倉庫に封印されしレア鉱石
~前回までのあらすじ~
剣一本で勇者候補を買いました。
「いやぁ、思ったよりも高く売れた。クリスは武器に詳しいんだな。俺は相場とか全くわからないから助かったよ」
相場を全く知らないのにどうして“思ったより”、と思うのか?
その答えは、店主が最初に提示した金額の5割増しになったからだ。
クリスは、俺の作ったロングソードの刃の角度や強度、柄に使われている素材などを説明。
店に売っているほかの装備と比較してうんちくを散々まくしたてたころには、店にいた他の客から拍手喝采が起きたほどだ。
その結果、武器屋の店主はクリスのいい値で買うしかなかった。
店主にとってクリスはかなりの疫病神だっただろうな。
ロングソード10本で銀貨50枚。
宿屋1泊なら銅貨50枚で十分らしいので、100日は余裕で過ごせる計算だ。
その一番の功労者はというと、
「…………」
俺を恨めしそうに見ていた。
「なんだ? クリス」
「いえ、いきなりニックネームでさらに呼び捨てにされているとかそういうのはいいんですけど、武器、売ってくれるっていったじゃないですか。なのにどうして10本全部売るんですか」
「あぁ、言ったな。でも、あれは二つの意味で言ったんだ」
「二つの意味?」
「武器を売ってやる。これから俺が打った剣を」
「え? コーマさん鍛冶屋なんですか?」
「似たようなもんだ」
「……それで、どうして二つの意味なんですか?」
え?
「武器を売る」と「武器を打つ」
二つの意味で「うってやる」だったんだけど。
あ、そうか、俺の言葉はルシルの魔法の影響でこっちの言語に翻訳されてるんだったか。
日本語ではシャレになったとしても、こっちでは「売る」のほうでしか伝わっていないらしい。
「まぁ、細かいことは気にするな。それより、なんで武器もないのに勇者に?」
「いえ、剣を持ってきていたのですが、宿に入って男に荷物を預けたら、その男は宿の従業員ではなくて」
「全部持っていかれた……ってわけか。有り金全部」
「はい、あ、でも剣だけは無事だったんです。宿代がなくなって、途方に暮れているところを、男の人が近付いてきて――」
自分はこの街の裏には詳しい。あんたから金を奪った奴に心当たりがあるから俺が取り返して来てやろう。手数料は銀貨1枚でいい。
ただし、あとで払わないと言われたら困るから、剣を預からせてもらう。
銀貨1枚を払ってくれたら返すし、荷物を取り戻すのに失敗しても剣は返す、そう言われたそうだ。
そしてクリスは男に剣を預けて――6時間後、騙されたことに気付いたらしい。
「お恥ずかしい限りです」
お気の毒に。
まるで日本人の海外への旅行先トラブルの実体験を聞いているような気分だ。
パスポートや手荷物は肌身離さず持ちましょう。
「じゃあ、とりあえずその宿屋以外の……まともな宿屋を探すか」
「あ、それならギルドが直営している宿屋がありますから、そちらにいきましょう。値段は少し高いですが、安心です」
なら、最初からそこに行けばいいのに。少しお金を節約しようとして失敗したんだろうな。
「そうなんだ。じゃあ案内してもらっていいかな。あと、宿代はあとで請求するからな」
「……はい、すみません」
これじゃどちらが勇者でどちらが従者かわからないなぁ。
ギルド直営の宿屋というのは、冒険者ギルドの向かいにあった。
木造の冒険者ギルドとは違い、こちらは完全煉瓦造り。
入るとそこは飯屋のようで盛り上がっており、2階、3階が宿屋のようだ。
「コーマさん、勇者候補は見つかりましたか?」
「レメリカさん、どうしてここに?」
「私の質問を無視して、私の居場所に文句を言うのですか? あなたは」
「すんませんっした! レメリカさんのおかげで従者になれました」
そのまま土下座の姿勢。
やばい人を怒らせてしまった。
ていうか、この人の威圧感半端ないよ。魔王でも土下座するよ。
「あなたは、クリスティーナさんでしたね。ではあとでコーマさんを従者登録しておきましょう。ところで、今日は宿に?」
「はい。とりあえず一週間泊まりたいんですが」
俺がそう言うと、
「あいにく一部屋しか空いていないですね」
「じゃあ、俺の分だけでいいんで一週間お願いします」
「ちょっと、コーマさん、そこは私を立ててもらわないと」
「いや、金を払うのは俺だし」
「一応、部屋はツインルームですから二人で泊まれますよ?」
レメリカさんがそう提案してくれた。
二人で一部屋?
