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三兄弟の事件簿~この恋はミステリー~ 作者:愛田美月
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第十三章 探偵の推理

「謎は解けた!」
 と、言う声が大食堂に響いた。
 部屋にいる全員の視線が、声を上げた人物に集まる。
「では、犯人をご指定下さい。瀬戸様」
 全身ブランド男は茂山に頷き、一人を指さした。指を差された人物がにやりと笑って、口を開こうとしたのを、祐一が手を上げて制する。
「どうぞ、反論は『探偵』が推理を終えるまでお待ちください。私市様」
 『容疑者』に指名された私市悟は、どことなく愉快そうに、口角を上げた。

 『探偵』を除き、参加者全員が一旦席に着くことになった。
 空は海の協力もあり、念願の千鶴先輩の隣の席を確保した。
「それでは、謎解きを始めてください」
 茂山は何故か瀬戸に帽子を手渡した。瀬戸は帽子を見て、納得したように頷く。瀬戸が被ったのは、ハンチング帽。瀬戸の服装とは合わなかったが、探偵をあらわすには最適の帽子だ。
 準備万端整ったところで、瀬戸は席に着いた参加者たちを見回した。
「私が私市悟氏を何故犯人だと思ったのか。そこからお話したいと思います」
 瀬戸は探偵風帽子の効果か、口調が改まっている。緊張している素振りはない。
 じいさんノリノリなどと言っていたが、瀬戸も十分ノリノリじゃないかと空は思う。
「私は、マネキンのあった場所でこんなものを見つけました。コレです」
 瀬戸はポケットから小さな黒い物体を取り出した。掌にのっているそれは、ホームセンターに行けば売っていそうな代物だ。彼は、左の掌にのったそれを、右手の親指と人さし指で摘まんで、一同に見せた。
「滑車です。これは、おそらくマネキンの落下時に、誤って落ちてきたものと思われます」
 瀬戸を見ていると、千鶴がかならず空の視界に入る。千鶴だけを見つめていたいのが本音ではあるが、彼女のために謎を解くならば、きちんと瀬戸の言い分を聞いておかなければならない。
 視界の端で、彼女が首を傾げた。空も、瀬戸の言わんとしていることがよく分からなくて、内心首を傾げていたので、俺達疑問に思う所も一緒だと、密かににんまりした。その間にも、瀬戸の口上は続く。
「そもそも、このマネキンはどこにあったのか」
 瀬戸は持っていた滑車を握りこむと、逆の手で天井を指さした。
「上にあったんです」
 失笑とも、嘲笑ともつかない声が複数人から洩れた。ルールでは、反論禁止は容疑者だけのはずだが、誰も何も言わない。それぞれに、異論はあるのだろうが、皆最後まで口を挟まないつもりなのかもしれない。
 空は天井を見上げた。マネキンは上にあったと瀬戸は言ったが、天井にマネキンがぶら下がっていれば、誰もが気づいたはずだ。この部屋で、一番真っ先に目がいったのが、大きく立派なシャンデリアだったのだから。
 瀬戸は、周りの反応に気分を害した様子も、臆した様子もない。
「犯人は、マネキンの履いているズボンのベルトを通す部分一、二箇所に、てぐすのような目立たない糸を通し、糸の端と端を結び合わせた。そして天井に固定した滑車を使って、糸を引き、マネキンを持ち上げたのです。ただ吊るしただけでは、マネキンの存在はすぐに気づかれてしまいます。そこで、マネキンをあの、大きなシャンデリアの陰に隠すように吊るしたのです。言わば、あのシャンデリアを囮に使ったのです」
 そこで、一息ついて瀬戸は意味ありげに口角を上げた。得意げな表情で、私市を見下ろす。
「あのシャンデリアは目立ちます。ドアから中へ入った時、一度はシャンデリアに目を向けたはずです。違いますか?」
 参加者達は、それぞれに思い当たる節があったのだろう。シャンデリアの件に関しては納得した雰囲気だ。
「入口から、シャンデリアに隠れて見えない位置というと限られてくる。あなたの座る位置の上が、ちょうどいいのです。糸は、あのカーテンの裏に通してカーテンレールにでも巻きつけて固定しておけば、マネキンは落ちないし、誰も気づかない」
 瀬戸は天井に向けていた人さし指を、今度は、私市の背後にある窓に向けた。誰もが、つられて瀬戸の指した窓に目をやる中、前と同じ席についている私市は、瀬戸から視線を外さなかった。彼は面白い出し物を見ているような表情だ。
「私市さん。マネキンを固定するのに一番良い位置と、マネキンが落ちた位置。そして、窓の位置を考えると、犯人はあなたしかいない! あなたは、闇に乗じて、固定した糸をはずし、二重になった糸の一方を切って引っ張った。それだけで、支えを失ったマネキンは落下する。糸はその時に回収できるという寸法です。マネキンをテーブルの上に落としたのはあなただ!」
 私市の顔を格好良く、指さした。まるでヒーローの決めポーズのようだ。瀬戸の表情は満足げだが、周りの人達は誰一人納得した顔をしていない。空も、どうにもしっくりこず、なぜなのか、口元に拳を当てて考えた。
 誰もが沈黙し、部屋の中にしばらく静寂が訪れる。
「なるほど」
 静寂を破ったのは、私市だった。
「君の主張はこれで終わりかな?」
 瀬戸は、私市を指さしていた手を下ろし、頷いた。
「私市様。反論はおありですか?」
 祐一が尋ね、私市は両手を胸の前で組んで頷いた。祐一は頷き返し、声を上げた。
「それでは『容疑者』の反論に移ります」

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