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第十二章 謎は解ける?

 参加者のほとんどが立ち上がって、テーブルの上に鎮座しているマネキンを見やる。互いに互いを牽制しているのか、積極的にマネキンに触ろうとする者がいない。中の数人がその場を離れ、部屋を検分し始めた。特に私市はあちこち移動して、調度品を触りまくっていた。指紋が付くのもお構いなしに、今も高そうな花瓶にべたべた触れている。

 空達は千鶴に誘われて、マネキンを取り囲む参加者達から、少し離れた位置で円になった。

「誰が犯人やと思う?」

 口火を切った海は、空と千鶴に視線を向けた。

「海さんは、犯人に見当がついていらっしゃるのですか?」

 聞き返された海はいいえと、首を横に振る。次いで、空を見た。

「空は?」

「俺は……」

 さっぱり分からないと言おうとして、はたと口を噤んだ。隣の千鶴が期待を込めた眼差しを向けてくれているのに、気づいたのだ。

「あ、えっと。とりあえず、状況を整理してみようぜ」

「そうですわね」

 千鶴はにっこりと微笑み、海は少し驚いた表情で空を見てから笑みを浮かべた。

 カッコつけて、とか思っているのだろう。海の表情を見ながら空は心中で剥れた。

「私、メモ帳持ってきましたわ」

 ポケットサイズのメモ帳と、それに合わせたように、細く小さなボールペンを取りだした千鶴は、期待を込めた目を空達に向ける。

 海が苦笑をもらす。千鶴から、さほど意見は期待できないとでも思ったのか。こういうとき、空達よりも一歩先を考えて、答えを導き出す光が居てくれたら楽なのだが。

「えっと、まずは突然電気が消えたんやったよな」

 空は海に頷いて、千鶴が『電気が消える』と書いたのを見届けたあと口を開く。

「で、悲鳴に混じって、ゴトっとか、ガシャっとか、いう音が聞こえた」

「はい。私びっくりして、また悲鳴を上げてしまいましたわ」

 メモ帳に小さな文字を書きつつ、千鶴が同意する。その様子を眺めながら、空はふとあることを思い出した。

「あ、でもその前に、なんか変な音聞こえなかった? 悲鳴の合間にバリッつうか、ベリッつうか。そんな感じの音」

 二人の顔を交互に見るが、どちらの顔も冴えなかった。

「えー、そんなん聞こえたっけ。俺分からん。先輩は聞こえました?」

 海が尋ねると、千鶴はおっとりと首を横に振って答えた。

「いいえ。気づきませんでしたわ」

 勘違いだったかと、肩を落としかけた空の耳に、千鶴の穏やかな声が届く。

「でも、ノートに書いておきますわね。何かのヒントになるかもしれませんし」

 先輩は、天使だ! 千鶴の優しさに空は感銘を受けた。

 空の思考がバラ色に染まりかけていることに気付いたのか。海が、咳払いをして、二人の注意を引いた。

「ウォッホン。はーい。次いこかー」

 千鶴がメモを取る体制に入ったので、空は考え考え口を開く。

「えっと、確か。何かがテーブルの上に落ちたような音のあとに、電気がついたんだよな。で、電気が点いて気づくと、なんでか、テーブルの上に光の服を着たマネキンが横たわっていた」

 空はマネキンの方へ目を向ける。二人もつられたようにそちらに視線を移した。


「なあ、触ってもいいんだよな」

 空達がマネキンに目を向けたちょうどその時。藤沢に声をかけたのは、倉橋だった。太い眉を寄せ、藤沢の返事を待っている。

「構いませんよ。存分にお調べください」

 倉橋は一つ頷き、マネキンの服を引っ張った。その姿に勇気づけられたのか、倉橋に続き、周りに集まっていた人々がマネキンに触れる。

「おい、このマネキン動かしていいんだよな」

 一条健介が、マネキンの腕を掴んでから、茂山と藤沢に問いかける。

 今度は茂山が答えた。

「はい。動かしていただいても構いません」

 健介は、近くにいた倉橋と伊吹に、マネキンをテーブルの上からおろすよう声をかけた。彼は人に命令しなれているようだ。さすが金持ちと、空は妙な所で感心した。名指しされた二人は、文句一ついわずにマネキンを持ち上げ、床に下ろしている。

