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三十九話
「……ん」

 意識がゆっくりと浮上する。まるで寝起きの時のようにはっきりせず、この心地よい眠気にもっと身を任せたいとぼんやり思う。

『主っ! 目を覚ますのじゃ!』

「――っ! 悪い、寝てた!」

 メイの言葉が俺の意識を無理やり覚醒させる。そうだ。俺は確か……、

「あのバカでかい鳥に吹っ飛ばされて、気絶してたんだった……」

 俺がもたれかかっていた木の幹を見ながら、状況を判断する。

「……俺が最後に見たのはあいつが着陸する姿だったよな」

 フィアたちなら酔っ払っていても何とかするだろうと信じている。ああ見えて戦闘に関しては一流以上の実力を持っているからな。

「メイ、俺はどのくらい気絶してた?」

『安心せい。ほんのわずかじゃ』

 ほんのわずか……五分ちょっとか。

「様子を見に戻ろう。フィアたちが気がかりだ」

 立ち上がり、少しだけ起きた目まいに対処する。

「くぁ……っ、まだ頭が揺れてんのか……」

 視界が定まらないし、平衡感覚も非常に不安定だ。何だか自分の体に裏切られた気分になる。

 舌打ちしながら歩き出す。脳震とうにしては軽度だから、歩いているうちに治るだろうと判断しての事だ。打ちつけた後頭部も触ってみたが、タンコブになっているくらいで他は何もなかったし。

