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四十話

「……そうだっ!」


 とりあえず、この場をしのぐ方法は思いついた。


「クレア、続け!」


「分かったわ!」


 バカ鳥の前に躍り出て、その首に鋼糸を巻きつける。


 首に鋼糸が巻きついたのが不快なのか、俺に対して連続でついばんでくる。これが普通の大きさなら可愛いのだろうが、このサイズでは一撃食らったら終わりだ。


「おわっと! 《土よ 軟らかくなれ》」


 一撃をギリギリで回避してから、地面を緩くしてくちばしが食い込むようにする。


 軟らかくなった土にバカ鳥のくちばしが突っ込まれる。まるでプリンのように地面が抉れて、土の破片をこちらに飛ばした。


「……今だ! 《土よ 集まれ》」


 くちばしが一番深いところまで入ったのを見てから、その部分に土を密集させる。くちばしを押し潰す勢いで集まった土から抜け出す術はバカ鳥にはない。


「クレア、乗れ!」


「もうやってるわ!」


 クレアがバカ鳥の背中に飛び乗り、首元辺りに引っ付く。俺も鋼糸を使ってクレアの前に移動し、飛び乗る。


「それで、これからどうするの?」


「いや、何も考えてない。とりあえず、これは当座の危険から逃れるための行動だ」


 少なくともこれなら鳥に食われる事はない。


「クレア、こいつ吹っ飛ばせるか?」


 敵を一体消せるならそれは僥倖だ。


「魔力をそこそこ込めればイケるわ。ただ、私の矢は拡散しづらい代わりに貫通力が強いから、急所を的確に狙わないと……」


「信じてる」


 この時だけかもしれないが、背中預けてんだ。信頼しないでどうするよ。


「……あの時に言ったわね。あなたの信頼に全力で応える、って」


 ネガティブなクレアは見えない。強い光を持ったクレアがそこにいた。


 ……つまりこいつは何らかのスイッチが入ると頼りになるのか。信頼、がキーワードかもしれない。覚えておこう。


「よし、それじゃ俺の合図でいつでも撃てるようにしてくれ。おいバカ鳥!」


 くちばしを未だに地面に突っ込んだままの鳥に呼び掛ける。


「ここで頭吹っ飛ばされて死ぬか、俺たちの手足になって生きる可能性に懸けるかどっちが良い! 五秒で選べ!」


 ……………………動かないか。


「動かないならここで死にたいものとみなす! クレア!」


「……くちばしが埋まってて動かないんじゃないかしら」


 しまった。それを忘れていた。心なしかバカ鳥の瞳も潤んでいるように感じる。『理不尽な!?』と言いたげに見える不思議。


 魔法を解除し、土を元の固さに戻す。


「ほら、どっちか決めろ」


 ものすごい勢いで首が縦に振られる。さすがに死にたくないらしい。


「よし、足ゲット!」


 災い転じて福となせ。上手くいってよかった。ここでこいつが暴れていたらロデオ状態だ。


「あなたの声が紛れもなく本気だったからじゃないかしら……」


 冗談であんな事を言うわけないだろうが。俺はいつだって本気だ。


「早く飛び上がれ!」


 もう双子もヤバいところまで来てるから!