「いや、それはいろいろとまずいでしょ。俺の貞操とか危なそうだし。大丈夫、クリスは野宿するから」
「襲いません、襲いませんからどうか同じ部屋に入れてください」
泣きそうになってすがりつくクリス。
よし、これでなし崩し的に二人一緒の部屋になれた。
野宿させるつもりなんてなかったよ。だが、俺から一緒の部屋にしようなんていったら、レメリカさんに何を言われるかわからないからな。
「仕方ないか。じゃあ二人で。夕食と朝食はつくんですか?」
「オプションになります。夕食朝食込みですと、一泊二人で銅貨50枚ですね」
「じゃ、とりあえず、銀貨5枚で、一週間。多い分はレメリカさんへのチップとして渡しますからどうか睨み付けないでください」
涙目になったクリスを見て、レメリカさんはやはり俺を睨み付けてきた。
怖いよ、レメリカさん怖すぎる。
レメリカさんが勇者なら俺は彼女の寿命が尽きるまで従者としてこき使われそうだ。
宿屋は一度飯屋から外に出て、屋外の階段を上ったところにある。
部屋といってもベッドが二つ、テーブルが一つあるだけの部屋だ。
風呂もトイレもない。トイレは外に共同トイレはあるらしいが、風呂は本当にないんだな。
とりあえず、部屋の中に鉱石や薬草などの荷物を布の上に並べる。
どれもこのままだとゴミアイテムと呼ばれるものなので、盗まれる心配はないだろう。
「じゃあ、俺は今からでかけてくるから、クリスは先に飯食ってていいぞ」
「どちらに?」
「クリスの武器を作りにな。秘密の工房があるから、俺一人で行くぞ」
「……秘密の工房ですか……ぜひご一緒したいですが、諦めます」
もちろん秘密の工房なんてない。
同じ部屋だとアイテムクリエイトも使えないからな。
まぁ、明日からは一緒に行動するから、適当なウソでごまかさないと。
幸い、クリスはちょっとおバカっぽいから簡単にごまかしが利くだろうし。
町の中を歩き、目当ての場所にたどり着く。
迷宮アイテム販売店。
レメリカさんから迷宮で拾ったものを売買するのにいい場所はどこかと聞いたら教えてもらった。
武器や防具、アクセサリーや貴金属などは普通の店で買い取るんだが、使い道が少なかったり需要の少ない素材などはこの店に売られるらしい。
迷宮の入り口のちょうど向かい側、とても大きい倉庫のような建物だ。
実際、中に入ってみるとそのイメージは間違いではなかったようだ。
商品の見易さよりも、どれだけ多くのものを詰め込むかに重きを置いているような陳列状態だ。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
店員と思われる、制服らしいエプロンを付けた30歳くらいの男が俺にそう尋ねた。
ふと、彼が妙な首輪をしているのに目がいってしまう。
……………………………………………………
隷属の首輪【魔道具】 レア:★★★
奴隷がつける首輪。装着すると主人の命令に絶対服従となる。
死ぬと外れるが、死ぬことを許可されないのもまた奴隷である。
……………………………………………………
うわ、奴隷ってやっぱりあるのか。異世界だもんなぁ、そりゃあるよな。
いままでのアイテムの説明は結構ジョークなどを含んでいたが、今回は辛辣だ。
とはいえ、目の前の男はそれほど悪い待遇にあるように見えないが。
「異国の方ですか? 奴隷が店員をしているというのは珍しいですかね」
「すみません、そういうつもりじゃ」
「いえ、いいんですよ。ですが、この町では、奴隷にも人権を認められています。待遇がひどい場合は自衛兵によって取り締まられます」