 森の向こうに見える炎の灯りを頼りに進む。集落に近づくにつれ、俺を吹っ飛ばしてくれたあのバカ鳥の姿が見えるようになってきた。

「やっぱ、まだいるか……」

 適当な草むらに身を隠して様子をうかがう。頭もようやくクリアに動き始めてくれたところだ。

「……メイ、フィアたちの姿を探してきてくれないか? 今回は小さなお前が適任だ」

『それは構わんが……その間の主は無防備じゃぞ?』

「その危険も考えている。それを鑑みてもお前に行かせた方が良い」

 今はまだ見つかっていない。ここを動かなければ見つかる事もないはずだ。

『……分かった。必ずやり遂げてみせるぞ』

 別にそこまで気合い入れなくて良いんだけど……、まあ良しとしておこう。緊張しているという感じでもないし。

 メイが小さな姿になり、俺の前から姿を消す。

 戦闘中は肌身離さず付けていた手袋が消えたため、そこはかとない不安に苛まれながらも辺りを見る。

 あの背筋が震えるような悪寒は感じない。魔物はいない、ということか。

 しかし、明らかに人間とは違う気配がいくつかうろついている。魔物はいなくても魔族はいる。ほぼ確実に。

「冗談キツイっての……」

 完っ璧に奇襲された。マズイ通り越して何もかも終わった気分だ。

『主、フィアたちが見つかったぞ!』

「どこにいた?」

『さっき我らが酒盛りをしていた建物の中じゃ。一塊になって縛られておる』

 さすがにヤバ過ぎる。俺一人では何体もの魔族相手に大立ち回りなど不可能だ。罠を張ろうにもこの辺の地理に詳しくないからそれも無理。

「どうしたものかね……」

 どう考えてもフィアたちの救出が最優先だ。あいつらがいないと話にならない。

「……とりあえず、そこの見張りはどのくらいいた?」

『魔族が二人、それとさっきの鳥が前を見ておる』

 鳥の方はこっちからも見えるから分かる。だが、さらに魔族が二人とは……。

「……糸を使ってもバレるだろうな」

 こっちの手札はほぼ全て向こうに見られてしまっている。こうなるとつくづくアウリスで戦った二体が恨まれる。死に際になんて事をしてくれやがった。

 風の糸はどうだろうか? 上手くいけば――

「無理だな」

 即座に却下。鳥は風を読めるため、一発で居場所がバレる。そうなったら鳥の餌確定だぞ。

「…………」

 目を落とし、メイが潜んでいる手袋を見る。

『な、何じゃ?』

「……イケるか?」

 こいつを放り投げて敵の目を向かせ、その隙に俺が助ける。

「うーん……」

 どう考えても見張りは消えないだろう。俺が見張る側だったら絶対に片方残す。もしくは小さ過ぎるから脅威にならないと判断して無視する。

『な、何やら不穏な空気が漂っておるのじゃが……』

 その場合、最低でも一人の魔族と短剣一本で戦う必要が出てくる。いや、戦わなくていいかもしれないが、少なくともフィアたちを助けないといけない。

「……無理だ」

 時間稼ぎすらできそうにない。

「……本気でどうしよう」

 あまりの八方塞がりに涙が出そうになる。始まった時から詰んでいる状況だ。

『妾もこういう時は役に立たぬしのう……。任せたぞ』

 メイが申し訳なさそうに言ってくる。

 ……………………あっ。

「メイ、今から言う事をできるか?」

 俺が内容を説明し、メイがそれを快諾してくれた。よし、作戦開始だ。





『メイ、ここか?』

『もうちょっと前じゃ。……そう、そっちに進め』

『この辺か?』

『ちと曲がっておる。左に少し方向修正……よし、完璧じゃ』

『じゃあ行くぞ。メイは戻ってきてくれ』

『うむ、了解じゃ』

 メイが戻り、俺の手袋になるのを確認してから最後の仕込みを行う。

「それでは……《土よ 我が指定した部分を押し込め》」

 結構長い魔法で細かい指示を出す。俺の目の前に作った空間に砂煙とともに何かが落ちてくる。

 行った事は簡単。昔に有名だった銀行強盗の手法をそのまま使っただけだ。

 俺の位置が分かるメイを上に飛ばし、ナビゲートしてもらってフィアたちが捕まっている場所だけをピンポイントに落とす。

「あ、あれ……? 何が起こったんですか!?」

 作戦通り、そこには縛られたフィアたちがいた。

「よっ」

 シュタと手を上げ、フィアたちを縛る縄をほどきにかかる。これさえ終われば後は逃げるだけだ。

「静さん!? 姿が見えないと思ったら……助けてくれるんですね!」

「いや、むしろ俺を助けてくれ」

 あのまま放置しておいたら俺は森から出られないし、盾も二枚消えてしまう。それは避けたかった。

「静さんに感動した私がバカでした……」

 フィアが幻滅したようにうつむく。何を今さら。俺に幻滅するほどの幻想を抱いていたのが驚きだ。

「理由はどうあれ助けてやったんだから喜べよ。ほら、全員の縄切ったぞ」

「ありがとうございます」

「棒読みで言うな。それより、武器はどこやった?」

「捕らわれた時に奪われましたよ……私は魔法がありますが、カイトさんがキツイですね」

「静……僕が不甲斐ないばかりに……」

「落ち込むのは後にしろ。今は俺が掘った穴を辿って脱出しろ。時間稼ぎは俺がやるからエルフの方たちの避難誘導と武器調達を頼む」

「分かりました。なるべく早く戻ります!」

