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大陸英雄戦記  作者: 悪一
幕間
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自問自答

 11月7日、休暇5日目。


 結局昨日はエミリア殿下とマヤさんと賢人宮でのロマノフ皇帝家の醜聞(スキャンダル)で一日が終わってしまった。主婦みたいだなぁ。

 殿下に宮殿に泊まらないか、と誘われたけど「あんなところで寝れるわけないだろ!」ってことで丁重にお断りしました。

 ここ数日なんか誰かに誘われて外出が多かったし、難しい話も軽い話もしたし、今日は兵舎でゆっくりしよう。王族だろうが貴族だろうが基地司令官が来ようが知るか!


 と、ゆっくりしようとベッドに寝転んだところで目が冴えてしまうのが悲しいところである。まぁいいや。何も考えず寝てるだけでもリラックス効果はある。第一今寝ると夜に眠れなくなるし。


 ………………。


 いや、何も考えないって結構難しいな。つい色々考えてしまう。


 例えば「なんで俺は転生したんだろうか」とかね。


 転生したことに何か特別な意味を求めることは間違ってるだろうか。転生というものはただの現象で、特別な意味なんてないのかも。もしかしたら前世世界の人間だったら誰もが転生する運命にあったのかもしれないし。ファンタジーみたいに、何らかの魔術によって俺の魂や記憶がココに召喚されたという可能性もある。なんてったって手から火の球を撃ち出せる世界だ、手から異世界の魂を撃ち出せても今更驚きはしないよ。

 そもそも生まれてきたこと自体に、意味を求めるのは間違いかもな。自分が生まれてきた理由なんて、ただ両親が夜のレスリングをハッスルした結果によるものだ。そこに深い意味があるとは思えない。そんなことを考える暇があったら、これからの事を考えた方が良さそうだ。


 これからの事か。真っ先にこの国の未来の事を考えてしまうあたり、王国の愛国心教育は素晴らしいものだと言える。でも愛国心と言うより愛郷心かな。もっと言うなら、大切な友人が住む国をなんとかしたい、っていう気持ちの方が強いかもしれない。んー、でもそうなるとあの4人を守れるならシレジアの運命はどうでもいいってことになるのかな。4人を犠牲にして国を守りたいかと問われれば……うん、やだな。そこまではしたくない。俺たち5人で国を守るのが理想、でも国か友人かと問われたら、国なんて捨ててしまうかも。


 思考を戻すか。

 シレジアが生き残る方法。とりあえず他国の軍事的脅威に晒されることなく、内政干渉もされないくらい。かつて持ってた固有領土の回復は……しなくてもいいな。領土問題は時に100年単位で揉めるし。俺の手には負えないや。

 シレジアに足りない物。たくさんある。軍事力、経済力、友好国、人材、技術。枚挙に暇がない。特に経済力は大事だ。

 この世界、まだ産業革命は起きていない。考えてみれば当たり前の話で、蒸気機関とかいう面倒なもの作るよりも、魔術を唱えた方が早いから。ファンタジーで言う所の魔術動力炉とか魔力機関とかも存在しない。前にも言ったけど、この世界の魔術は微妙に不便なのだ。不便なものは便利にするように技術開発は進む。無詠唱魔術の開発がその最たる例だな。でも、魔法陣とか魔石とか、ファンタジーにありがちなアイテムも存在しない、もしくは発見されていない。石炭などの化石燃料の有用性が発見されず、ファンタジー版化石燃料とも言える魔石もない。魔法陣を組み合わせてロボを作る、なんてこともできない。

 ……でも、もしシレジアがこれらの技術を一挙に開発出来たら、すごいだろうな。産業革命ならぬ魔術革命ってところだ。なんだか前世で見た「太平洋戦争データ引継ぎ2周目アニメ」みたいな感じだ。

 だけど、技術開発だけでシレジアは救えない。技術があっても、それを運用するのは人であり、国だ。その技術を生かせるだけの社会構造なんかがなければ宝の持ち腐れ。俺が頑張ってチート英雄になって、新生シレジア王国のハイテクパワーごり押しで戦術的勝利を積み重ねたところで意味はない。「戦術的勝利の積み重ねによって戦略的敗北を覆すことはできない」というのは、軍事学上の常識だ。例えばシレジア分割戦争の時みたいに四正面作戦を強いられたら、たとえ技術で勝っていても数で負ける。それを避けるために戦略だとか外交だとかというものがあるのだ。


 あとは同盟国か……。オストマルクが名乗りを上げてきたけど、現状じゃリスクが大きいと思ってあの場は断った。でも、今のうちに旗色を決めておかないとまずいのも確かだ。攻められてから同盟組んでも遅いからね。オストマルクと同盟を結べれば、南部国境地帯の守りを気にする必要はなくなる。特にカールスバートは身動き取れなくなるだろう。問題は両隣の東大陸帝国とリヴォニア貴族連合か。……そう言えば皇太大甥セルゲイ・ロマノフの母親がリヴォニアの貴族という噂があったな。リヴォニアがセルゲイの皇帝即位を支援するとしたら、その目的はなんだろうか。東大陸帝国とリヴォニアの同盟か? だとすれば、シレジアだけではなくオストマルクも危険にさらされることになる。

 このことをオストマルクが知ったらどうなるのだろうか。いや、既に知っているだろうな。かつてカーク准将、もといリンツ子爵とやらが言っていた「些か気になる情報」というのが、このセルゲイの母親の問題なのだろう。そしてリンツ子爵は東大陸=リヴォニア同盟が反オストマルク同盟の可能性があると感じ取ったのか。だからシレジアと同盟して、この反オストマルク同盟を牽制しようとした。でもシレジアとオストマルクだけでは、反オストマルク同盟には対抗できない。もっと別の国、例えば西大陸帝国やキリス第二帝国なんかも親オストマルク同盟に取り込むべきなのかもしれない。


 ……あぁ、もうわからん! いろんな国の思惑だとか利害が絡み合ってて脳内で整理がつかない!


 はぁ……。ただ、こういう話はエミリア殿下の領分だ。俺は頑張って出世できたところで大佐あたりが限界だろうし、一軍人に出る幕はない。戦略的勝利のために戦術的勝利が必要になることがある。そういう時に頑張るのが俺の役目。

 あー、もうなんで俺王族に転生しなかったんだ。王族ならエミリア殿下みたいに政治と戦争両方に口出せたのに。


 まぁ、ここら辺は後日エミリア殿下、もしくはマヤさんに言っておくか。どこまで採用されるかわかんないけどさ。


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