 バカ鳥の首をバシバシ叩き、飛び立つよう指示。意外にも従順にバカ鳥は翼を羽ばたかせ、空に浮かぼうとする。


『ぬぅっ!?』


 羽ばたきの風圧を受けた双子がその場に留まり、風をしのごうとする。吹き飛ばせないのがキツイが、まあ足止めができただけ上出来としよう。


「結構言う事聞くなあ」


 ポンポンと背中を叩きながら感心する。こいつはもとはあちら側だから、言う事聞きにくいと思ったんだけど。


「その割に私の構えを解くな、というのはどういう事かしら……?」


 ちなみにクレアは弓を構え、バカ鳥の頭に狙いをつけている。当然、俺の指示。


「いきなり暴れられたら困るだろ。保険だよ」


「きっとそれが鳥を従順にさせているんだわ……死の恐怖で」


 クレアが何やら言っていたが、無視しよう。


「クレア、ここから狙い撃ちってできるか?」


 弓に関して門外漢の俺はとにかく聞くしかない。これで撃てるなら、相当楽になるのだが……。


「……無理ね。足場が安定してないし、距離があり過ぎる。これでは精度が著しく落ちてしまうわ」


 力なく首が横に振られる。やはり世の中、そう上手くはいかないか。


「……そもそも、あの二体なら打ち落としそうだわ。私の矢は魔力で構成されているけど、弾けないわけでもないし」


 確かに雷撃の壁を平気で突破したような理不尽な奴らだ。それぐらい普通にやりそうで怖い。


「どうしたものか……」


 俺たち後衛は距離を取って戦うのが鉄則。その点で言えばこの場所はまさに理想。敵からの攻撃は受けないし、こちらから一方的に攻撃できる。


 しかし、攻撃の足場が固定できないというデメリットも確かに存在する。飛んでいる鳥の背中、という不安定極まりない場所での攻撃は著しく命中率が下がるし、攻撃に力も入らない。


