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102.「釜伸び」の原動力について考えます。発酵停止、絶妙なる65度。

 オーブン庫内のパン生地が加熱され80度に達すると、発酵によって発生したアルコールが気化します。アルコール(エタノール)の沸点は約78度。デンプンの糊化が激しく進む温度付近で、エタノールもまた激しく蒸発・気化するのです。


 捏ねの作業を通じてパン生地にはグルテンの膜が幾重にも形成されています。イーストが生み出した二酸化炭素(炭酸ガス)とともに、アルコールが気化した「ガス」もグルテンの膜の中に溜まり、生地への圧力がどんどん増します。


 温度が上がると気体は膨張します。加えて、水分や生地に溶け込んでいた炭酸ガスも、生地の構造の変化に伴って染み出してきます。もちろん多量の水蒸気も発生します。このようにして、加熱が進んでいくにつれて生地の中の「ガス」の量が急速に膨れ上がります。


 糊化したデンプンが自らの体積を増し、水分を奪われ固くなったグルテンがそれを支える。一方で急激に生地のガス量が増大する――これらが「釜伸び」の原動力だと考えられています。


 一方で、このあたりの温度になると、悲しいかなパン作りの主役ともいえる大事な存在が「死」を迎えてしまいます。それは……生き物であるイースト、つまりパン酵母です。


 パン酵母は40度くらいで最も活発になるといわれます。焼成工程でオーブンに入り、生地の温度が50度、60度と上昇しますが、この温度以上になると酵母は失活しやがて死んでしまいます。



 パンに使うものと種類は異なりますが、日本酒の酵母の話です。日本酒の原材料はコメですね。ざっくりいえば、清酒酵母がこうじによって分解されたコメを「食べて」アルコール発酵を行います。


 日本国内では個人が酒を醸造することは、法律上、固く禁じられています。それを踏まえての話です。


 濁酒。どぶろくと読みます。日本酒も発酵が進み過ぎるとアルコール濃度が高くなりすぎておいしくないので、適度な濃度に達したら発酵を止める必要があります。濁酒醸造の仕上げでは、約65度に温度を上げて、それを10分程度キープします。この65度というのがキーとなります。


 生き物である酵母は60度以上で失活・死滅してしまいます。じゃあ、80度でも90度でもいいじゃないか、と思いがちですが作っているのは日本酒、そう、アルコール飲料です。


 アルコールの沸点は先述した通り約78度なのです。もし80度以上となると、酵母は死んでしまいますが、目的であるアルコール分もまた飛んでしまいます。


 ということで、酵母の働きは止めるけれど、アルコールはしっかり保つ65度という絶妙な温度で濁酒は仕上げられるのです。先人たちの試行錯誤の結晶が、酵母とアルコール、それぞれの特徴をうまく反映した形となってレシピとして受け継がれているのです。


 パン作りの場合は、余計なアルコール分は一緒になくしてしまいたいので、80度付近に関係なくどんどん加熱してます。100度を超えると、釜伸びの程度も収まり、いよいよホンノリと焼き色が付き出します。



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