「あぁ、そうなんですか」
この町では、ということは他の場所ではやっぱり待遇が悪いんだろうなぁ。
「あと、奴隷が店員をしている店だと、チップを払わなくてもいいですし、店員が料金を水増し請求してピンハネされる心配もないですね」
「なるほど、奴隷が一種のステータスというわけですか」
「ははは、といっても私の場合借金奴隷ですから、ステータスとは程遠いですよ」
店員は快活に笑い、最初の質問に戻った。
「ところで、何かお探しですか?」
「あ、とりあえず店のアイテムを見て回ってもいいですか?」
「ええ、もちろんです。何か用がありましたらお呼びください」
「ありがとうございます。あ、アイテム図鑑を見ながら回ってもいいですか?」
「はい、構いませんよ」
アイテム図鑑はそれほどレアの高いアイテムではない。むしろ、魔道具の中では世間に十分出回っているアイテムである。
もちろん、これを誰かに見られるわけにはいかない。
本来は手に取らないと図鑑に登録されないらしいんだが、俺はアイテムを鑑定することで図鑑に登録される。
【レア:★】と【レア:★★】の種類の数が一気に増えていく。と同時に、脳内に浮かぶレシピの数も一気に増えていく。
レシピだけならもう5000種類は超えたんじゃないだろうか?
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白金鉱石【素材】 レア:★★★
不純物を多く含んだ白金の鉱石。
加工が困難であるが、自由に使えたら強大な力を手に入れるだろう。
……………………………………………………
おぉ、【レア:★★★】アイテムだ。しかもプラチナだ。
てか、え? なんでこんなに安いんだ? 銅鉱石より安いじゃないか。
「あの、店員さん、これ、値段間違えてません?」
「白金鉱石ですか? 銀鉱石と間違えられてよく持ち込まれるんですが、加工できる人間がほとんどいないんですよ」
あぁ、そういえば、中世ヨーロッパでもアメリカ大陸から銀と間違えられて大量に持ち込まれて、加工できなくて廃棄された歴史のある金属だったな。
世界史の先生が、タイムマシンを作ることができたなら、銀を持って、白金を買って帰れ、そう教えてくれたのを覚えている。
「これ、あるだけもらっていいですか?」
「では、それ全部で銀貨1枚でいいですよ」
「ありがとうございます。あと、この石炭も5個お願いします」
「5個で銅貨5枚になります」
俺は銀貨2枚を渡して、銅貨を95枚受け取る。その95枚で……やっぱりあれだな。
結局は薬草とげんこつ岩を購入。
これで、力の神薬を作ることができる。
「ぐっ、重い」
さすがに鉱石も石炭もげんこつ岩も重い。
「よかったらあとでお送りしましょうか?」
「いえ、大丈夫です……幸い、力はだいぶ鍛えたので」
今日までに「力の神薬」を作ってから、6回飲んだからな。力だけなら1.8倍近くに上がっている。この力というステータスは、純粋な腕力や脚力だけでなく、防御力まで上がる優れものだ。
このくらい持ち上げられないでどうするっていうんだ。
とにかく、これでいろんなものを作れそうだな。
~素材アイテム~
MMO経験者ならば誰もが知っているであろう素材アイテム。
武器を作るにも防具を作るにも素材アイテムが必要。
採取系のスキル持ちの人が採取したり、魔物を倒したりして手に入れる。
高レベルの武器を作るにはレアな素材が必要なのに、失敗したらなくなってしまったりする。ドロップ率1%以下のレア素材アイテムなんてなくなればいいのに。