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大陸英雄戦記  作者: 悪一
幕間
75/496

暮夜

 いろいろ考えてたらいつの間にか日が暮れてた。と言ってもまだ午後4時、夕飯までにはまだ時間がある。

 ……散歩でも行こうかな。




 基地内を適当にぶらぶらする。

 練兵場では訓練してる兵が何人もいた。上半身裸で剣の素振りをしているようだ。元気だなぁ……、今の俺には無理だあんなこと。俺と違って勤勉な兵たちは余程激しい運動をしているせいか、体から湯気が立っている。オーラみたいだ。見た感じ強化系かな。率直で単純な人多いし。

 さらに歩を進めると、知っている人物を発見。サラだ。サラも剣を振っているようだ。残念ながら上半身裸じゃなく、夏服だった。チッ。訓練に夢中になってるのか、それとも俺の存在感がないからか知らないが、サラは俺のことに気付いていない。いい機会だし観察しよう。……いや、別に不純な気持ちはないよ。単純に剣の構えとかそういうのを見習おうかと思って。ふむ。篝火の光に反射している肌が大変エロいな。


 ……さすがにジロジロ見過ぎたか、サラが俺の存在にやっと気づいた。


「……なによ」

「別に」


 サラは若干キレ気味だった。

 い、いや別に見惚れてたわけじゃないよ、感心してただけだ。休暇中でも訓練を怠らないとはね。俺なんて休暇貰った途端剣を持つのをやめたし。たぶんもうスプーンより重い物持てないわ。


「熱心に訓練なんて、軍人みたいだね」

「……あんた、まさか休暇中だからと言って何にも訓練してないなんて言わないわよね?」

「言わないよ。戦術というか戦略を考えてた」

「ふーん? 何の戦略よ?」

「えー、あー……結婚?」


 間違ってない。ラデックとは結婚の話したし、エミリア王女殿下とは東大陸帝国のエレナ王女の結婚相手のことについて話してた。


「……はぁ」


 サラは溜め息を吐いただけで特に何もアクションを起こさなかった。

 ここで殴ったり蹴ったり顔を赤くしたりしない辺りサラも成長……したのかな?


「ユゼフのせいで嫌なこと思い出しちゃったじゃないの」

「嫌なこと?」

「今日ね、久しぶりに父親に会ったのよ」


 一流の剣士の心得をサラに教えた二流の父親、だったっけ?


「サラって王都に住んでたの?」

「違うわ。北シレジアのド田舎生まれよ。どうやらアイツ、最近王都の郊外に引っ越してきたのよ」


 父親をアイツ呼ばわり、という時点でマリノフスキ家の家庭事情が垣間見える。


「で、その都上りしてきたお父さんに会って不機嫌なの?」

「別に、そんなに不機嫌ってわけじゃ」

「そんな風には見えないけどね」


 口が尖がってるし。


「……アイツ、私に会うなりとにかく家に来いって言ったのよ」

「それで、行ったの?」

「まぁね。そこで家に寄らないほど私は親不孝者じゃないし、それにアイツのみすぼらしい新居に傷を2、3つけてやろうって思ったの」


 その発想が十分親不孝者だと思うよ?


「それで、今日家に行ったの。そしたら、割と綺麗な家でビックリしたわ。新築なんて、アイツにそんな金あったなんて」

「確かに、それは凄い」


 前世風に言えば「吉祥寺に新居建てたぜ!」ってとこだろうか。王都に住むだけだったら別に苦労はいらない。治安は悪いけど、貧民街のボロ家を借りれば懐には優しいし。そうでなくても中古アパート借りれば「まぁちょっと高いかな?」くらいで済む。でも新築となると敷居が高い。


「でも、家に入ったらもっとビックリすることがあったわ」

「何? お父さんが新しい奥さんでも手に入れた?」

「ちょっと違うわね。私の婚約者がいたのよ」


 …………?


「ファッ!?」

「何その素っ頓狂な声」

「え、あ、いや、サラって婚約者いたの!?」

「らしいわ。私も今日初めて聞いたところなんだけど」


 なにそれ少女マンガか何か? それで相手は水をかけると女になったりパンダになったりするの?


「相手誰なんだ!?」

「……なんでユゼフに教えなきゃいけないのよ」

「い、いや。サラと結婚生活を送るような人が可哀そうだなって」

「どういう意味よ」


 ドメスティックバイオレンス多発しそうって意味です。通常の場合と違って奥さんが加害者だけど。


「で、結局誰?」

「……もしかしてユゼフ、妬いてるとか言わないでしょうね?」

「そんなことないよ?」

「ふーん?」


 サラは彼女らしくもなくニヤニヤと笑っている。なんすかその笑い……。


「まぁいいわ。信用してあげる」

「どーも」

「条件付きでね」


 条件付きって信用と言えるのか?


「条件って何さ」

「……」


 あれ? もしかしてその条件、今考えているとか言わないよね?


「条件は……あ、そうだ」


 彼女は条件を思いついたのか、小走りで駆けだした。なんだなんだ。俺を置いていくな寂しいから。

 と思ったのも束の間、ほんの数分でサラは帰ってきた。手には二本目の剣が握られている。実戦用なので、もちろん金属製でちゃんと刃もある。さすが王都防衛隊の装備だ。金欠軍隊でもちゃんと整備はされているのがわかる。で、これがどうしたの?


「決闘よ!」





「いや、サラと俺じゃ実力差がありすぎる気がするんだけど」


 騎兵科次席卒業生に決闘して勝てるのは首席か、剣兵科四席以上じゃないと難しいんじゃないか?


「別に勝て、って言ってるわけじゃないわ。半分練習も兼ねてるし、もちろん手加減する。ユゼフにケガさせたくないしね」

「御配慮どーも」


 こんなことになるんだったら、休暇中もサボらずに訓練した方がよかったかもしれない。久々に握る金属剣は両手にズッシリ来る。あぁ、練習用の剣に振り回されてた入学したばかりの頃の俺を思い出す。

 一週間やってないだけで忘れるもんだな。でも、基本の基本は覚えてる。体で覚えさせられたよ。間違ったら罵詈雑言+暴力してくれる鬼教官がいたおかげで。

 サラと俺はほぼ同時に構える。試験用だなんだで覚えさせられた、決闘時における基本の型。


「開始の合図はユゼフがしていいわよ。あとユゼフが有利になるように、私はここから一歩も動かない。私が歩いたら、ユゼフの勝ちで良いわ」

「……わかった」


 と言ってもこのままでは勝てる気はないな。練習とは言え、手は抜きたくないし、せっかくならサラに勝ってみたい。でも実力差は歴然としてる。なら、腕は頭でカバーするしかない。

 サラは一歩も動かないと言った。つまりこちらが攻撃しても大きく避けられないと言うことだ。正面から剣を受け止めるか、手○ゾーンみたいに片足を軸にして回転するしかない。つまり小さな動きでは回避できないような攻撃をするか、意表を突いてサラがビックリして慌ててその場から離れちゃうような状況を作ってしまえばいい。

 ……俺は大きく息を吸って、吐いた。それを数回繰り返す。


 よし。いける。


「……じゃあ、行くよ!」

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