「静、この失敗は必ず挽回します!」

 カイトとフィアがエルフの人たちを誘導し、俺が掘った穴を進み始める。

「……ん? クレアはどこ行った?」

 今の列には見かけなかったけど……。

「……ここにいるわ」

「うぉあっ!?」

 心臓が口から飛び出るかと思うほどビックリした。

「いきなり隣に立つなよ! 驚くだろ!」

「……さっきからずっと立っていたのだけど。私、そんなに存在感薄い……?」

 しまった。うっかりこいつのネガティブスイッチを押してしまった。どこに地雷があるか分からないから厄介極まりない。

 クレアの事でバックンバックン言っている心臓を押さえていると、穴の奥から二体の魔族がやってくる。あれだけ派手にやったからなあ。もうバレたか。

『お前か……魔王様が言っていた秋月静は』

「……ご明察で」

 背筋から嫌な汗がにじむのが分かる。知らず、一歩下がってしまう。

 この状況になる事も理解して行った事だが、やはりマズイ。

 逃げる選択肢はない。この穴がどこに繋がっているかを教えてしまったら、大勢の命が失われてしまう。見知った顔がいる以上、それを無視する事はできない。

「……クレア、巻き込んで悪いと思うけど……一緒に戦ってくれないか?」

 こいつが弓を持っているのは分かっている。もとがかなりコンパクトな代物だったし、隠すぐらいは造作もないはず。

「私が……?」

 二対一ではヤバ過ぎる。俺が瞬殺される可能性がほとんどを占める。だが、二対二ならわずかな可能性がある。

 ……と言っても、絶望的な確率であるのは変わりないのだが。0,1パーセントが1パーセントになったくらいの差。

「……やってみるわ。どうせ、嫌だと言っても戦わせるつもりなのでしょう?」

 クレアが諦観の笑みとともに弓を構える。

「ご名答。頼りにしてるからな」

「頼りに……? 私を?」

「当たり前だろ。他に誰を頼れと言うんだ」

 まあ、弓使いと糸使いじゃ後衛二人だからバランス悪いけど。

「……その信頼、全力で応えさせてもらうわ」

 クレアが何やら格好良い事を言って弦を引き絞る。

『どうやら、遺言の託し合いは終わったようだな』

「ああ。お前たちをどうやれば倒せるかようやく思いついたよ」

 魔族の言葉に皮肉で返す。俺とクレアはお互いの獲物を構え、魔族は各々の爪を伸ばす。

 ……今さらだが、この二体って瓜二つじゃないか?

『属するは魔族四天王が次席、イルネス!』

『同じく魔族四天王が次席、オルメス!』

『いざ、尋常に勝負!』

 どうやら双子で四天王のナンバー2をしているようだ。その二体が俺たちに向かって、すさまじいスピードで駆けてくる。

「――っ! クレア、前出るぞ!」

「ええ、了解よ!」

 この状況で俺たちが取った行動は前進する事。後退ができない以上、前に出るしかない。

『ぬぅんっ!』

 イルネス……だっけ? が俺に爪を振るう。タイミングをよく見計らって――

「《風よ 轟きて我らの体に纏え》」

 全身に雷撃を纏わせてカウンターする。少なくとも手を引っ込めるぐらいはしてくれるはず……!



『甘いわぁっ!!』



 だが、二体はそんな事お構いなしに爪を突き出してきた。

「なっ!?」

 ギリギリで反応が追いつき、避けることには成功する。だが、頬がザックリ切られてしまった。興奮しているから痺れているような感覚と熱が頬に宿る。

「クレア!」

「平気よ!」

 クレアもギリギリのところで避けたのか、左手の二の腕を押さえている。血が流れていないところを見ると、本当にかすっただけみたい。

 位置は俺たちが穴を開けた場所。魔族の双子は奥へ続く道の方に立っている。

「まずは……脱出!」

 クレアと同時に跳躍し、穴から飛び出す。

『待て!』

 俺が狙いの二体は俺たちを追ってこっちに向かう。

 よし、これで少なくともフィアたちの安全は確保された。

 俺とクレアが後ろに下がりながら遠距離攻撃に徹する事ができる場所を探す。



 その時、背中に柔らかく生温かいものにぶつかった。



「………………えーっと」

「もしかしてこれは……」

 ヤバいくらいの汗をお互いダクダクと流す。

 ギギギ、と油の切れたブリキ人形のようにぎこちない動きで後ろを振り向く。



 俺を吹っ飛ばしたあのバカ鳥がそこにたたずんでいた。



 くぁっ、とひと鳴きしてこちらを睨む。

「……静、どうするの?」

「……悪い。こいつの事忘れてた」

 つまり何も考えてない。

 前の方からも双子がやってきている足音が聞こえる。それがなくてもこの鳥がいつ襲いかかってきてもおかしくない。

 どうする……?

 絶体絶命の中、俺はひたすらに頭を回転させ、この状況を打開できる起死回生の手段を模索し続けた。
毎日更新してきましたが、さすがに明日は無理かもしれません。
二時から九時まで講習とか……死ねます。

早い物で私がここに初投稿をしてから一ヶ月が経ちました。
拙作にこのような高い評価をしていただき、感激の極みです。
物語も結構進んでいますので、このまま完結までもっていきたい所存です。

これからもよろしくお願いします!


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