 空達もせっかくなので、マネキンの落ちていた辺りを調べようと足を向けた。

 淡々とマネキンが床に下ろされたのを見守っていた茂山が、こともなげに口を開いた。

「質問の受付は残り一つとなります」

「茂山さん」

 藤沢が、どこか咎めるように、茂山を見る。茂山は、涼しい顔をして、一同を見回した。

 参加者達からざわめきが起こる。

「え? どういうこと?」

 空は、海に問いかける。

 海は顎を指先で摘まんだ。

「うーん。藤沢さんと茂山さんに質問できる数は三つだけって言うとったよな。それのことやろ」

「質問って、先ほどの、マネキンを触ってもいいか、動かしてもいいかという、あの?」

 千鶴は首を傾げる。

「えー。あんなんがカウントされんのかよ」

 地声が大きい空の声は室内によく通った。

「嘘だろ。おい、一人三つの質問じゃないのか」

 海に密かにブランド男と命名された瀬戸修次が声を上げる。

 茂山が口を開こうとした時。

 秀香の鋭い声が割って入った。

「ちょっと答えることないわ、茂山。あなた、馬鹿でしょ。残り一つといった時点で、私達全員で質問は三つまでということに決まっているでしょ。今あなたは、残り一つの質問を、答えの分かりきっていることで消費しようとしたのよ」

 秀香に冷淡な視線を向けられ、飲まれたように、瀬戸は顔を背けた。もごもごと口を動かしている。別に質問するつもりで言った訳じゃないとか、なんとか、小さな声が漏れ聞こえてきた。

「うわー。お嬢様、相変わらず容赦がないな」

 不意に背後から声が聞こえ、空達は飛び上がりそうな程驚いた。

「き、私市さん。急に背後に現れんとってください」

 私市に対しては、いつの間にか砕けた敬語を使っている海が、真っ先に非難の声をかける。

「ははは。まあいいじゃないか。どうだい、君達は犯人が分かりそうかい?」

「敵情視察ですか?」

 空が胡散臭そうに、私市を見る。私市はにんまりと笑った。

「さあ、どうだろうね」

 睨むように見る空と、私市の和やかな視線が絡む。

「悟お兄様。本当の所はどうなのですか?」

 千鶴は小首を傾げて、私市を見上げる。私市もなぜか、千鶴と同じように小首を傾げるしぐさで答えた。

「ん? まあ、人数合わせに来たようなものだからね。謎解きに参加する気はないんだ。つまらないから、君達をからかいにきた」

 彼にしては、やけにあっさり答を口にした。嘘ではなさそうだが、からかいに来たことまで堂々と口にしなくてもいいのにと、空は思う。

「では、お兄様。私たちの仲間になってくださいませんか? 警察官のお兄様がいて下さったら百人力です」

「えっ?」

 声を上げたのは私市ではなく、空だった。千鶴と私市の視線をうけて、空は面を伏せる。

 食事の時、千鶴の隣に座っていた私市を羨んでいたから、ついうっかり声を上げてしまった。なにせ、私市も千鶴好みの年上の男だ。変人とはいえ、顔もそこそこ整っているから、不安になるのだ。焼きたくもないのに、やきもちを焼いてしまう自分が恥ずかしい。

「先輩。今更仲間申請はできないんじゃないですか。それを聞くのも、質問にカウントされるかもしれませんし」

 海が空の気持ちを察したように、千鶴達の気を逸らした。千鶴は眉を寄せる。

「まあ、そうですわね。どういたしましょう。せっかくお兄様のお知恵もお借り出来るかと思いましたのに」

「別に申請しなくてもいいじゃないか。手を組んではいけないというルールはなかっただろう。まあ、期待されても困るけどな。情報提供くらいはするよ」

 空達が私市の不敵な笑みを目にしたその時。


「謎は解けた!」

 という声が、部屋に響いた。


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