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大陸英雄戦記  作者: 悪一
ラスキノ独立戦争
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戦場の女神

 10月4日。


「ユゼフ、帝国が攻勢に出たわ!」

「よし、いつも通りにやろう」


 もう何度目か忘れた帝国軍の攻勢。数が多いって言うのは良いね。戦いは数だよ兄貴。


「……? ねぇ、ユゼフ。なんか変じゃない?」

「なにが?」

「わからないけど。なんか変よ」


 いまいち要領を得ない。


「もうちょっとなんかあるでしょ?」

「と言われても、変としか言いようがないわ。なんか今までの攻勢とは違うわ」


 どういうことだろうか。観察してみる必要があるかもしれない。


「敵が攻勢の方法を変えてきた、ということかな?」

「そうかも。でも敵の構成は今まで通り剣兵と槍兵が中心。強いて違う点を挙げるとしたら……」

「したら?」

「うーん、どうも敵が逃げ腰ね。逃げるの前程で攻勢をかけてきてるわ」


 どういうこっちゃ。


 こっちの防御パターンは攻勢を受け流し、魔術で牽制、怯んだ隙に逆撃。これを基本としている。それを恐れて最初から受動的な態度になっているのか? それとも、こちらの逆撃を誘って有利なポジションにまで誘導しようとしているのか。

 ふむ。前者はともかく後者だったらまずいかもしれない。


「サラ、民兵を何人か連れて敵の後ろを偵察してきてほしい。敵が俺らを引き摺り込もうとしてるのか、それとも単にビビってるだけなのか。その辺の敵の意図が知りたいんだ」

「わかったわ」

「あ、あとくれぐれも無茶はしないでね。早く戻ってきてくれないと戦線を維持できないかも」

「わかってるわよ。ユゼフは私がいないと自分の身も守ることができないんだから」

「よくご存知で」


 1年の時にしごかれたおかげでそれなりに剣を扱えるようにはなったけど、本職には負けるからな。


「じゃあ、行ってくるわ。援護して」

「りょーかい、みんな前進!」




---




 ユゼフ率いる義勇軍の逆撃によって生まれた隙をついて、敵の後方を偵察する。町は死角だらけだし、ここらへんの路地はまだこちら側が制圧してる。


「とりあえずは安全に敵の後方を見れる建物を見つけないとね」


 地図は持ってないので、一緒に来てくれた民兵の人に聞いてみる。彼らはこの町の生まれということもあって地理には詳しい。彼らが言うには通りから外れた場所にそれなりに高い建物がある。その屋上から敵後方を見れるポイントがあるらしい。頼りになるわね。

 その建物に着くと、つい先日まで人がいた形跡があった。おそらくユゼフの立案した作戦案でもこの場所に偵察兵を配置していたのだろう。それがこの前の後退時に放棄された、ということかしら。

 一応、敵がいないか中を慎重に見回る。物音もせず、敵が今いる形跡もなかったため、安全だと判断した。けど、念には念を入れよう。ユゼフならきっとそうする。そう思って民兵数人を建物の中に残し、警戒を続けさせた。


 屋上に着くと、確かに敵の後方どころか敵の師団司令部と思われる塊まで見えた。でも望遠鏡を使っても分からないほど遠くにいるみたいだから詳しい構成はわからない。

 ま、敵司令部の状況なんてどうでもいいわ。今は前線の後ろに何がいるかを確かめる。ユゼフが言うには待ち伏せの可能性があると言っていたけど……。


「……特に何もないわね」


 見える範囲で路地を確認したが、やはり誰もいない。見えるのは前線にいる剣兵と槍兵、そしてその後ろに待機しているのは弓兵……ではないわね。弓を持ってないからたぶん魔術兵だわ。


 ……魔術兵?


 戦場における魔術兵の仕事は上級魔術の使用が主だ。応急治癒を目的とした治癒魔術兵もいるにはいるけど、それにしてはどうも不自然な配置だ。応急治癒をするには離れている。本格的な治癒魔術を行うにしては近すぎる。

 ここで思い出したのは、つい先日ユゼフと何気なく交わした会話。その中で私が言った言葉。


『痺れを切らして自棄になって上級魔術を使ってくるんじゃないの?』


 まさか! そんなこと本当にするわけ……!


 そう思ったのも束の間、魔術兵が詠唱しているのが見えた。あと数分もすれば、魔術兵はユゼフのいる防衛地点を区画ごと、味方ごと、その業火によって潰すだろう。


 気づけば私は走っていた。建物で警戒していた民兵のことなんてすっかり忘れて、ただ走った。


 早く行かないと、手遅れになる!




---




 サラが偵察に出て数分後。俺は偵察のための陽動行動を中断し後退する。


 サラは上手く潜伏できたようだ。たとえ路地裏に敵が潜んでいても難なく打ち倒せるだろう。帰還時には合図を送るように言ってある。そこでまた再攻勢をかけてサラを回収すればおっけー。


 うんうん。我ながら完璧。

 でも「ここで慢心してはダメ」って頭の中で誰かが言ってた。警戒は怠らない。


「ん?」


 それ(・・)に気付いたのは防衛線に戻って初級魔術を撃ってる時だった。

 それは、上級魔術の発動直前に術師の上空に光が出る現象だった。光はパッと見ただけでも10個以上ある。


「おいおい。まじですかいな」


 敵の真意を悟り、そして呆気にとられ、周囲に撤退する指令が数秒遅れた。


「……総員退避! 今すぐこの場から離れて!」





 その瞬間、魔術が発動したのが見えた。





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