けてくれる」


「自分のしたい事やって、その延長線にお前がいるだけだって」


 事実だ。俺は結局、自分で考えて納得した事しかしないし、それが薫との対立になるのなら、きっとためらわない。


『まずあり得ぬ仮定じゃの。主が仲間を裏切るなどあり得んよ。妾が保証しよう』


 俺の手に付けている手袋から聞き慣れた声がする。否定はできないその言葉に苦笑し、薫の方を見る。


「まあ、俺の事は気にしないで好き勝手やってればいいって。お前が暴走しても、俺が止めてやるから。貸し一つで」


「タダじゃないのか?」


「当たり前だっての。恩は売っとくもんだぜ」


 特にこいつに恩を売っておくと何かと便利だ。元勇者だけあって、律儀に約束を果たしてくれるし。


「ところで、フィアの縁談話で思い出したのだが、私にも縁談が来ているらしい」


「へえ」


 面白そうじゃないか。傍から見る分には。


「それがこれだけある」


 ドサリ、と薫の身長ほどもある紙が積まれる。というかこんなにたくさんの紙をどこに置いておいた?


「す、凄まじい量だな……」


 さすがに口が引きつってしまう。勇者効果はそんなに偉大か。


 ……俺だってそういう人が一人くらい欲しいよ。


「これでも厳選した方らしい。送ってきた人がそう言っていた」


「これでか!?」


 どう見積もっても千人以上いるぞ。そんなに薫の夫になりたい人がいる事に戦慄が隠せない。


「そして、私はこの中の誰とも結婚する気はない」


「へ? なんでさ? お前、結構良い年だろ?」


「まだ二十歳前だ! 地球ではまだ大学生だぞ!」


 そりゃそうだけど。この世界って結婚年齢低いよ? 技術が発達してないからか、流産や死産率も高いため、質より量な考え方なのだろう。だから若いうちに結婚してどんどん子供を産むのがこの世界の普通だ。


 俺の聞く話では、十五歳で結婚して子供を産んだって人もいるくらいだ。その観点で言わせてもらえば、薫はちょうど適齢期だろう。むしろこれ以上遅れたら行かず後家の可能性が出てくる。


「静、お前今ひどい事を思わなかったか?」


「すいませんでした」


 ごまかせそうにないオーラを放っていたため、素直に謝ってしまう。


「ふう……けどさ、お前が早めに結婚した方が良いと思ってるのは俺もだぞ」


「静もか? それはまた何で?」


「俺にかかる負担が少なくなりそうだから」


 さすがのこいつだって結婚すれば無茶をしなくなるだろう。仮に無茶するとしても夫を巻き込んでくれるだろうから俺は安全になる。


「……要するに、お前は私と一緒にいると騒動が絶えないから、さっさと誰かくっつけて自分に来る騒動を減らそうと考えているんだな?」


「わあすごい。エスパーかお前?」


 そして何を要約しているのか謎だ。


「そういう事なら……なおさら結婚はできないな」


「だから何でだよ」


 こいつの心がまったく読めないため、不思議に思って聞いてみる。するとこいつは俺に飛びっきりの笑顔を向けて口を開いた。




「お前にはこれからもずっと迷惑をかける予定だからな。夫にそれがいってしまうのなら、結婚なんてできないさ」




「……………………理不尽だ」


「それは了承と取ってもいいか?」


「…………もう、勝手にしろよ」


「ああ。勝手に取らせてもらう。では――これからもよろしく頼むぞ。相棒」


「………………………………はぁ」


 深い深い、海よりも深いため息をついて、俺は空を仰いでこう言った。






 ――冗談じゃねえ。

ついに本編は完結です。ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


この二人はこうしている姿が私の中で一番似合うと思い、このような結末にしました。いかがでしたか?


ちなみにこの二人は今のところ結婚する予定はありませんが、五年後ぐらいに思いついたように結婚するのでしょう。


あとはエピローグ時の静パーティーの設定や、思いついたように地球での二人を書いていきたいと思います。


もう一度言います。ご愛読、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