表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸英雄戦記  作者: 悪一
ラスキノ独立戦争
59/496

前線会議

「……って、なんだラデックか」

「なんで二人して同じ反応するんだよ」


 颯爽と私の目の前に現れたのはイケメンではあったがラデックだった。むー。

 ラデックは手際よく増援部隊を指揮して攻勢をかけてきている。私たちが後ろにいたので大半の敵がラデック達に背を向けていた格好になっていた。後ろから槍を突き刺すだけの簡単な仕事みたいね。これなら戦闘専門じゃないラデックでも十分指揮を執れるか。


 ……そう言えば、さっき『二人して』って言ったわよね?


「ユゼフは大丈夫だったの?」

「ん? あぁ、残念ながらご存命だよ」

「そ、そう……よかったわ」


 死んでたら殴ってるところだったわ。


「積もる話もあるだろうけど時間がない。一旦退いて防衛線まで戻るぞ」

「わかってる」


 アイツに会ったらとりあえず殴っておこう。




---




 サラ撤退援護作戦はうまくいったようだ。後は彼女が無事かどうかだけど……。


「おーい!」

「おっ、来たか」


 ラデックが手を振りながら戻ってきたのがわかった。そしてその脇を猛ダッシュする赤髪の少女。嫌な予感がする。


「ユーーーーゼーーーーーフーーーーーーー!!」


 声を分析するに怒気75%、殺気23%、その他2%と言ったところだろうか。ふむ。遺言を残す時間くらいは貰えるだろうか。殺意の衝動を擬態化したような彼女の突進は止まることを知らず、進路上にいた数人の民兵を弾き飛ばして近づいてきた。ケガ人増えるからそう言うのやめてくれませんかね?

 ついに彼女は俺の眼前にやって来た。避けるか止めるかしないと死ぬかも。いやほらなんか右手が握り拳になってるし。


「心配したじゃないの!」


 彼女はそう叫ぶと、俺に思いっ切りタックルしてきた。そのまま押し倒され、俺は後頭部を強打する。この世のものとは思えない痛みが俺を襲った。そしてまだ生きてる脳細胞が、俺はもうすぐ脳震盪で気絶するんだと告げていた。


「ちょっと! 寝てないでなんとか言いなさいよ! こらー!」


 パトラッシュ……、もう疲れたよ……。


 こうして俺は本日2度目の気絶を経験することになった。






「で、戦果は如何ほど?」

「敵の魔術兵隊の7割方を倒すか戦闘不能にしたわ。残りは逃走」

「ふむ。被害は?」

「ゼロよ」

「うん。じゃあまずは満足すべき結果かな」


 数分で気絶から目が覚め、医務科の士官候補生が応急治癒魔術を使って転倒時に負ったケガを治してくれた。その時「くだらないことでケガしないでください」と言われてしまった。ごめんなさい先生。


「とりあえず今の所帝国の奴らの攻勢は止んでるけどよ。この後どうなるんだ?」

「それは……難しい質問だな」


 いや本当に難しい。帝国の司令官が何を考えているかなんて。


「選択肢としては……そうだな。4つある」

「4つしかないのか?」

「そうだよ。難しい話じゃない。ラデックにだってすぐわかる」


 1つ目は、従来通りの攻勢をかけ続けること。もしそうしてくれればこっちとしてはやりやすい。また同じことを繰り返すだけだ。士気さえ保ち続ければなんとかなる。

 2つ目は、今さっきやったみたいな魔術攻撃による攻勢をかけることだ。


「でも今これを選択する可能性は低いかな」

「なんでよ?」

「この11日間、帝国軍の奴らは通常の攻勢をかけ続けて、その悉くを俺たちに跳ね返されてきた。こちらの防御を突き崩すにはさらなる攻撃力が必要だと考えて魔術攻撃を仕掛けてきた。ここまではいい?」

「うん。大丈夫」

「ラデックから聞いた限りでは、魔術攻撃が行われたのはココだけだ。たぶんこれは試験的にここに攻撃して、効果があったら他の戦線でも同様の策を用いて一斉に攻勢に出る。と言うことをしたかったんだと思う」

「でも今回の魔術攻勢は失敗したから……」

「あぁ。おそらく敵は魔術攻勢には拘らないだろう。前線の兵を生贄にして魔術攻撃を行ったのに防衛拠点は揺るがなかった。建物が倒壊して進軍するのに不便になった。そして何より、サラの切り込みで魔術兵を多数失った。これはでかい」

「そうなの?」

「あぁ。農奴から徴兵した槍兵が死ぬ分には全く問題にならないだろう。補充しやすいし、槍兵は訓練に時間はかからないからね。でも上級魔術という高等技術を扱う魔術兵は訓練に時間がかかるし、その分金もかかる。そんな高価なものを住民反乱程度でポンポン消費してしまっては、おそらく出世の邪魔になるだろうね。財務省に何言われるか知れたもんじゃない」