 仮に攻撃して命中コースに入っても、あいつらなら力の乗ってない攻撃など軽く弾いてしまう。


 例外は魔法だが、俺の魔法は攻撃力が高くなるほど範囲が広くなる素敵仕様。あいつら殺せる威力とか、この集落が消し炭になる。こればっかりは俺の修練不足。反省しよう。


「少なくとも、ここにいたままじゃ千日手だ。何か良い考えないか?」


 向こうが状況の停滞を許してくれるとは思い難い。逃がした人たちの方に向かわれたらかなりマズイ。


「……そうね。何とか平らな地面なら狙撃ができるけど……。この場所では無理ね」


 狙撃、その言葉が妙に頭に焼きついた。何か起死回生のアイデアになるかもしれない。覚えておこう。


「……よし、作戦じゃないけど、今後の指針を言うから聞いてくれ」


 切れる手札が少な過ぎて作戦なんてとてもじゃないが立てられない。せめてフィアとカイトが戦線に復帰してからだ。


「分かったわ」


「まず、俺が時間稼ぎをするからクレアはフィアたちの様子を見てきてくれ。そこで逃げてもいいが、戦えるようなら俺たちに加勢してほしい」


 今回の戦いはどう考えても俺の責任。どこで居場所がバレたのかまでは分からないが、ここが襲われているのは紛れもない事実。ならば尻拭いはしなければいけない。


「……大丈夫なの? あなた、二体相手に時間稼ぎは厳しいって……」


「あの時はな。今は別だ」


 後ろに下がる事もできるし、何より地形を利用できる。徹底的に足止めに回れば時間稼ぎは十分可能だ。


 かなり厳しい役回りではあるが、完全に部外者で巻き込まれただけのクレアに任せるほど腐ってはいない。


「……分かったわ。なるべく早めに戻るから、それまで無事で」


「頼んだ」


 鳥の背中で立ち上がる。羽ばたいているため、猛烈な風にさらされる。思わずたたらを踏んでしまい、バランスを崩したまま落ちかける。


「や、ヤバかった……」


 さすがに心の準備なしのノーロープバンジーは勘弁願いたい。


『腹をくくったのではないのか?』


 メイがそんな事を言っているが、たとえ死ぬ覚悟をしていたとしてもこれはビビると思う。


「……っし、行くぞ!」


 背中を全力で蹴り、空に身を躍らせる。後ろで鳥の不満げな声が聞こえたが無視。


 全身に風をはためかせ、地面に猛スピードで接近する。


「《風よ 我が身を守れ》」


 もちろん、何の対策もなしに三十メートル以上の高さを飛ぶ気はない。風の魔法で全身を覆い、落下の衝撃を軽減させる。


『させるか!』


 当然、上から落ちてくる俺に対して迎撃しようと双子が爪を構えて待っている。


「《水よ 押し流せ》」


 それを手の先から出した大量の水で押し流す。物量の前に敵はない。


『チッ!』


 舌打ちをして二体が後ろに下がる。その隙に俺は着地し、糸を油断なく構える。


『……知っているぞ。お前は糸を使った攻撃をすると』


「さあ、それはどうかな?」


 糸は主力ではあるが、絶対の武器じゃない。戦いの中での行動は勝つという目標のための手段でしかない。


『ふん、どんな小細工であろうと、我ら兄弟の前に敵はない!』


 息ぴったりの双子。……何だかどこかで見た感じがした。


 ……具体的にはアウリスで薫と共闘した時にそんな事を口走った気が……。


 あれは忘れよう。きっと俺も気分が高揚していたからだ。平時は間違ってもあんな臭いセリフは言わんぞ。


 腹の奥から沸き上がる羞恥という名の熱を全身に逃がしながら、双子の魔族と対峙する。


『我らはすでに名乗った。お前も名乗れ』


 さっきお前ら俺の名前言ったじゃん、とかの突っ込みはできない様子。




「――秋月静。今は薫の補佐だ!」




 一般人を名乗る事はやめた。薫のミスの尻拭いという不格好な形ではあるが、関わろうと決めた。争いに関わる以上、一般人はもう言えない。


 ……薫のミスを帳消しにしたら今度は弦操士見習いを名乗るか。


「いざ!」


 俺が叫ぶと、双子も応じて叫んでくる。


『尋常に!』


『勝負!!』


「するわけねえだろうがボケ!」


 良いところで腰を折り、彼らの(とき)の叫びをガン無視して突進する。


『その攻撃は読んでいる』


 しかし、双子の片割れである皮膚が紫色の……オルメスだっけ? に短剣の攻撃は防がれてしまう。


『これまでだな』


 同時に皮膚が緑色のイルネスが攻撃後の硬直で動けない俺を刺し貫こうとその爪を振り上げる。


「甘いのはお前だよ」


 左手を短剣から離し、イルネスの手首を掴む。そのまま一本背負いの要領で体を持ち上げ、オルメスにぶつける。二体がもんどりうって倒れている間に距離を取り、糸を構える。


『バカな……こんな技術があるなんて聞いてないぞ!』


「敵に手札見せるほどおろかじゃないんでね」


 ニヤリと皮肉そうな笑みを見せるが、内心バクバクだった。あんな綺麗に決まるとは思ってなかった。フィアに体術の教えを受けておいてよかった。


 前衛はフィアたちに任せっ切りだが、まったくできないわけじゃない。少なくともクレアよりはこなせる。


「さて……ここからだ。さんざん好き勝手やってたみたいだからな。きっちり落とし前はつけさせてもらう」


「そうですね。あいつらには私も叩きつけたい怒りがあります」


「はい。このまま何もしないのは、僕の冒険者としての矜持にも関わりますしね」


「……彼らとは関係ないけど、仲間が襲われたのは許さない……!」


 俺の右隣にフィアが立つ。左隣にはカイトとクレアが立ち、それぞれの武器を手に持っている。救援に来てくれたのか。ありがたい。


「カイト、クレアは体が緑色の奴頼む。俺とフィアはあいつだ」


 役割を分担する。向こうはフェアプレイ精神でも持っているのか、左右に分かれてゆっくり歩く。


 俺とフィアは兄貴であるオルメスと同じ方向にゆっくり歩き、距離を詰める。


「……先手必勝です。一気に決めましょう」


「フィア、ここは俺にやらせてほしい」


「静さん……?」


 助けに来てくれたのは嬉しいけど、こればっかりは譲れない。




「あいつには借りがある。頬の傷、きっちり返させてもらう」




「――っ! ……分かりました。ですが、危ないと思ったら介入しますからね」


 俺の意志を感じ、それでも苦渋の色が強い感じだ。


「安心しろ。絶対に勝ってくる」


 フィアの頭にポン、と手を置いてから前に進み出る。


「話は聞いてただろう? 俺とお前、一対一の勝負だ」


『……フ、是非もない!』


 オルメスは騎士道精神にのっとった歓喜の言葉を返してくる。


 ……何度も思うのだが、騎士道精神を持つ魔族ってどうだろう。人間でそれを持っている人はあんま多くないぞ。


 俺とオルメスが前傾姿勢を作る。




「――勝負!!」




 まったく同時に駆け出し、俺とオルメスは激突した。

どう考えても自分が病気としか思えません。眠いのに指が止まらない。

さて、静は受けた落とし前はきっちり付けます。具体的には百倍返しくらいで。

もちろん、それだけの理由で死地に赴くほどバカでもありませんので、勝算ありの行動です。

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