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大陸英雄戦記  作者: 悪一
幕間
80/496

魔法陣と魔石

「いくつか質問よろしいでしょうか?」

「おう、なんだユゼフくん」

「なんで主催者が卒業生(マヤさん)なんですか……」


 OB、OG主催ならわかるけどさ、一緒に卒業するはずのマヤさん主催って変じゃない? 様子見るにエミリア殿下も知ってたみたいだし。


「まぁ、卒業祝賀饗宴会はお題目みたいなもんだ」

「はぁ。ではどんな目的で……?」

「わからないか?」

「わからないから聞いてるんですよ」


 ユゼフさんはエスパーじゃありませんので。


「簡単さ。明日、我々居残り組は別れることになる。その最後の日を騒いでやろうと思ってね」

「なるほど」


 そういうことなら祝宴されるのも吝かではない。


「でも騒ぐと言っても貴族の屋敷でワイワイできるほど大胆になれませんよ」

「構わん構わん。今日の為に両親も兄貴達も屋敷から追い出してるし、近侍も執事も入れないようにしてあるから大丈夫だ」


 じゃあ安心だね! とは残念ながらならない。追い出していると言っても離れにもいるだろうし。もっと騒げと言われても自重しよう。


「というわけだ、酒も用意してある」

「おー、マヤってば太っ腹ー!」

「イリア、私は太ってないぞ?」

「そう? 最近太ったんじゃない?」

「失敬な!」


 イリアさんとマヤさんはどうやら旧知の仲らしい。でもマヤさんの方が年上で爵位が上なのにイリアさんの方が先輩ってなかなか複雑な関係じゃないか? って、農民の俺が言えることじゃないか。


「私の体重はともかく、酒は大量に用意してある。蒸留酒(ウォッカ)はさすがに無理だが、発泡葡萄酒(シャンパン)なら皆飲めるだろう。じゃんじゃん飲んでくれて構わない」


 いやシャンパンってそんなじゃんじゃん飲むもんじゃないでしょビールじゃあるまいし。

 しかしマヤさんはそんなことお構いなしにみんなのグラスに酒を並々と注ぐ。確かまだ昼の12時だよね? まぁ日没までには兵舎に戻らなければならないから時間的には仕方ない……のか?


「ではエミリア殿下、乾杯の音頭をお願いします」

「はい。……我らの今後の活躍と武運を祈り、乾杯(ナ・ズドローヴィエ)!」

「「「「「乾杯(ナ・ズドローヴィエ)!」」」」」




 乾杯から2時間、各々自由に飲んで食べて喋ったりしている。俺? まだ2杯しか飲んでないよ。問題起こしたら嫌だし。人間、酒に酔うと誰しも性格が変わるものだ。ここに集まったメンバーも結構面白い人格変化が起きている。順番に見て行こう。


 イリアさんの場合。


「なーにちまちま飲んでんのよー。男でしょー!?」

「いや、俺はそんなに酒に強いわけじゃないんで」

「気にすんなー! 飲んだらー、強くなる!」

「それ言ってるイリアさん2杯でベロベロでしたよね!?」


 五月蠅い。

 酒がそんなに強くないのに他人に強要するタイプ。おそらく朝になると記憶が消えてしまうので反省しようにもできないんだろうな。うん。面倒な人だ。あと凄い抱きついてくる。当たってる当たってる! 何がとは言わないけど当たってるよ!?


「ていうかイリアさん、そんなに飲んで大丈夫なんですか?」

「んー? だいりょーぶだいりょーぶ。あひたひごほはひはいひひゃあひゃひゃひゃひゃ」


 あ、これ全然ダメだわ。全然ろれつが回ってない。たぶん「明日仕事ない」って言ってるんだろうと思う。そうであってほしい。これ明日二日酔いが酷そうだし。キャ○ジンが必要だろうね。


「イリアさんって魔術研究が専門でしたよね?」

「そうらよー?」

「魔術研究って具体的に何をしてるんです?」

「んー、まー、そうらねー。あたひはぐんむしょーの人間だから、軍人に使いやすいよーにするために詠唱の省略化とか、あとはー、んー、なんだっけなー? いひひひ」


 つまるところ、中級魔術の無詠唱化と上級魔術の詠唱簡略化によって速射性を上げようと試みている、と言ったところだろうか。魔法陣とか魔石とかの存在がない、もしくは発明・発見されてないからそういう方向に進化させるしかないか。あとは魔術の種類を増やしたりとかだな。