「なるほどね」

「うん。だからサラは大活躍。勲章物の武勲だね。先生って呼びたいくらいだ」

「そんな風に呼んだら殴るわよ」

「冗談だよ」


 でも本当に助かったんだよ。今回の魔術攻撃は確かに失敗だったけど「犠牲の割にうまくいったからじゃんじゃんやろう!」なんて敵の司令官が言ったら俺は今頃三途の川を渡ってたとこだ。サラがあの時、防衛拠点に戻らずに魔術兵隊に切り込みをかけてくれたおかげで第二次攻撃も食らわず、続く大参事も防げた。

 サラ大先生は戦場でも戦場外でも猪突猛進だからバカっぽい印象あるけど、こういう時はちゃんと考えて行動してくれる。


「ありがとな。サラ」

「……な、ちょ、ば、バカじゃないの!? わ、私はやるべきことをやっただけだから、お礼を言われる筋合いはないわよ!」


 サラはそう慌てふためきながら俺のことを殴ってきた。ケガ人にはもっと優しくしてほしいのだが。


「はいはい、いちゃいちゃするのは後にしてくれ」

「してないわよ!」


 サラは怒っているのか興奮しているのか顔を真っ赤にして否定している。その様はまるで赤鬼のごとし。髪の色も赤いから首から上が全部が赤くなってる。見てて少し面白いと思ってしまった私は悪い子です。


「で、話を戻すけどよ。残りの2つはなんだ?」

「ん? あぁ、そうだな。3つ目は持久策を取ることだ」

「つまり?」

「都市を包囲するだけに留めて、俺らが飢えるのを待つってことさ。ラデック補給参謀殿、食糧はあと何日持つ?」

「その呼び方やめろ。……食糧はこのままのペースだと20日ももたねぇな。2週間以内にケリつけた方が良いと思うぜ」

「つまり、帝国軍はなにもせず14日間ただ俺らを包囲するだけで勝てると言うわけだ。さすがにどんなに素晴らしい城と兵がいても、食糧がなければ餓死するだけだ。そして俺らに休息の時間を与えないように嫌がらせの攻勢を不定期にかけてくるだろうね」

「それは結構きついわね」

「あぁ。結構きつい。持久策を取ってる間にオゼルキの義勇軍本隊が壊滅して、帝国軍本隊がラスキノに来るかもしれない。そして、俺らはそれを防ぐ手立てはない。せめてあと1個連隊あればなぁ……」

「そう言えばユゼフ、敵味方問わない魔術攻撃してきたら宣伝材料になるって言ってたわよね。それで敵の一部の部隊を寝返させられないかしら?」

「うーん、できなくはないけど、小隊規模の人数が限界かな。中隊以上の規模になると貴族の指揮官も多いし、信じてくれるかどうかもわからん」


 宣伝はあくまで敵の行動を鈍らせるだけだからね。敵の寝返りは主目的じゃない。


「じゃあもし敵が持久策を取ってきたら、お手上げ?」

「そうだね。持久戦に備えて旧市街で農業始めるか、海と川で魚でも釣るか。あぁ、あとは『ラスキノの市民とか大佐の命と引き換えに俺たち外国人を助けてください!』って言えばなんとかなるかもしれないけど」

「それはダメ」

「だよね。あまりにも恰好が悪い。これは本当に最終手段だ」


 そんなことしたら何の為にここまで頑張ってきたんだかわからない。でも、エミリア王女殿下御一行とかもいるし、サラとかラデックも助けたいから検討はするけど。


「で、4つ目は?」

「ラスキノ攻略諦めて撤退する」

「真面目に」

「俺はいつだって大真面目だよ」


 大真面目に嘘つくし大真面目にサボるってだけだ。


「帝国の奴らがそんなことするのか? 面子とかもあるだろうに」

「まぁそうなんだけども。でもオゼルキ攻略を優先するならありだね。そこで義勇軍本隊を撃滅して、帝国軍が増強されて帰ってくる、と」


 ラスキノが手薄だろうと判断してラスキノ攻略を仕掛けてきたんだろう。ここまで粘られたのはたぶん予想外の事態のはずだ。

 でもオゼルキ今どうなってんのかな。そこら辺の情報もできれば欲しい。あと本国はこの戦況を把握してるんだろうか。各部隊は完全に孤立しちゃってるから伝令の馬が全然来ないんだよね。


「まぁ、帝国軍がどれを選択しようが俺たちは圧倒的不利であることは変わらない」

「最初からそう言えばいいのに」

「それもそうだね」


 ホント、分かり易く説明するのは大変だよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公に突進するのは、まあ暴力系ヒロインなら仕方ないとも思いますが民兵弾き飛ばすのは正直かなりキツイ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