「魔術ねー、みかいめーの部分もおーいからさー、けっこー大変らのよー?」

「そこは頑張って派手な発明してくださいよ」

「んー? たとえばー?」

「例えば……そうですね、記号や紋様を組み合わせて描いた陣に魔力を込めるだけで発動する魔法とか」

「神話みたいに?」

「そうそう、神話みたいに」


 この世界にもちゃんと神話はある。口伝だから時代を経るごとに内容がちょっとずつ変わっていってるのだけど。


「んー、でも物に魔力をこめるのってどうやんだろうねー……」

「というと?」

「わたしたちはまじゅちゅを使うとき、えーしょーにけっこー頼ってるんだおねー……」


 まじゅちゅ。なんか可愛くなった。


「確かにそうですけど……あれ? じゃあ無詠唱化ってどうやるんです?」

「ゲオちゃんの基礎魔術理論によるとー……弱い魔術は魔力じゅーてんえーしょーを省略しても十分らしいのー」

「ゲオちゃんって……」


 詠唱は、魔力充填詠唱と魔術発動詠唱の2つがある。例えば中級魔術「水砲弾(アクアキャノン)」の場合、充填詠唱は「母なる大洋の神よ~」で、発動詠唱は「水砲弾」だ。一般的に無詠唱化と言えば、充填と発動の2つを省略できる。これができるのはまだ初級魔術だけだ。省略化というのは、やたら長くなる充填の詠唱を短くすることだ。でも短くすれば良いってもんじゃない。長ければ長いほど威力が増す充填詠唱を、そのまま短くしてしまっては威力が下がるだけで意味がないのだ。

 魔力充填詠唱は短くしたい。でも短くしたら意味がない。そのジレンマをどう解消すればいいのか。今日の魔術研究はそこに落着している。


「神話みたいなまほーじん作るとなるとー……たぶんはつどーのえーしょーを意図的にせずに、充填した魔力を紋様にするってことなんだろーけど……」

「できないんですか」

「わかんなーい」


 わかんないか。可能性はあるってことなのかな。

 イリアさんは、長い説明で喉が渇いたのか何杯目かの葡萄酒を飲んだ。これ以上ベロベロになってどうするんだろう。


「じゃあ、例えばですよ? 魔力が込められた宝石があるとしましょう」

「うんうん」

「その宝石を砕いて、魔法陣を作成したり、あるいは宝石の魔力を使って魔術を発動させたりすることってできるんですか?」

「んー……面白いねー」

「面白い?」

「うん。そんなこと言う人初めて見たよー」


 まぁ、魔石とか化石燃料の概念がこの世界にはないからね。いわゆる前世知識だ。


「問題があるとすればー……ふたつあるね」

「ふたつ?」

「うん。ひとつは、ほーせきに魔力が含まれてるのをどうやって調べればいいのかってことかな」


 魔力は目に見えない。目に見えるようになるのは、発動寸前の魔術発動光か発動後の魔術だ。

 だから魔力を視覚化する、もしくは認識できるようにしなければ、宝石が魔石なのか、それとも単なる綺麗な石かは確認できない。砂鉄をまぶした紙の上に磁石を置くと磁力線が視覚化できるように、何らかの方法で魔力を視覚化できなければならないのだ。


「ふたつめは、ほーせきにある魔力をどうやって引き出すかだねー」

「というと?」

「あたひたちはー、じぶんの体の中にある魔力をつかってるから問題なくまじゅちゅができるのー。でも他人の魔力をつかってまじゅちゅをはつどーできないでしょ? だからたぶん、ほーせきから魔力を抽出して使うこともできないと思うよー」

「え、でも上級魔術とかは複数人でやりますよね? アレはなんなんですか?」

「あれはねー、ちょっとちがーの。えーっと、えーしょーの時に空中に魔力をじゅーてんさせて、それでみんな一斉にはつどーのえーしょーをしてるの。ひゃから、上級のはつどー前におそらがひらひら光るのだわー」


 イリアさんはもうぐでんぐでんだったのでイマイチ要領を得なかったので自分なりに翻訳してみる。

 上級魔術師達は一斉に詠唱を始める。その魔力充填時に、自分の体の中で魔力を練るのではなく、一旦外に出して、空中に魔力を集める。その時に発生するのが、あの魔術発動光だ。あれは魔力が凝縮されすぎて自然発光した現象だったわけか。


「つまり魔力が十分に凝縮された宝石が存在するのなら、その宝石は自ら発光するということですか?」

「そうらねー。そんなものがもしほんとうにあるんだったらねー」


 イリアさんはそう言い残すと、ついに酔い潰れ、そのままソファに寝転がってしまった。

初登場が泥酔状態。それで良いのかイリアよ。


追記:「シャンパンって地名由来だから変えた方が良いんじゃね?」というコメントがありましたが、わかりやすさと語感重視でそのままにしておきます。ご指摘ありがとうございました

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